「ネットネット株」とは、企業の流動資産から負債を差し引いた正味流動資産価値(NCAV)を下回る時価総額で取引されている銘柄を指します。
会社を清算しても時価総額以上の資産が残るため、保守的かつ安全性の高い投資対象とされ、長期投資家を中心に根強い支持を集めています。
この記事では、ネットネット株の定義やメリット・デメリットを整理するほか、実際に投資を行う際のスクリーニング方法やポイントを紹介します。
ネットネット株とは?|グレアムが提唱したバリュー投資

「ネットネット株」とは、バリュー投資の父と呼ばれるベンジャミン・グレアムが提唱した概念です。
具体的には、企業が保有する現金や売掛金などの資産から負債を差し引いた正味流動資産価値(NCAV: Net Current Asset Value)よりも時価総額が安い企業を指します。
言い換えると「会社を清算したとしても、今の株価より高い資産価値が残る」超割安な株のことです。
ネットネット株の定義|正味流動資産価値(NCAV)の求め方
正味流動資産価値(NCAV :Net Current Asset Value)は、 流動資産から総負債を差し引いた金額を指します。
正味流動資産価値(NCAV :Net Current Asset Value)=流動資産-総負債
流動資産とは、企業がすぐ現金化できる資産を指し、現金・預金・売掛金・棚卸資産などが含まれます。
総負債は、1年以内に返済が必要な流動負債と長期の借り入れ金である固定負債の両方を含む、企業の全ての負債を指します。
この正味流動資産価値(NCAV)は、企業を清算したときに理論的に株主へ還元される資産価値となります。
よって、正味流動資産価値(NCAV)が時価総額を上回っていれば、企業を清算したときに、株主には投資した金額以上の資産が還元されると考えられます。
このような超割安状態になっている銘柄を、ネットネット株と呼びます。
ネットネット株=正味流動資産価値(NCAV)>時価総額
ネットネット指数(時価総額 ÷ NCAV)の目安と判断基準
株価の割安度を見極める指標として、時価総額を正味流動資産価値(NCAV)で割って求められるネットネット指数があります。
ネットネット指数=時価総額÷正味流動資産価値(NCAV)
ネットネット指数が1.0以下であれば、その株はネットネット株と言え、割安とみなされます。
さらにネットネット指数が0.67以下であれば、その株は超割安で、投資妙味が大きいとされます。
ネットネット指数が0.67以下であれば、その株は正味流動資産価値(NCAV)の3分の2以下で買える状態と言えます。
この状態を安全域として、グレアムは強く推奨しています。
ネットネット指数とPBRやPERとの違い|「超保守的な評価方法」である理由
一般的なバリュー指標であるPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)と比べても、ネットネット指数は保守的な指標です。
PER(株価収益率)は利益と株価を比較した指標であるため、事業環境が変化して利益が上げられなくなれば、評価も大きく変化してしまいます。
また、赤字企業では割高・割安の判断ができません。
PBR (株価純資産倍率)は、 純資産全体を評価するため、固定資産やのれんといった換金が難しい資産も加味されてしまいます。
他方、ネットネット指数は、すぐに現金化できる流動資産だけを対象に割安・割高を判断するため、「超保守的な評価法」と言えるのです。
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なぜ今ネットネット株が注目されているのか?

ネットネット株のような超割安株は、投資家の注目を集めづらい地味な事業内容だからこそ、割安に放置されている場合が多いです。
そのため、ネットネット株への投資は地味な手法として、あまり注目されてきませんでした。
しかし、近年は新NISAの開始や著名投資家による紹介で、個人投資家の間でも認知度や人気が高まりつつあります。
新NISAの開始で「手堅く利益を狙いたい」投資家に人気化
2024年より新NISA制度が開始され、株式投資を始める個人が増加しました。
新NISAでは「長期・分散・積立」が堅実な投資手法として推奨されています。
そのため、堅実に長期で利益を積み重ねたいというニーズを持つ個人投資家が増加しました。
ネットネット株は、企業を解散・清算した場合でも、理論上は投資元本以上の現金が手元に残る計算になるため、株価が大きく下落するリスクが低いとされます。
こうしたリスクの低さが、新NISAで新たに誕生した長期・安定志向の投資家のニーズにフィットし、ネットネット株が注目されやすくなっています。
著名投資家(かぶ1000氏・清原達郎氏など)の著書でも話題に
著名投資家が、ネットネット株の考え方をベースにした割安株投資の手法を著作等で紹介したことも、個人投資家の関心を集める要因となっています。
例えば、個人投資家で、中学時代から株一筋で資産を築き上げたかぶ1000氏が、自身の著書やメディアでネットネット株への投資を具体的な事例とともに紹介し、その有効性を広く知らしめました。
また、ファンドマネージャーであった清原達郎氏も、著作などでネットネット株やそれに近いネットキャッシュ比率(実質的な手元資金の豊富さを示す指標)を重視する投資手法を紹介しています。
ネットネット株をスクリーニングで探す方法

