2025年9月の米自動車部品大手ファーストブランズ(First Brands)、自動車販売大手トリコロール(Tricolor)の破綻から半年余り。
米国プライベートクレジット市場は、私の見立てを上回るスピードで悪化しています。
2026年Q1、その現状が徐々に明らかになってきました。
米国の調査機関の集計では、Q1に非上場BDC(Business Development Company:事業開発会社、中小・非上場企業への融資や投資を行うファンドの一種)全体で139億ドルの解約要求が入りました。
しかし、履行できたのは74億ドルにとどまり、46億ドル超が「ゲート条項」によって希望通りに解約できませんでした。
ゲート条項とは、1四半期に解約できる金額をファンド残高の5%までに制限するルールです。
非上場BDCにおいて、複数の大手ファンドが同じ四半期にゲート条項の上限に達するのは今回が初めてです。
そこで、いったい何が起きているのか、今回はこの米国プライベートクレジット問題について書こうと思います。
そもそもプライベートクレジットとは?

2008年以降、バーゼル規制(銀行に一定以上の自己資本を求める国際ルール)が強化され、銀行が中堅企業向け融資から撤退。
その穴を、ファンドが投資家資金を直接貸し付ける形で埋めたのが「プライベートクレジット」です。
解約が相次いでいるのはBDC(Business Development Company)
プライベートクレジット投資にはいくつかのタイプがあります。
中でも今回の主役がBDC。
1980年に米国議会が中小企業への資本供給を促す目的で作った仕組みで、REITに似た構造です。
BDCは、銀行から融資を受けにくいスタートアップや中小企業に対して、融資や出資を行う会社です。
通常企業は利益が出ると法人税を払う必要がありますが、BDCは課税所得の90%以上を投資家に分配すれば法人税が免除されます。
その分を投資家に分配できるため、配当利回りが高くなります。
上場BDCなら株と同じように売買できますが、非上場(ノントレーデッド)BDCは四半期ごとの解約しかできず、しかも通常5%の上限(ゲート)があります。
この上限を超えた解約要求は按分(プロラタ)され、残りは次の四半期以降に繰り越されます。
非上場・非流動性が問題に
BDCの他にも、四半期ごとに5〜7%の解約を受け付けるインターバルファンドや、無期限で運用しつつ投資家の出入りに柔軟性を持たせたエバーグリーン(永続型)ファンドがあります。
いずれにも共通するのは、資産は長期で非流動的なのに、投資家には限定的な流動性を約束しているという構造的な矛盾です。
日々の市場価格がつかず、流通市場も未成熟。今回の問題を理解するうえでこの「非流動性」がポイントです。
BDCの10%超の利回りはなぜ実現できていたのか?

BDCは、2022〜2025年に10〜12%の利回りを叩き出していました。この理由は4つあります。
1つ目は、非流動性プレミアム。
簡単に売れない資産に投資する対価として、公開社債より2〜4%高い利回りを上乗せしていました。
2つ目は、変動金利です。
BDCの融資の多くが、米国の短期金利指標「SOFR(担保付翌日物調達金利)」に連動しています。
そのため、FRBが金利を上げると、BDCが受け取る利息収入も自動的に増えました。
3つ目は、借りたお金で投資を加速させるレバレッジの活用です。
BDCは自己資本の2倍まで借入が認められています。
さらにファンドが銀行から柔軟に資金を借入れて投資規模を膨らませられる「バックレバレッジ」という仕組みも使われています。
4つ目として、大手企業に比べて倒産リスクが高い中堅企業に投資をする分、リスクプレミアムが上乗せられていることが挙げられます。
これらは全て、「金利高止まり」と「借り手の健全性」という2つの前提で運用されていました。
プライベートクレジットへのリテール流入という伏線
この市場を支配するのはアポロ、ブラックストーン、アレス(Ares)、ブルーオウル、KKR。
運用会社は過去5年、機関投資家向けだったこの商品を個人富裕層に開放し、BDCの運用資産は急拡大しました。
ここで構造的な矛盾が発生したのです。
機関投資家は7〜10年のロックアップ(資金引き出し制限期間)に慣れていますが、リテール(個人)は違う。
不安を感じれば即解約しようとします。資産は非流動的なまま、投資家の行動パターンだけが短期化した、これがQ1の解約殺到の理由です。
「Bad PIK」の急増も問題に

