GAFAMからMTSAAS・MATANAへ。
生成AI相場で上昇を牽引してきた米国株は、2025年に入り「主役の入れ替わり」を示すシグナルが増えています。
今日は、GAFAM一強からの脱却をめぐる米国市場の最新動向をアップデートしつつ、MATANAやMTSAASといった新たな枠組み、そして個別株だけに依存しないテーマETFの使い方まで、いま個人投資家が押さえるべき戦略の要点を解説します。
GAFAM一強の時代は転換期へ|いま米国株で起きている潮流変化

GAFAM(あるいはGAFAM+)が市場を牽引してきたここ数年。
しかし2025年は「一強の危うさ」と「選別の加速」が同時進行している潮目の変化の年になるかもしれません。
例えば、アップルは2025年4–6月期(同社FY25 Q3)に売上+10%と再加速を示した一方で、iPadやウェアラブルは減速が続くなどプロダクト・ミックスの成熟化が見えてきます。
メタは広告とAIの両輪で+20%超の増収を維持する半面、巨額投資の持続可能性が論点に。
テスラはEV価格競争と需要の伸び悩みで四半期売上が2桁減と、同じメガテックでも成長の勢いに差が出来てきました。

規制面でもアゲンストの風が強まります。
EUのデジタル市場法(DMA)は大型プラットフォーマーの手数料・誘導・相互接続に踏み込む初の不遵守認定と是正を発動。
米国ではGoogle検索の独禁訴訟で、独占とされた慣行の是正(排他的取引の制限やデータ共有等)が命じられ、ビジネス慣行の見直し圧力が高まっています。
市場構造を見てみると、インデックスファンドの隆盛もありNVIDIAのS&P500構成比が8%近辺まで膨らむなど指数の上位集中が進み、ファンダメンタルズより、メジャー指数上位数社のウェイトでマーケットの需給が決まる相場環境に拍車がかかっています。
フロー面でもBofAの月次調査で「マグニフィセント7ロング」が過度に集中した取引と指摘され、米国株の割高感を指摘する回答が過去最高水準に達しています。上位10銘柄のウェイトが「ほぼ4割」に接近したとの推計もあり、インデックスでも投資家は事実上上位数社の将来にベットするリスクが高まりました。
脱GAFAMが進む背景

では、なぜ脱GAFAMがマーケットで語られるのか。
第一に金利・金融環境の変化
高金利の長期化や金融条件の引き締まりは、長期デュレーションの高PER株に逆風となりやすく、投資家は将来キャッシュフローの割引率上昇を織り込みます。
一方で、利下げ期待が高まる局面では、足元の業績改善や資金調達コストの低下が効きやすい中小型好業績株に物色が波及。2025年夏以降は小型株指数の相対モメンタム改善が観測され、市場の幅が広がる兆しが現れました
第二に、規制と競争の拡大
DMAに伴う相互運用義務や、米国での検索分野の是正が進めば、プラットフォーム周辺のプレイヤーにもビジネスチャンスが生まれます。
欧州では2025年内にiOSの通知・共有・近接通信などの機能開放やサードパーティ連携の強化が法的に求められ、囲い込み収益モデルの再設計が迫られます。
第三に、AIインフラ投資の波及
クラウド、半導体、ネットワーク、電力まで裾野が広がり、勝者はGAFAMの周辺銘柄にも登場します。
実際、クラウド大手はAI需要に合わせ前例のない設備投資を計画し、GPUだけでなくスイッチングや光学系などの周辺領域にも資金が流入しています。
誤解されやすい「脱GAFAM」:実際は再構成

「脱GAFAM」はGAFAM銘柄の売却という意味ではありません。
むしろポートフォリオの再構成=ウェイト調整のことを意味しています。マイクロソフトはFY25通期で売上+15%、直近四半期のAzureは+39%と、AIワークロードの取り込みで成長が加速。
エヌビディアは最新四半期で売上+56%、データセンター売上が過半に達するなどAIインフラの中核として突出しています。
こうした企業は市場の基盤であり、機関投資家にとっても流動性と情報開示の観点からコアに保有すべき対象です。

同時に、グーグルはQ2に+14%増収と、検索・YouTube・クラウドが総合で牽引。マイクロソフトはAI対応データセンター建設を前倒しし、四半期CAPEXは過去最大規模へ。
指数の過度な上位集中に備えつつ、AI需要の波及先(電力・冷却・ネットワーク・光学)や、ソフトウェア側の効率化(SaaSの座席拡大・増額課金)を取り込み、収益ドライバーをレイヤリングする、これがポートフォリオ再構成の為の重要なポイントです。
次の成長を担う「ポスト・GAFAM」の注目セクター

