映画『サロゲート』の未来は近づいているか|ヒューマノイドロボットの現在

遠藤 悠市

日本投資機構株式会社 アナリスト

映画『サロゲート』の未来は近づいているか|ヒューマノイドロボットの現在

『サロゲート』という映画を観たのは、もうかなり前のことです。

いつ、どんなきっかけで観たのかは正直あまり覚えていません。ただ、当時は「人間が自宅で寝転がりながら、代理のロボットに人生を託す」という設定を、よくできたSFとして純粋に楽しんでいた記憶があります。

それが最近、AIやヒューマノイドロボットの進化のニュースを追っているうちに、ふと「あの映画、思ったより現実に近いところまで来ているのではないか」と感じるようになりました。

今回は、その直感を実際の技術動向に照らして確かめてみます。

目次

映画の設定を、2つの要素に分けてみる

映画の設定を、2つの要素に分けてみる

『サロゲート』の世界観は、突き詰めると2つの要素でできています。ひとつは「遠隔操作できる代理の身体」、もうひとつは「本人は自宅にいながら、その代理身体を通じて社会生活のほぼすべてを送る」という生活様式そのものです。

この2つを分けて考えると、見えてくるものが変わります。前者はすでにかなりの部分が実現しているのに対し、後者はまだ実現していません。以下、それぞれ見ていきます。

先に整理|似ているようで違う3つの言葉

先に整理|似ているようで違う3つの言葉

この話には「ヒューマノイドロボット」「アバターロボット」「分身ロボット」という似た言葉が出てきますが、実は指しているものの軸が違います。混同しやすいので、先に整理しておきます。

  • ヒューマノイドロボット…「形」に注目した呼び方。頭・胴・二本の腕と脚を持つ人間型ロボットの総称で、近年は自分で判断して動く自律型を指すことが多い言葉です。テスラやボストン・ダイナミクスが開発しているのがこれにあたります。
  • アバターロボット…「誰が動かすか」に注目した呼び方。離れた場所にいる人間が、自分の分身として遠隔操作するロボットを指します。必ずしも人間型とは限りません。
  • 分身ロボット…アバターロボットを日本語で言い換えたような呼び方。「OriHime」のように、その場にいない人が”入り込む”もう一つの身体、というニュアンスで使われます。

つまり、ヒューマノイドが「人間の形をしているか」を問う言葉なのに対し、アバター・分身は「遠隔の誰かが動かしているか」を問う言葉です。

両方を兼ねるロボット(人間型のアバターロボット)もあれば、どちらか一方だけのものもあります。

映画『サロゲート』の代理身体は、人間型で、かつ本人が遠隔操作する――つまり3つすべてが重なった存在だった、と考えると分かりやすいかもしれません。

テレイグジスタンス|遠隔操作でつながる代理の身体

テレイグジスタンス|遠隔操作でつながる代理の身体

遠隔操作で動く身体という要素技術は、実は日本発の研究にルーツがあります。1980年、東京大学名誉教授の舘暲氏が世界に先駆けて提唱した「テレイグジスタンス」という概念です。自分の意識はそのままに、離れた場所にあるロボットを通じて、あたかもそこにいるかのように行動する、という考え方です。

この概念は、すでに実用例を持っています。

2010年、ロボットコミュニケーターの吉藤健太朗氏が開発した分身ロボット「OriHime」は、2014年から難病患者宅や教育現場で実際に使われています。外出が難しい人が、ロボットを通じて社会とのつながりを保ち続ける。これはまさに『サロゲート』的な発想そのものが、すでに現実の生活の中で機能している例です。

商業的な広がりも出てきています。遠隔地からロボットを操作し、あたかも自分がそこにいるかのように接客や配膳を行うサービスもすでに実現しており、身体的な制約を持つ人の雇用機会を広げる文脈で使われています。映画の中の「代理の身体」というアイデアは、すでにSFの外に出て、現実の福祉・雇用の現場で役割を果たし始めているのです。

ヒューマノイドロボットが「自ら動く」未来へ近づいている

ヒューマノイドロボットが「自ら動く」未来へ近づいている

映画の中の代理ロボットは人間が直接操作するものでしたが、最近の技術動向は、ここに自律性を足す方向に進んでいます。

国内のロボティクス企業は2026年、ヒューマノイドロボットが自律的に動作するデモと、AIが「次に何が起こるか」を予測しながらロボットの動きを導く仕組みの成果を発表しました。実際のロボット遠隔操作データを学習に活かし、実世界の動きの予測精度を高める取り組みも進んでいます。

ただし、現実はまだ映画のようにスムーズではありません。現状の自律動作は実用的な速度には届いておらず、動きにはまだぎこちなさが残っているとされています。

つまり今はまだ、「体を明け渡して、脳だけで生きる」という映画の世界ではなく、「ロボットに部分的に体を貸してもらいながら、人間自身がまだ運転席に座っている」段階に近いというのが実情です。

ロボット開発者自身が語る、本質的な問い

ロボット開発者自身が語る、本質的な問い

この分野の開発者自身の言葉が印象的です。ある企業の開発責任者は、アバターロボットの開発を通じて「人間が兼ね備えた能力の素晴らしさをあらためて実感する」と語っています。

ロボットに人間の代わりをさせようとするほど、逆説的に人間そのものの精巧さが浮き彫りになる、ということかもしれません。そしてアバターが実現する未来を描くことは、「人間とは何か」という根源的な問いに重なるとも述べています。

身体の代理と、生活そのものの代理は違う

身体の代理と、生活そのものの代理は違う

ここまで見てくると、『サロゲート』的な未来のうち、「代理の身体を持つ」という部分はすでに現実の一部になっていることが分かります。しかし映画が描いていたのは、それだけではありませんでした。

人々が本人の身体をほとんど動かさず、日常生活の大半を代理身体経由で完結させる、という生活様式そのものです。

現状の分身ロボットは、あくまで「特定の場面で、特定の目的のために」使われています。難病で外出できない、遠隔地から接客したい、といった具体的な必要性に応じた利用です。

これが「生活のデフォルト」になる、つまり多くの人が日常的にそちらを選ぶようになるかどうかは、技術の完成度だけでは決まらない、もっと大きな問いのように思えます。

絵空事ではなくなった選択肢

技術的には、『サロゲート』の代理身体というアイデアは、すでに一部が現実になっています。まだ足りないのは、自律性の精度と、それが「特別な状況での道具」から「日常のデフォルトの選択肢」へと切り替わるための、社会側の受け入れです。

映画を観ていた当時は、これをただのSF的な想像として楽しんでいました。

ただヒューマノイドロボットが現実に動き出した未来を前に技術の進み方を追ってみると、「代理の身体を通じて生きる」という選択肢自体は、すでに絵空事ではなくなっています。

あとは、それをどこまで、何のために使うか。この問いは、技術の話であると同時に、私たち自身がどう生きたいかという選択の話でもあるように思います。

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執筆者情報

nari

遠藤 悠市

日本投資機構株式会社 アナリスト

大学時代に投資家である祖母の影響で日本株のトレーディングを始める。大学時代、アベノミクスの恩恵も受けて資金を増やすことに成功する。卒業後、証券会社、投資顧問会社を経て2019年2月より日本投資機構株式会社の分析者に就任。モメンタム分析を最も得意としており、IPO(新規上場株)やセクター分析にも長けたアナリスト。

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