テスラの株価下落が止まらない理由とは?EVは世界で普及せず苦境が続くか
世界情勢 マーケットニュース 2024.03.21
2024年に入って、S&P500指数が7%超上昇するなかでも、テスラの株価は28%超の下落を見せています。
EVの伸び悩みが失速の原因となっており、最近では「マグニフィセント7」からの転落も取り沙汰されています。
そこで今回は、なぜ世界でEVが普及しないのかと、これからの見通しについて解説していきます。
目次
EV(電気自動車)のデメリットとは?
現在、EVを選ぶ消費者が想定ほど増えず、テスラ社の収益は失速しています。
これは、大きく3つのデメリットがEVにあるからだとみられます。
①寒さによる性能低下
バッテリーは寒さに弱いため、冬場に性能が低下しやすいです。
アメリカの一部を襲った大寒波で、EVが動けなくなったというニュースも報じられました。
テスラ製のEVには、氷点下での性能低下を防ぐために、あらかじめ車内やバッテリーを温めておく機能もあります。
しかし、これは電源に接続されているときの仕様が推奨されている機能ですので、電源に接続できない場合はバッテリーを使って温めるしかありません。
結局、バッテリーの利用で航続距離が減少してしまい、不便を感じることとなります。
②航続距離の短さ
ガソリン車の航続距離は600キロ以上のものが多いなか、現在のEVの平均航続距離は400キロ程度です。
特にアメリカは日本より土地が広く、長時間移動が多いため航続距離の短さは日本以上に敬遠されていると思われます。
そのため、駐車場に充電設備があることが前提となっているのですが、未だに設備が少ない地域が多く、消費者の不安が根深いようです。
③高い価格
さらに、価格の面でもEVは選ばれにくくなっています。
米政府はEV購入者に最大7,500ドルの税額控除を導入しましたが、それでもEVが割高なのが現状です。
FRBの利上げにより、自動車ローンが以前よりも組みにくくなり、割高なEVを選ばない消費者も増えているとみられます。
消費者に選ばれたのはHV
このようにEVが失速しているなか、台頭しているのがエンジンとモーターを両方とも搭載したHV(ハイブリッド自動車)です。
代表的な車種としてプリウスやセレナなどがあり、身近に感じる人も多いのではないでしょうか。
通常のHVの他にも「PHV」と呼ばれる外部電源からの充電が可能なHVも近年増えつつあります。
HVであればガソリンスタンドで給油出来るため、充電設備の少なさを心配する必要もありません。
①高燃費ゆえの長い航続距離
また、HVはガソリン車やEVよりも航続距離が長いものが多いです。
HVがエンジンとモーターを組み合わせており、ガソリン車よりも燃費が良いことが理由です。
通常のガソリン車では発射時や加速時に多くガソリンを消費しますが、そこをモーターで補助して燃費を向上させています。
②手ごろな価格帯
価格もEVと比較すると手ごろな物が多いです。
米自動車調査会社エドモンズによると23年11月の自動車平均購入価格はEVは65,000ドル、従来の自動車が47,500ドル、HVは約42,500ドルだったそうです。
なんと従来の車よりHVの方が平均購入価格が安くなっています。
一方のEVは、未だに従来の車と比較して約1.4倍近くです。
高級車のイメージが拭えないのも仕方ないかもしれません。
結局のところ、消費者は環境に優しいかどうかよりも、利便性や自身の予算に合うかで車を選んでいます。
いかに国やメーカーが環境のためにとEVシフトを推し進めたところで、消費者の求めているものや財布事情に合っていなければEVは普及しないと思われます。
19世紀にもEVは電気自動車に敗北していた!?
自動車の主流であるガソリン車は、最初から覇権を握っていたわけではないです。
19世紀末頃には、ガソリン車・蒸気車・電気自動車が争っていました。
実は電気自動車の原型は18世紀末には開発が進んでおり、20世紀初頭のアメリカではガソリン車より電気自動車の人気が高かったと言われています。
ガソリン車と蒸気車よりもはるかに取り扱いが簡単なことに加えて、騒音や排ガスがなかったことが当時から電気自動車のメリットとして好まれていたようです。
しかし、1900年代の前半には自動車はほとんどがガソリン車になってしまいました。
いったい何故でしょうか?