ネットネット株を探す際には、まずスクリーニングで該当しそうな銘柄の候補を絞り込み、次に財務諸表で詳細を分析するプロセスを踏むのが良いでしょう。
ここからは、実際に投資対象となるネットネット株を見つける方法について、具体的に解説していきます。
まずは、スクリーニングを行い、ネットネット株の候補となる銘柄を探してみましょう。
スクリーニング機能は、「会社四季報オンライン」などの投資情報サイトや「SBI証券」「楽天証券」といった証券会社が提供しており、個人投資家でも簡単に使えます。
会社四季報オンラインでのネットネット株のスクリーニング方法
投資家なら誰もが知っている「会社四季報」のオンライン版では、充実したスクリーニング機能が使用できます。
特に有料プラン(※)に登録すると、ネットネット指数をスクリーニング項目として作成し、保存しておくことができます。
※ベーシック月額プラン(1.100円/1カ月)、プレミアム月額プラン(5,500円/1カ月)会員が使える機能です。(2025年10月時点)
会社四季報オンラインのスクリーニング機能で、ネットネット株を探す際の手順を記載しておきます。
手順1:スクリーニングのページから、「新規作成」を選び、「条件の追加」という箇所をクリックして、項目の設定画面を開きます。
手順2:「スクリーニング項目を選ぶ」という箇所の下の方にある「My項目」をクリックします。
「My項目」をクリックすると出てくる「新規追加+」をクリックすると、「スクリーニング項目を独自に作成することができます」と書いてあるテキストボックスが出てきます。

手順3:「スクリーニング項目を独自に作成することができます」と書いてあるテキストボックスに以下のように入力し、「このMy項目を保存」を押します。
項目名を設定するテキストボックスが出てきますので、「ネットネット指数」などと入力して、保存しておきましょう。
手順4:手順1で開いた「新規作成」の画面に戻り、再度「条件の追加」という箇所をクリックします。
手順2でクリックした「My項目」を再度クリックすると、先ほど作成した新たな項目(My_ネットネット指数)が出てくるかと思います。
手順5:新たな項目である「My_ネットネット指数」をクリックし、「演算子」の部分で「<」を選択し、横の「条件値」に「1」と入力します。
もう1つの「演算子」は「>」を選択し、横の「条件値」 には「0」と入力しましょう。

