株式投資の注文方法には、「指値(さしね)注文」と「成行(なりゆき)注文」の2種類があります。
本記事では、この2つの注文方法の仕組み、メリット・デメリットを徹底解説。
注文方法を賢く使い分けて、意図しない高値づかみを避けるためのポイントを分かりやすく整理します。
指値注文と|価格を指定するコントロール型の注文方法

指値注文の仕組み
指値注文とは、自分が売買したい具体的な価格を指定して行う注文方法です。
例えば「買い指値」の場合、「株価が1,000円になったら買いたい」と指定します。
この時、株価が1,000円以下に下がるまで注文は成立しません。
逆に「売り指値」の場合は、「1,500円になったら売りたい」などと指定し、その価格まで株価が上昇するのを待ちます。
市場で注文が出ている指値の価格や数量は「板」と呼ばれるものに一覧で表示されます。
▼以下は、板情報の一例です。

価格の横に書いてある数字が、それぞれの価格に入っている指値注文の株数を示しています。
計画的に売買を行いたい場合に適した注文方法です。
指値注文のメリット
指値注文の最大のメリットは、想定外の価格での約定を防げる点にあります。
価格を指定しているため、相場の急変によって思わぬ高値で買ってしまうリスクがありません。
自分が納得した価格、あるいはそれよりも有利な価格でしか取引が成立しないため、資金管理がしやすくなります。
また、日中は仕事で相場を見られない人でも、「ここまで下がったら買う」と朝に注文を入れておけば、チャンスを逃さずに希望価格でトレードできます。
指値注文のデメリット
指値注文のデメリットは、売買が成立(約定)しない可能性があることです。
例えば「1,000円で買いたい」と指値を入れても、株価が1,001円までしか下がらずに反発してしまえば、その注文は約定しません。
結果として、買えていれば利益が出ていたのにといった機会損失につながってしまいます。
多少高くてもいいから今すぐ買いたいといった場面には不向きな注文方法です。
成行注文とは「約定を最優先する注文方法」

成行注文の仕組み|成行は危険と言われる理由
成行注文とは、価格を指定しない注文方法です。
市場に出ている注文の中で、最も有利な相手方の注文と即座にマッチングされます。
例えば「買い成行」を出した場合、その時点で売りに出されている最も安い価格の売り注文と即座に売買が成立します。
すぐに注文が成立する半面、相場が急変したり、売り注文が極端に少なかったりする場合、自分が想定していた価格よりも大幅に高い値段で買ってしまうリスクがある点に注意が必要です。
成行注文のメリット
売買の成立しやすさと約定までの速さが、成行注文のメリットです。
価格を指定しないため、ストップ高やストップ安になるような極端な注文の偏りが無い限りは、即座に取引が成立します。
「好決算が出て株価が急上昇しているから、すぐに飛び乗りたい」場面や、「悪材料が出たので、いくらでもいいからすぐに売りたい」緊急時には非常に有効です。
成行注文のデメリット
成行注文のデメリットは、いくらで約定するか分からない価格変動リスクです。
特に板が薄い、つまり取引参加者が少ない銘柄で成行注文を出すと危険です。
例えば、現在値が1,000円でも、1,000円~1,050円の間に売り注文が全くない状態で成行買いを入れると、次の売り注文がある1,051円で約定してしまいます。
この場合、直前の価格よりも5%以上も高い価格で約定してしまい、買った瞬間から含み損を抱える可能性があります。
逆指値は「〇〇円以上で買い、〇〇円以下で売り」という注文

