成長株投資において「割安かどうか」を見極めるには、PER(株価収益率)だけでは不十分な場合があります。
そこで注目されるのが「PEGレシオ」です。
PEGレシオは、PERに利益成長率を加味したもので、企業の将来性を踏まえた適正な株価評価を可能にする指標です。
本記事では、PEGレシオの基本から具体的な活用法まで、初心者にもわかりやすく解説していきます。
PEGレシオは成長株の割安度を測る指標

PEGレシオは、PER(株価収益率)に成長率を加味した指標です。
PERとは現在の株価が、その企業の「1株あたりの利益」の何倍であるかを示す指標です。
将来の成長が期待される企業の株価を評価する際に使用されることが多いです。
PEGレシオの計算式と求め方
PEGレシオは、以下の計算式で求められます。
PEGレシオ = PER ÷ EPS( 1株当たり純利益)成長率 (%)
この計算式は、「PER」と「EPS成長率」という2つの重要な指標から成り立っています。
1株当たり純利益(EPS)とは、企業が儲けたお金から諸経費や税金などを引いた最終的な利益(純利益)を、株主が持っている株の数(発行済株式総数)で割ったものです。
同じPERの銘柄であれば、EPS成長率が高い銘柄の方がPEGレシオは低くなります。
EPS成長率は過去の実績や、アナリストの予想を使うことが一般的です。
具体例でわかるPEGレシオの計算
具体的に計算してみましょう。
となります。
PEGレシオ計算では20%は0.2ではなく、20で計算します。
間違いが無いようにご注意下さい。
PEGレシオの目安・適正水準|
では、PEGレシオを用いて投資判断を行う場合には、どの程度の水準を目安とすれば良いのでしょうか?
ここからはPEGレシオが何倍なら割安なのかを考えていきましょう。
PEGレシオ1以下は割安、2以上は割高と言われる理由
一般的にPEGレシオは1以下が割安、2以上なら割高と言われています。
しかし、なぜこの水準が基準とされるのか、明確な理由は不明です。
多くの投資家が1以下を割安と考えているから、買いが集まりやすくなるなどの理由も考えられます。そもそもPEGレシオが1というのは、何を示しているのかを考えてみましょう。
▼株価が変わらないと仮定して、PEGレシオが1の銘柄のPERが、一般的に適正とされる15倍まで下がるには、どれくらいの期間がかかるのかを調べてみました。

PER55倍(EPS成長率55%)前後では適正PERまでの収束するまでの期間はおおよそ3年となっています。
それ以上になると徐々に収束年数が減少していき、PER440倍を超えると2年を下回ってきます。
おおよその高PERの銘柄でも2~3年以内に適正水準まで成長する見通しであれば、十分に割安であると考えられているようです。
日本株の全体平均・セクター別の目安
楽天証券で各種テーマ関連銘柄のPEGレシオの平均値を調べてみました。このデータは楽天証券にPEGレシオのデータがない銘柄に加えて、マイナスの銘柄を省いています。
▼実際のデータを見てみると、IT・AI関連などの成長産業と金融・不動産など成熟産業のPEGレシオの中央値に大きな差は無いようです。

「不動産関連」「人工知能関連」の平均値が高いのは、データ数が少ないため、極端にPEGレシオが高い銘柄の影響を大きく受けている可能性が考えられます。
▼同じように各テーマのEPS成長率のデータをまとめてみると、「ITやAI」の成長率の平均・中央値の方が2倍近く大きいことがわかります。

「AIやIT」の方が成長率は高いのに、PEGレシオでは不動産関連と同程度になっているというわけです。
つまり、PEGレシオで見れば、ITやAI関連銘柄の株価水準に過熱感はないと判断できます。あくまで限られたデータ数のなかで出た結果という点には注意して、参考にしていただければと思います。
米国株の水準と具体例
米国市場を代表する時価総額の大きいハイテク企業群であるマグニフィセントセブンのPEGレシオも見てみましょう。
▼市場を代表する時価総額の大きいハイテク企業ですが、PEGレシオが2倍以下の銘柄が多数あります。

