日本精機社インタビュー|2つの「世界シェア1位」で安心と感動に満ちた未来をつくる

峯岸 恭一

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

高速道路を走っていると、時間がゆっくり流れているように感じることはないでしょうか。
代わり映えのしない景色が続くなか、ふとメーターに目を落とすと、体感よりもずっと速い数字が表示されていた。
そんな経験がある方も少なくないでしょう。

正確な速度など、人間の感覚では捉えられない情報をドライバーに伝えるのが計器(メーター)です。
今回は、そんな車載計器を手掛ける創業80年の老舗企業、日本精機株式会社(7287)に取材を行いました。

同社は、フロントガラスに速度やナビゲーション情報などを映し出すHUD(ヘッドアップディスプレイ)や二輪車用計器において世界トップシェアを有しています
一方、株価はPBR(株価純資産倍率)1倍を下回っており、市場評価の向上が課題の一つとなっています。

こうした中、同社は中長期的な成長を目指し、2026年4月に車載スイッチの製造・販売を手掛ける東洋電装株式会社の完全子会社化を発表しました。
「情報を表示する」技術に、スイッチで「情報を入力する」機能を加え、ユーザーに更なる安全性・信頼性を提案できるHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)ソリューション企業への進化を目指します。

これまでに磨いてきた技術や顧客基盤を、東洋電装との連携によってどのように成長へつなげていくのか。
同社の事業管理本部コーポレート・コミュニケーション部シニアマネージャーの小松原圭司氏にお話をうかがいました。

目次

戦後復興期の長岡から始まった80年の歩み

取材は、意外な問いかけから始まりました。
「長岡の花火、ご存知ですか?」

新潟県長岡市で毎年8月に開催される長岡まつりの大花火大会は、秋田・大曲、茨城・土浦と並ぶ日本三大花火のひとつ。
夜空を埋め尽くす大輪の花火で知られますが、小松原氏が語ったのは、その華やかさの裏にある歴史でした。

「長岡花火には、長岡空襲の犠牲者への慰霊や、復興・平和への願いが込められています」

1945年8月1日、長岡は空襲で焼け野原になりました。
戦後間もないその地で歩みを始めた企業のひとつが、同社です。

材料が限られる時代でも、技術を磨き、製品づくりに取り組んできたといいます。
まずは時計部品の製造から始まり、そこで培った技術と知識をもとにメーターの開発に着手したようです」と小松原氏は説明します。

長岡とともに復興し、成長してきた企業として、同社は長岡花火大会への協賛を続けています。

スーパーカブへの採用が成長を加速させた

同社は、1947年にメーターの生産を開始。
戦後の混乱を乗り越え、高度成長期を迎えた1959年、事業を大きく飛躍させる転機が訪れます。

ホンダのスーパーカブに当社のメーターが採用されたことが、飛躍のきっかけです
ここから事業が拡大していきました」

スーパーカブは、シリーズ累計生産台数が1億台を超える、世界的なロングセラーモデルとして知られます。
悪路でも走れる耐久性や優れた燃費性能を武器に、国内外で急速に普及しました。

1960年の月間生産台数は2万7,000台。
それまで日本のバイクメーカーの「年間」販売台数が4万台だったことを考えると、その生産規模がいかに突出していたかが分かります。

さらに1960年には、四輪車用メータの生産も開始。
高度経済成長期に入り、人々の所得水準が向上するなかで、移動手段は二輪車から四輪車へと広がっていきましたそうした時代の変化を背景に、当社も事業領域を拡大しながら成長を遂げてきました

世界シェア1位のHUD(ヘッドアップディスプレイ)が誕生

二輪車や四輪車用の計器を中核の事業として成長を続けてきた同社は、1999年にヘッドアップディスプレイ(HUD)の量産を開始。
ヘッドアップディスプレイとは、フロントガラスに速度やナビゲーション情報を映し、ドライバーが前方から目線を外さずに確認できる技術です。
同社は、欧米・国内の大手自動車メーカーを主要顧客とし、同社調べでは、世界トップシェア(シェア約23%)となっています。