逆指値注文の仕組み買い逆指値・売り逆指値の具体例
逆指値注文は、通常の指値とは逆の条件で作動する、トリガー付きの注文です。
具体的には「株価が指定した価格まで『上がったら』買う」「指定した価格まで『下がったら』売る」といった条件です。
例えば「買い逆指値」は、「現在の株価は1,000円だが、1,050円の抵抗線を突破したら上昇トレンドに入るため、1,050円以上になったら買う」というような場合に使います。
逆に「売り逆指値」は、「現在の株価は1,000円だが、950円を割ったら暴落する危険があるため、950円以下になったら売る」といった場面で使われます。
逆指値注文が有効な場面
逆指値注文が威力を発揮するのは損切りと順張り投資の2つの場面です。
特に重要なのが損切りです。
仕事中など相場を見られない時でも、「もし〇〇円まで下がったら自動的に売って損失を限定する」と逆指値注文をしておけば、大暴落に巻き込まれても傷を浅く済ませられます。
また、株価が重要なラインを上抜けた瞬間に飛び乗るブレイクアウト手法など、相場の勢いに乗った順張り投資を行う際にも有効です。
[関連]【高値更新銘柄は危ないの?】テクニカルアナリストがまじめに解説!
逆指値注文を損切で使う場合の設定例
逆指値注文を損切で使う場合の具体的な注文方法を解説します。
ある株を1,000円で購入し、「損失はマイナス50円程度に抑えたい」と考えたとします。
この場合、「株価が950円以下になったら、成行で売る」逆指値注文をセットします。
ここでのポイントは、株価が950円以下になった後の売り注文の方法を指値ではなく成行にすることです。
「950円以下になったら950円で指値売り」としてしまうと、株価が急落して一気に940円になってしまった場合に注文が約定せず、売れ残ったまま損失が拡大する恐れがあるからです。
この方法では、最終的に成行で売るため、950円未満で注文が成立する可能性もあります。
しかし、損切りの目的は有利な価格での売却ではなく、確実な売却ですので、逆指値条件成立後は成行注文とするのが望ましいでしょう。
指値と成行の違いを比較

ここまでの指値注文と成行注文の違いを、表にして整理すると以下のようになります。
| 比較項目 | 指値(さしね)注文 | 成行(なりゆき)注文 |
| 価格指定 | あり(希望の売買価格を指定) | なし(市場の最良価格で即時約定) |
| 約定価格 | 指定した価格、またはそれよりも有利な価格 | 約定時の市場価格(事前に不明) |
| 優先順位 | 成行注文より後回しになりやすい | 指値注文より優先される傾向 |
| 確実性 | 希望価格に到達しないと約定しない | ほぼ確実に約定する(売買が成立する) |
| リスク | 約定しない場合の機会損失リスク | 想定外の価格で約定する価格変動リスク |
| 使い道 | 計画的な売買、押し目狙い、利益確定 | 緊急時の売買、損切り、スピード重視の取引 |
じっくり安く買いたいなら指値、スピード勝負なら成行、と使い分けるのが基本です。
板情報の見方|指値と成行を賢く使うための基礎

指値と成行を上手に使い分けるためには、注文を出したい銘柄の板情報の確認が不可欠です。
板情報についても、基礎を確認しておきましょう。
板が厚い/薄いとは
より有利な注文方法を考えるにあたっては、その銘柄の板が厚いか薄いかの把握が必要です。
「板が厚い」とは、各価格帯に大量の注文が入っている状態を指します。
大企業の株などでよく見られ、成行注文を出しても価格が大きく変動しにくいため、比較的安心して取引できます。
一方、「板が薄い」とは、注文数がスカスカの状態です。
少し大きな成行注文が入るだけで株価が数十円、数百円と乱高下します。
板が薄い銘柄で不用意に成行注文を出すと、想定外の価格で約定する事故が起きやすいため、注意が必要です。
成行注文、指値注文の約定のされ方
板に表示されている成行注文、指値注文がどう処理されるのかも理解しておきましょう。
成行の買い注文を出すと、板に出ている最も安い売り指値の注文から順に食っていく形で約定します。
指値の買い注文を出すと、即座には約定せず、板の買い欄に自分の注文が並び、誰かが売ってくれるのを待つことになります。
つまり、成行注文は板にある指値注文を取りに行く能動的な注文であり、指値注文は板に並んで誰かが取りに来るのを待つ受動的な注文です。
この関係性を理解すると、板の動きから需給の強さを読み取れるようになります。
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初心者向けの指値注文と成行注文の使い分け方