MATANAという枠組み
Microsoft / Apple / Tesla / Alphabet / Nvidia / Amazon の頭文字をとる「MATANA」は、AI・EV・半導体・クラウドが交差する次の成長のコアを象徴する枠組みです。
- Microsoft:Azure×AIで稼働率・単価・付加価値が同時に上がる構図。AI対応データセンター投資が Earnings を押し上げる好循環に。
- Apple:デバイスの厚みとサービス拡大で収益の粘り強さを維持しつつ、DMA対応でエコシステムの再設計が進む。
- Tesla:EV価格競争と需要変動で売上が揺れるが、自動運転・ロボティクスの実装が再評価のカタリスト。
- Alphabet:検索・YouTube・クラウドの三位一体で2桁成長、AI搭載のプロダクト刷新で収益源の多角化。
- Nvidia:Blackwell世代とネットワーキングの取り込みでラックスケール企業へ。顧客集中などのリスクも検討対象。
- Amazon:コマース×広告×AWSの相互補完で継続的なキャッシュ創出。
MTSAAS|中型SaaS企業の再評価
「MTSAAS(Microsoft, Twilio, Shopify, Amazon, Adobe, Salesforce)」は、Bessemerが2020年に提示したクラウド成熟の象徴的バスケット。
クラウド提供形態・高粗利・ストック収益というクラウド経済圏の美点を体現し、生成AIによる自動化・パーソナライゼーション・営業プロセス高度化でARPU向上と解約率低下の余地が広がります。
Twilioは通信APIのAI化とデータ基盤の統合でユースケース拡大、Shopifyは決済・金融・広告を束ねる国際コマースOS化を加速。
Adobeは生成AI搭載の制作基盤とドキュメント自動化の二面展開、SalesforceはData CloudとAIエージェントで業務横断の生産性を底上げします。
テーマ別ETFで次の成長にアクセスする選択肢
個別株のボラティリティが気になる局面では、テーマ型ETFを通じたアクセスが有効だと考えます。
■テーマ型ETFの一例
AI・自動化の【BOTZ】
クラウドSaaSの【WCLD】
自動運転・EVの【DRIV】
再生可能エネルギーの【ICLN】
ロボット・製造の【ROBO】 など
例えばBOTZは世界のロボティクス/AI関連へ時価総額加重で広く投資、WCLDはBVPクラウド指数を均等加重で追跡と、指数設計やリバランスの思想が異なります。
採用銘柄の重複、国・セクター配分、純資産規模と出来高、スプレッドを確認し、GAFAMの外側にある関連銘柄を段階的に取り込む発想が重要です。
DRIVはEV/自動運転のサプライチェーン(半導体・素材・部品)を広範に押さえ、ICLNは再エネ発電・部材・運用までをグローバルにカバー、ROBOは製造自動化と知能に分散投資します。
いずれもテーマのボラティリティが高く、景気/政策/規制の影響を受けやすいため、定額の積立と分散比率の上限設定、定期的な見直し(例:半年ごと)が運用実務上有効です。
個人投資家が意識すべき「企業の成長ステージの違い」

投資判断では「企業の成長ステージ」を意識しましょう。
成熟したメガテックは収益の安定感が魅力ですが、プロダクトの一部では減速や再編が進む局面もあります(例:ハードウェアの季節性やカテゴリ間の伸び悩み)。
一方、MATANAやMTSAASに含まれる中堅グロースは、需要拡大と価格設定力の向上が重なり今が伸び盛りになりやすい。
過去の勝ちパターンに捕らわれず、将来キャッシュフローの期待値に軸足を移すこと、これが2025年以降のパフォーマンスの差になる可能性があります。
定量では、売上の質(継続課金か)、粗利率、リテンション、ネットワーク効果、規制対応力(相互運用・データ開放)など、耐久的な競争優位に通じるKPIを重視したいところです。
サービス収益の比率が高い企業は、金利や景気の変動に対する耐性が相対的に高まりやすく、アップルのようにサービス売上が過去最高を更新するケースは良い例です。
逆にハード中心モデルは価格競争や在庫循環の影響が大きく、需要ショックの振幅が大きくなりがちです。
米国株は主役交代を前提とした戦略へ

結論として、米国株は主役交代を前提にした戦略を考えるべき時が来たのではないでしょうか?
メガテック一強の終わりは衰退ではなく、市場の正常化・周辺銘柄への裾野拡大のプロセスです。
コア(メガテック)を厚く持ちつつ、サテライト(ポストGAFAM)にMATANA/MTSAASやテーマETFを組み合わせる二層構造にする。
テーマは出来るだけその分野の進化で定義し、1社の将来ではなく、供給網と顧客の広がりに賭ける、その方が金利・規制・バリュエーションの急な変化に耐えられる戦略です。
このアイデアを組み込むには、
(1)市場上位のコアはリスク許容度に合わせて段階的に縮小
(2)サテライト領域はETFと個別の併用で広く薄く
(3)四半期ごとにバリュエーションとフローの点検
(4)規制対応アクション(DMA対応や独禁是正)をイベントとして管理
という型を提案します。
人気銘柄の指数での過剰ウェイトをナチュラルに低下させながら、次の主役候補を先回りで仕込む、これが脱GAFAM時代の基本ポートフォリオなのではないでしょうか?
執筆者情報
元外資系証券株式本部長マネジングディレクター
日系証券個人営業から証券人生をスタート。その後ロンドンと東京を拠点に20年以上に渡って外資系証券会社の主にトレーディングデスク及び各マネジメント職を歴任。2019年退職。得意分野はフローの裏側分析及び市場構造分析。現在はXやnoteなどで個人投資家向け株式投資の知識提供中心に悠々自適生活を送る。趣味は食とクルマ。