脱炭素や円安を追い風に、復活の兆しを見せる日本の造船業。
船づくりは造船所だけでなく、エンジン、ポンプ、計器、素材、デジタル技術など広範な企業が関わる巨大産業です。
本記事では、急速に注目が高まる造船関連銘柄の全貌と、今投資すべき理由、代表的な企業を分かりやすく解説します。
造船関連銘柄とは?造船所と部品メーカーで異なる収益構造

造船関連銘柄と聞くと、巨大なドックを持つ造船会社(完成船メーカー)を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、投資対象としての造船業界は、船の心臓部であるエンジンから、船体を守る塗料、そして最新のデジタル技術に至るまで、極めて広い裾野を持っています。
1隻の船を完成させるためには、数万〜数十万点にも及ぶ部品が必要だからです。
投資家としては、同じ造船関連銘柄でも、造船所と部品メーカーでは異なる収益構造を持っている点を意識しておきましょう。
造船所は、固定費が重い分、好況期に損益分岐点を超えると一気に利益が拡大しやすいです。
部品メーカーは、新造船への納入だけではなく、就航後の点検や部品交換といった高収益なメンテナンス需要も取り込んでいるため、比較的業績が安定しています。
造船業界には数十年ぶりの好況期が到来!?

かつて構造不況業種とも呼ばれた造船業界ですが、現在は数十年ぶりの好況期の入り口にいると言われています。
その背景には、世界的な需要の爆発と、日本企業の復権を後押しする複数の要因が重なっています。
脱炭素シフトがもたらす「次世代燃料船」特需
需要を牽引しているのが、国際海運における脱炭素への急激なシフトです。
LNGやLPGに加え、メタノール、アンモニア、将来的には合成燃料など、多様な次世代燃料への対応が求められる中で、船体設計や燃料タンク、配管、安全装置などの仕様が刷新されています。
高度な技術力を持つ造船所や機器メーカーには新たな高付加価値の仕事が流入しやすくなっているほか、再生可能エネルギーの拡大に伴い、洋上風力関連の作業船やケーブル敷設船といった周辺ニーズも拡がりを見せています。
業界再編による競争環境の好転と収益体質の改善
また、業界の競争環境が改善している点も見逃せません。
海外を含めた業界再編と集約が進んだため、かつてのような泥沼の価格競争は緩和されつつあります。
大手同士が規模の経済や設計資産の再利用を通じて収益性を高めやすい体制が整いつつあるのです。
再編の波はサプライチェーンにも波及して、機器メーカー側も統合や提携による製品群の拡充を進めています。
建造量倍増へ向けた「官民一体」の投資戦略
こうした追い風を受け、円安メリットを享受する日本の造船業界では、復権に向けた動きが加速しています。
今治造船など国内17社で構成する業界団体は、2035年までの建造量倍増を目標に掲げ、総額3,500億円規模の設備投資を行う方針を表明しました。
大型クレーンの増設や生産ラインの増強で建造能力を引き上げる計画に対し、政府も省エネ・デジタル化に関する補助や税制支援、基金創設などの検討を通じて強力にバックアップしています。
実需の拡大、業界の収益体質改善、そして官民一体となった投資戦略が重なり合ったことで、造船関連企業には中長期的な受注拡大と収益力の向上への期待が急速に高まっているのです。
グローバル動向|規模の「中韓」に対し、技術と品質の「日本」

世界の造船市場は、長らく日本、韓国、中国の3カ国がシェアの大半を握る3強の構図が続いていますが、その戦い方は明確に分かれています。
韓国や中国は、国策としての強力なバックアップと広大な敷地を活かした大規模設備を武器に、タンカーやコンテナ船などの標準的な大型船を大量建造するスタイルを確立しました。
圧倒的なスケールメリットを背景とした価格競争力こそが彼らの強みであり、コスト勝負の領域では脅威的な存在感を放っています。
対する日本勢は、技術力と品質で勝負する差別化戦略を徹底しています。
具体的には、環境規制をクリアするための省エネ設計や高効率な推進システム、あるいは特殊な用途に使われる中小型の高付加価値船といった領域で、世界から高い評価を獲得しています。
日本の造船所の特徴は、納期を遵守する工程管理の確かさと、長期間使用しても壊れにくい信頼性の高さにあります。
注目の造船関連銘柄を紹介|アセンブラーから素材まで