日本精機株式会社 2026 年 7 月 2 日個人投資家向けオンライン会社説明会 書き起こし P10
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速度を確認するだけなら既存のメーターで十分にも思えますが、この技術はなぜ生まれたのでしょうか。

欧州の高速走行環境で普及が進む

日本精機株式会社 提供

「欧州のアウトバーンなど、高速で運転する環境下では、ドライバーは運転しながら目線を下ろすことがなかなかできません
そこで、運転をしながらさまざまな状況が見られるヘッドアップディスプレイの普及が進みました」

欧州のアウトバーンには速度制限のない区間が存在しますが、高速走行時には、わずかな視線移動も大きなリスクにつながります。
だからこそ、前を見たまま情報を確認できる技術が求められたのです。

「ヘッドアップディスプレイの売上は、欧米向けが中心で、日本向けは現時点では限定的です。
現地の各種リサーチレポートでも、一度利用すると運転時の負担が軽減されるとの評価が多く、今後も搭載を希望する声が多いとされています」

Global Market Insights Inc.によると、世界の自動車用ヘッドアップディスプレイ市場は、2026年の13億米ドルから2035年には74億米ドルに成長する見通し
年平均成長率は21.1%に達すると予測されており、同社はシェアの維持・拡大を目指しています。

RAV4への採用がさらなる普及のきっかけに

利便性の高いヘッドアップディスプレイですが、日本国内ではまだ広く普及していません。
欧米ほど高速で運転する機会がないほか、装置の大きさやコストも普及を妨げる要因になっています。

「ヘッドアップディスプレイ本体の小型化は進んでいるものの、現時点ではなお一定の設置スペースを要するのが実情です。
また、映像を投影するためにはフロントガラス側にも専用の加工が必要となり、その分がコスト上昇の一因となっています。
そのため、価格面での制約が大きい軽自動車や小型車においては、普及がまだ限定的な状況にあります」

そうしたなか、2025年12月に、同社のヘッドアップディスプレイがトヨタ自動車のRAV4に採用されたことが公表されました。

日本精機株式会社 2026年3月期 決算説明会資料 P32
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「RAV4は販売規模の大きい人気車種であり、今回採用いただけたことを大変ありがたく受け止めています。
多くのお客様にヘッドアップディスプレイの価値を体感いただくことで、市場のさらなる広がりにつながるものと期待しています」
同社のヘッドアップディスプレイがトヨタに採用されるのは、今回が初めて。
多くのドライバーが利便性を体感すれば、普及拡大のきっかけになる可能性があります。

「安心と感動に満ちた未来をつくっていく」

二輪車や四輪車用のメーターからヘッドアップディスプレイへと製品領域を広げてきた同社には、「安心と感動に満ちた世界と未来をつくっていく」という一貫した企業理念があります。

「ドライバーにとって、速度や車両の状態は、直接目で確認できるものではありません。
当社は、そうした情報を的確に捉え、ヘッドアップディスプレイやメーターを通じて分かりやすく可視化することで、より安心して運転していただける環境づくりに貢献したいと考えています」

同社は、「見えないものを、見えるようにする」、人と車やバイクとをつなぐインターフェースをつくる会社です。
そして「つながる技術で、インターフェースの価値を創造する」という同社の目指す姿こそが、東洋電装の買収を読み解く鍵になります。

22年3月期に初の営業赤字を経験。変革期が到来

「売上の推移を振り返ると、当社はおおむね堅調に成長を続けてきました」と、小松原氏は同社の歩みを振り返ります。
実際、バブル崩壊やリーマンショックといった局面で一時的に売上が伸び悩む時期はあったものの、同社は長年にわたり営業黒字を維持してきました。

しかし、22年3月期にその歴史が途切れます。
「2020年の新型コロナウイルス感染拡大に続き、2022年頃からは自動車業界全体で半導体部品の調達が困難な状況となりました。
当社においても車載製品の生産に大きな制約を受け、その結果、初めて営業赤字を経験することとなりました」