取り扱いの容易さ
まずSLIと呼ばれるエンジンを動かし始める装置が開発され、ガソリン車を動かし始めることが容易となりました。
これにより、ガソリン車の取り扱いが簡単になり、電気自動車の優位性が低下したのです。
大量生産による低価格化
決定的だったのは、「T型フォード」の販売開始です。
T型フォードは、当時としては画期的なベルトコンベヤーを使った大量生産を行い、大幅な値下げを成功させました。
当時の車には、2,000ドル程度の値段が付けられていましたが、なんとT型フォードは850ドル。
アメリカ人の平均年収が600ドルだったことを考えると、高嶺の花から頑張れば届く範囲にまで価格革命を起こしたわけです。
大衆に受け入れやすい価格が、普及の決め手となったわけですね。
航続距離の長さ
また、現代と同じように航続距離の違いも、ガソリン車に軍配が上がる一因になったとみられます。
昔からガソリンの方が電気よりも航続距離が長かったのです。
何故なら、ガソリンが含むエネルギーが非常に多いからです。
ガソリン1L分のエネルギーを現代のEV用急速充電器(50kWh)で充電するにはおおよそ11分程度かかります。
セルフのガソリンスタンドでは1分間に30〜35Lが給油できるため、電気とガソリンで同じエネルギー量を補給しようとした場合330倍の時間がかかります。
ガソリン車よりEVの方がエネルギーロスが少ないため、同じエネルギー量ならEVの方がはるかに長く走れますが、航続距離となるとガソリン車が長くなります。
インフラ整備までの補給環境
ガソリン車が普及する過程では当然、ガソリンスタンドがそこら中にあったわけではありません。
しかし、ガソリンは缶にいれて小売店で販売できたため、ガソリンスタンドが無くても、ある程度の供給が可能でした。
この販売方法なら、缶を運びさえすればどこでもガソリンが手に入ります。
そのため普及初期は小売店で対応し、その間にインフラを整えるということが可能でした。
一方、電気自動車に使われるバッテリーは大型のものになってしまうため、小売店での販売は難しかったと思われます。
価格の低さや航続距離については、現在HVがEVに勝っている理由と同じであり、EVは同じ轍を踏んで負けていると考えられます。
EV普及のために必要な条件とは?
上述した通り、HVにシェアを奪われているEVですが、脱炭素社会を目標とするとEVの普及は必須だと思われます。
2回も負けているEV、さすがに3回目も負ける訳には行きません。
どうすれば、価格や航続距離、インフラ問題が解決するか考えていきます。
結論から言いますと短期的に普及させる手段はなく、長期的に生産環境とインフラを整えていくしか無いと思われます。
①大量生産による価格低下
すでにアメリカをはじめとした多くの国で補助金を出していますが、上述した通り未だにEVはHVやガソリン車より高額です。
EVが高くなってしまう一番の原因は、やはりバッテリーの生産コストの高さです。
現在主流のリチウムイオン電池は、レアメタルであるリチウムやコバルトを使用しています。
このレアメタルは、製造コスト12.5円/Whのうち原材料費が10.0円かかるとも言われています。
また、大容量のリチウムイオン電池は未だに普及しているとは言い難い状態であり、大量生産の恩恵をあまり受けていません。
「原料コスト低減」と「大量生産によるコスト低減」は、どちらも一朝一夕では解決し難い問題です。
ですが強いて言うなれば、「大量生産によるコスト低減」でコスト問題は解決していくのではないかと思われます。
徐々にEVが普及してきた際に、普及の加速度を上げるように価格が低減していく可能性が高いでしょう。
EVが普及すれば製造量が増える
⇒製造量が増えれば価格が下がる
⇒価格が下がるため顧客層が増えさらに普及する
このような流れで、価格問題は解決していくでしょう。
しかし、アメリカや中国などの大国がEV化の方針を変えた場合、電池の需要が大きく減ってしまい価格がさらに高騰する可能性もあるため、各国の政策には常に注意を向けておく必要があります。
②技術進歩による航続距離改善
次に航続距離の問題ですが、これは、バッテリー小型化による燃費の向上、寒さに強い電池の発明、車体の軽量化など技術の進展を待つしかないと思われます。
現在の航続距離から急に2倍に伸びました!なんてことは考えにくく、各企業が徐々に伸ばしていくでしょう。
航続距離が十分に伸びれば、普及率は角度を上げて上昇していく可能性が高いです。
③政府によるインフラ整備
最後にインフラの拡張ですが、これは各国の政策によって大きく差異が出る部分だと思われます。
どの程度、国が力を入れるかによって、インフラの普及にも差が出てきます。
一般家庭にも十分に充電設備が広がれば、角度をつけたEVの普及が進むと考えられます。
転換点は大統領選?
ここまでお伝えしたEVの普及率に関する考察を以下のグラフに図示してみました。
①、③は、各企業の切磋琢磨により半ば自動的に進むと思われます。
しかし、②は国の方針に左右されやすいため、各国の動向には注目です。
米大統領候補のトランプ氏はEV敵視で有名なため、EV政策を大きく変更する可能性が高いでしょう。
そうなればEVの普及は遠のき、HVの覇権が続くと考えられます。
この意味でも、今回の大統領選挙には注目です。
実は19世紀と同じ流れで、自動車の覇権をとり逃してしまっていたEV。
次回こそ普及して3度目の正直と行きたいところ。
各国の動向とEVの普及推移に今後も注目です。
世界情勢 マーケットニュース 2024.03.21
この記事を書いた人
日本投資機構株式会社 データアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)
日本ディープラーニング協会認定ジェネラリスト(G検定)
日本投資機構株式会社 データアナリスト
テクニカルアナリスト(CMTA®)
ジェネラリスト(G検定)
総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計等をもとに銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活動の幅を拡げている。
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