大発会(だいはっかい)と大納会(だいのうかい)は、日本株市場における「年初」と「年末」を象徴する特別な取引日です。
年初はご祝儀相場で上がる、年末は高値引けになりやすい、と語られる一方で、実際には大発会から大きく下落した年も存在します。相場は必ずしもセオリー通りには動きません。
本稿では、大発会・大納会の仕組みを整理したうえで、上がった年・下がった年の違い、実際に動いた銘柄の傾向、そして筆者が体験した大発会急落相場を交えながら、年初年末相場の正しい向き合い方を解説します。
大発会と大納会は「日本株市場の節目」を示す重要イベント

大発会と大納会は、単なる年初と年末の取引日ではありません。
日本株市場では、投資家の心理と資金の向かう先が最も分かりやすく表れる節目として機能しています。
この二つを理解することで、その年の相場の骨格をつかみやすくなります。
大発会は「その年の相場観が最初に表れる日」
大発会は、前年までのポジションが整理されたうえで、新しい年の見通しをもとに資金が動き出す最初の日です。
機関投資家や個人投資家が、海外市場の動向、為替、政策環境を踏まえ、その年を強気で見るのか慎重に見るのかを判断します。
そのため、大発会の値動きには「この一年をどう捉えているか」という投資家の本音が反映されやすく、単なるご祝儀相場ではなく、年初の方向性を示すシグナルとして注目されます。
大納会は「一年間の評価が集約される日」
大納会は、その年の相場を締めくくる取引日であり、一年間の成果を踏まえた資金の最終調整が行われます。
利益が出た銘柄は確定され、来年も期待できる銘柄は持ち越されるため、投資家の選別意識が最も強く表れます。
大納会の引け方には、その年の相場を前向きに終えたのか、慎重な姿勢で締めたのかという評価が込められており、翌年の相場観を読む重要な手がかりとなります。
大発会・大納会に「上がりやすい銘柄」は実際に存在するのか

大発会や大納会に株価が動きやすい銘柄は、偶然ではなく一定の傾向があります。
多くの投資家がこの時期に注目するのは、年初・年末という節目で資金が集まりやすいテーマや銘柄群です。
まずは、なぜ特定の銘柄が選ばれやすいのか、その構造を整理します。
大発会で買われやすい銘柄の共通点
大発会では「新しい年に何が伸びるか」という期待が株価に反映されやすくなります。
そのため、国策、成長産業、前年後半から話題になっていたテーマ株に資金が集まりやすい傾向があります。
特に、前年に調整していた銘柄や、年初の運用方針に組み込みやすい大型テーマ株は、大発会から買いが入りやすくなります。
大納会で買われやすい銘柄の共通点
一方で大納会は、「翌年も持ち越したい銘柄」が選別される日です。
短期材料で上がった銘柄よりも、業績の見通しが安定している企業や、翌年のテーマ性が明確な銘柄が選ばれやすくなります。
このため、大納会では成長期待が続くテーマ株や、翌年の主役候補と見なされる銘柄に買いが入りやすい構造があります。
過去の大発会で実際に上昇した代表的なテーマ・銘柄

大発会で株価が動く背景には、「年初の資金がどこへ向かうか」という明確な傾向があります。
機関投資家や個人投資家は、新しい年の運用方針を反映させるため、分かりやすい成長テーマや国策関連銘柄に資金を振り向けやすくなります。
大発会では「その年の主役候補」が買われやすい
過去を振り返ると、大発会で買われやすかったのは以下のようなテーマです。
半導体、AI、防衛、金融(銀行)など、「前年から注目されつつも年末に一服していたテーマ」が年初に再評価されるケースが多く見られました。
これらは年初のニュースや政策方針と結びつきやすく、投資家の共通認識が形成されやすい点が特徴です。
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実例に見る大発会の値動きパターン
例えば、半導体関連銘柄は設備投資再開や生成AI需要が意識される局面で、大発会から数日間にわたり堅調に推移した年が複数あります。
また、銀行株も金利動向や政策期待が高まる年には、大発会を起点に資金が流入しやすい傾向が確認されています。
大発会は「材料が新しい」というよりも、「テーマが再点火される場」と捉えると理解しやすいでしょう。
年末特有の傾向として『掉尾の一振』と呼ばれる現象も知られています。
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大発会で買われやすい銘柄の特徴と実例