米国株式市場では、マグニフィセントセブンなどの大手ハイテク株への資金集中が度々指摘されますが、PEGレシオの観点ではまだ割高でないと判断される銘柄が多いのです。
PEGレシオを使った銘柄選び・スクリーニング例
それでは実際にPEGレシオをどのように使って銘柄を選ぶ方法をお伝えします。
スクリーニング方法を具体的に解説!
PEGレシオは、楽天証券の「スーパースクリーナー」やSBI証券の「国内株式 スーパースクリーニング」など、大手証券会社の提供するツールにも、スクリーニング項目として含まれています。
これらのツールを使用すれば、簡単に成長性を加味した上でも値ごろ感のある銘柄を探し出せるのです。
実際のスクリーニング結果を紹介
実際にPGEレシオを使ってスクリーニングを行う場合、どのような条件にすれば有望な銘柄を探し出せるでしょうか。たとえば、以下のようなスクリーニング条件が考えられます
・PEGレシオ 0~1
・PER 40~100
この条件でスクリーニングすることで、EPS成長率40%以上の銘柄をスクリーニングすることが可能です。
さらにPEGレシオが1以下であるため、成長性が高いにもかかわらず割安に放置されている銘柄の発掘をすることができます。
▼実際にスクリーニングをかけると、以下のような銘柄が出てきます。
成長性の高い銘柄を絞り込んだ後は、各企業の市場や財務状況、株価の推移などを確認して、さらに銘柄を絞り込んでいくと良いでしょう。
PEGレシオのメリットとデメリット|万能ではない理由

PEGレシオの最大のメリットは、将来の利益成長を考慮して株の割安度を評価できる点にあります。PERだけでは見落としがちな高成長企業も、PEGレシオを使うことで真の投資妙味を見つけやすくなります。
特に、成長企業に投資を考えている場合には有効な指標といえます。
ただし、PEGレシオの数値は予測される成長率が正確であることが前提で、万能ではありません。デメリットもきちんと理解した上で投資判断を行う必要があります。
予想EPS(1株あたり利益)の成長率頼みである点に注意
PEGレシオの値は、成長率にどの値を採用するかによって大きく変わります。また、成長率が伸び悩むと数字が悪化します。失敗を避けるためには、採用した成長率を維持できるのかを考えておく必要があります。
EPSの成長は売上によって伸びているものなのか?費用削減によるものなのか?市場に開拓余地は十分に残っているのか?既に飽和状態なのか?といった観点から、業績をチェックするのが良いでしょう。
また、業績の下方修正などによりEPSが減少すれば、PERと一緒に成長率も悪化し、一気にPEGレシオが上昇する点にも注意しましょう。
過度の楽観を生むリスクも!
過度に楽観的な予想成長率に基づいてPEGレシオを算出すると、リスクを見落とす可能性もあります。ITバブル期の1999~2000年頃、PEGレシオは「成長と価値を同時に測れる便利な指標」として一大ブームとなりました。
ワシントン・ポストでもその活用法が特集され、ツールまで登場しました。
しかし、過度な成長期待を正当化する道具として誤用されるケースも多く、実際にバブル崩壊後には「過信の代償」として機能しなくなる例も目立ちました。
PEGレシオを投資に活かす際のポイント

最後にPEGレシオを実際の投資での活用する際のポイントをいくつか紹介します。
成長率鈍化時の出口戦略を考えておこう
成長シナリオが崩れた場合の売却ラインは、必ず買い付ける前に決めておきましょう。
PEGレシオは成長性を加味した割安度を測れる有効な指標ですが、成長率が鈍化すれば割安に見えた株も一転して割高になる可能性があります。
特に急成長企業は成長鈍化のタイミングで株価が大きく下落することもあるため、事前に出口戦略を考えておきましょう。
決算や業績見通しの変化を常にチェックし、成長シナリオが崩れた場合に備えて売却ラインを決めておけば、損失を抑える判断につながります。
PER・PBR・ROEなど他指標と組み合わせるのが大事
PEGレシオだけで投資判断を行うと、企業の成長性以外の部分を無視することになってしまいます。
実際の売買では、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)などの指標と組み合わせて活用することが重要です。
複数の指標を併用することで、成長性だけでなく、収益力や財務状況なども踏まえた総合的な判断ができます。
まとめ|PEGレシオを理解して賢い成長株投資をしよう
本記事では、PERに企業の成長率を加味した「PEGレシオ」について、その基本から活用方法、注意点までを詳しく解説しました。
PEGレシオは、将来の成長が期待される企業の株価を評価するうえで有効な指標であり、PERだけでは見えにくい投資妙味を捉えることができます。
ただし、成長率の予測が前提となるため、過信は禁物です。銘柄選びの際は、PERといった伝統的な指標とあわせて活用し、総合的な判断を心がけましょう。
執筆者情報
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)/日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)
総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計学により銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活躍の場を拡げている。