ここまで見てきた通り、造船業界には強い追い風が吹いています。
では、巨大な産業構造の中で、具体的にどの企業が恩恵を受けるのでしょうか?
投資対象としての造船業界は、最終的な組み立てを行う造船所だけでなく、その性能を底支えするスペシャリスト企業群によって成り立っています。
ここからは、船づくりを支える主要プレイヤーを4つのセクターに分類し、それぞれの役割と代表的な関連銘柄を紹介します。
造船大手・中堅|高レバレッジの受注産業
造船所は、エンジンや鉄鋼、計器など数万点にも及ぶ部材を調達し、巨大なドックで一隻の船に組み上げる役割を担っています。
船価の上昇や受注増加の恩恵を最も直接的に受ける立場にあります。
巨大な設備を抱える装置産業であるため、固定費が重い一方、損益分岐点を超えると利益が急拡大する営業レバレッジが効きやすい点が特徴です。
現在は世界的なドック不足により、造船所側が採算の良い案件を選別できる状況にあります。
投資においては、LNGやアンモニア燃料船など難易度の高い環境対応船を建造できる技術力に加え、人手不足を補うDXやロボット活用によって生産性をどれだけ高められているかが、重要なポイントです。
代表的な企業としては、名村造船所が挙げられます。
名村造船所は、外航商船の建造を中心に、ばら積み船やタンカーなどで実績がある国内造船の代表格です。
舶用エンジン・過給機|安定×成長のハイブリッド
船の動力を生み出すエンジンメーカーは、脱炭素化に向けた技術開発の最前線に位置しています。
現在は従来の重油だけでなく、アンモニアや水素、メタノールといった次世代燃料に対応した新型エンジンの開発競争が激化しており、高い技術力が求められるため参入障壁が高い分野です。
収益面では、新造船向けの納入だけでなく、就航後の部品交換やメンテナンスが長期間にわたって発生するため、安定した保守収益が見込めるのが強みです。
好不況の波が激しい造船業界において、成長性と安定性を兼ね備えたセクターと言えるでしょう。
代表的な企業としては、中小型向け舶用ディーゼルエンジンで実績を有するダイハツディーゼルが挙げられます。
舶用ポンプ・計器・電装|付加価値向上のキーデバイス
正確な制御を担う計器や、燃料・バラスト水を管理するポンプ、通信機器などは、船の安全運航と効率化に不可欠な要素です。
近年は気象データを分析して最短ルートを導き出す運航支援システムや自動操舵技術など、船のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。
また、省エネ化に直結する高付加価値製品の需要も高まっています。
新造船への搭載に限らず、すでに運航している船の燃費改善や法規制対応のために機器を後付けする「レトロフィット需要」も取り込めるため、市場の広がりが期待できる領域です。
代表的な企業としては、ジャイロコンパスやオートパイロット、航海計器などの制御・計測機器を展開する東京計器が挙げられます。
ポンプでは、酉島製作所などの専業企業が造船やプラント向けに強みを有しています。
塗料・素材・鋼材|必須消費と環境プレミアム
船体の耐久性と燃費性能を物理的に支えるのが、塗料や鉄鋼などの素材メーカーです。
特に、日本の塗料メーカーが持つ技術力は注目に値します。
海中生物の付着を防ぎ、水の摩擦抵抗を低減させる高機能な防汚塗料は、燃費を改善させる効果があるため、環境規制が厳しくなる中で需要が高まっています。
燃費効率を重視する船主は価格が高くても高性能な製品を選ぶ傾向にあり、原材料価格の上昇を価格転嫁しやすい構造にあります。
定期的な塗り替え需要もあるため、底堅い収益が期待できます。
関連企業としては、日本ペイントホールディングスが挙げられます。
また、日本製鉄など高機能素材の供給を行う企業も、造船品質を支えています。
その他の注目造船関連銘柄
| コード | 銘柄名 | 企業概要 |
| 7012 | 川崎重工業 | 造船や海洋、推進システムを保有する総合重工。 |
| 7011 | 三菱重工業 | 海洋・エネルギー・防衛を含む大手重工。船舶関連の高度案件に強み。 |
| 6268 | ナブテスコ | バルブや制御機器など、船舶のリモコンシステムに関与。 |
| 7013 | IHI | ターボ機械や推進関連の技術資産を保有。 |
| 7004 | カナデビア | 船舶以外の環境・プラント色が強いが、海洋インフラの設計・製作技術を持つ。 |
| 7003 | 三井E&S | 舶用エンジン、港湾クレーンなど海洋・港湾機械でグローバル実績。 |
| 4611 | 大日本塗料 | 舶用塗料のラインナップを展開。 |
| 4613 | 関西ペイント | 舶用塗料のラインナップを展開。 |
| 6302 | 住友重機械工業 | 推進機器やギヤ類で海洋向けニーズを捉えている。 |
| 6814 | 古野電気 | 魚群探知機や航海機器を手掛ける。近年は一般航行の電子機器にも幅広く展開。 |
※海洋・船舶向け比重は会社ごとに大きく異なります。投資を検討する際には各社の事業ポートフォリオ比率を必ず確認してください。
造船関連銘柄への投資判断ポイント