大発会は、年末年始を挟んで滞留していた資金が一気に動き出す日です。そのため、前年から準備されていたテーマや銘柄に、初動の買いが集中しやすくなります。
大発会は「年末に仕込まれていた主力テーマ株」が一気に噴きやすい
大発会で目立ちやすいのは、前年のうちにテーマとして認識されていた主力株です。
半導体、設備投資、防衛など、年をまたいでも継続性が見込まれる分野は、年初のポートフォリオ再構築で優先的に買われやすくなります。
実際、2020年以降の大発会では、
・【6920】レーザーテック
・【8035】東京エレクトロン
といった半導体関連の主力株が、年初から強い値動きを見せた年が複数回ありました。
これらは大発会当日に新材料が出たわけではなく、「前年からの期待が年初に一気に価格へ反映された」典型例といえます。
大発会は「新興企業の中小型成長株」にも資金が向かいやすい
一方で、大発会では中小型株、とくに当時のマザーズ市場に上場していた成長期待の高い企業が物色されやすい傾向も確認されています。
年初はリスクを取りやすいタイミングでもあり、 個人投資家を中心に「今年の成長枠」を探す動きが強まります。
その結果、時価総額が小さく、テーマ性のある銘柄に資金が集まりやすくなります。
例えば、2020年前後の大発会周辺では、
・【4477】BASE
・【4478】freee
・【4488】AI inside
といったマザーズ上場の成長企業が年初に強含む場面が見られました。
必ずしも全銘柄が急騰するわけではありませんが、「年初に中小型成長株へ資金が向かいやすい」という傾向は、複数年で観測されています。
大発会では、大型主力株で相場の方向性を探りつつ、中小型株でリスクを取る資金が同時に動くという二層構造が生まれやすい点が特徴です。
過去の大納会で実際に上昇した代表的なテーマ・銘柄

大納会で株価が動く背景には、「翌年へどの資金が持ち越されるか」という明確な選別プロセスがあります。
年内最終取引日という性質上、投資家は短期的な値動きよりも、来年も保有し続けたいかどうかを重視して銘柄を見極めます。
その結果、大納会では派手な急騰は少ないものの、翌年につながるテーマに静かな買いが入りやすくなります。
大納会では「翌年も通用するテーマ」が選ばれやすい
過去を振り返ると、大納会で相対的に強かったのは以下のようなテーマです。
「インフラ投資、エネルギー、情報通信、DX関連」など、短期材料ではなく中期的な需要が見込まれる分野が選好される傾向があります。
これらのテーマは、翌年の政策方針や企業の中期計画と結びつきやすく、「年をまたいで保有しても説明しやすい」という点で投資家の共通認識を得やすい特徴があります。
実例に見る大納会の値動きパターン
大納会では、急騰という形ではなく、売られにくさや底堅さとして値動きに表れるケースが多く見られます。
年末にかけて市場全体が様子見ムードになる中でも、翌年の成長ストーリーが明確なテーマは、最終日にかけてポジションが維持、あるいは微増する動きが確認されています。
大納会は「相場を動かす日」というよりも、翌年の主役候補がふるいにかけられる場と捉えると理解しやすいでしょう。
大納会で買われやすい銘柄の特徴と実例

大納会は年内取引の最終日であり、投資家が「翌年へどの銘柄を持ち越すか」を最終判断する重要な一日です。
そのため、短期的な値幅よりも、来年も安心して保有できるかどうかが強く意識されます。
大納会は「翌年も保有したい主力銘柄」が静かに選ばれる
大納会で目立ちやすいのは、すでに実績と収益基盤を持ち、翌年もテーマ継続が見込まれる主力株です。
インフラ、情報通信、エネルギー、金融など、業績の見通しが比較的読みやすく、年をまたいでも説明しやすい分野は、年末のポジション調整において残されやすい傾向があります。
実際、過去の大納会前後では、
・【9432】NTT
・【8306】三菱UFJフィナンシャル・グループ
といった大型株が、派手さはないものの下値を切り上げ、翌年初も比較的安定したスタートを切った年が複数確認されています。
大納会での買いは、新材料ではなく、「来年も持つ前提での最終確認」という意味合いが強い点が特徴です。
大納会の値動きには、年末に株価が上昇しやすいという経験則「掉尾の一振」が背景にある場合があります。
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大納会は「年を越して育てたい中小型株」が選別される
一方で、大納会だからといって中小型株が一斉に売られるわけではありません。
テーマ性が明確で、翌年の業績成長が見込まれる企業は、 整理売りを免れ、選別的に残される動きが見られます。
過去の大納会前後では、
・【3697】SHIFT
・【3923】ラクス
・【3994】マネーフォワード
といったサブスクリプション型やDX関連の中小型株が、年末にかけて底堅く推移し、翌年初に再評価される場面がありました。
大納会は、勢いで買う場ではなく、「整理後に残った銘柄が翌年の主役候補になる」場面と捉えると理解しやすくなります。
大納会は「翌年相場の予選会」として見ると分かりやすい
大発会がスタートダッシュの場だとすれば、大納会は翌年の主役候補をふるいにかける場です。
年末の値動きが地味であっても、大納会で売られずに残った銘柄は、翌年初の資金流入を受けやすい位置にある可能性があります。
大納会は年内最後の売買日であると同時に、翌年相場を読むヒントが詰まった一日と位置づけることができます。
大発会・大納会で逆に下がる年もある理由