改めて、どういった時にどの注文方法を使うべきかを整理しておきます。
初心者の方はこれをまず覚えて、実践してみてください。
基本は指値注文、例外的に成行を使う考え方
初心者の方には、原則として指値注文をおすすめします。
理由はシンプルで、自分が許容できる価格以外では約定しないためです。
すぐに株を買おうと思っている場合でも、板に表示されている売り指値の注文状況を確認しながら、約定しそうな価格で指値注文を出すのが良いでしょう。
勢いのある銘柄は成行注文や高い価格での指値注文
とはいえ、好材料が出て一気に株価が上がりそうな時や、上昇トレンドが明確で高値を更新している時は、指値注文が通らずに、株価が上がってしまう場合もあります。
こうした勢いに乗る場面では成行注文や、あえて現在の株価より高い価格での指値注文が有効です。
特に板が薄い銘柄の場合は、成行注文だと価格を吊り上げてしまう恐れがあるため、許容できる範囲内で現在価格より高い価格での指値注文を出すのが良いでしょう。
利益確定の売り注文は基本的に指値を使う
利益確定の売りは、基本的に指値注文を使います。
「1,200円まで上がったら利益確定」とあらかじめ目標値を決めて注文を出しておき、相場の変動を待ちます。
一方で、何か悪いニュースが出て株価が急落している時は、悠長に指値を置いていては売り損ねて株価が下がってしまうリスクがあります。
株価が下がるスピードが速い時には、迷わず成行注文を選択しましょう。
少しでも高く売りたいと欲を出して指値を調整している間に、株価が大きく下落するケースは珍しくありません。
損切り・ロスカットにおける使い分け
損切りに関しては、成行注文が強く推奨されます。
なぜなら、損切りの最優先事項は有利な価格での売却ではなく、確実なポジション解消だからです。
数円、数十円の差を惜しんで大怪我をしないよう、損切りは市場価格で即座に逃げる成行が鉄則です。
執行条件と有効期限|本日中、寄付、引けなどのルール

注文を出す際には、価格だけでなく「いつまで有効か(有効期限)」や「いつ執行するか(執行条件)」も設定できます。
有効期限は通常「本日中」ですが、「今週中」や日付指定で長く待つことも可能です。
また、執行条件には、朝一番の売買のみに参加する「寄付」、その日の最後の売買のみに参加する「引け」、注文が即座に全額約定しなければ取り消す「不成」などがあります。
よくある失敗例|やってはいけない指値・成行の使い方

初心者によくある失敗例から、注意すべき場面を把握しておきましょう。
成行で買ってしまい、想定外の高値で約定
現在の株価と板に出ている売り注文の最安値に乖離があったり、自分が注文ボタンを押す直前に大きな注文が入ったりした場合、現在の株価よりも高値で注文が約定してしまいます。
こうした失敗を避けるためにも、板情報を確認し、特別な理由がなければ成行ではなく指値で注文を出しましょう。
指値が遠すぎて約定せず、上昇に置いていかれる
一方で、あまりに低い位置に指値を置いてしまうと、約定しない可能性が高まります。
例えば、強い上昇トレンドにある銘柄で、現在1,000円なのに「900円で指値」をしていても、そこまで下がらずにどんどんと上がってしまう可能性が高いです。
強い相場では、現在値に近い価格や、場合によっては少し高めの価格で妥協してエントリーする柔軟性も必要です。
損切りを指値で行い、刺さらず損失拡大
損切り注文を指値で出していたが、一向に注文が通らずに、塩漬けになってしまう失敗もありがちです。
株価が急落した際には、「せめて買値と同じ価格で売りたい」「キリの良い数字で売りたい」という心理が働きやすいためでしょう。
損失が拡大している時は、成行で即座に損切を行う決断力が資産を守ります。
急落中の成行売りで、板が飛びやすいタイミングに注意
急落時に成行売りが推奨されるとは言え、注意点もあります。
それは「特別気配」などが表示され、売買が一時停止しているようなパニック時や、買い板が極端に薄い銘柄の場合です。
買い注文がほとんどない状態で大きな成行売りを出すと、遥か下の価格にある買い注文まで突き抜けて約定してしまい、株価を暴落させてしまうリスクがあります。
板が極端に薄い場合は、板を見ながら慎重に指値を下にずらしていくか、分割して成行売りをするなどのテクニックが必要です。
[関連]株の値幅制限とは?一覧表とストップ高・安の仕組み、4倍ルールの条件を完全解説
まとめ|迷ったら指値・損切りは成行でOK
株式投資の注文方法は奥が深いですが、初心者がまず覚えるべきなのは、以下の2点です。
・新規注文や利益確定は、指値注文で計画的に行う
・損切りは、成行注文で確実に実行する
この2つを徹底するだけでも、無用なリスクを避け、大負けする可能性を減らせます。
まずは指値注文で自分の狙った価格で売買する感覚を養い、相場のスピード感に慣れてきたら、必要に応じて成行や逆指値を組み合わせていきましょう。
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執筆者情報
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)/日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)
総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計学により銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活躍の場を拡げている。
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