2025年9月、自動車部品のファーストブランズ(負債116億ドル)とサブプライム自動車ローンのトリコロール(貸し手の融資残高9億ドル)が相次いで破綻。
両社とも不正(同じ資産を複数の貸し手に担保として差し入れる「二重質権設定」など)が絡む個別事案との見方もあります。ただ、メディアの論調は一変しました。
その後、格付け機関フィッチ・レーティングスが集計したPCDR(プライベートクレジット・デフォルト率)は、2026年1月時点でTTM(Trailing Twelve Months:直近12ヶ月累計)5.8%と、2024年8月の集計開始以降の最高値に。
特に格付監視(PMR)部分は9.4%に達しています。
さらに深刻なのが「Bad PIK」(悪い現物払い)と呼ばれる現金で利払いせず元本に積み増す措置の急増。
KBRAとフィッチによれば、Q1 2026でプライベートデット全体の6.4%に達しています。
利払い分を元本に積み増すことで、表面的なデフォルト率を低く見せているだけ、というのが実態です。
2026Q1に実際に起きたこと
2026Q1に実際に何が起きたのかを改めて振り返っておきましょう。
以下は各BDCで起きたことです。
- ブルーオウル OTIC(Blue Owl Technology Income Corp.)
テック特化、62億ドルのBDC。
解約要求40.7%。25億ドル要求のうち1.79億ドルしか履行されず、1ドルあたり14セント。
2025年11月には上場BDCとの合併で投資家に即座に20%の損失を押し付ける計画が反発で撤回、2026年1月に訴訟も提起されています。 - アポロ ADS(Apollo Debt Solutions BDC)
250億ドル規模。2026年3月23日、解約11.2%に対し5%ゲート発動。投資家は45セントオンザドル。 - ブラックストーン BCRED(Blackstone Private Credit Fund)
解約上限を5%→7.9%へ臨時引き上げ、自社バランスシートから4億ドル注入。
株価は一時2年ぶり安値。 - ゴールドマンサックス 非上場BDC
4.999%でぎりぎり回避。機関投資家比率80%以上という投資家構成で助かった。
そしてJPモルガンが2026年3月、ソフトウェア関連ローンの担保評価を引き下げ、プライベートクレジットファンドへのバックレバレッジ(ファンドが銀行から借りて投資規模を膨らませる融資)を絞り始めました。
他の銀行が追随すれば、ファンドは追加担保を求められ強制売却を迫られるという危機的段階に片足を突っ込んでいます。
2008年と同じような崩壊につながるのか

投資家として気になるのは、プライベートクレジットの危機が、今後どこまで広がるかだと思います。
これについて結論から言うと、一夜で金融システムが崩壊するような2008年型にはならない可能性が高いとみています。
根拠は3つあります。
1つ目は、銀行の資本が当時よりも厚いからです。
リーマン・ショック後の規制強化により、銀行は損失を吸収できる体力を大幅に高めています。
2つ目の根拠としては、プライベートクレジットが基本的にエクイティに裏付けられていることが挙げられます。
借り手(融資を受ける企業)側がエクイティ(株主が出した資金・自己資本)を積んでいるため、仮に融資が焦げ付いても、まずそのエクイティで損失が吸収されます。
クレジット投資家への影響は、その後に来ます。
3つ目は、FAS 157(保有資産を時価で評価し直すことを強制するルール)が当時ほど機械的に働かないからです。
2008年当時には、FAS157の存在が、「評価損→自己資本毀損→さらなる売り」という連鎖を加速させました。
現在のプライベートクレジットは市場で日々取引される資産ではないため、この強制評価が機械的に発動しにくい構造です。
つまり問題が起きた時即時下方スパイラルが発生するメカニズムがないのです。
ゆっくりとした信用収縮が進行中
ただし、ゆっくりとした信用収縮は、すでに進行中だと考えるのが妥当です。
JPモルガンCEOのジェームズ・ダイモンは2026年4月の株主年次レターで「クレジットサイクルが来れば、レバレッジドレンディング全体の損失は環境対比で予想を上回る」と明言。
ファーストブランズ破綻時の「ゴキブリを1匹見たら、他にもいる」発言が、今や現実味を帯びてきています。
解約は四半期ごとの解約ウインドウを刻みながら、次の解約の波がやってくる。
これが2〜3年続けば、中堅企業の資金調達は収縮し、雇用と設備投資に確実に波及します。
個人投資家が知っておくべきこと

今回の問題で「セミリクイド(半流動的)」とマーケティングされた商品が、実は「条件付きリクイド」だったことが明らかになりました。
「出したい時に出せる」と「出せる可能性がある」は全く違います。
注目すべきは、ボアズ・ワインスタイン率いるサバ・キャピタルのようなアクティビスト・ヘッジファンドが、ブルーオウル OBDC IIなどに対してNAV(純資産価値)対比33%のディスカウントで公開買付を仕掛けている点です。
出口を求める投資家に流動性を提供しつつ、プロが見る「本当の値段」を市場に示している。
セカンダリー市場の未成熟さが一気に「発見」されるプロセスです。
金利低下局面に入っても、過去の10%台利回りはもう戻ってこないと見るのが合理的。
高金利が支えていた構造だからこそ、その終焉とともに利回りの源泉を構造的に問い直す局面に入っているのではないでしょうか?

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執筆者情報
元外資系証券株式本部長マネジングディレクター
日系証券個人営業から証券人生をスタート。その後ロンドンと東京を拠点に20年以上に渡って外資系証券会社の主にトレーディングデスク及び各マネジメント職を歴任。2019年退職。得意分野はフローの裏側分析及び市場構造分析。現在はXやnoteなどで個人投資家向け株式投資の知識提供中心に悠々自適生活を送る。趣味は食とクルマ。

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