近年、自社の余剰資金をビットコイン(BTC)で運用するだけでなく、財務戦略の中心(トレジャリー)としてBTCを積極的に蓄積する「仮想通貨トレジャリー企業」が世界的な注目を集めています。
特に米国では、ビットコインを企業価値の源泉とする「デジタル資産トレジャリー(DAT)」という攻めの財務モデルが確立されました。
本稿では、なぜ企業がビットコインを保有し、それが株価にどう影響するのかを徹底解説。
さらに、日本版マイクロストラテジーを目指す国内銘柄や、個人投資家が株式経由でビットコインに投資する際の圧倒的なメリット、そして注意すべきリスクまで網羅的に整理します。
仮想通貨(ビットコイン)トレジャリー企業とは?

仮想通貨トレジャリー企業とは、企業が自社の余剰資金として運用目的でビットコインを保有するだけではなく、企業財務(トレジャリー)戦略の中心として、ビットコインを購入・蓄積する企業のことを指します。
特に、企業価値の向上そのものを狙ってBTCを保有するモデルは、デジタル資産トレジャリー(Digital Asset Treasury)と呼ばれ、世界的に注目されています。
単なる保有とは違う「戦略的保有(DAT)」とは
戦略的保有(DAT)は、以下のような特徴を持つ「攻めの財務戦略」です。
・余剰資金の運用ではなく、ビットコインを企業価値の源泉と位置づける
・本業キャッシュフロー、増資、社債発行などで資金調達し、BTCを計画的に買い増す
・中長期で「BTC価格上昇 × 調達力拡大」のループを作るモデル
つまりDATとは、企業版の長期保有(いわゆるガチホ)戦略であり、企業がビットコインを活用した資本政策を通じて、株主価値の最大化を目指す戦略のことです。
なぜ企業はビットコインを買うのか?
企業がビットコインを戦略的に購入するのは、単なる投機目的ではなく、財務戦略や株主価値の向上を見据えた判断です。ここでは、その背景となる主な理由を見ていきましょう。
理由1. インフレヘッジ
法定通貨の価値は、インフレや金融緩和により徐々に目減りします。一方、ビットコインは発行上限が2,100万枚と固定されており、希少性が高いです。
企業は購買力の維持や通貨価値下落リスクの回避のため、BTCを選択する動きが強まっています。
理由2. 資金調達力の強化
ビットコイン保有を背景に株価が上昇しやすく、「株価上昇 → 増資で調達できる資金額増 → ビットコイン買い増し」というビットコイン価格連動の資金調達ループを形成できます。これはDAT企業特有の強みです。
理由3. 株主価値の最大化
企業は株式を通じて株主にBTCエクスポージャーを提供できるため、直接BTCを購入せずとも、株主はビットコイン上昇の恩恵を享受できます。これにより、投資家層の拡大にもつながります。
個人投資家が「トレジャリー株」を買う理由

仮想通貨トレジャリー企業への投資が個人投資家に人気を集める理由は、単に「手軽だから」ではありません。
現物ビットコインを直接購入する場合と比べ、株式は税制・管理コスト・レバレッジ・投資枠(NISA)などの面で圧倒的に有利になっているためです。
特に日本では、暗号資産の課税ルールが厳しい一方、株式は使える制度が多く、投資効率が大幅に高まる構造になっています。
「BTCに投資したいけれど、現物はハードルが高い」「税金で損をしたくない」という投資家ほど、トレジャリー企業を通じた“株式のかたちをした間接ビットコイン投資”を選ぶ傾向が強まっています。
[関連]新NISAの成長投資枠は何を買う?個別株の注意点とおすすめ活用術を解説
最大のメリットは「税制」:雑所得55% vs 譲渡益20.315%
日本では暗号資産の利益は雑所得として最大55%課税されます。一方、株式であれば「20.315%の申告分離課税」で済み、損益通算や繰越控除も可能です。
| 投資手法 | 税率 | 損益通算 | 繰越控除 |
|---|---|---|---|
| 現物BTC | 最大55% | 不可 | 不可 |
| 株式(トレジャリー株) | 20.315% | 可 | 3年可能 |
つまり、株式経由で投資することで税制面の優位性を享受できる構造になっています。
レバレッジ効果と管理コスト不要
DAT企業は、増資や社債などで資金を調達し、計画的にBTCを購入します。そのため、株価にはビットコイン以上の値動き(レバレッジ効果)が生じることがあります。
さらに、ウォレット管理や盗難・紛失対策、セキュリティ運用などはすべて企業が担うため、投資家は保管リスクゼロでビットコインに間接投資できるのが大きなメリットです。
NISA(少額投資非課税制度)での投資が可能
現物BTCはNISAの対象外ですが、トレジャリー企業の株式であればNISA口座で保有できます。
これは非常に強力なメリットで、若年層でもBTC価格上昇の恩恵を非課税で受けられる仕組みです。
さらに、非課税で保有できる期間中に株式の値上がりや配当も享受できるため、長期的な資産形成において大きな利点となります。
米国(US)の仮想通貨トレジャリー企業

