実質賃金と名目賃金の違いとは?「実質」と「名目」の意味が分かれば経済が分かる!

石塚 由奈

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

経済ニュースを見ていると、「実質」や「名目」という言葉を目にしますよね。具体的には、「実質賃金と名目賃金」「実質GDPと名目GDP」「実質金利と名目金利」といった表現がよく使われます。

なぜ、実質値と名目値は区別されているのでしょうか。実は、この違いをきちんと理解すると、給料が増えても生活が楽にならない理由や、利上げ後も金融緩和が続く理由まで見えてきます。本記事では、ニュースで使われる表現を例に挙げながら、実質と名目の違いをわかりやすく解説します。

目次

物価上昇率を考慮するのが実質値

物価の変動を考慮しているのが実質値、考慮していないのが名目値です。名目は見たままの金額、実質はその金額で買える量と考えると理解しやすくなります。ここが3つの指標に共通する基本です。

実質値は物価指数で名目値を割り戻す

実質値の基本は、名目値を物価指数で割り戻す計算です。基準年を100とする物価指数が110なら、物価水準は基準年より10%高い状態です。名目賃金が33万円でも、33万円を1.10で割った実質的な購買力は30万円となります。

反対に物価指数が下がれば、同じ金額で買える量は増えます。名目値と実質値の差は、金額の増減ではなく物価変動によって生じます。実際の統計では基準年や品目構成をそろえた指数を使うため、単純な引き算より精密に計算されます。

名目賃金は給料の金額、実質賃金は買える量を表す

会社員であれば、毎月給料が入りますよね。この給料の金額をそのまま「名目賃金」といいます。厚生労働省の毎月勤労統計では、所得税や社会保険料などを差し引く前に、労働の対価として支払われた金額を集計しています。

しかし、給料の額が同じでも、インフレで商品やサービスの値段が上がれば、給料で買える量は減ります。そこで、物価の影響を加味して名目賃金を調整した数値が実質賃金です。実質賃金は給料の額ではなく、その給料が持つ購買力を表します。額面が増えたかと、暮らしが豊かになったかを分けて示す指標です。

物価上昇が賃上げを上回ると実質賃金は下がる

ニュースで「実質賃金がマイナス」と聞いても、必ずしも給料そのものが減ったわけではありません。名目賃金が増えても、物価がそれ以上に上がれば購買力は低下します。賃上げ率と物価上昇率の大小が分かれ目です。

名目賃金が増えても生活が楽になるとは限らない

例えば、名目賃金が前年比2%増えても、同じ間に物価が3%上がれば、前年と同じ給料では同じ量の商品を買えません。大まかには賃金の伸びが物価上昇率を1ポイント下回り、実質賃金もマイナスになります。

企業が原材料費や輸送費の上昇を販売価格へ転嫁した後、賃上げが家計へ届くまでには時間差も生まれます。「企業が賃上げをしているか」と「家計の購買力が増えたか」は別の問題です。名目と実質を分けると、この時間差まで読み取れます。手取り額が変わらなくても、食料や光熱費の値上げが生活実感を悪化させる場合もあります。

2026年6月は名目3.4%増、実質1.6%増

厚生労働省が2026年8月5日に公表した6月の毎月勤労統計では、1人当たりの現金給与総額は53万1,677円でした。前年同月比では3.4%増え、物価上昇率を上回っています。

きまって支給する給与は29万9,232円で3.4%増、賞与などの特別給与は23万2,445円で3.5%増でした。実質賃金は前年同月比1.6%増となり、6カ月連続でプラスです。2023年11月時点のマイナスが続く説明は、現在の数字へ置き換える必要があります。

実質賃金は使う物価指数によって数字が変わる

2026年6月の実質賃金には、1.6%増と1.7%増の2つの数字があります。1.6%増は「持家の帰属家賃を除く総合」、1.7%増は「総合」の消費者物価指数を使って計算した結果です。

持家の帰属家賃は、持ち家を借りたと仮定して計算する家賃相当額です。実際の支払いを伴わないため、厚生労働省は購買力を見る主系列から除いています。同じ実質賃金でも、どの物価指数で調整した数字かを確かめる必要があります。速報値が確報で改定される点にも注意が必要です。

名目GDPは金額、実質GDPは生産量を見る

GDPは国内で生み出された付加価値の総額です。その時点の価格で合計するのが名目GDP、物価変動の影響を取り除いて比べるのが実質GDPです。金額と生産量を分けて見ます。

パスタの販売額で名目と実質の違いを考える

例えば、輸入した小麦を加工し、パスタにして販売したとします。パスタの販売額から、原料として輸入した小麦などの中間投入額を差し引いた部分が、国内で生み出した付加価値です。販売額の全額をGDPへ足すわけではありません。