初の営業赤字は、同社にとって、事業環境の変化を強く認識する大きな転機となりました。
「2020年以降は、部材価格の上昇に加え、一部部品の調達難や人件費の上昇など、従来のビジネスモデルを取り巻く前提が少しずつ変化してきました。
そうした環境変化に対応するため、事業運営の在り方を見直し、シフトチェンジを図ってきたこの4、5年は、当社にとって非常に重要な時期であったと考えています」

では、そうした時期を乗り越えた現在、同社の収益構造はどのようになっているのでしょうか。
足元の事業の状況についてうかがいました。

二輪車用計器が収益を支える柱に。ASEAN・インドで成長が続く

同社の26年3月期におけるセグメント別の業績を見ると、二輪車用計器事業の営業利益は95億6,000万円。
二輪車用計器事業が、全社利益を大きく支えています。

日本精機株式会社 2026年3月期 決算説明会資料 P18
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この背景には、新興国市場における二輪車需要の強さがあります。

「ASEAN地域では、二輪車の販売が非常に堅調に伸びています。
かつて日本でも、通勤など日常の移動手段として二輪車が広く利用されていた時期がありました。

現在のASEAN地域では、それと同様に二輪車が生活に根ざした移動手段として定着しています。
二輪車は、価格面でも手に取りやすいモビリティであることから、市場の拡大が続いています

同社は、高い耐久性・品質を背景に需要を取り込んでおり、二輪車計器でも世界のトップシェアの一角を担っています(約23%)。

「二輪車は屋外に置かれることが多く、雨風や砂塵、温度変化など、厳しい環境にさらされる製品です。
そのため、計器には耐塵性や耐候性をはじめとする高い性能が求められます。
そうした過酷な使用環境においても、計器としての役割を確実に果たせる製品を提供できる技術力の高さが、当社の強みであると考えています」

四輪車向け計器事業は、収益性向上が課題

一方で、ヘッドアップディスプレイを含む四輪車用計器事業は収益性の改善が課題となっています。

26年3月期においては、四輪車用計器事業の売上高は1,743億1,600万円となりました。
一方で、顧客のEV戦略見直しに伴う開発資産の減損損失や、一時的な買収関連費用の計上などの影響により、四輪車用計器事業の営業損益は17億8,500万円の赤字となりました。

日本精機株式会社 2026年3月期 決算説明会資料 P27
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「ヘッドアップディスプレイについては、市場の中長期的な成長には期待しているものの、足元の2か年では、欧州メーカーの中国市場における苦戦の影響もあり、売上は当初想定を下回る推移となりました。
また、利益面では、コストダウンや売価転嫁などの取り組みを継続して進めています。
ただ、販売台数の伸びが想定ほど得られていないことから、量産効果による収益改善が十分に発現せず、利益改善にはなお時間を要している状況です」

同社はこの四輪車用計器事業の収益性を経営の重要課題と捉えており、顧客との交渉による価格転嫁、設計・生産プロセスの最適化、コスト削減をさらに進めていく方針です。

『見えないものを見えるようにする』技術領域の拡大

足元の状況について、「通商政策や中東情勢の緊迫化に伴う物流・サプライチェーンへの影響など、外部環境の変化は一段と複雑さを増しています。こうした環境下では、従来以上に状況を的確に見極め、柔軟かつ迅速に意思決定し、対応していくことが経営に求められていると感じています。」と小松原氏は話します。

そうしたなか、同社は、「見えないものを見えるようにする」技術の応用範囲を広げようとしています。

「小型」「高精度」「高信頼性」にこだわった様々なセンサー製品をラインナップ

日本精機株式会社 2026年3月期 決算説明会資料 P33
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同社では、燃料タンクの残燃料を検出する液位センサー、エンジンやトランスミッションの回転数や位置を検出する回転センサー、角度センサーなどを展開しています。

「環境、安全、快適といった市場ニーズの変化を的確に捉え、新たな車載センサー製品の開発も進めています」

たとえば、EV向けには、駆動モーターの回転位置を検出するセンサーの開発を進めています。
モーターの回転状態を高精度に把握することは、駆動制御の精度向上に欠かせない要素です。

