アメリカの商業用不動産は次なる危機の種!?何が起きているのかリスクを解説!

株式情報 投資戦略 日本株 2024.02.26

石塚 由奈 石塚 由奈

2月1日に、あおぞら銀行の株価が決算発表を受けて急落し、話題となりました。

 

さらに1月31日には「商業用不動産に関する追加の引当金を計上」というあおぞら銀行と同じ理由で、アメリカの地方銀行である【NYCB】ニューヨーク・コミュニティ・バンコープの株価も暴落しています。

 

パンデミック以降、アメリカの商業用不動産の市況低迷が続いており、銀行の決算に影響が現れ始めているのです。

 

今後もグローバルなリスクとして意識されそうですので、いったい何が起きているのか、分かりやすく解説していきます。

 

あおぞら銀行の株価はなぜ暴落したのか

2月1日に発表した第3四半期決算で、あおぞら銀行は24年3月期の連結経常利益を、期初予想の310億円の黒字から490億円の赤字に800億円下方修正しています。

 

 

さらに、損失計上によって、自己資本比率(国内基準)が目標としていた9%を下回る8.8%まで低下してしまうため、3月を権利付最終日とする今期の期末配当は無くして資本健全性の改善に注力する方針としました。

 

 

決算発表までは、あおぞら銀行の一株当たりの年間配当予定額は154円で株価は3,257円でしたので、配当利回りは約4.7%に達していました。

 

高い配当利回りという魅力がなくなってしまったため、市場ではネガティブに受け止められています。

 

いったいなぜ大幅な赤字に転落してしまったのでしょうか?

 

“金利上昇で損失発生”はあおぞら銀行に限ったことではない

 

あおぞら銀行が損失を計上した要因として、大きく以下の2点が挙げられます。

 

①金利上昇で含み損になっていた外貨建債券の売却処理を行ったこと

②オフィス向け不動産の市況低迷を受けて、貸倒引当金を追加で計上したこと

 

ここからは、どのような処理を行ったのかイメージが沸くように、具体的に解説していきます。

 

まず、外貨建債券の売却処理についてです。

 

あおぞら銀行は、欧米の国債、住宅ローン担保証券などに投資を行ってきました。

 

世界的に低金利が続き、通常の貸出だけで稼げる利益は限られていたため、投資を行って利ざやを稼いできたのです。

 

しかし近年は、世界中にインフレが広がったため、多くの中央銀行が物価上昇を抑制するために利上げを行いました。

 

これを受けて、新しく借り入れを行う際の金利、つまり新しく発行された債券の利回りが上昇し、すでに発行されている債券の価値は低下してしまいました。

 

 

あおぞら銀行も、保有していた債券の価値も下がり、含み損が発生していましたので、今回思い切って損切を行い、ポートフォリオの再構築を加速させると決めたのです。

 

多くの金融機関が、低インフレと低金利が続くとみて運用戦略を立てていましたので、含み損の発生はあおぞら銀行に限ったことではありません。

 

どの銀行も、多かれ少なかれ損は出ていて、それぞれ対処を行っています。

 

今回の損切によって、あおぞら銀行は、今後はもっと良い資産に資金を振り向けられるようになるかもしれません。

 

しかし、少し意地悪な見方をしてしまうと、今このタイミングで、損切を行う必要があったのか、やるならもう少し前にできなかったのかと思う部分はあります。

 

あおぞら銀行は4月から社長が代わりますので、「悪いものを出し切ろう」と考え、今のタイミングで損失の計上を行ったのではないかと疑ってしまうわけです。

 

この辺りは、投資家からの信頼に関わるところですので、しっかり説明する必要があると思います。

 

”米商業用不動産市況の低迷”が今後の懸念材料に

 

あおぞら銀行の損失発生要因として、もう1つ挙げられるのは、アメリカの商業用不動産、特にオフィス向け不動産の市況低迷です。

 

市況低迷が続いているため、貸したお金が返って来ないケースに備えて、貸倒引当金を324億円計上したのです。

 

あおぞら銀行が2月1日に発表した開示資料によれば、動向が抱える米国オフィス向けローンの残高は18億9,300万米ドルとなっています。

 

今回はそのうち7億1,000万米ドルを破綻懸念先に分類し、引当金を計上しました。

 

残高のうち、破綻懸念先に分類している比率は38%になったとしています。

 

