ホンダ(7267)は、2026年3月期に上場後初の最終赤字を計上した。それでも株価は5月の安値から大きく戻り、7月30日には1,670円まで回復している。市場が見始めたのは、赤字の大きさよりも損失処理後の稼ぐ力だ。
本記事では、最大2兆5,000億円とされたEV関連損失の実態、2027年3月期の黒字回復計画、HEV・二輪・株主還元が株価に与える影響を最新決算に基づいて整理する。
※株価と投資指標は2026年7月30日終値時点。業績数値は、特記がない限りホンダの2026年3月期決算資料および2027年3月期会社計画に基づく。
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ホンダ株は初の赤字後も回復|最悪期通過を織り込む相場へ

ホンダ株は、EV戦略見直しを発表した2026年3月13日に前日比5.6%安の1,368円まで下落し、5月11日には年初来安値1,238円を付けた。ところが本決算後は流れが変わり、7月30日終値は1,670円。安値からの上昇率は約35%に達し、2月9日の年初来高値1,722円まで約3%に迫っている。
この値動きからは、「巨額損失の発生」から「損失を処理した後に、どれだけ利益を戻せるか」へ評価軸が移ったことが読み取れる。ただし、株価が戻っただけで四輪事業の再建が完了したわけではない。
3月の急落から5月安値を経て約35%上昇
3月12日の会社発表では、2026年3月期の最終損益予想を4,200億〜6,900億円の赤字へ修正した。翌日の株価は1,368円まで下落し、その後も売りが続いた。EV資産の減損だけでなく、四輪事業そのものの競争力低下まで意識されたためだ。
一方、5月14日に確定した最終赤字は4,239億円で、修正レンジの上限に近い着地だった。翌日以降に株価が切り返したのは、追加悪材料への警戒が残る中でも、少なくとも2026年3月期の損失額が確定した安心感が生まれたためと考えられる。
EV損失を除けば営業利益1兆円を維持
2026年3月期は営業損失4,143億円、最終損失4,239億円だった。表面上は厳しい決算だが、営業段階で計上したEV関連損失1兆4,536億円を除く調整後営業利益は1兆393億円、利益率は4.8%となる。
つまり、本業が全面的に赤字化したのではなく、過去のEV投資を大きく整理した結果として連結赤字になった。もちろん調整後利益だけを見て安心はできないが、損失処理後も1兆円規模の利益を生む事業基盤が残った点は、株価回復の土台になっている。
年間70円配当と3年間8,000億円以上の還元
ホンダは赤字決算でも2026年3月期の年間配当を70円で維持し、2027年3月期も同額を予想する。7月30日終値で計算した配当利回りは約4.19%。DOE3%を目安とする方針により、単年度利益の振れをそのまま配当に反映しない設計だ。
さらに2027年3月期から3年間で7兆円超のキャッシュを創出し、株主還元へ8,000億円以上を配分する計画を示した。利益回復を待つ間も還元を続ける姿勢が、赤字発表後の株価を下支えしている。
最大2兆5,000億円は確定損失ではない|26年3月期の実計上は1兆5,778億円

「最大2兆5,000億円の損失」という数字は、2026年3月期に全額を計上した確定値ではない。3月12日時点でホンダが示したのは、同年度の損失と2027年3月期以降に発生し得る追加費用を合算した概算上限だった。実際に2026年3月期へ計上したEV関連損失は、営業段階の1兆4,536億円と持分法投資損失1,241億円を合わせた1兆5,778億円である。
2兆5,000億円と1兆5,778億円を同じ「確定損失」として扱わないことが、現在の業績を読む第一歩になる。