また、二輪車向けには、加速度や角速度を検出する「6軸IMU」を展開しています。
車両の挙動を把握するための基盤となるセンサーであり、走行状態の検知を通じて、安全性や制御性能の向上に貢献することが期待されています。

さらに、足元で需要拡大が見込まれるのが、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)向けの車輪速センサーです。
ABSは、急制動時などに車輪のロックを抑制し、車両の安定性を確保するための安全装置です。
車輪速センサーは、各車輪の回転速度を検出することで、ABS制御を支える重要な役割を担っています。

インドでは、2026年から新たに販売されるすべての二輪車にABSの搭載が義務化される予定であり、同市場における関連部品の需要拡大が期待されます。
ABSに関しては、インドにおいて二輪車への搭載義務化が進んでいることが、大きな事業機会になると考えています」と小松原氏も話します。

技術を応用し、車載以外の分野にも新製品を投入

日本精機株式会社 2026年3月期 決算説明会資料 P34
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車載分野以外の分野でも、2025年度に2つの新製品を公表しました。

1つ目は、建設現場のショベルカーに後付けで取り付けられるセンサー「Holfee3D」です。

「建設現場では、担い手不足が年々深刻化しています。
一方で、大型ショベルではICT化が進みつつあるものの、市場の多くを占める小型・中型ショベルについては、まだ十分にICT化が進んでいないのが現状です。

Holfee3Dは、こうした小型・中型ショベルにも後付けで装着できるセンサーキットです。
外部の電子野帳アプリ上で、バケット先端の位置や角度などを確認できるようになります」

建設業界では、慢性的な人手不足を背景に、省人化や施工効率化へのニーズが一段と高まっています。
同社はHolfee3Dを通じて、建設現場における作業の効率化や品質向上を支援し、現場課題の解決に貢献していく考えです。

また、ヘッドアップディスプレイのプロジェクター技術と光学設計を転用した屋外向けLEDプロジェクター「LumiPATH(ルミパス)」も公表しました。

「当社が培ってきた光学技術を活用し、従来とは異なる切り口から社会の安全性向上に貢献できないかという発想から開発した製品です。

高速道路では、工事現場に車両が進入してしまう事故が少なくありません。
こうした事故の抑制に向けて、新たなアプローチができないかと考え、現在は共同で実証実験も進めています。

一定の効果が期待できる結果も得られつつありますが、本格的な普及はこれからです。
一方で、道路工事の現場は全国に数多く存在しており、その有効性が広く認められ、導入が進んでいけば、大きな可能性を持つ製品になると考えています」

車載以外の分野の製品でも「見えないものを、見えるようにする」「安心と感動に満ちた未来をつくっていく」といった理念が同社の軸になっています。

東洋電装の子会社化による事業領域の拡大

自社で新たな取り組みを進める一方で、同社はM&Aによる非連続的な成長も狙っています。
その大きな一手が、2026年4月20日に発表した東洋電装株式会社の完全子会社化です。

日本精機株式会社 東洋電装株式会社の株式取得(子会社化)について P12
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売上1,000億規模の大型M&Aの狙い

東洋電装は、四輪車・二輪車向けの各種スイッチやHMIシステムを手がける非上場企業です。
25年3月期の売上高は約1,000億円、従業員は約8,700名。
売上の約70%が四輪車向け、約25%が二輪車向けで、ホンダ向けの売上比率は80%を超えています

日本精機株式会社 東洋電装株式会社の株式取得(子会社化)について P3
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26年3月期の売上高が3,278億9,400万円の同社にとって、大型のM&Aとなります。
この狙いはどこにあるのでしょうか。

「東洋電装のM&Aにより、当社に『インプット領域』の製品群が加わることになり、製品ポートフォリオが拡充します。
今後は、両社がそれぞれ築いてきた顧客基盤を活かしながら、相互に製品提案の機会を広げていくことで、新たなお客様との接点創出や取引拡大につなげていきたいと考えています」

日本精機の計器やヘッドアップディスプレイは、情報を出力(アウトプット)する製品です。
一方、東洋電装のスイッチ類は、ドライバーの操作を入力(インプット)する製品。
製品ラインや顧客基盤の拡充が期待されます。

