この記事では、「ゴールデンクロス」と「デッドクロス」というテクニカル指標の基本的な仕組みや見分け方を、初心者にも分かりやすく解説します。
多くの投資家が参考にしている売買シグナルですので、正しく理解して活用することで、失敗を減らすことが期待できるでしょう。
■ ゴールデンクロス・デッドクロスは売買に使えるサイン

ゴールデンクロスとデッドクロスとは、移動平均線を用いた代表的なテクニカル分析の売買サインです。
移動平均線とは一定の期間の価格の平均値を折れ線グラフのようにつないだものです。
● ゴールデンクロスとは?|短期移動平均線が長期線を上抜け
▼ゴールデンクロスは、直近の価格変動により素早く反応する短期の移動平均線が、より緩やかに動く長期の移動平均線を下から上に突き抜ける時に現れます。

具体的には、下落していた価格が底を打ち、上昇に転じる局面で発生します。
直近の価格が力強く上昇することで、まず短期の移動平均線が上向きに転じ、その勢いが継続することで長期の移動平均線を追い越すのです。
短期的な買いの勢いが長期的なトレンドを凌駕したことを意味し、本格的な上昇トレンドへの転換を示唆するシグナルとされています。
● デッドクロスとは?|短期移動平均線が長期線を下抜け
▼デッドクロスは、短期の移動平均線が、長期の移動平均線を上から下に突き抜ける現象を指します。

具体的には、上昇を続けていた価格が天井をつけ、下落に転じる局面で見られます。
直近の価格が大きく下がることで、まず短期の移動平均線が敏感に下向きに反応し、その下落圧力が続くことで、より緩やかに動く長期の移動平均線を割り込んでしまうのです。
短期的な売りの勢いが長期的な市場のコンセンサスを打ち破ったことを意味する動きで、本格的な下落トレンドへの転換を示唆します。
●市場参加者の注目度の高いシグナル
移動平均線は、多くの投資家が利用している、最も代表的なテクニカル指標の1つです。この「多くの投資家が利用している」という事実が極めて重要な役割を果たしています。
テクニカル分析は、時に「自己成就的」な側面を持つと言われます。
これは、多くの人があるシグナルを信じて一斉に売買を行う結果、そのシグナルの予測通りに価格が動くということです。
ゴールデンクロスとデッドクロスは、そのシンプルさと視覚的な分かりやすさから、初心者からプロまで多くの投資家に認知されています。
そのため、ゴールデンクロスが発生すれば、多数の参加者が買いを意識して行動し、実際の買い需要が生まれます。
逆にデッドクロスが出れば、多くの参加者が売りを意識します。
シグナル自体が投資家の集団心理を特定の方向へ導き、価格変動を現実に引き起こすと考えられるのです。
■ ゴールデンクロス・デッドクロスを使った取引戦略

ゴールデンクロス・デッドクロスを売買サインとして取引を行うとしても、投資家全員が同じ設定で見ている訳ではありません。
投資期間・投資目的などによって、ローソク足は何足を見るか、他の指標と組み合わせるなど様々なパターンが考えられます。
●ゴールデンクロス・デッドクロスは日足と週足で使い分ける
ゴールデンクロスやデッドクロスを確認する際には、投資スタイルに合わせて、時間足や移動平均線の期間を使い分けるのが一般的です。
同じ日足でも、数日の短い取引をするのであれば、5日線と25日線など短い期間の移動平均線に注目します。
数週間から数か月といったより長い保有期間を想定する場合、移動平均線も25日線と75日線など、より長い期間のものを判断の参考にすると良いでしょう。
各時間足を設定する際に、どの期間の移動平均線を表示させるのが良いかは、時間足に関する記事で紹介していますので、是非併せて参考にしてください。
● MACDやRSIと組み合わせて精度を上げる
ゴールデンクロス・デッドクロスのみを用いて売買判断を行うよりも、他のテクニカル指標と組み合わせることで信ぴょう性が高くなります。
相性の良い指標としては、トレンドの方向性と勢いを測る「MACD(マックディー)」や、相場の過熱感を数値で示す「RSI(アールエスアイ)」が挙げられます。
例えば、ゴールデンクロスが出た時に、MACDも上昇を示唆し、かつRSIがまだ買われすぎの水準に達していなければ、より信頼性が高いと判断ができます。
このように複数の指標が同じ方向性を示唆することで、精度の高いエントリーポイントを見つけやすくなるのです。
■ ゴールデンクロス・デッドクロスを具体例で理解しよう
ゴールデンクロスやデッドクロスは、株式やFX(外国為替取引)、仮想通貨など、あらゆる商品・資産のトレードで活用されています。
実際にどのように機能しているか、実例を見ていきましょう。
● 株価チャートでのゴールデンクロス・デッドクロスの出現例
▼2023年5月のトヨタ自動車の日足チャートを確認すると、25日移動平均線と75日移動平均線がゴールデンクロスを形成しています。