2兆5,000億円は複数年度を含む概算上限
3月時点の2兆5,000億円には、北米EVモデルの開発中止に伴う資産除却・減損、追加支出、中国の持分法投資の減損などが含まれていた。しかも、入手可能な情報と一定の仮定に基づく概算であり、実際の計上額と異なる可能性があると明記されている。
この上限額をそのまま将来の現金流出とみなすのも適切ではない。減損には帳簿上の価値を引き下げる会計処理も含まれるからだ。投資家が見るべきなのは、残る追加損失と今後のキャッシュ支出を分けて確認することである。
27年3月期にもEV関連損失5,000億円を見込む
損失処理は2026年3月期で終わらない。ホンダは2027年3月期にもEV関連損失5,000億円を織り込み、営業利益を5,000億円と見込む。前年度分と単純合算するとEV関連損失は約2兆円となり、最大2兆5,000億円の範囲内にある。
今後、見積もりが減れば利益の上振れ要因になるが、追加減損が増えれば再び株価の重しになる。したがって「巨額損失は出し切った」と断定する段階ではなく、四半期ごとのEV関連損失の進み方を追う必要がある。
EV完全撤退ではなく地域別に投資を絞る
ホンダは北米で一部EVモデルの上市・開発を中止し、カナダのEV・電池投資も停止した。ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA 1」と第2弾モデルも開発・発売中止となり、従来のEV販売目標は撤回している。
ただし、EVそのものを捨てたわけではない。日本では軽自動車を起点にEVを拡充し、北米では市場環境を見ながら将来の商品投入に備える。戦略の本質は、EV一辺倒から、地域需要に応じてHEVとEVへ資源を振り分ける転換にある。
四輪の巨額赤字を二輪・金融が支えた|再建期間を稼げる事業構造

2026年3月期のホンダは、四輪事業がEV関連損失を抱える一方、二輪事業が過去最高の販売台数と営業利益を記録した。金融サービス事業も黒字を確保し、事業会社ベースのフリーキャッシュ・フローは1兆580億円、ネットキャッシュは3兆3,245億円となった。
この厚みがあるため、ホンダは四輪の再建費用を負担しながら配当と次世代投資を継続できる。ホンダ株を自動車販売台数だけで評価すると、損益と財務の実態を見誤りやすい。
| 2026年3月期 | 売上収益 | 営業利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 二輪事業 | 4兆188億円 | 7,319億円 | 18.2% |
| 四輪事業 | 14兆1,669億円 | ▲1兆4,111億円 | ▲10.0% |
| 金融サービス事業 | 3兆5,327億円 | 2,755億円 | 7.8% |
四輪事業は営業赤字1兆4,111億円
四輪事業は売上収益14兆1,669億円に対し、営業損失1兆4,111億円だった。前年の2,438億円の黒字から急落した主因は1兆4,536億円のEV関連損失だが、それを除いた調整後営業利益も425億円、利益率0.3%にとどまる。
つまり、EV減損だけを戻せば四輪が高収益事業になるわけではない。関税負担、販売台数減、販売奨励金、商品競争力の弱さが残っている。株価の持続的な上昇には、四輪の調整後利益率改善が欠かせない。
二輪は2,210万台・営業利益7,319億円で過去最高
二輪事業のグループ販売台数は2,210万台と前期比7.4%増え、営業利益は7,319億円、利益率は18.2%だった。インドやブラジルを中心に台数が伸び、売価改善と原価低減も利益を押し上げている。
2027年3月期はさらに2,280万台を計画する。四輪より小さい売上規模でありながら、現在のホンダで最も大きな営業利益を稼ぐ。まさに収益の柱だ。二輪の成長が続く限り、四輪再建を急いで資金不足に陥る可能性は抑えられる。
金融利益2,755億円と3.3兆円のネットキャッシュ
金融サービス事業の営業利益は2,755億円で、四輪販売に伴うローンやリースから安定収益を得た。事業会社の現金及び現金同等物は4兆5,634億円、ネットキャッシュは3兆3,245億円を確保している。
EV減損で自己資本は減ったものの、R&D調整後営業キャッシュ・フローは2兆6,579億円だった。財務余力はなお厚い。損失処理に耐えられる現金創出力が確認できたことは、配当維持やHEVへの再投資を現実的にしている。
27年3月期は黒字回復計画|HEV強化で営業利益5,000億円へ