日本精機株式会社 東洋電装株式会社の株式取得(子会社化)について P4
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新たな価値提供と効率化にも期待

さらに、人と車やバイクをつなぐインターフェースを手がける企業として、さらなる成長への期待も高まります。

日本精機株式会社 東洋電装株式会社の株式取得(子会社化)について P6
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スイッチによる入力と、計器やヘッドアップディスプレイによる出力。
この双方をグループ内に取り込むことで、人とモビリティの情報伝達を担うHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)領域において、中長期的な成長基盤の確立を目指しています。

「入力と出力をより近い距離でつなげることで、より快適な情報提示やフィードバックを実現する提案ができないかと考えています。
まだ買収の統合前であり、具体的なお話ができる段階ではありませんが、今後は技術面でのシナジーも創出していきたいです」とのこと。

加えて、購買機能の連携や事業面での協業を深めることで、相互のメリットを引き出し、効率化にもつなげていく考えです。
統合にあたっては、まず顧客基盤の相互活用や業務効率化を通じて事業基盤を強化し、そのうえで、両社の技術や知見を活かしたより良い製品づくりを進めていく方針です。

2027年中の新中期経営計画公表に向けて

2026年10月1日に予定されている東洋電装の株式取得実行後、同社は本格的なPMI(買収後の統合)に着手する見通しです。
現在の中期経営計画は2027年3月期が最終年度にあたりますが、現時点の業績予想には、東洋電装の子会社化による影響はまだ織り込まれていません。
影響額については、判明次第、速やかに開示される予定です。

東洋電装を含めた新たな企業像がより明確になるのは、2027年に公表予定の次期中期経営計画(2028年3月期〜2030年3月期)とみられます。
売上高1,000億円規模の東洋電装が通年で寄与し、両社のシナジーが業績面にも表れ始める時期として注目されます。

M&Aを通じた成長戦略が、今後どのように具体的な数値として示されていくのか。
次期中期経営計画は、その方向性を見極める重要な節目となりそうです。

ROEをどう引き上げるのか

新中期経営計画で特に注目されるのは、ROE(自己資本利益率)をどのように引き上げていくかという点です。

同社の26年3月期のROEは3.7%
2023年11月に公表した現中期経営計画では、27年3月期に5.5%、30年3月期に8.0%というROE目標を掲げています。

日本精機株式会社 新中期経営計画 2026 P11
https://www.nippon-seiki.co.jp/wp-content/uploads/shinchuukei2026.pdf

この点について、小松原氏も課題認識を率直に示します。
「市場評価を高めるには、収益性や資本効率の改善が重要だと認識しています」

同社の株価は2025年以降、大きく上昇したものの、PBRは依然として0.6倍近辺にとどまっています(2026年7月時点)。
今後さらに市場評価を高めていくためには、収益性の改善が不可欠だというのが、小松原氏の認識です。

【7287】日本精機 週足チャート 2018年1月1日~2026年7月16日
※TradingViewより引用

一方で、同社は高い技術力に自負を持っています。

「当社は、一般的な認知度は高くありませんが、二輪車用計器やヘッドアップディスプレイでは世界トップクラスのシェアを有しています。
特にヘッドアップディスプレイは、技術要請が非常に厳しい欧州メーカーと取引があり、そのなかで技術力を鍛えられてきました」

課題は、その技術力をより高い収益性につなげていくことです。

「持っている技術をしっかり利益につなげられていないということは大きな課題です。
技術価値に見合った価格形成が課題との投資家の指摘もあります。
もちろん、顧客との関係や市場競争環境も踏まえる必要があります。

次の中期経営計画では、成長分野における技術力をさらに高め、より多くのお客様に当社の製品を提供していきたいと考えています。
そのうえで、コスト上昇を踏まえた価格適正化にも取り組みながら、収益性と資本効率の改善を図っていく必要があると考えています」

