株式の空売り(信用取引の売り)を行う際、投資家が予期せずコストを負担する可能性があるのが「逆日歩(ぎゃくひぶ)」です。
これは、特定の銘柄に対して空売り注文が殺到し、株の貸し出し需要が供給を上回ったときに発生する特殊な費用であり、空売り投資家の利益を大きく圧迫するリスクがあります。
本稿では、この逆日歩がどのような仕組みで発生するのか、どれほどのコストになるのか、そして投資初心者がどのようにしてこのリスクを避けるかについて、分かりやすく解説します。
逆日歩は空売り投資家が支払う「株のレンタル追加料金」である

逆日歩とは、「品貸料(しながしりょう)」ともいい、信用取引で株を借りて空売りしている投資家が支払う、株のレンタル代に追加される費用のことです。
この費用は、空売りによる「売りたい」という需要が、「貸し出せる株の在庫(供給)」を上回った場合に発生します。通常のレンタル料(貸株料)とは別に追加でかかる費用であり、空売り投資家にとっては予期せぬ大きなコストとなる可能性があります。
逆日歩が発生するメカニズム
空売りは、投資家が証券会社を通じて市場から株を借りて行いますが、証券会社もその株を「証券金融会社(証金会社)」などから調達しています。人気銘柄に対して空売りが集中すると、証金会社も手持ちの株の在庫が不足します。
この在庫不足を解消するため、証金会社は「株を貸してくれる人」(主に機関投資家や現物株保有者)に対して報酬(プレミアム)を支払い、株を借り集めます。
この株を借りるための報酬こそが「逆日歩」の正体であり、最終的に株を借りている空売り投資家が負担する仕組みになっています。
逆日歩の費用は「買い方」に支払われる
逆日歩が特殊なのは、その費用が「空売り側(売り方)」から徴収され、その株を証金会社に貸し出している「買い方(現物株の保有者)」に支払われる点です。
逆日歩は、空売り投資家にとっては単なるコストですが、現物株を保有し、それを証券会社に貸し出す契約(貸株サービスなど)をしている投資家にとっては、追加の収益となります。
この仕組みが、売り方と買い方との間の需給バランスを調整する機能も果たしています。
逆日歩の金額は需給バランスによって日々変動する

逆日歩の金額は固定ではなく、市場の需給状況によって日々変動します。空売りの需要が多ければ多いほど、株を借りるためのコストが高くなるため、逆日歩の金額も高騰。
この価格は、証券金融会社を通じて毎日発表されますが、その金額によっては空売り投資の採算性を一気に悪化させます。
逆日歩の計算方法と確定のタイミング
逆日歩は、「逆日歩単価(1株あたりの品貸料)」と「空売りした株数」と「日数」をかけて計算されます。
逆日歩 = 逆日歩単価 × 信用売り残高(株数) × 日数
ここで重要なのは、逆日歩が適用される日数です。
原則として、土日祝日を挟む場合は、その間の日数分も加算されて計算されます。
例えば、金曜日に逆日歩が発生した場合、土日分の2日分も加算され、合計3日分の逆日歩を支払うことになり、逆日歩の単価は、その日の取引終了後に決定され、翌営業日に発表されます。
ストップ高や好材料で急騰する「踏み上げ相場」に注意
逆日歩が高騰する背景には、投資家の間で「株価が下がる」という見方が強すぎる、つまり空売りが集中している状況があります。
このような銘柄に、予想外の好材料や買い戻しが集中すると、株価が急騰する「踏み上げ相場」が発生しやすくなります。
この際、逆日歩によるコスト増加と株価上昇による損失拡大というダブルパンチを受け、空売り投資家は強制的に買い戻し(ロスカット)を迫られるリスクがあります。
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投資戦略における逆日歩の二つの重要な影響