ビットコイントレジャリーの中心地はアメリカで、世界トレンドを牽引する企業が複数存在します。
マイクロストラテジー |世界最大のBTC保有企業
マイクロストラテジーは、世界最大級のBTC保有企業です。
会長のマイケル・セイラーが提唱する「Bitcoin First」戦略のもと、本業であるBIソフトウェアのキャッシュフローや転換社債の発行を活用して、累計約21万BTCを購入しています。
事実上、レバレッジ付きビットコインETFのような存在であり、株価はBTCの数倍動くことでも知られています。
テスラ|事業シナジーと戦略的保有
テスラはEV世界最大手として、インフレ下での資産保全や事業シナジーの観点からBTCを保有しています。
一時期は決済手段としてBTC受付も検討しました。戦略的保有の規模は縮小したものの、上場大手企業がBTCを保有した象徴的な事例として注目されています。
日本の仮想通貨トレジャリー企業|急増する注目銘柄

近年、日本でもビットコインを企業財務の中核戦略として取り入れる企業が増えています。
株式市場を活用した資金調達や、株主が間接的にBTC上昇の恩恵を享受できる仕組みを背景に、国内でも「日本版マイクロストラテジー」を目指す注目企業が登場し、投資家の関心を集めています。
メタプラネット (3350)|日本版マイクロストラテジーへの転換
メタプラネット(3350)は、旧・ホテル事業からBTC財務戦略へのフルスイング転換を果たした企業です。
株主割当増資や第三者割当増資で資金を調達しBTCを買い増すことで、BTCと株価の連動性が極めて高く、国内の「代表的トレジャリー株」に位置づけられています。
国内企業の中で最も積極的にDATモデルを取り入れている事例です。
[関連]メタプラネット(3350)のビットコイン戦略を徹底分析!今後の見通しとリスク
Bitcoin Japan(8105)|創業160年超の老舗企業がBTC財務戦略へ
旧堀田丸正株式会社は、2025年11月に商号を「Bitcoin Japan 株式会社」に変更し、ビットコイントレジャリー事業への本格参入を発表した注目企業です。
本業で安定収益を維持しつつ、BTC保有を通じて企業価値向上を狙うモデルを採用しています。
業績とBTCのダブル要因で株価が動く構造を持ち、国内ではメタプラネットに続く存在として、投資家から高い関心を集めています。
その他の注目仮想通貨トレジャリー企業

その他にも注目すべきトレジャリー企業があり、それぞれの戦略や保有状況を把握することが、投資判断のポイントとなります。
| コード | 銘柄名 | 事業内容 |
|---|---|---|
| 3189 | ANAPホールディングス | ビットコイントレジャリー事業を掲げ、保有BTCの開示も行っています(例: 2025/9/30時点で1,111BTCと公表)。 |
| 3903 | gumi | 取締役会決議にもとづくビットコイン取得の開示があり、取得完了(購入数量など)まで情報が追いやすい部類です。 |
| 3825 | リミックスポイント | 暗号資産の追加購入等を適時開示で継続的に発信しており、暗号資産価格の影響を受けやすい銘柄として注目されがちです。 |
| 6574 | コンヴァノ | ビットコイン購入(購入枠/資金調達の紐づけ含む)を適時開示で公表しており、買い増しの動きも確認できます。 |
| 7603 | ジーイエット(旧マックハウス) | 「ビットコイントレジャリー戦略」を掲げ、保有目標なども明示して発信しています。 |
| 5721 | エス・サイエンス | ビットコイン投資枠の設定などを適時開示で公表しており、「財務戦略としてBTCを組み入れる」タイプの文脈で取り上げられます。 |
| 6573 | アジャイルメディア・ネットワーク | 暗号資産投資事業の開始と、ビットコイン購入(上限額を含む)を適時開示で公表しています。 |
| 9238 | バリュークリエーション | ビットコインの追加購入について、開示ベースで継続的な更新が確認できます。 |
| 1431 | Lib Work | 取締役会で「5億円のビットコイン購入」を決議した旨を公表しており、インフレ/円安リスクを意識した資産分散の文脈で語られます。 |
| 9399 | ビート・ホールディングス・リミテッド | 現物BTCではなく、米国のビットコイン現物ETF(IBIT)の保有・運用状況を月次レポート等で開示する銘柄です。 |
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仮想通貨(ビットコイン)トレジャリー企業に投資する際の注意点

