日本の自動車株の今後の見通しは?大手メーカーの成長戦略を深堀り!
株式情報 マーケットニュース 国内情勢 日本株 2023.11.05

トヨタ自動車の株価が、11月1日の決算発表を受けて大きく急伸するなど、足元では日本の自動車関連株の好調さが目立ちます。
好調さの背景には、円安効果に加えて、コロナ禍と半導体不足でなかなかできなかった生産の本格回復があると見られます。
需要が先送りにされてきたため、生産すれば売れるような、売り手市場になっているのです。
しかし、こうした特別な要因がなくなった後はどうでしょうか?
日本の自動車メーカーは、EV化で世界に遅れを取っている面がありますが、挽回は可能なのでしょうか?
そこで、今回は4年ぶりに開催されたJapanMobilityShow(旧東京モーターショー)に参加し、各社の成長戦略を取材してきました。
中でもアナリストが注目した企業の取り組みをご紹介していきます。
目次
【7203】トヨタ自動車:多様なニーズに徹底的に応える!
Japan Mobility Showでお披露目されたバッテリーEVのコンセプトモデル「FT-3e」
トヨタ自動車は以前から、脱炭素の実現に向けて複数の経路や技術を利用する「マルチパスウェイ」を掲げてきました。
つまり、電気自動車だけに注力するのではなく、ハイブリッド車、燃料電池車、水素エンジンなどの生産、開発も進めていく方針です。
水素エンジンに力を入れているのは、これまで培ってきた内燃機関の技術を活かし、技術者の雇用を守りたいとの思いがあるからだと考えられます。
しかし、それ以上に、多様なニーズに応えられるラインナップを準備しておかないと成長を持続できないとの危機感もあるでしょう。
というのも、同社の北米、欧州、日本での販売台数は頭打ち傾向となっているからです。
先進国で脱炭素を推進するとともに、まだインフラ整備が未熟な新興国でもシェアを獲得しておかなければ成長の余地が限られてしまうと考えられます。
新型「IMV 0」は新興国で愛されるクルマに…?
新型「IMV 0(アイエムブイゼロ)」
そうした背景もあって、今回のJapanMobilityShowでは、新興国向けに投入した新型「IMV 0(アイエムブイゼロ)」が展示されました。
この車は、ハイラックスをベースに作られた耐久性の高さと、何もない荷台部分を自由に活用出来る点に特徴があります。
新興国の人たちになるべく安く提供して、自由に商売などに活用してもらうことで、生活をより豊かにして欲しいという思いが込められた車です。
また、もし故障しても安く、簡単に直せるよう、ボルトなどを外側に持ってくるといった工夫もなされています。
他にもトヨタ自動車は、四角いバッテリーEV車「KAYOIBAKO」を発表しています。
モビリティの未来を実現するコンセプトモデル「KAYOIBAKO」
こちらは新興国向けではありませんが、ラストワンマイルの輸送用車や移動販売車、乗合バスとしてのカスタマイズを視野に作られています。
ユーザーのニーズに応じた拡張性の高さという点では、「IMV 0」と同じ観点で作られた車と言えます。
自動車の世界販売台数が、2030年よりも前にピークに達するとの見方もあるなど、自動車企業の成長は決して簡単ではありません。
そうした中でも、成長を続けるためにニーズの多様化に徹底的に向き合うのが、トヨタ自動車の方針と言えるでしょう。
株価は上場来高値圏に。為替の円高進行による調整に注意。
【7203】トヨタ自動車 月足チャート (2003年2月~2023年10月)
トヨタ自動車の株価は、PBR1倍台(11月2日時点)に乗せており、上場来高値圏での推移を続けています。
多様なニーズに応えて、成長を継続するとの期待感は株価に織り込まれつつあるようです。
世界景気や為替動向次第では、株価が一時的に調整する可能性に注意が必要でしょう。
しかし、下落局面こそがあらゆるニーズに応え続ける優良企業であるトヨタ自動車の買い時になってくると思います。
【7270】SUBARU:得意分野を活かし「空飛ぶ車」を開発!