大発会や大納会は「上がりやすい日」と語られることが多い一方で、必ずしも毎年上昇するわけではない点には注意が必要です。
相場はイベントそのものよりも、年末時点の環境や市場心理に強く左右されます。
上がるか下がるかは「年初の期待値」でほぼ決まっている
大発会が下落する年に共通するのは、年末時点ですでに不安材料が多く、投資家の期待値が低下しているケースです。
景気後退懸念、金融引き締め、地政学リスクなどが重なると、年初はポジション調整の売りが優先されやすくなります。
この場合、大発会は「仕切り直しの売り」が出る日になりやすい傾向があります。
筆者が体感した「大発会で582円下落した年」の実例
筆者が強く印象に残っているのが、大発会で日経平均が582円下落した2016年です。
市場では年末から不透明感が強く、年初の買いを期待する空気は乏しい状況でした。
結果として大発会は大きな下落スタートとなり、その後もしばらく軟調な展開が続きました。
この経験から言えるのは、大発会は「ご祝儀相場」ではなく、前年までの評価を一度リセットする日という側面を持つという点です。
その他の大発会・大納会で上昇した銘柄
| 銘柄名 | 市場 | 企業概要 |
|---|---|---|
| 【6590】芝浦メカトロニクス | 東証プライム | 半導体製造装置関連として設備投資回復局面で評価が高まりやすく、 年初にかけて業績期待が再点火する年が複数確認されています。 |
| 【6841】横河電機 | 東証プライム | プラント制御・計測分野を担う企業で、インフラ投資や設備更新テーマが意識される年末年始に底堅さを見せやすい銘柄です。 |
| 【6506】安川電機 | 東証プライム | 産業用ロボット・自動化需要の代表格で、年初に製造業の設備投資再開が意識される年に資金が入りやすい傾向があります。 |
| 【4751】サイバーエージェント | 東証プライム | 広告・メディア関連として、新年度の広告投資回復期待が意識される年初相場で評価されやすい場面が見られました。 |
| 【9722】藤田観光 | 東証プライム | 観光・インバウンド関連として、 年末年始の人流回復や翌年の需要期待が織り込まれる局面で物色されるケースがあります。 |
大発会で資金が集まりやすいテーマは、単発ではなく長期テーマと連動する場合が多いです。
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大発会の勝敗と日経平均の年足を検証して見える法則性①―大発会は年間相場の「方向感」をどこまで示すのか

大発会は年初最初の取引日として注目されやすく、「その年の相場を占う日」と語られることも多いですが、実際に年間相場との関係性がどの程度あるのかは、数字で確認する必要があります。
そこで、2000年以降の日本株市場を対象に、大発会の日経平均株価がプラスだった年と、その年の年足が陽線か陰線かを検証しました。
大発会がプラスだった年は、年足も上昇しやすい傾向がある
2000年以降で見ると、大発会の日経平均が前日比プラスとなった年はおよそ14回確認されています。
そのうち、年末時点で日経平均の年足が陽線となった年は約9回、陰線となった年は約5回でした。
割合にすると、大発会がプラスだった年の約6割強は、年間でも上昇相場になっている計算になります。
この結果からは、大発会で前向きなスタートを切った年は、投資家心理が比較的安定し、その後の相場も堅調に推移しやすい傾向が読み取れます。
大発会の強さは「年初の資金の向き」を反映している
大発会は単なる一日の値動きではなく、年末年始を挟んで滞留していた資金がどこへ向かうかを示す場でもあります。
新年度の運用方針を反映させる機関投資家や、年初に動きやすい個人投資家の買いが重なりやすく、相場全体の初期の空気感が指数に表れやすい日といえます。
その意味で、大発会のプラスは「年間上昇の必要条件ではないものの、追い風になりやすい材料」と位置づけるのが現実的でしょう。
年初の相場形成を考えるうえでは、季節性やイベントスケジュールも押さえておくと有利です。
また大発会・大納会以外にも、年中で繰り返し観測される傾向(干支アノマリー)があるので、こちらもチェックしておきましょう。
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大発会の勝敗と日経平均の年足を検証して見える法則性②―ただし、大発会だけで年間相場は決まらない

