2024年のAIバブルはいつまで続く?ITバブルから考える崩壊のタイミング
株式情報 投資戦略 日本株 2024.06.15
米OpenAIが2022年11月にChatGPTをリリースして以降、株式市場ではAIへの期待が高まっています。
AIの普及で需要が急増している米半導体大手エヌビディアの株価は、今年に入って2倍以上に上昇。
世界中がエヌビディアの成長に熱狂し、時価総額はアップルに迫っています。
こうなると、気になるのは熱狂がどこまで続くのかでしょう。
エヌビディアのPERは決して高くなく、バブルではないとの見方が多いですが、株式市場の期待は往々にして行き過ぎるものです。
そのため、エヌビディアやAI関連株を取引する上では、期待が行き過ぎていないかや、行き過ぎた期待が崩れないかに注意が必要です。
そこで今回は、AIバブルがいつまで続くか、過去に発生したITバブルを振り返った上で考えていきます。
目次
ITバブル時の株価の動きを徹底検証!
AIバブルについて考える前に、ITバブルについて振り返っておきましょう。
ITバブルは、インターネットという新たなテクノロジーが生産性を格段に向上させるとの期待の高まりと、米FRBによる利下げが重なり、発生したと考えられています。
発端は、1998年のロシアによるデフォルト(債務不履行)で、グローバルな金融市場に混乱が広がったことです。
この時に、ノーベル賞受賞者が設立時から参加していた超有名ヘッジファンド「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」が破綻しています。
米政策金利とS&P500指数日足チャート (1997年9月16日~1999年4月29日)
こうした市場の混乱を受けて、当時の米FRB議長であるアラン・グリーンスパンは利下げを行いました。
利下げによって金融環境が緩和されたため、ショックが収束した後の株式市場はバブルに向かったのです。
ITバブルがピークをつけるまでの期間は?
では、ITバブルが膨らんでからピークをつけるまでには、どのくらいの期間を要したのでしょうか?
1998年に利下げが行われたLTCMショック時の安値から、ITバブル時の高値をつけるまでのナスダック100指数のチャートを確認してみましょう。
ナスダック100指数週足チャート (1998年7月13日~2000年11月13日)
1998年10月8日の安値1,063.27から2000年3月24日の高値4,816.35まで、ナスダック100指数の上昇率はなんと4.5倍に達し、上昇期間は533日(約1年半)となっています。
短期間に値幅を伴って上昇しましたので、その反動があったのも頷けます。
しかし、上方向にトレンドが出ていたのが途切れ、下げに転じるにはそれなりの理由があったはずです。
そこで、今後はITバブルがピークを付けた頃どのような状況だったのか、当時のニュースを詳しく見ていきましょう。
ITバブルが崩壊した理由は?
ITバブルが発生し、株高基調が強まると米FRBが利上げを開始しました。
しかし、多少金利が上昇したくらいでは、一度膨らんだITへの期待と株価の上昇トレンドは崩れませんでした。
株価の上昇によって投資家には余裕が生まれ、買いが買いを呼ぶ好循環が発生していたのです。
一方で、短期間に株高が進んだため、過熱感も強まり、ピークを迎える頃の株式市場は高値圏でかなり荒い値動きを見せ始めました。
そうしたなかで、IT企業の業績について悪い材料が出始めたため、バブルは崩壊に向かいます。
2000年4月4日に、ナスダック100指数が、一時とはいえ75日移動平均線を割り込み、上昇トレンドが崩れ始めた場面では、マクロソフト社が反トラスト法に違反したとして訴えられ、業績への影響が警戒されていました。
上昇をけん引していた銘柄が、不透明感から上値を追えなくなったため、ITバブルはピークを迎えたと考えられます。
ナスダック100指数は3月24日に最高値をつけた後、4月上旬にかけて暴落。
4月14日の安値まで、20日間で指数は35%も下落しています。
ナスダック100指数日足チャート (2000年2月10日~2001年2月7日)
当時の様子について、ウォール・ストリート・ジャーナルは、「市場の高いボラティリティが投資家を掲示板に逃避させている」と報じています。
当時はインターネットを通じたオンライントレードの黎明期でもあり、投資家が集まるオンライン上の掲示板も活況となっていました。
そうした掲示板上での、「(市場が暴落し、損失が膨らんだ)この経験を乗り越えるために、どんなアドバイスでもいただけるとありがたいです。」「アドバイス?たくさん飲みなさい。痛みを紛らわせろ。」といったやり取りが取り上げられており、当時の様子が生々しく伝わってきます。
その後、反発する場面もありましたが、けん引役を失ったナスダック100指数は高値を更新できずに失速。
半導体メーカーなどITバブルを引っ張ってきた多くの企業の業績にも減速感が強まり、本格的な下降トレンドに向かいました。
2000年ITバブルと2024年AIバブルを比較!
では、今回のAIバブルはITバブルと同じような道を辿るのでしょうか?
2000年と2024年の状況を比較して、今後どうなっていくのか考えていければと思います。
「ChatGPT」リリース以降の株価推移はITバブル時に酷似?