これで「条件を確定」を押し、「検索する」と進んでいくと、ネットネット指数が0以上、1以下のネットネット株をスクリーニングできます。
※ネットネット指数がマイナスになっている銘柄は、負債の方が流動資産よりも多い(仮に全ての流動資産を現金化しても負債を返せない)状態です。
負債が多く、割安とは言えない状態ですので、ご注意ください。
楽天証券やSBI証券でのネットネット株のスクリーニング方法
楽天証券やSBI証券などのネット証券各社も、口座開設者向けに充実したスクリーニング機能を用意しています。
こうしたスクリーニング機能は口座開設者であれば、無料で使えます。
しかし、会社四季報オンラインのようにネットネット指数をスクリーニング項目として設定することはできません。
そのため、まずは「PBR(株価純資産倍率)1倍以下」「自己資本比率80%以上」といった条件でスクリーニングを行い、ネットネット株の可能性がある割安株を絞り込むのが良いでしょう。
スクリーニングの結果として出てきた銘柄について、財務諸表を分析し、ネットネット株かどうかを判断していきましょう。
AIを活用した最新のスクリーニング機能もおすすめ!
安定的な値上がりを狙える有望銘柄を探す際には、AIを活用した最新のスクリーニング機能を使うのもおすすめです。
日本投資機構株式会社では、AIがこれから上昇する可能性の高い銘柄を抽出してくれる「AI銘柄スクリーナー」アプリを提供しています。
AI銘柄スクリーナーは、株価チャートは勿論、決算短信などの財務データも加味した上で、AIが上昇の可能性を判断しています。
人間では掴み切れない、上昇銘柄の特徴をAIが掴んでいるとみられ、通常のスクリーニングよりも効率良く値上がり銘柄を探せます。
スクリーニング機能を無制限で使用するには月額1,070円の有料プランに登録する必要がありますが、無料版でも1日あたり1回、スクリーニング結果が閲覧できます。
より期待できるネットネット株を選ぶには?
スクリーニング機能を用いてネットネット株を探すと、複数の銘柄が出てくるかと思います。
そのなかで、より有望な銘柄を選び、買い付けるためには、何を見れば良いでしょうか?
ここではより有望な銘柄を選ぶためのポイントをお伝えしていきます。
より有望な銘柄を選ぶための追加のスクリーニング条件
ネットネット株を見つけたら、その中からより安全で上昇期待の高い銘柄を選ぶために、追加の条件設定してみまましょう。
企業の体力や健全性を確認すると、割安なまま放置されたり、倒産したりするリスクを抑えられます。
まず、本業でしっかりと現金を稼ぎ続けている証拠として、営業キャッシュフロー(CF)が黒字で安定していることが重要です。
これは、ネットネット株の生命線である正味流動資産(NCAV)の減少を防ぐ上で、非常に大切な指標となります。
さらに、時価総額が小さすぎないこともポイントです。
極端に時価総額が小さい企業は出来高が薄く、売りたくても売れなくなるリスクを伴います。
最後に、配当の有無も確認しましょう。
配当を行う企業は資金還元の意識が高く、株価の再評価につながりやすい傾向があります。
[関連]キャッシュフロー計算書の分析手法!株式投資に使える決算書の見方をアナリストが伝授
経営者、資産内容、事業リスクなども見ておこう!
数値スクリーニングで候補を絞り込んだ後は、以下のような視点で、企業の中身をチェックしてみましょう。
まず重要なのが、経営者が株主還元に前向きかという点です。
どれだけ資産を持っていても、経営者がその資産を塩漬けにして、株主や資本効率を意識しなければ、株価は評価されにくいままです。
また、保有資産が本当に換金可能かという資産の質の確認も重要です。
市場価値のない不良在庫や、含み損を抱えたままの土地などは、実際には現金化が難しい「見せかけの資産」かもしれません。
さらに、事業モデルが衰退産業に属していないかというリスク評価もしておきたいです。
構造的に市場が縮小している産業では、いくら割安でも本業の収益改善が難しく、割安なまま放置されてしまうリスクが高いです。
ネットネット株投資の成功例|日本鋳鉄管(5612)テーマ株として再評価

2025年4月12日から2025年10月8日までの日足チャート TradingViewより引用
どのような銘柄であれば再評価されるのか、具体例も見ておきましょう。
日本鋳鉄管は、1937年設立の歴史ある企業で、主に上下水道やガス用の資材を提供する、日本のインフラ整備に欠かせない事業を展開しています。
業績は黒字で安定してきたものの、その変動は小さく、収益拡大期待は限定的だとして長年割安に放置されてきました。
そんな日本鋳鉄管ですが、2025年1月に埼玉県八潮市で下水道管の破損を要因とした道路陥没事故が発生したことで、国策テーマ株として市場の注目を浴びるようになりました。
インフラの老朽化対策が国にとっての急務である点が広く認知され、その一端を担う企業として、業績拡大期待が高まり、再評価されたのです。
株価は2025年1月につけた安値1,001円から同年9月5日の2,858円まで、1年足らずで2.85倍の上昇を見せました。
ネットネット株投資のメリットとは?

