2026年7月17日の東京市場では、日経平均株価が前日比2,694円安の64,141円で取引を終了。
一時は下げ幅が4,130円を超え、下落率は6.2%に達しました。週間の下げ幅は4,416円と過去最大です。
震源となったのはキオクシアです。
寄り付きから売り気配となり、前日比1万円(16.1%)安の5万2,110円とストップ安で取引を終了。
6月22日につけた上場来高値11万2,700円から、1カ月足らずで半値以下に沈みました。
SNSのタイムラインが「AIバブル崩壊」で埋まる場面も見られました。
週明けの7月21日、22日にかけてはキオクシア株や日経平均が反発したものの、再度売りに押される場面も見られ、不安定な相場展開が続いています。
ただ、元トレーダーの肌感覚で言うと、今起きていることを一括りに「バブル崩壊」と呼ぶのは、需給の解像度が粗すぎます。
何が個別の要因で、何が市場全体の流れなのか。フローを分解して解説していきます。
キオクシアの株価が暴落した理由|特許評決と追証

※TradingViewより引用
7月17日に起きたキオクシアの大幅下落には、明確な個別材料がありました。
会社そのものに関わる特許訴訟の評決です。
ただし、ここまで大きく売られたのは、材料に加えて、株価の位置や信用取引といった需給面の要因が重なったからだとみられます。
この2つを順に見ていきます。
[関連]信用買い残が多いとどうなる?株価への影響と危険な銘柄の見極め方
371億円の賠償評決は「個別の事例」
まず引き金になったのが、米国での特許訴訟です。
米テキサス州西部地区連邦地裁の陪審は現地時間16日に、キオクシアのフラッシュメモリの誤り訂正技術が米衛星通信ビアサット(Viasat)の特許を侵害したとして、2億2,900万ドル(約371億円)の賠償を認定しました。
キオクシア側は「到底容認できるものではない」として控訴を含む対応を表明しています。
これは明確に個別の事例であり、メモリ業界全体の傾向ではありません。
しかも同社の26年3月期における営業利益は8,704億円(会社開示)。
371億円は、営業利益の約4.3%にとどまります。
また、これは一審の陪審評決にすぎず、最終的な負担額が確定したわけではありません。
つまり、ファンダメンタルズ(会社の本業の値打ち)への実害は、少なくとも現時点では限定的です。
追証を起点とした投げ売りが下落に拍車をかけた
それでもキオクシアがストップ安まで売られたのは、株価が「完璧」を織り込んで上場来高値まで駆け上がっていたところに、想定外の不確実性がやってきたからです。
日本経済新聞が「キオクシアのマネー逆回転が市場全体を揺らす」と書いた通り、追証(マージンコール)を起点にした機械的な投げ売りが、パンパンに膨らんだポジションを崩しにいきました。
株価が下がった際、証券会社から求められる追証の差し入れに応じられないと、保有株が強制的に売却されることがあります。
この強制的な売りが、下げをさらに加速させました。
これは値動きの主因を「特許侵害」だけに帰属させるのが早計であることを示しています。
震源はむしろ韓国|SKハイニックスのメカニズム
より重要なのは、今回の半導体安の震源がキオクシア単独ではなく、むしろ韓国発だという点です。
AIブームの中心にいたSKハイニックスで起きたことを追うと、材料と需給がどう噛み合ったのかが見えてきます。
ADR上場が需給の重しになった
SKハイニックスは7月10日に約265億ドルのADRをナスダックに上場し、その直後から記録的な乱高下に入りました。
ADR(米国預託証券)とは、外国企業の株を米国市場でも売買できるようにした証券です。
今回は過去最大級の規模で、米国市場に新たな売買経路が開かれたことが、需給環境を変化させる要因になりました。