同年前半までの株価は、75日線が上値蓋となって緩やかな下落を続けていましたが、徐々に騰勢が強まりゴールデンクロスを形成。これを機に上昇トレンドに転じました。
2022年から2023年前半は、新型コロナウイルスの感染拡大で止まっていた経済が急速に動き出した時期に当たります。
経済の急回復に伴い、サプライチェーンの混乱によるコスト高や半導体不足が発生し、自動車業界の業績に悪影響を与えていました。
こうした混乱が解消し、業績が持ち直す過程で、トヨタ自動車の株価チャートはゴールデンクロスを形成し、上昇トレンドに転じています。
ゴールデンクロスやデッドクロスに着目すれば、このような業績の変化を反映した株価の動きも視覚的に捉えられます。
● FXチャートでのゴールデンクロス・デッドクロスの出現例
FXでは、より短い時間軸でのトレードを行う投資家が多い分、1時間足や4時間足といった時間足や5分15分といった分足がよく使われます。
こうした時間足や分足において、何時間の移動平均線を使うかはトレーダーによって様々です。
100や200といったキリの良い数字で設定する人もいれば、1日が24時間であることを考慮して、約1日、3日、5日といった時間に近い本数を設定する場合もあります。
どのような移動平均線を使ったとしても、ゴールデンクロスやデッドクロスは、トレンドの変化を判断するための参考になります。
▼例えば、2025年の1月から3月にかけてのドル円チャートの4時間足に、100と200移動平均線を表示させたものがこちらです。

1月末のデッドクロス形成以降、3月まで続く長い円高トレンドに転じていることがよく分かるかと思います。
■ ゴールデンクロス・デッドクロスの「だまし」と対策

ゴールデンクロスやデッドクロスは、シンプルなテクニカル指標ですが、予想とは反対に動く「だまし」が起こることも少なくありません。
なぜだましが発生するのか、どうすればだましを回避できるのかを、ここからは考えていきましょう。
●ゴールデンクロスは意味がない?「だまし」が多発する理由
ゴールデンクロスは意味がないと言われることがあります。これは、移動平均線という株価よりも遅行的なものに依存しているため、売買の判断が遅くなりやすいからだと考えられます。
そもそも、下落基調だった株価が上昇転換した場合、必然的にゴールデンクロスが発生します。
そのため後から見ると、株価が底を打って大きく上昇する時には、ゴールデンクロス後に上昇が継続しているように見えます。
しかし、実際にはゴールデンクロスを形成したとしても、上昇せずに下落していく場合も多いのです。
そのため、ゴールデンクロスやデッドクロスを頼りに取引を行う際には、他の指標や相場環境も併せて判断する必要があるのです。
では、どうすればゴールデンクロスやデッドクロスを使ったトレードで利益を上げられるのでしょうか?
ここからは具体的な方法をお伝えしていきます。
● 発生した瞬間に売買せずに待つのも重要
ゴールデンクロスが発生した瞬間に、慌てて買いに走ると「だまし」に引っかかり損失が出る可能性が高まります。
そこで「サイン発生後、数日間は様子を見る」という方法があります。これは、発生したクロスが本物の上昇トレンドの始まりなのかを見極めるためです。
ゴールデンクロス発生後も、株価が短期移動平均線を下回らずに、上昇基調を維持しているかなどを慎重に観察しましょう。
サインが出た直後の短期的な値動きに惑わされないことで、より精度の高い投資判断に繋げることができます。
▼実際に弊社でも、狙っていた銘柄がゴールデンクロスを形成した後、短期移動平均線を割り込まず上昇したタイミングを待って買い推奨を行うことがあります。

● 出来高が増えているかにも注目
ゴールデンクロスの信頼性を判断するためには、「出来高」を確認することが極めて重要です。
出来高の増加は、多くの投資家が「これから株価が上がる」という認識を持ち、実際に活発な買い注文を入れていることの表れです。
市場の関心が高まっている状態で上昇基調を維持していれば、その後の本格的な上昇トレンドにつながる可能性が高いと判断できます。
反対に、ゴールデンクロスが発生したにもかかわらず、出来高が少ないまま、あるいは普段より減少している場合は注意が必要です。
市場全体の関心が低く、一部の投資家しか売買に参加していない状況を示唆します。
一部の投資家によって価格が上昇しているだけであるため、すぐに株価が下落に転じてしまう「だまし」と呼ばれる偽りのサインである可能性が考えられます。
● リスク管理を徹底し「思い込み買い」を避ける
ゴールデンクロスは有効な分析手法ですが、「だまし」となって株価が下落するケースが存在します。
そのため、投資を行う際には、「もし予測が外れた場合に、損失をいかに最小限に抑えるか」というリスク管理の視点が極めて重要になります。
買い付けを行う際は、「購入価格から〇%下落したら売却する」といったルールを、投資を行う前にあらかじめ決めておきましょう。
あらかじめルールを決めておくことで、感情的な判断によって損失が際限なく拡大してしまう事態を防げます。
ゴールデンクロスが出たからといって「必ず上がるはずだ」と妄信するのではなく、常に冷静な判断を維持することが大切です。
あらかじめ定めた客観的なルールに従って行動することが、長期的にご自身の資産を守る上で不可欠な要素となります。
■ まとめ|シンプルだけど強力な売買シグナルを自分の武器に
ゴールデンクロスとデッドクロスは、移動平均線を使った代表的なテクニカル指標で、相場の転換点を捉える手がかりとして多くの投資家に利用されています。
視覚的にもわかりやすく、初心者が最初に学ぶべき基本といえる一方で、相場状況によっては「だまし」が発生することもあります。
だからこそ、時間軸や他の指標と組み合わせての判断、そして出来高の確認や損切りルールの設定など、リスク管理を徹底することが重要です。
サインを過信せず、冷静に売買することが安定した投資成果につながります。
まずは少額やデモ口座でトレードの練習を行い、資産運用に生かしていきましょう。
執筆者情報
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)/日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)
総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計学により銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活躍の場を拡げている。