【注目の米国大統領選挙】 経済と金融市場への影響は?
世界情勢 マーケットニュース 2024.11.06

2024年11月5日に実施される予定の米国大統領選挙は、米国の将来の経済影響を大きく左右する重要な選挙です。
民主党のカマラ・ハリス副大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領が主要候補となっていますが、米国経済の行方と情勢を見極める鍵となるのが、それぞれの候補者が掲げる政策です。
両候補の政策は、財政赤字や税制、貿易政策、エネルギー政策に大きく関わり、結果として2024年以降の米国経済にどのような影響を及ぼすのかが焦点となります。
目次
選挙候補者と主な政策
まず、両候補者の政策を大まかに確認しておきましょう。
ハリス候補は物価高対策と中間層支援を主な柱とした政策を打ち出しており、エネルギー政策や税制改革を通じて、持続可能な成長を目指す方針です。
トランプ候補は過去の政権時代に行った減税策を中心に再び経済成長を促進すると予測されています。特に、貿易政策では中国製品を含む輸入品に対して高い関税を課す方針を示し、国内産業の保護と雇用の創出を重視しています。
両者の勝負は接戦であり、いずれの候補が勝つことも想定して備えることが必要となります。
今回は、どちらが当選したときに、経済・金融市場にどのような影響が及ぼされるかを推察していきます。
トランプ候補が当選した場合
トランプ候補が掲げる財政政策には、減税政策の継続が含まれています。特に2017年に導入された個人所得減税の延長が予定されており、この措置だけで財政赤字が5.3兆ドル拡大すると見込まれています。財政赤字が大幅に増える一方で、経済成長を促す狙いがあるとされています。
ただし、米議会予算局(CBO)の予測では、2024年度の連邦財政赤字は1兆8,340億ドルに達し、前年度比で約13%の赤字幅の拡大が見込まれていることから、米国の財政赤字問題が深刻化する恐れもあります。
また、企業減税や補助金の再導入を示唆しているため、短期的には金融市場にプラスに働く可能性があります。しかしながら、長期的に見れば、財政赤字の拡大が米国の信用力に影響を及ぼしかねず、金利の上昇を招く可能性もあります。
さらに、関税政策は、国際貿易に大きな影響を与える可能性があります。トランプ候補はすべての輸入品に高関税を課す方針を表明しており、具体的には10%~20%の関税が想定されています。この政策により、特に中国からの輸入品への影響が大きくなると考えられ、トランプ候補が勝利すれば、貿易摩擦が再燃する可能性が高く、輸出に依存するセクターにとっては逆風となる見通しです。
過激な関税政策が実行された場合、輸入物価の上昇を通じて家計や企業の実質的な所得が押し下げられ、景気にはマイナスの影響が生じるリスクがあります。
かつて、トランプ候補が大統領となった際は、中国と激しい貿易摩擦が起こったこともあり、一時的に金融市場の不安定さが増幅される可能性も考えておくべきでしょう。
ハリス候補が当選した場合
ハリス候補が掲げる経済政策は、物価高対策と中間層支援を柱としていますが、これらの政策を実施するためには財政赤字の拡大が避けられないとされています。
米議会予算局の見通しによると、ハリス氏の政策実施により、2026年から2035年の10年間で約3.5兆ドル(510兆円)の財政赤字が増加すると予測されています。特に、社会保障やメディケアにおける歳出拡大や、国債利払い費の増加が大きな課題となります。
また、法人税の引き上げを計画しており、これが実現すれば企業収益が圧迫される可能性があります。具体的には、法人税率を21%から28%に引き上げる予定ですが、これが金融市場にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。
ハリス候補は、再生可能エネルギーの促進や中間層への支援を強調しており、これが特定の産業における投資機会を生む可能性があります。
なお、関税については現政権の政策が維持される見込みであり、トランプ候補と違い、貿易摩擦の激化は考えづらいと思われます。
まとめ
両候補が掲げる積極財政策が実現すれば景気には押し上げ効果があると考えられ、これは金融市場にポジティブであると考えられます。
ただし、いずれの政権が実現した場合でも、積極財政が景気過熱の原因になり得るほか、トランプ氏が当選した場合は、関税引き上げによる輸入コストの増加や移民抑制による人手不足が懸念されます。
足元では需給ギャップがプラス圏(供給不足)で推移しており、以前よりもインフレが起こりやすい環境となっているため、米国中央銀行が現在抑えているインフレへの懸念が再燃する可能性も考えておかなければなりません。
トランプ氏の前政権下では、大型減税策の実現を目指した政権序盤こそ株価の上昇が顕著だった一方、中国との対立が激化した2018年以降はその伸びが徐々に鈍化していきました。
今回、トランプ候補が再び大統領に就任し、保護主義を前面にした政策が展開される場合、株価の下押し要因になる可能性があるとみています。
反対に、ハリス候補が大統領に就任した場合、現政権の政策の多くが継続される見込みであることから、金融市場に与える影響はそこまで大きくないと考えられます。
世界情勢 マーケットニュース 2024.11.06

この記事を書いた人
日本投資機構株式会社 アナリスト日本投資機構株式会社 アナリスト
大学時代に投資家である祖母の影響で日本株のトレーディングを始める。大学時代、アベノミクスの恩恵も受けて、株式投資を投資金30万円で始め4年間で990万円まで資金を増やすことに成功する。卒業後、証券会社、投資顧問会社を経て2019年2月より日本投資機構株式会社の分析者に就任。モメンタム分析を最も得意としており、IPO(新規上場株)やセクター分析にも長けたアナリスト
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