【000660】SKハイニックス 日足チャート 2026年1月5日~7月22日
※TradingViewより引用
13日のソウル市場で同社株は15.4%安と過去最大の下落率を記録。
16日にも11.5%安となり、同日の韓国の代表的な指数KOSPIは6.4%下落し、心理的節目の7,000を割り込みました。
前提として、この銘柄はもともと極端に買われていました。
SKハイニックス株は過去1年で500%超、年初来でも6月25日の高値まで約3.6倍という水準まで上昇。
エヌビディアのAIサーバー向けHBM(AIの計算に使う超高速メモリ)の主力サプライヤーで、AIブームの純度が最も高い銘柄の一つだったからです。
そこにナスダックADRという新たな大型の株式供給が加わり、上場直後の値付けが定まらないうちに、リテール(個人投資家)中心のポジションが一斉に利益確定に動きました。
下落の引き金はHBM価格の上昇ペースへの疑義
SKハイニックスが下落したきっかけの一つは、あるアナリストレポートでした。
韓国投資証券が「今四半期の営業利益が市場予想の平均(コンセンサス)を8%程度下回りうる」とし、その理由として「HBM(超高速メモリ)の価格上昇ペースが従来ほど急ではない」と指摘したのです。
さらに遡ると、7月2日には、メタが余剰のAI計算資源を外販するクラウド構想を報じられ、メモリ需要の先行きに対する懸念が一度出ています。
いずれも「需要が消えた」という話ではありません。
DRAMやNANDはもともと価格の波(サイクル)が激しい部品であり、そのなかでも最も強気に価格上昇を織り込んでいた銘柄群について、限定的な失望が広がった形です。
ロジック(演算を担う半導体、TSMCが代表的な受託製造企業)とメモリ(ハイニックス・サムスン・キオクシア・マイクロン)では、同じAI関連でも株価に織り込まれた期待の高さが違う、という点は押さえておく価値があります。
レバレッジと指数集中が下げを増幅した
さらにSKハイニックスの下落を増幅させたのが、需給とレバレッジのメカニズムです。
韓国メモリ2社の値動きに連動するレバレッジETFの一部は、5月の上場以来ほぼ半値になっています。
KOSPIは2026年に入ってサイドカー(急変時にプログラム売買を一時止める制度)が37回発動し、2000〜2025年の累計6回と比べて桁違いの頻度です。
しかもSKハイニックスとサムスン電子の2社だけで、KOSPIの時価総額の約半分を占めます。
そのため、この2銘柄が崩れると指数全体が実際以上に大きく下がりやすくなります。
東京市場へも伝播|大型半導体株4銘柄で日経平均を1,590円押し下げ
同じ構図が東京市場にもあります。
7月17日はアドバンテスト・東京エレクトロン・ソフトバンクグループ・キオクシアのわずか4銘柄で、日経平均を約1,590円押し下げました。
相場のセンチメントが急変するとき、まず売られるのは、日々の値動きが大きく、信用の買い残とレバレッジ商品の資金が積み上がった、いわゆるハイベータ銘柄(市場平均より大きく動く銘柄)です。
追証が追証を呼び、それが指数寄与度の高い数銘柄に集中しているために、指数の見た目以上に「厳しい」下げになります。
ここに中東情勢の緊迫と原油高、3連休を控えた持ち高調整という地合いの悪化が重なりました。

※TradingViewより引用
前工程・インフラ側はむしろ強い|ASMLとTSMCの決算

では、AIへの設備投資の流れそのものは崩れているのでしょうか。
ここが今回いちばん判断の割れるところです。
株価が急落したメモリ各社とは対照的に、半導体をつくる装置メーカーや受託製造会社といった「川上(前工程)」の企業は、直近の決算でむしろ強い数字を出しています。
これらの受注は数年先の需要を映すため、先行きを占うヒントになります。
ASML|2027年に必要な受注はほぼ埋まる
7月15日に決算を出したASMLは、第2四半期の売上高が93億ユーロ・粗利率54%となり、会社の事前見通し(ガイダンス)も上回りました。
経営陣は「2027年の受注はほぼ必要分が埋まり、2028年分の大口注文も入り始めている」とし、メモリ向け売上は約75%増加する見通しを示しています。
TSMC|粗利率67.7%、設備投資はレンジ上限で執行
翌16日に決算発表したTSMCの売上は402億ドル(前年同期比+33.7%)・粗利率は67.7%と過去最高水準に。
AIサーバーなどの高性能計算(HPC)向け売上は前四半期比+20%、2026年の設備投資額については、過去最大となる520億~560億ドルを計画し、レンジ上限付近で執行する構えを示しました。
生成AIから、エージェント型AIへの移行で需要は「極めて堅調」だと述べています。
加えて、TSMCが7nm以下の先端プロセスでアップル・エヌビディア・クアルコムなど主要顧客に5〜10%の値上げを通知していると報じられています。
これが事実なら、需要が弱まるどころか、価格決定力を維持できるほど需給が引き締まっている場面だという裏づけになります。
つまり、AIサプライチェーンの最上流にいる2社の前向きな受注データは、少なくとも現時点では「崩壊」とは逆を指しています。
フィラデルフィア半導体(SOX)指数が6月高値から最大16%下げたという事実と、この上流の強さは、同じ市場のなかで併存しています。
二つの見方|ディレバレッジ説とピークアウト予兆説