同行は「十分なバッファーを確保し、今後損失が発生するリスクは大きく減少した」としています。

 

しかし、破綻懸念先に分類している比率は9月末時点の13.8%から38%まで急上昇しており、今後もオフィス向け不動産市況の落ち込みが続けば、さらなる引当金の計上が必要となる可能性があります。

 

米商業用不動産市況の悪化はなぜ今、表面化したのか

 

そこで、なぜ米商業用不動産の市況が悪化しているのか、今どのような状況にあるのかを確認しておきましょう。

 

アメリカのオフィス向け不動産は、コロナ禍以降リモートワークの導入が進み、広いオフィスを必要としない企業が増えた上に、金利の上昇が重荷となって価格が下がっています。

 

1月31日には。アメリカの地方銀行【NYCB】ニューヨーク・コミュニティ・バンコープが、貸倒引当金の積み増しを要因に市場予想を大きく下回る決算を発表。

 

【NYCB】ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ 日足チャート (2023年10月3日~2024年2月6日)

 

ドイツ銀行も23年10-12月期(第4四半期)の商業用不動産関連の損失に備える引当金が前年同期比で4倍以上に膨らんだと発表するなど、世界的にオフィス不動産市況低迷の影響が広がっているのです。

 

ところで、なぜパンデミックから時がたった今になって、市況悪化が表面化しているのでしょうか?

 

これは、オフィスの空室率が上昇してから、ローンの満期が来て借り手が選択を迫られるまでに、タイムラグがあるからです。

 

商業用不動産は物件の規模が収益に比べて大きく、ローンが満期を迎えた際に、借り手は、借り換えを行うか、物件を売却してローンを返済するかのいずれかを選択する場合がほとんどです。

 

しかし、今ローンの満期を迎えている商業用不動産のオーナーの一部は、借り換えを行うにも金利が高くて、「ローンを返済するためには安い価格でも物件を売るしかない」と投げ売りを迫られています。

 

結果として、不動産の売却時に損失が出ていまい、ローンの全額返済が困難になっているのです。

 

 

2025年末までに、金融機関は商業用不動産関連ローンで約5,600億ドルの期日に直面するとの見方もあり、投げ売りが加速し商業用不動産の価格が下落する余地がはまだあります。

 

今後も、商業用不動産向けに貸し付けたローンが回収できず、損失計上を迫られる銀行が出てくる可能性が高いです。

 

リーマンショックの再来?経済全体に影響が広がる可能性は

 

 

では、商業用不動産の市況悪化が経済全体に広がり、リーマンショックのような危機に発展する可能性はあるでしょうか?

 

結論から言えば、リーマンショックの教訓を踏まえて、銀行が財務の健全性を保てるようにさまざまな対策が取られているため、過度の警戒は不要です。

 

現状ではほとんどの銀行が、損失を十分に吸収できるだけの余裕があり、特に大手銀行は、商業用不動産に偏った貸出をしていないのでリスクは限定的だとみられています。

 

米金融当局も、銀行に対する監督上の評価の引き下げを強化し、より厳しく財務をチェックするなど、危機を未然に防ぐ取り組みを進めています。

 

日本国内でも、金融庁で金融機関のモニタリングを担当する審議官が「現段階ではあおぞら銀行は特殊なケースであり、他行のエクスポージャーに対する懸念はない」と発言しているように、リスクをコントロールできているようです。

 

とはいえ、現在米国では景気の底堅さや高インフレの長期化を示唆する強い経済指標の発表が相次いでおり、金利は当面高止まりするとみられています。

 

金利の高止まりは、企業や個人の借入コストを高止まりさせ、お金の流れを滞らせる要因となります。

 

商業用不動産に限らず、金利の上昇が景気にブレーキをかける可能性には、今後も注意が必要です。

 

市場を取り巻く環境は日々変化していますので、高配当銘柄として人気だったあおぞら銀行の株価が大きく下落してしまうようなリスクというのは株式投資にはつきものです。

 

普段から分散投資を行ったり、ロスカットの条件を考えておくと、いざという時に資産を守れるかと思います。

株式情報 投資戦略 日本株 2024.02.26

石塚 由奈 石塚 由奈

石塚 由奈

この記事を書いた人

石塚 由奈

日本投資機構株式会社 アナリスト
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)
日本投資機構株式会社 投資戦略部 主任
証券アナリスト(CMA)
テクニカルアナリスト(CMTA®)

国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。

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