造船株は、受注から売上計上までの期間が非常に長い「超・長サイクル産業」です。
また、世界景気、為替、資源価格というマクロ要因の荒波をダイレクトに受けるセクターでもあります。
そのため、単に直近のPER(株価収益率)や売上高だけを見て投資判断を下すのは危険です。
現在の利益は過去の受注の結果であり、現在の受注が未来の利益だからです。
ここでは、造船株に投資を行う際のポイントを解説します。
投資家が注目すべき「造船サイクル」の特殊性
まず理解すべきは、受注と利益の間に生じるタイムラグです。
造船業は契約から引き渡しまで2〜3年、長いものでは4年近くかかる場合が珍しくありません。
このため、株価は「受注が増えた」「船価が上がった」というニュースが出た段階で、数年後の利益を織り込んで先行して上昇する傾向があります。
一方で、決算書上の利益が出るのは、実際に建造が進んだり(工事進行基準)、引き渡されたりした後です。
つまり株価のピークと業績のピークにはズレが生じるため、好決算が出たから買いではタイミングとして遅すぎる場合があります。
また、市況回復期であっても警戒が必要です。
過去の不況期に操業を維持するために安値で受注した赤字スレスレの案件が残っている間は、全体の利益率は低迷し続けます。
この安値受注の残骸がいつ消化されるかを見極める必要があります。
「受注残」と「稼働率」をどう見るか
「受注残(手持ち工事量)」については、単に量が多いかどうかではなく、その質と納期に注目するのが重要です。
現在の受注残が、歴史的な船価高騰局面で契約されたものか、それとも底値圏のものか、クラークソンなどの「新造船価格指数」と受注時期を照らし合わせて採算性を推し量る必要があります。
また、現在主要な造船所のドックは数年先まで埋まっているケースが増えています。
納期が先であることは売り手市場を意味し、造船所側が価格交渉で強気に出られる環境にあることを示唆しています。
さらに、利益率を大きく左右するのが習熟効果です。
全く新しい設計の船を1隻造るよりも、同じ設計の標準船型を連続して何隻も造る方が、設計コストが分散され現場の作業効率も上がるため、利益率は跳ね上がります。
受注内容がバラバラな一点物ばかりでなく、効率的な連続建造ができているかも確認したいポイントです。
為替・金利・鋼材価格にも注目
外部環境の変化も収益に直結します。
まず為替については、日本の造船業はドル建て契約が主流のため、円安は売上・利益の押し上げ要因となります。
決算資料にある為替感応度を確認しつつ、海外から部品を輸入している場合のコスト増とのバランスを見極める必要があります。
次に重要なのが、船の原価の約2割を占めるとされる鋼材(厚板)価格です。
受注から着工まで時間が空くため、その間に鉄鋼価格が高騰すると利益が圧迫されます。
契約に「鋼材価格が上がれば船価も上げる」というスライド条項が含まれているか、あるいは先物予約等でヘッジできているかがポイントとなります。
金利動向も無視できません。
船主は巨額のローンを組んで発注するため、金利上昇は本来であれば購買意欲を冷やす要因です。
しかし現在は環境規制対応という待ったなしの需要があるため、金利上昇下でも発注が落ちにくいという特異な状況が続いています。
造船関連銘柄の今後の見通し