ネットネット株はの魅力は何と言ってもその「割安さ」にあります。
超割安とされるネットネット株への投資にはどのようなメリットがあるのか、ここで整理しておきましょう。
メリット①|資産に裏打ちされた安心感
ネットネット株投資の最大のメリットは、資産に裏打ちされた安心感にあります。
企業がすぐに現金化できる流動資産から、負債を差し引いた正味流動資産(NCAV)が、現在の時価総額を上回っているため、株価が資産価値によって下支えされます。
事業の成長期待だけで株価が変動する銘柄とは異なり、割安に現物資産を買うような感覚で投資ができるため、非常に安心感のある手法と言えます。
メリット②|長期保有で大きく伸びる期待も
株価が資産価値によって下支えされるネットネット株は、市場全体の変動に一喜一憂することなく、腰を据えて長期保有しやすいです。
そして、企業に大きな変化があると、元の評価が低い分、株価が大きく上がる余地があります。
経営改善、不採算事業からの撤退、株主還元の強化などが再評価のきっかけとなりやすく、株価が2倍、3倍になる例も少なくありません。
下値リスクを抑えつつ、大きなリターンを狙える可能性があるのが、ネットネット株の醍醐味です。
ネットネット株投資は儲からない?デメリットを紹介

下値リスクを抑えつつ、大きなリターンを狙えるネットネット株への投資ですが、デメリットやリスクも存在します。
そのためデメリットも理解した上で、自身の投資スタイルや資金量を考慮したリスク管理が重要となります。
デメリット①|株価の上昇には時間がかかることが多い
株価が超割安なのは、投資家からの人気がなく、なかなか買いが入らないことの裏返しでもあります。
そのため、市場参加者にその価値が見直されるまで、数年がかかることも珍しくありません。
買いが集まるきっかけがなく、長年割安に放置され続けている銘柄は「万年割安株」と呼ばれ、こうした状態がいつまでも続く可能性も懸念されます。
万年割安株に投資を行ってしまうと、他の成長株やインデックス投資に資金を投じていれば得られたはずの利益が得られない、機会損失が発生する可能性があります。
デメリット②|粉飾や資産の評価ミスに注意
帳簿上は割安に見えても、その裏側にはリスクが潜んでいる場合があります。
実際には事業環境が悪化していたり、計上されている資産の換金価値が想定以上に低かったりするケースも少なくありません。
例えば、不良在庫が積み上がっていたり、売掛金が回収困難になっていたりすると、帳簿上の資産が実際には換金できない見せかけの資産となってしまいます。
財務諸表の数字を鵜呑みにせず、資産の質を厳しくチェックする必要があります。
デメリット③|流動性が低い銘柄が多く、大きく投資しづらい
ネットネット株の多くは中小型株であり、投資家からの注目度の低さから、出来高(売買量)が少ない傾向にあります。
そのため、売買に時間やコストがかかり、特に大きな資金を一度に投じようとすると、希望する価格での取引成立が困難になりやすいです。
また、いざ売却したいときに買い手が現れずに売れなくなってしまうリスクも伴います。
ネットネット株に投資をする際には、出来高や板の厚さを確認して、どのくらいの資金量であれば売買ができそうかを考えた上で、買い付けを行う必要があります。
まとめ|再評価の余地を分析して分散投資しよう!

ネットネット株は、資産価値を大きく下回っている株を買うという、非常にシンプルで保守的な投資手法です。
株価が企業の資産価値によって裏打ちされているため、堅実にリスクを抑えたい個人投資家に向いた手法と言えるでしょう。
しかし、ネットネット株への投資を成功させるには、数字で割安を確認するだけに留まらず、資産の質や経営姿勢を見極める必要があります。
ネットネット株への投資で成功するためには、企業の中身を丁寧に調べた上で、再評価の余地があると考えられる数銘柄に分散投資するのが良いでしょう。
執筆者情報
金融ライター
2016年大手証券会社に入社、2018年に最大手オンライン証券会社に入社し、機関投資家部門(ホールセール)を立ち上げ、翌年2019年には同社シンガポール拠点設立。2022年より日系証券会社の運用部にてポートフォリオマネジャーの経験を得て以降、一貫して運用業務に従事。