ホンダは2027年3月期に売上収益23兆1,500億円、営業利益5,000億円、最終利益2,600億円を見込む。EV関連損失5,000億円を除く調整後営業利益は1兆円で、前年度とほぼ同水準だ。つまり黒字回復の中心は、EV損失の縮小であり、本業利益の急成長ではない。
次の焦点は、HEVへ振り向けた開発・生産資源が四輪の収益性をどこまで改善するかに移る。会社計画の5,000億円を達成しても再建は途中であり、2029年3月期までの3年間で成果を問われる。

| 連結業績 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期会社計画 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 21兆7,966億円 | 23兆1,500億円 |
| 営業利益 | ▲4,143億円 | 5,000億円 |
| EV損失除く調整後営業利益 | 1兆393億円 | 1兆円 |
| 親会社帰属利益 | ▲4,239億円 | 2,600億円 |
| 1株利益 | ▲106.06円 | 66.79円 |
営業利益5,000億円でも本業利益は横ばい計画
営業利益は前年度から9,143億円改善する計画だが、EV関連損失を除く調整後営業利益は1兆393億円から1兆円へ微減する。黒字転換の見栄えほど、本業が改善する前提にはなっていない。
会社は販売増で2,667億円、関税影響の改善で1,470億円の押し上げを見込む一方、売価・コストで3,130億円、為替で1,420億円の悪化を想定する。計画の質を見たい。回復計画には値下げ圧力と円高への警戒が織り込まれている。
北米中心に2029年度までにHEV15車種を投入
ホンダは開発・生産資源をHEVへ再配分し、北米を中心に2029年度までにグローバル15車種を投入する。2027年以降の次世代HEVでは、燃費性能を10%以上高め、ハイブリッド化コストを30%以上下げる目標だ。
米国ではEV用バッテリーラインのHEV転用や部品の現地調達拡大も進める。成果はこれからだ。単なる車種追加ではなく、1台当たりコストと関税負担を同時に下げられるかが、四輪利益率を押し上げる決定打になる。
北米10万台増に対し中国は10.8万台減
2027年3月期の四輪グループ販売は339万台と、前年度から3,000台増にとどまる。北米は170万5,000台へ10万台増やす一方、アジアは11万4,000台減、そのうち中国だけで10万8,000台減る計画だ。
北米HEVの販売増が会社計画を支える反面、中国・アジアの競争力低下は続く。米国の販売奨励金や関税が想定以上に膨らめば、北米の台数増が利益増につながらない恐れもある。台数より地域別の採算を確認したい。
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株価1,670円は回復を先回り|低PBRだけで割安とは言えない

2026年7月30日終値1,670円で計算すると、会社予想1株利益66.79円に対するPERは25.0倍、実績BPS3,036円に対するPBRは0.55倍、予想配当利回りは4.19%となる。PBRだけなら解散価値を大きく下回るが、PERは自動車株として軽い水準ではない。

これは指標が矛盾しているのではなく、EV損失後も厚い自己資本が残る一方、2027年3月期の利益回復がまだ弱いことを示す。株価は資産価値よりも、低下した収益力の回復を先回りしていると見るべきだ。
| 2026年7月30日時点 | 数値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 株価 | 1,670円 | 年初来高値まで約3% |
| 時価総額 | 約7.57兆円 | EV損失上限の約3倍 |
| 予想PER | 25.0倍 | 会社予想EPS66.79円で計算 |
| PBR | 0.55倍 | 実績BPS3,036円で計算 |
| 予想配当利回り | 4.19% | 年間配当70円 |
| 会社予想配当性向 | 104.8% | 利益を上回る配当水準 |
年初来安値から回復し高値まで約3%
株価は5月11日の1,238円から7月30日の1,670円まで約35%上昇した。3月13日の急落時終値1,368円と比べても約22%高い。悪材料を消化しただけでなく、黒字回復と株主還元を前倒しで織り込む動きだ。
一方、年初来高値1,722円までの距離は約3%しかない。期待はすでに先行している。次の上昇には、5月時点の会社計画を確認するだけでは足りない。四輪の調整後利益やHEV販売が計画を上回る証拠が必要になっている。
PBR0.55倍は資産面の安さ、PER25倍は利益面の重さ
PBR0.55倍は、株価が1株純資産の55%にとどまることを示す。EV減損後でもBPSは3,036円あり、財務面には余裕がある。ただし、低PBRは四輪事業の低収益や資本効率の弱さに対する割引でもある。
会社予想EPS66.79円で計算したPERは25倍。EV損失を除いた利益を使えば見え方は変わるが、会計上の利益が戻らなければ評価は続かない。PBRだけで「割安」と結論づけず、利益率とROICの改善をセットで見る必要がある。
4%配当は魅力だが配当性向104.8%を伴う
年間70円配当は株価の下支え材料だが、2027年3月期の会社予想配当性向は104.8%となる。予想利益だけでは配当を賄い切れず、DOEと強い財務基盤を使って安定配当を続ける形だ。
直ちに減配リスクが高いという意味ではないものの、長期的には利益回復が必要になる。配当の持続性は四輪再建の進展次第だ。3年間8,000億円以上の還元計画も同じで、還元策だけで買うより、配当を稼ぐ本業利益が戻るかを確認したい。
8月5日の1Q決算が次の分岐点|確認すべき4項目