ここから先は、投資家のあいだでも解釈が割れる領域なので、断定せずに両方を並べます。
足元の下落について、「行き過ぎた持ち高の巻き戻し(ディレバレッジ)」と見るか、「本格的な下落の入り口」と見るか、投資家によって意見が分かれているのです。
ディレバレッジ説|巻き戻しであって需要は折れていない
一つの見方は、この下落は「AIバブルの全面崩壊」ではなく、最もレバレッジがかかり、最もリテールが群がり、最も景気循環的に高く買われていたメモリ・高ベータ銘柄で、膨らんだ持ち高を外す動き(ディレバレッジ)だ、というものです。
上流のASML・TSMCが強い以上、需要そのものが折れたのではなく、ポジションと株価倍率の巻き戻しが起きている、という見方です。
この見立てなら、SOXの16%下落もレバレッジ解消の規模感として整合的に説明できます。
ピークアウト予兆説|上流の強さは安心材料にならない
もう一つは、逆に慎重な立場からの見方です。
今回の直接の引き金が、HBMの価格の上がり方(価格スロープ)への疑いだった以上、これは需給のほころびが業績に及ぶ前触れかもしれない、という見立てです。
装置メーカーの受注は、1〜2年先の需要を見込んで出されます。
そのため、いま受注が好調でも、それは少し前に各社が描いた将来予想を映しているだけかもしれません。
実際に需要が鈍り始めても、すでに決まった発注はしばらく入り続けるので、受注は需要が天井を打つ(ピークアウトする)直前まで強いまま見えがちです。
上流の強さは、必ずしも安心材料にはならない、という反論です。
まとめ|次に見るべきは「実勢価格」と「伝播経路」

ディレバレッジ説とピークアウト予兆説のどちらが正しいかを、いまある情報で判断することはできません。
判断を分ける最大の材料は、7月29日(水)に控えるSKハイニックスの決算です。
争点であるHBMやNANDの実勢価格が、本当に鈍化しているのかどうか。
ここが「ポジションの問題」なのか「価格の問題」なのかを分ける分水嶺になります。
個人投資家にとっての実務的な意味は、「バブル崩壊か、押し目か」の二択に賭けることではなく、震源(メモリの実勢価格)と、その伝わり方(レバレッジ・指数集中・追証)を切り分けて観察することだと思います。
金曜のパニックが教えてくれたのは、答えそのものではなく、次に何を確認すべきかという視点を持つことの大切さでしょう。

今なら急騰期待の“有力3銘柄”を
無料で配信いたします
買いと売りのタイミングから銘柄選びまで全て弊社にお任せください。
投資に精通したアナリストの手腕を惜しげもなくお伝えします。
弊社がご提供する銘柄の良さをまずはご実感ください。
▼プロが選んだ3銘柄を無料でご提案▼
執筆者情報
元外資系証券株式本部長マネジングディレクター
日系証券個人営業から証券人生をスタート。その後ロンドンと東京を拠点に20年以上に渡って外資系証券会社の主にトレーディングデスク及び各マネジメント職を歴任。2019年退職。得意分野はフローの裏側分析及び市場構造分析。現在はXやnoteなどで個人投資家向け株式投資の知識提供中心に悠々自適生活を送る。趣味は食とクルマ。

![Invest Leaders[インベストリーダーズ]](https://jioinc.jp/investleaders/wp-content/uploads/2025/07/logo_01.png)