トレジャリー株は「株式でビットコインに投資できる」便利さがありますが、現物BTCよりも値動きが大きくなりやすく、投資タイミング次第でリターンが大きくブレる点に注意が必要です。
特に株価にはBTC価格だけでなく、増資や社債発行などの資本政策、保有方針の変更、規制・会計ルール、さらには市場の熱狂(プレミアム)なども同時に影響します。
初心者ほど「BTCが上がるなら株も上がるはず」と単純化しがちですが、実際はmNAV(修正純資産倍率)や資金調達条件によって、上昇局面でも伸びが鈍ったり、下落局面で急落したりすることがあります。
以下では、高値掴みを避けるために押さえておきたい代表的なチェックポイントを整理します。
mNAV(修正純資産倍率)とは?
mNAVは、株価が保有するBTCの価値に対して割高か割安かを測る指標です。計算式は「mNAV = 時価総額 ÷(保有BTC時価 + その他純資産)」で表されます。
一般的に、mNAVが高い場合は株価が割高でプレミアムが乗っていることを意味し、逆に低い場合は割安でBTC価値に近い水準となります。
プレミアムが発生するメカニズム
プレミアムが発生するメカニズムとしては、今後の増資によるBTC買い増し期待や、DAT企業の希少性の高さ、レバレッジによる株価上昇力などが挙げられます。
例えばメタプラネットは、過去にmNAVが5倍近くまで跳ね上がった局面もあり、割高時には慎重な判断が求められます。
仮想通貨(ビットコイン)トレジャリー企業は規制される?

トレジャリー株に投資する際は、規制リスクの把握も欠かせません。
特に日本では、上場後に事業内容を大きく変更する企業に対する審査の厳格化や、投資家保護の観点から開示ルールの強化が進む可能性があります。
また、会計や税務の扱い(期末時価評価課税や減損処理など)によっては、企業の資金繰りやBTC追加購入の余力が左右される点も見逃せません。
価格変動(ボラティリティ)リスク
BTC価格が急落すると、企業価値が下がり、減損処理により純資産が減少することがあります。この場合、逆レバレッジが働き、株価が急落することもあるため注意が必要です。
JPX(日本取引所グループ)の規制強化に関する報道
報道では、上場後に事業内容を大幅に変更した企業や、本業の実態が希薄な企業への審査厳格化が示唆されています。トレジャリー企業は特に注目すべきポイントです。
企業会計・税務上の課題
日本では期末でBTC時価を評価して課税される制度があります。国際会計基準との差が大きいため、業績のブレが生じやすく、将来的な税制改正が望まれています。
まとめ|トレジャリー企業は「賢いビットコイン投資」の選択肢
仮想通貨トレジャリー企業への投資は、税制メリット、レバレッジ効果、保管不要、NISA対応といった、“現物ビットコインにはない恩恵”がそろった投資方法です。
ただし、以下の点には常に注意が必要です。
・mNAV(修正純資産倍率)
・規制リスク
・BTC急落リスク
・プレミアムの高さ
それでも、BTCを株式を通じて取り入れる選択肢として、ポートフォリオの一部に組み入れる価値は十分にあります。
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執筆者情報
金融ライター
2016年大手証券会社に入社、2018年に最大手オンライン証券会社に入社し、機関投資家部門(ホールセール)を立ち上げ、翌年2019年には同社シンガポール拠点設立。2022年より日系証券会社の運用部にてポートフォリオマネジャーの経験を得て以降、一貫して運用業務に従事。
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