最後に短期、中期での造船関連銘柄の見通しについてまとめます。
投資スタンスによって注意すべきポイントは異なるため、しっかり押さえておきましょう。
短期トレンド|円安進行による日本回帰
造船業は、長らく中国・韓国勢に押されていましたが、円安の進行が日本勢の価格競争力を復活させました。
また、現在のボトルネックは設備ではなく人です。
熟練工の不足により、受注したくてもこれ以上受けられないという供給制約が生じています。
これは一見ネガティブですが、逆に言えば無理な安売りをする必要がなく、船価の高止まりを支える要因にもなっています。
ただし、鋼材や電装の調達価格、造船所の人手制約がボトルネックになるリスクには注意すべきです。
中期トレンド|環境規制による需要の強さが継続
現在は単なる好況ではなく、構造的な「スーパーサイクル」の入り口にあると言われています。
その最大の要因は環境規制(IMO規制)の強化です。
燃費の悪い旧式船は規制により物理的に運航できなくなるため、景気に関わらず買い替えざるを得ない需要が発生しています。
LNG燃料やメタノール、アンモニアなど、次世代燃料に対応できる技術力を持つ造船所やエンジンメーカーに注文が集中し、選別受注による利益率向上が期待できる局面です。
構造的テーマ|脱炭素×デジタル化(DX)
造船は鉄の塊を作る産業から運航ソリューション産業へ変化しています。
自動運航船や、気象データを解析して最適航路を指示するシステムなど、船体以外の付加価値が高まっています。
これにより、造船所だけでなく、航海計器、通信機器、塗料、舶用エンジンなどのサプライヤー(舶用工業)にも投資妙味が広がっています。
特にメンテナンスやデータ解析などの継続課金ビジネスを持つ企業は評価が高まりやすいでしょう。
まとめ|サイクルを見極め、ボトルネックを監視

造船関連銘柄は、脱炭素とデジタル化という長期テーマに乗った構造的な再評価局面にあります。
投資家としては、クラークソン指数などの外部データで現在は船価上昇局面のどこにいるかを確認し、決算を通じて受注残が高船価・好採算の案件に入れ替わっているかを追う必要があります。
同時に、円高反転時の業績耐性や人手不足リスクを考慮しつつ、完成船メーカーだけでなく特定の強みを持つサプライヤーも視野に入れるとよいでしょう。
「船は急に止まれない」と言いますが、造船業績も急には止まりません。
遅行性を味方につけ、一足先に変化の兆しを捉えることが造船株攻略の王道です。
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執筆者情報
金融ライター
2016年大手証券会社に入社、2018年に最大手オンライン証券会社に入社し、機関投資家部門(ホールセール)を立ち上げ、翌年2019年には同社シンガポール拠点設立。2022年より日系証券会社の運用部にてポートフォリオマネジャーの経験を得て以降、一貫して運用業務に従事。
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