逆日歩は、単にコストが増えるというだけでなく、空売り投資家と現物株投資家双方の投資判断に影響を与えます。特に空売りを検討する初心者にとって、この費用が発生しているか否かは、その銘柄への参入を再検討する重要なシグナルとなります。
空売り時の採算性を根底から崩す
空売りで利益を得るためには、株価下落による利益が、貸株料や逆日歩といったコストを上回る必要があり、逆日歩が急騰すると、そのコストが利益の大部分、あるいは全てを食いつぶしてしまうことがあります。
特に、数日分の逆日歩が週末にまとめてかかる場合、そのコストは無視できない水準となり、わずかな下落では利益が出ないどころか、わずかな上昇で大きな損失につながりかねません。
「空売り過熱度」を示す警戒シグナルとなる
逆日歩が発表されること、あるいはその金額が高騰していることは、その銘柄に対する空売りが過熱している状態を示します。
これは、裏を返せば、市場参加者の間で「株価は下がる」という見方が一方的になっていることを意味します。
市場の需給が一方的になると、わずかなきっかけで相場が反対に動きやすくなるため、逆日歩の高騰は「踏み上げ相場が始まるかもしれない」という重要な警戒シグナルとして捉えるべきです。
逆日歩の金額を正確に把握する手順と注意点

空売り投資家にとって、逆日歩がどれだけかかるかを事前に、あるいは発生後に正確に把握することは、コスト管理の基本です。逆日歩の金額は、取引所のシステムを通じて毎日公開されていますが、投資初心者にはその確認手順がやや複雑に感じられるかもしれません。
逆日歩の金額は「証券金融会社」のサイトで確認する
逆日歩の単価は、日本証券金融(日証金)のウェブサイトや、各証券会社の取引ツールを通じて確認できます。
日証金は、信用取引における貸株・融資の仲介を行う唯一の会社であり、逆日歩の計算と公表を行っています。逆日歩の金額は、毎日市場が引けた後(夕方以降)に決定され、翌営業日に適用されます。
銘柄ごとの「信用倍率」から発生リスクを推測する
逆日歩が発生しやすい銘柄を見極めるには、「信用倍率」をチェックするのが有効です。信用倍率は、信用取引における「買い残高」を「売り残高」で割った比率です。
信用倍率 = 信用買い残高 ÷ 信用売り残高
・信用倍率が1倍未満の場合:売り残高(空売り)が買い残高よりも多いため、株の貸し出し需要が供給を上回っている状態であり、逆日歩が発生しやすいリスクが高いと判断できます。
・信用倍率が1倍より大きい場合:買い残高が多い状態であり、逆日歩発生のリスクは低くなります。
信用倍率は、週に一度(通常は週末)発表されるため、空売りを行う前のリスク推測に役立ちます。
連休や期末の「特別日」にはコストが跳ね上がる
週末や祝日を挟む場合、その日数分の逆日歩がまとめて適用されるため、コストが高くなることは前述の通りです。
これに加え、配当や株主優待の権利確定日(期末)をまたぐ取引には、特に注意が必要で、権利確定日に向けて空売りが集中しやすくなるため、逆日歩が一時的に非常に高騰する場合があります。
この期間は、逆日歩の動向を普段以上に注視し、ポジションを保有し続けない判断も重要です。
まとめ
逆日歩(品貸料)とは、信用取引の空売りにおいて、貸株の需給がひっ迫した際に空売り投資家が負担する追加コストです。
これは、株価下落による利益を狙う空売り投資家にとって、予期せぬ大きな費用となり、最悪の場合、利益を全て食い尽くす可能性があります。
このリスクを回避し、空売りを安全に行うためには、信用倍率をチェックし、空売りが過熱していないかを事前に推測することが重要です。
また、逆日歩は市場が引けた後に決定されるため、取引の翌日にコストが発表されること、週末や権利確定日にはコストが跳ね上がりやすいことを理解し、逆日歩が高騰している銘柄での新規空売りは避ける判断力が必要です。
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