ホンダは2026年8月5日15時30分に2027年3月期第1四半期の決算資料を公表する予定だ。株価が年初来高値に接近した現在、単に「黒字だったか」を見るだけでは足りない。確認したいのは、EV損失を除く調整後営業利益、四輪の地域別採算、二輪の成長、株主還元を支えるキャッシュの4項目である。
会社計画の進捗が見えれば株価は回復を続けやすいが、四輪の採算悪化や追加損失が出れば、先回りした分の反落も起こり得る。
| 確認項目 | 見る数字・内容 |
|---|---|
| EV損失 | 年間5,000億円計画に対する計上ペースと追加損失の有無 |
| 四輪の採算 | 北米HEVの台数、販売奨励金、四輪の調整後営業利益率 |
| 二輪の成長 | インド・ブラジルの台数と18%前後の利益率維持 |
| 還元余力 | 事業会社の営業キャッシュ・フローと年間70円配当の維持 |
EV損失5,000億円と調整後利益1兆円の進捗
最初に見るのは、2027年3月期へ織り込んだEV関連損失5,000億円の進捗だ。第1四半期の計上額が会社想定を超える場合、通期営業利益5,000億円の達成確度は下がる。
同時に、EV損失を除く調整後営業利益が年間1兆円のペースに乗っているかを確認する。追加損失の説明が曖昧なら、上限額への不安が再燃する。要注意だ。一時損失の縮小だけでなく、本業利益が崩れていないことが、現在の株価を支える最低条件になる。
北米HEVの台数より四輪利益率を優先
北米は通期で10万台の増販を見込むため、第1四半期の販売台数は注目されやすい。ただし、販売奨励金を増やして台数を作れば利益は残らない。HEV比率、価格改定、関税吸収策を合わせて確認したい。
判断の中心は、EV損失を除いた四輪営業利益率が前期の0.3%から改善したかどうかだ。販売奨励金が増えていないかも合わせて見る。ここが焦点だ。台数増と採算改善が両立して初めて、HEVへの資源シフトが成功したと言える。
二輪の利益率と配当を支えるキャッシュを確認
二輪は通期2,280万台を計画しており、インドとブラジルの販売が成長をけん引する。台数だけでなく、前期18.2%だった営業利益率を保てるかが重要だ。原材料高や為替で利益率が下がれば、四輪を支える余力も細る。
加えて、事業会社の営業キャッシュ・フローと年間70円配当の維持を確認する。還元余力の低下は株価へ直結する。要注目だ。二輪の高収益と現金創出が続けば、再建投資と株主還元を同時に進める計画の信頼度が上がる。
まとめ|ホンダ株はEV損失額より本業回復の速度を見極める局面

ホンダの2026年3月期は、EV関連損失1兆5,778億円により上場後初の最終赤字となった。ただし「最大2兆5,000億円」は複数年度を含む概算上限であり、同年度の確定損失と同じではない。
株価が5月安値から約35%戻した背景には、損失額の確定、2027年3月期の黒字回復計画、二輪・金融の収益力、年間70円配当と3年間8,000億円以上の還元がある。一方、四輪の調整後営業利益率は0.3%にすぎず、再建は始まったばかりだ。
次の判断材料は8月5日の第1四半期決算である。EV損失の進捗、北米HEVの採算、二輪の利益率、キャッシュ創出が会社計画に沿えば、株価は初の赤字より回復速度を評価する段階へ進む。逆に四輪の採算が改善しなければ、低PBRと高配当だけでは上値を正当化しにくい。

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執筆者情報
日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)
総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計学により銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活躍の場を拡げている。

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