販売数量が同じでも、パスタの販売価格が上がり、付加価値の金額が増えれば名目GDPは増加します。数量が変わらず値上げだけで名目GDPが増えても、経済活動が同じ幅で拡大したとは限りません。原料価格も上がるため、販売価格だけでなく付加価値の増減を見る必要があります。

実質GDPは物価を除いて生産量を比べる

実質GDPは、物価の上昇や下落による見かけの増減を取り除き、財やサービスの生産量がどれだけ変わったかを示します。名目GDPが増えていても、物価がそれ以上に上がれば実質GDPは減る場合があります。

内閣府は、品目ごとの価格と数量の変化をつないで実質GDPを計算しています。単純に名目成長率から消費者物価指数を引く計算ではありません。景気の成長率を時系列で比べるときは実質GDP、経済規模や税収の土台となる金額を見るときは名目GDPが適しています。

名目GDPの伸びが実質を下回るとデフレ圧力を示す

中国国家統計局が2024年1月17日に発表した2023年GDPでは、速報段階で名目成長率が実質成長率を下回ったと報じられました。物価の影響を含む名目値の伸びが低い場合、GDPデフレーターがマイナスだったと読み取れます。

GDPデフレーターは、国内で生産された幅広い財・サービスの価格変化を示す指標です。名目成長率が実質成長率を下回る状態は、国内の価格に下押し圧力がかかっているサインです。消費者物価だけでは見えない企業間取引も含みます。ただし、GDPは後から改定されるため、古い速報値と改定後の数値は分けて扱います。

名目金利より実質金利が投資を左右する

名目金利は銀行預金や借入金に表示される数字上の金利です。物価上昇率を差し引いた実質金利を見ると、お金の実際の価値が増えるか減るかが分かります。投資や貯蓄への資金の流れにも影響します。

政策金利1.0%でも実質金利はマイナス

日本銀行は2026年6月に政策金利を1.0%程度へ引き上げ、7月会合でも同じ水準を維持しました。一方、総務省が公表した2026年7月の消費者物価指数は、総合で前年同月比1.9%上昇しています。

現在の物価上昇率を使って単純計算すると、1.0%-1.9%で実質金利は-0.9%です。名目金利がプラスでも、物価を差し引けば実質金利はマイナスになります。ただし、金融市場では期間をそろえた市場金利と予想物価上昇率を使います。-0.9%は現在の数字から仕組みをつかむ目安であり、厳密な市場の実質金利ではありません。

実質金利がマイナスだとお金が動きやすい

実質金利がマイナスなら、現金や預金の購買力は物価上昇によって目減りしやすくなります。企業にとっては、物価上昇に伴う売上増加率が借入金利を上回れば、借り入れを使った設備投資を検討しやすくなります。

借入金利が売上や利益の伸びより低ければ、企業は機械や工場へ資金を投じやすくなります。株式など価格変動のある資産も、現金の目減りを避けたい投資家の選択肢に入りやすくなります。実質金利のマイナスは、企業の設備投資や市場へ流れる資金を支える要因です。必ず株価が上がるわけではなく、企業業績や投資先の収益性も影響します。

実質金利がプラスなら貯蓄へ資金が向かいやすい

実質金利がプラスになると、預金や債券で物価上昇を上回る利息を得やすくなります。価格変動のある株式へ資金を移さなくても購買力を保ちやすいため、個人のお金は投資より貯蓄へ向かいやすくなります。

企業側では、借入金利を上回る収益が見込める投資だけが残り、設備投資への基準が厳しくなります。将来利益を現在価値へ割り引く率も上がるため、成長期待で買われる株式には下押し圧力がかかります。実質金利の上昇は、借り手には負担、預金者には追い風となります。

日銀が利上げ後も金融環境を緩和的とする理由

日銀は2026年6月の利上げ後も、政策変更後の金融環境は緩和的だと説明しました。7月の展望リポートでも、短中期を中心に実質金利がマイナスで、企業の金利負担は収益力に比べて低いとしています。

企業の資金需要は増え、金融機関の貸出姿勢や社債の発行環境も良好です。政策金利が上がったという事実だけで、金融引き締めの強さは測れません。物価と金利の差、企業の借入負担、資金需要まで見ると、利上げ後も緩和が続くという日銀の説明がつながります。今後さらに利上げが続けば、実質金利のマイナス幅が縮み、資金の流れも変わります。

まとめ|実質値を見ると経済ニュースの中身が分かる

名目値は表示された金額、実質値は物価変動の影響を取り除いた数値です。給料が増えたかは名目賃金、買える量が増えたかは実質賃金で分かります。

GDPも、金額の拡大と生産量の増加を分けて見る必要があります。金利では、表示金利だけでなく物価を差し引いた実質金利が、企業や個人のお金の動きに影響します。

経済ニュースで「賃金が上がった」「GDPが増えた」「金利が上がった」と聞いたら、実質値も確かめてください。数字の大きさだけでは見えない生活実感や金融環境まで読み取れます。

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執筆者情報

nari

石塚 由奈

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。

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