一方で、先ほどの検証結果が示す通り、大発会がプラスであっても、すべての年で年間相場が上昇しているわけではありません。
この点を理解せずに「大発会が上がったから安心」と判断してしまうと、相場の変化に対応しにくくなります。
大発会がプラスでも年足が陰線となった年は確かに存在する
実際、大発会が好調なスタートを切ったにもかかわらず、その後の金融政策の転換、海外景気の減速、地政学リスクなどによって、年末にかけて相場が失速した年も複数あります。
これは、大発会が年間トレンドを確定させる日ではなく、あくまで「スタート時点の期待感」を映し出すに過ぎないことを意味します。
年間相場は、その後に出てくるマクロ環境や企業業績によって大きく左右されます。
大発会で本当に見るべきは指数より「相場の中身」
大発会を分析する際に重要なのは、日経平均が上がったか下がったかよりも、どの分野に資金が向かっているかという点です。
指数が小幅安であっても、半導体やAI、政策関連といったテーマ株が底堅く推移していれば、その年の相場には十分な芽があります。
逆に、指数が上昇していても、特定の大型株だけに資金が集中している場合は、持続力に欠けるケースもあります。
大発会は「年間相場の答え」ではなく、「その年の読み解き方を考えるための初期材料」として活用するのが適切です。
大発会・大納会を投資判断にどう活かすか―上がるか下がるかより「資金の意思」を読む

ここまで見てきた通り、大発会と大納会は「必ず上がる・必ず下がる」という日ではありません。
重要なのは、その日の値動きそのものではなく、投資家の資金がどの方向へ向かおうとしているかを読み取ることにあります。
大発会は「年初にどのテーマへ資金が向かうか」を確認する日
大発会では、新しい年の運用方針を反映した資金が動き出します。
そのため、指数の上下以上に、半導体、AI、内需、政策関連など、どのテーマが強く反応しているかを見ることが重要です。
仮に日経平均が軟調であっても、特定のテーマに資金が集まっていれば、その年の相場の軸はそこにある可能性があります。
大発会は「答え合わせの日」ではなく、「仮説を立てる初日」と捉えると、相場の見え方が整理されます。
大納会は「翌年も資金が残る銘柄」を見極める場
一方の大納会は、年内で一度ポジションを整理したうえで、翌年へ何を持ち越すかを決める日です。
この日に売られずに残った銘柄は、少なくとも「翌年も説明がつく」「テーマが継続する」と判断された可能性があります。
大納会の動きは派手さこそありませんが、翌年初の大発会で再び資金が向かう候補を探るうえで、有効なヒントになります。
まとめ:大発会と大納会は相場の流れを読むための指標
大発会と大納会は、年初・年末の節目として、投資家の資金の向きや相場の空気を読み取るうえで重要なタイミングです。
大発会では、その年にどのテーマや分野が意識されやすいかが表れやすく、大納会では翌年も持ち越される銘柄が選別されます。
過去の相場を見ても、大発会が上昇したから年間相場が必ず強くなる、大納会で下がらなかったから安心という単純な法則はありません。
ただし、年末年始はポートフォリオの組み替えが集中しやすく、資金の意思が比較的はっきり表れやすい時期です。
指数の上下だけでなく、どの銘柄やテーマに資金が集まっているかを見ることが重要になります。
大発会と大納会は、相場を当てるための日ではなく、相場を読み解くヒントが詰まった日です。
値動きに振り回されるのではなく、資金の流れとテーマの継続性を確認することで、年初・年末の相場を投資判断に活かしやすくなるでしょう。
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執筆者情報
本部長
準大手の証券会社にて資産運用のアドバイザーを務めた後、日本株主力の投資顧問会社の支店長となる。現在は日本投資機構株式会社の筆頭アナリストとして多くのお客様に株式投資の助言を行いつつ、YouTubeチャンネルにも積極的に出演しており、資産運用の重要さを発信している。
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