続いて、世界初公開の「空飛ぶ車」が話題となったSUBARUについて取り上げます。
SUBARUのルーツは、航空機メーカーの中島飛行機であり、現在も航空・宇宙事業を展開しています。
得意分野を活かして、未来を切り開くための取り組みの1つが、空飛ぶ車なのです。
実用化までにはまだ時間がかかると思われますが、すでに実験での飛行に成功しており、今後の展開に注目が集まります。
株価上昇には、EV分野で挽回が鍵を握るか。
【7270】SUBARU 月足チャート (2003年2月~2023年10月)
SUBARUの株価は、EVでの出遅れ、半導体不足による生産停滞からの回復遅れなどが響き、トヨタやスズキなどと比べると低迷しています。
ただ、今年には「パナソニックエナジーと電池供給契約を視野に、中長期的な協力体制の構築に向けて協議に入った」と発表するなど、挽回に向けた動きも見られます。
課題は多いものの、まだ期待感が織り込まれていない分、割安感のある水準で買いつけて、腰を据えた投資ができそうです。
【7205】日野自動車:「2024年問題」の解決に貢献
小型BEVトラック「日野デュトロ Z EV」
続いては、トラックの大手メーカー、日野自動車を見ていきます。
同社は、働き方改革関連法の施行で深刻なドライバー不足が発生すると言われる「2024年問題」の解決に向けた取り組みを推進しています。
たとえば、昨年に初めて発売したEV車である「日野デュトロZ EV」は、普通免許で運転可能な車種として開発されました。
2017年に施行された改正道路交通法で、普通免許で運転できる車両が総重量5tから3.5tに制限され、普通免許しか持っていない人をドライバーとして雇えなくなった問題を解決するための一手です。
積載量は1tと少ないですが、宅配向けの荷物は軽量なものが増えているため、ラストワンマイルの配送では問題も少ないそうです。
車外へ降りずに、運転席から荷室へスムーズな移動が可能。
床の低さや、車外へ降りずに荷室へ移動できる設計など、ドライバーの負担軽減を考えたデザインが取り入れられています。
すでにヤマト運輸などで導入が始まっており、今後さらなる普及にも期待ができそうです。
このほか日野自動車では、長距離向けとして、航続距離600kmを目標とした大型水素トラックの開発をトヨタと共同で進めています。
燃料電池大型トラック「日野プロフィア Z FCV プロトタイプ」
さらに、日野自動車発のスタートアップ企業であるNEXT Logistics Japanでも、2024年問題を解決するための研究開発が行われています。
今回のモビリティショーでは、量子コンピューティング技術を用いてどの荷物をどの車両で運搬するのか、荷室のどこにどの荷物を積むのかを効率化する世界初の物流最適化システム「NeLOSS(ネロス)」が紹介されました。
現在の日本のトラックの積載率は40%以下と低いため、より効率的に荷物を積み込むことで、人手不足の解消や省エネルギーにつながります。
不祥事で株価は低迷。イメージ払拭にはまだ時間がかかるか。
【7205】日野自動車 月足チャート (2003年2月~2023年10月)
日野自動車の株価は、2022年にエンジンの排ガスや燃費の性能を偽る不正が発覚してから、低迷を続けています。
ただ、エンジン性能試験の不正をめぐったアメリカの訴訟で、和解が成立するなど、徐々に不透明材料は減少してきています。
不祥事のイメージを払拭するまでにはまだ時間がかかりそうですが、緩やかに株価が出直る期待はできるでしょう。
【7269】スズキ:小型モビリディで需要を囲い込み!?
最後に取り上げるスズキは、挑戦的な小型のモビリティで独自のポジションを確立しつつあります。
たとえば、今回のJapan Mobility Showでは、段差や急な坂道でも走行が可能な新たなカテゴリの四脚モビリティとして「MOQBA」が発表されました。
段差や急な坂道でも走行可能な次世代型4脚モビリティ「MOQBA」
センターモジュールを組み替えて、郵便用や農業支援用などさまざまな場面での活用が可能です。
他にも、16歳から免許なしで乗れるため、電動キックボードのような手軽さを持ちながら、四輪で安定した走行が可能である「SUZU-RIDE/SUZU-CARGO」などが披露されています。
写真中央:電動パーソナルモビリティ「SUZU-RIDE」
写真右側:電動マルチユーズモビリティ「SUZU-CARGO」
これらは、高齢者や車離れした若者など免許を持たない人であっても、都市型観光や地方での生活の足などに手軽に利用できるモビリティです。
スズキは、他社に比べても幅広い層に向けて新しいモビリティの形を作っている印象ですので、ニーズを発掘して、顧客を囲い込んでいく余地もありそうです。
また、スズキと言えば、成長市場であるインドでのシェアの高さでも注目されています。
直近では、インドにて、牛ふんを発酵させて発生するバイオガスを精製し、自動車燃料とするプロジェクトも推進しています。
インド市場での成長によって評価の余地が広がるか。
【7269】スズキ 月足チャート (2002年12月~2023年10月)
スズキの株価は、すでに2018年以来の高値圏での推移となっており、インド市場などでの成長性がすでに一定程度評価されていると考えられます。
今後、上場来高値を奪還できるかは、市場の期待に応えるような成長を持続できるかにかかってくるでしょう。
自動車業界の未来に期待!
ここまで、トヨタ、SUBARU、日野、スズキといったメーカー各社のEV時代に向けた成長戦略を取り上げてきました。
各社ともに、現在は円安の進行と自動車の生産回復で、良好な事業環境にあります。
そのため、円高進行やいったんの好材料出尽くし感から、各社の株価が調整局面を迎える可能性も頭に入れておく必要があります。
しかし、各社ともに、次世代に向けて需要を獲得し続けるための取り組みを進めていますので、大きく調整した場面は買い時と考えながら、自動車メーカーの今後に注目したいと思います。
株式情報 マーケットニュース 国内情勢 日本株 2023.11.05

この記事を書いた人
日本投資機構株式会社 アナリスト
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)日本投資機構株式会社 投資戦略部 主任
証券アナリスト(CMA)
テクニカルアナリスト(CMTA®)
国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。
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