新中期経営計画では、同社が有する高い技術力をいかに収益へ転換していくのか。
その具体的な方針が示されるかどうかが、重要な注目点となりそうです。

27年3月期は株主還元方針にも注目

また、27年3月期中の期待材料としては、株主還元が挙げられます。
同社は、「現中期経営計画期間(25年3月期〜27年3月期)において、総還元性向80%の株主還元を実施する」という方針を掲げています。

日本精機株式会社 新中期経営計画 2026 P18
https://www.nippon-seiki.co.jp/wp-content/uploads/shinchuukei2026.pdf

現時点までの還元実績を確認すると、25年3月期は29億円の配当と27億400万円の自己株式取得を実施しました。
26年3月期は総額45億9,400万円の配当を実施し、27年3月期は52億円の配当を予定しています。

一方、25年3月期、26年3月期の純利益に、27年3月期の予想純利益を加えた3か年合計は243億4,200万円です。
これを前提にすると、一定の追加還元余地があるとの見方もできます

「26年3月期は、インサイダー取引規制への抵触を避ける観点から、結果的に、自己株式取得を実施できませんでした。
追加還元については今後検討していきます」と小松原氏は話します。

27年3月期において、追加還元の発表があるかどうかは、注目すべきイベントとなりそうです。

TOPIX新規採用の可能性にも注目

弊社アナリスト 峯岸

同社を語るうえで、2026年に見逃せないテーマがもうひとつあります。
TOPIX(東証株価指数)への新規採用です。

従来のTOPIXは旧東証一部の銘柄で構成され、東証二部やスタンダード市場の銘柄は対象外でした。
ところが2026年10月からの第2段階の見直しで、市場区分(プライム・スタンダード・グロース)の壁が取り払われ、流動性と規模の基準を満たせば採用対象になります。
そして、東証スタンダード市場に上場する同社は、基準を満たす可能性があるとみられます。

条件を満たしているかが判断される基準日は2026年8月の最終営業日で、それをもとにした入れ替えの実施は2026年10月の最終営業日です。

新規採用の株価インパクトは、決して小さくありません。
TOPIXに新規採用されると、指数に連動する運用を行うパッシブファンドが、その銘柄を新たに買い付ける必要が生じます。

これは、株式需給面での注目材料となり得ると考えて良いでしょう。
流動性と知名度の向上にも期待したいところです。

高い技術で、安全・安心に貢献し続ける

日本精機株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 
シニアマネージャー 小松原 圭司氏(右)
          有木 康之氏(左)

なかなか目立つ存在ではありませんが、同社は、皆さんが日々利用する車やバイクの安全・安心、そして乗ったときの感動に貢献している会社です。

「製品に当社の名前が記されているわけではないため、一般にはなかなか認知されにくい存在です。
運転時の安全や快適性を支える役割を担っている企業であることを知っていただき、継続的に関心を持っていただければ嬉しく思います」
取材の最後に、小松原氏はこう話しました。

私たちが「安心して移動できる」と感じられる背景には、製品のどこにも名前が刻まれていない日本精機の技術が息づいています。
ヘッドアップディスプレイや二輪車用計器で高いシェアを持つ一方で、同社は収益性という課題も抱えています。
新興国市場の追い風を受けて二輪車用計器を伸ばしながら、四輪車用計器・HUD事業の採算をいかに立て直すかが、今後の焦点となります。

さらに2026年10月には、売上高1,000億円規模の東洋電装が加わる予定です。
「見えるようにする」計器・ヘッドアップディスプレイに、「入力する」スイッチを組み合わせることで、両社が描くのは、人とモビリティをつなぐHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の一体提案です。

同社は、グローバルで通用する技術基盤を、すでに有しています。
今後は、その技術力を収益性や企業価値向上につなげられるかが焦点です。
東洋電装のM&Aという大きな一手を打った同社が、「見えないものを見えるようにする」力によって、企業価値の向上を実現できるか、今後の取り組みに注目したいと思います。
今後の道のりを、引き続き追いかけていきたいと思います。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

会社情報

日本精機株式会社

コーポレートサイト https://www.nippon-seiki.co.jp/

https://finance.yahoo.co.jp/quote/7287.T

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執筆者情報

nari

峯岸 恭一

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計学により銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活躍の場を拡げている。

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