半導体銘柄の期待と現実

世界情勢 マーケットニュース 国内情勢 経済指標 2023.07.28

遠藤 悠市 遠藤 悠市

5月24日に米国の半導体メーカーであるエヌビディアが、過去に例がないほどの大幅な売上増の見通しを発表し、市場に衝撃を与えました。

 

これを受け、人工知能ブームの恩恵を受けそうな半導体企業を探す動きが一気に強まり、国内株式市場でも半導体関連銘柄が幅広く買われる展開となりました。

 

しかしながら、直近発表された半導体関連銘柄の決算では、市場が期待する水準に届いていない可能性があります。

 

そこで、本格的に始まる半導体・半導体製造装置企業の決算発表や、半導体産業にみられる景気循環であるシリコンサイクルから、市場が持つ高い期待を維持できるか、詳しくお話していきます。

 

半導体関連銘柄の株価上昇背景

米国の半導体メーカー「エヌビディア」が決算を発表

 

5月24日に米国の半導体メーカー「エヌビディア」が発表した2023年2〜4月期決算は、純利益が前年同期比26%増の20億4300万ドル、日本円にして約2800億円となりました。

 

2〜4月期の純利益は、減益を見込んでいた市場予測を大きく上回り、同日エヌビディアが発表した5〜7月期の売上高見込みは110億ドル前後と、市場予想を5割近く上回りました。

 

これを受けて、日本株式市場でも半導体関連銘柄に資金が流入し、大きな株価上昇につながっています。

 

現在も大手半導体関連銘柄は高値圏で推移していますが、今後本格的に始まる半導体・半導体製造装置企業の決算発表が市場の期待に応えられない可能性があるとみています。

 

既に発表されている半導体企業の決算は

 

すでにいくつかの半導体関連企業が決算を発表していますが、中でも、半導体製造装置の大手であるローツェの決算に注目していきます。

 

7月11日に発表された24年2月期第1四半期決算では、連結経常利益が前年同期比27.5%減の52億円に減り、売上高・営業利益ともに前四半期と比較してマイナスとなりました。

 

決算短信では、中長期的には生成系AI、5G、IoTなどの情報通信技術の発展や、それに伴うデータセンターの能力拡張等、半導体市場の力強い成長が見込まれており、世界各地域では政府支援も背景とした半導体関連の工場建設の計画が進んでいると中長期的ではポジティブなガイダンスが示されています。

 

しかし一方、短期的にはメモリ半導体の世界的な半導体需要の減速に伴い、半導体メーカーによる在庫調整や設備投資の先送りの動きが見られるとしています。

 

この決算を受けて、株価は大きく下落しました。

 

【6323】ローツェの株価  (2023年7月25日取得)

 

このことから、短期的な需要減速と在庫調整や設備投資の先送りが見られる大手半導体関連銘柄は、決算により期待剥落となるケースが多くなる可能性があります。

 

シリコンサイクルからみる半導体市場

 

次に半導体産業にみられる景気循環であるシリコンサイクルから、今後の半導体市場の動向を推察していきます。

 

世界半導体売上高は前年比2割超の減少幅を2023年2月から4ヵ月連続で記録しています。

 

世界の半導体受託生産の約8割を占める台湾・韓国の半導体生産および輸出動向は、2021年後半から2022年初にかけ前年比大幅プラスを記録していたものの、その後はコロナでの特需が一巡するなどして失速しています。

 

半導体受託生産の世界最大手であるTSMCは、4月に2023年通年の売上高が前年比-1%〜-6%の減収になるとの見通しを発表。

 

小幅な増収としていた1月時点から予測を下方修正しています。

 

また、半導体関連企業各社の予測値を基に作成される世界半導体市場統計の2023年春季予測も、先行きの見方は厳しく、同予測によると、2023年の世界半導体市場規模は前年比-10.3%と、大幅マイナスとなる見通しです。

 

半導体業界は、2022年10月以降シリコンサイクルの「調整局面」に突入しており、TSMCや世界半導体市場統計の予測から、2024年ごろに再度上向くと考えられます。

 

総悲観ではない半導体業界

 

半導体業界全体としては先行きの厳しい見通しとなりますが、一部先端半導体に関しては明るい材料もあります。

 

例えば、世界半導体市場統計の予測において、ロジック半導体の市場規模は前年比-1.8%と相対的に小さいマイナスが見込まれています。

 

また、パワー半導体を含むディスクリート半導体と言われる製品は、前年比+5.6%と増加が予測されています。

 

先端半導体需要の高まりには、今注目を集める生成AIへの需要も影響しており、電気自動車等の制御に用いられるパワー半導体も底堅い需要が見込まれています。

 

このように業界全体では調整が続く半導体ですが、一部製品では旺盛な需要があります。

 

スーパー・コンピュータや人工知能に使う先端半導体、電気自動車等の制御に用いられるパワー半導体などは旺盛な需要が期待されるため今後半導体関連銘柄への投資をお考えの方は、このような銘柄を押さえておくと良いでしょう。

世界情勢 マーケットニュース 国内情勢 経済指標 2023.07.28

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遠藤 悠市

この記事を書いた人

遠藤 悠市

日本投資機構株式会社 アナリスト日本投資機構株式会社 アナリスト
大学時代に投資家である祖母の影響で日本株のトレーディングを始める。大学時代、アベノミクスの恩恵も受けて、株式投資を投資金30万円で始め4年間で990万円まで資金を増やすことに成功する。卒業後、証券会社、投資顧問会社を経て2019年2月より日本投資機構株式会社の分析者に就任。モメンタム分析を最も得意としており、IPO(新規上場株)やセクター分析にも長けたアナリスト

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