まずは、株価の推移を比較してみましょう。
先ほどは、1998年に利下げが行われたLTCMショック時の安値をITバブルの起点として定義しました。
対する今回のAIバブルの起点は、2022年11月末にChatGPTがリリースされた後の安値をつけた12月28日とするのが適切かと思います。
この安値は、2022年の始めから続いた、インフレと高金利を織り込んでの株式市場の下落が終わったポイントでもあります。
ナスダック100指数 日足チャート (2021年12月2日~2023年4月12日)
ここから現在(2024年6月12日)まで、上昇トレンドが継続しており、その期間は532日となりました。
ITバブルがピークをつけるまで(533日)とほぼ同じ期間が経過しているのです。
ナスダック100指数 日足チャート (2022年10月3日~2024年6月6日)
ただし、安値から高値までの上昇率は78.7%と、ITバブル時の上昇率(4.5倍)には遠く及ばず、値動きの激しさも限定されています。
米ハイテク株のマーケットが当時よりも成熟し、値動きが落ち着いているのです。
またバリュエーションの面でも、当時のナスダック100のPERが100倍を超えていたのに対して、現在(2024年6月6日)のPERは31.2倍と大きく差があります。
そのため、もし今のAIバブルが、本当にバブルであって崩壊したとしてもその下げ幅は限られると考えられます。
AIバブルはすでにピークを迎えつつある?今後の注目点
このように、過熱感はITバブル時とは全く異なり、もしAIブームがバブルであったとしても反動は小さく済むと考えられます。
しかし、足元の状況を見ると、すでにAIに対する期待感はピークを迎えつつあるのではないかとも思えます。
ここからは私が今気にしている、AIバブルが抱えるリスクについてお伝えしていきます。
生成AIへの投資がどこまで利益を生むかは不透明
生成AIは生産性向上に広く活用されており、すでに事務職や簡単な顧客サポート業務はAIに置き換わりつつあります。
そして、もっと生産性を向上させようと、様々な企業がこぞってAIに投資を行っています。
しかし、生成AIの進化によって私たちが是非使いたいと思えるサービスが誕生したかと問われると、いかがでしょうか。
インターネットは、最新情報へのアクセスや、同じ趣味を持つ仲間との交流、コンテンツの発信と閲覧など、私たちに様々な楽しみをもたらしてくれました。
これに匹敵するほどの魅力が生成AIにあるかはまだ不透明かと思います。
世界のGDPの60%程度が個人消費によって構成されていると言われていますし、企業が頑張って投資をして生産性を向上させたとしても最終消費財が売れなければ、どこかで行き詰ってしまいます。
そのため、生成AIが経済に与えるポジティブな効果を考える上では、最終的な消費にどうAIが関わって来るかが最も重要になるのではないかと思います。
直近では米アップルがiPhoneへのAI機能の搭載を発表していますので、どの程度需要拡大につながるのか、先行きを見極めたいです。
思ったほど売れない、使えないとなると、株式市場に失望が広がる可能性があるため、注意が必要です。
逆に売れ行きが良いのであれば、電子部品株などに物色の裾野が広がると考えられます。
期待されていた銘柄の失速はやや気がかり
他にも、足元の株式市場にはやや気がかりな動きがあります。
それは、生成AI関連として今年に入って4倍以上の上昇を演じてきた【SMCI】スーパー・マイクロ・コンピューターの失速です。
【SMCI】スーパー・マイクロ・コンピューター 日足チャート (2023年12月28日~2024年6月11日)
スーパー・マイクロ・コンピューターは、AI処理に最適化されたサーバーやデータセンターソリューションを提供しており、成長期待を集めて株価を大きく伸ばしてきました。
しかし、2024年3月8日以降、高値の水準を切り下げる動きに転じ、4月に行われた第3四半期決算発表後も弱い値動きを継続しています。
決算では、利益と売上高の実績が予想を上回って着地したものの、次の四半期の見通しを示さず業績の失速が意識されました。
AI関連銘柄のなかでの競争が激化しているとの見方もあり、AI関連として成長している銘柄だからといって必ずしも上昇する相場ではなくなっています。
こうした環境下で、エヌビディアまで失速してしまうと、ブームが下火になってしまう可能性があります。
エヌビディアの予想PERは6月11日時点ですでに47倍まで上昇しており、割安感が薄れている点にも注意が必要です。
勿論、高い成長率を考えれば今のPERが高いとは言えませんが、業績が失速すれば、割高感が意識されやすい点は考慮してく必要があります。
また6月7日には、米ウォール・ストリート・ジャーナルが「米独占禁止当局がAI分野の主要2社であるマイクロソフトとエヌビディアに対し、反トラスト法に抵触していないか調査を開始した」と伝えています。
ITバブルがピークをつけたきっかけが、マイクロソフトの反トラスト法違反であったことを考えれば無視できないニュースですので、今後の進捗を見守りたいと思います。
バブルかも?と疑う気持ちは忘れないで!
ここまで、ITバブルとAIバブルを比較した上で、現在のAIバブルが抱えるリスクをお伝えしてきました。
現在は、AIバブルが始まってからすでにITバブルと同程度の期間が経過しており、一部の銘柄には失速感も見られています。
当時と比較すると、株式市場に割高感がないため、ブームが下火になっても「バブル崩壊」というほどのネガティブインパクトはないと考えられますが、それでも関連銘柄は影響を受けるでしょう。
エヌビディアや活況となっているAI関連株を買い付ける際には、上手く上昇しなかった場合の「逃げ時」もしっかり考えておきたいものです。
ITバブル時のナスダック100指数の動きを見ると、ピークをつけた後に一気に下落するわけではなく、大きく反発する場面もありました。
ですので、きちんと「逃げ時」を考えておけば、万が一バブルが崩壊した際にも損失は限定できるかと思います。
株式情報 投資戦略 日本株 2024.06.15
この記事を書いた人
日本投資機構株式会社 アナリスト
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)日本投資機構株式会社 投資戦略部 主任
証券アナリスト(CMA)
テクニカルアナリスト(CMTA®)
国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。
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