2026年9月も半分が過ぎ、来週はシルバーウィークの5連休。
今年の夏は熊本で地震が発生し、千葉や北陸では大雨が降り、名古屋でも観測史上最大の雨量を記録しました。
東京も21日連続の雨を記録していますし、本当に自然は読みにくくなっています。
それに比べればマーケットを読むのは簡単です。
ご存じの通り、今年は、日本のIPOがいまいち盛り上がらない一方で、米国のIPOが非常に盛り上がっています!
6月にスペースXがナスダックに上場した時、スターウォーズが大好きな僕は、何とも言えない感動で株価を眺めていました。
スペースXの時価総額が、一瞬とはいえアマゾンやマイクロソフトの上に顔を出した。
あの瞬間は時代の流れを感じました。
ところで、先月その次がやってきそうだと日本経済新聞が報じました。
日本経済新聞は、アンソロピックのIPOについて「2兆ドル観測」「スペースX超え」と報じています(日経「アンソロピックに2兆ドルIPO観測」2026年8月19日、「IPOへ上場目論見書8月中にも公開 米報道」8月21日)。
9月にも上場するかも、という話です。
関係者に聞く限りでは、9月のIPOは難しいが、年内の上場は十分に可能性があるとのこと。
そこで本記事ではアンソロピックの上場について、「IPO」と「インデックス買い」の2つの観点から考えてみます。
米アンソロピックの上場時期は2026年10月との予想が多い
2026年9月時点での予測市場プラットフォームPolymarketを見ると、アンソロピックの上場時期は2026年10月になるとの予想がもっとも多くなっています。

とはいえ、上場時期はまだ未確定。
日経の記事も「観測」「関係者によると」という書き方をしており、2兆ドルという値がつくかもわかりません。
2兆ドルは投資家が期待値を込めてみている水準であって、実際に値決めされた価格ではない点に注意が必要です。
日経の観測記事の精度は、以前と比べると上がった気はしますが、内容のレベルは大して上がっていないですからね(過去に日経新聞記事を批判するゼミに入っていましたからかなり偏った意見です)。
アンソロピック上場に向けた3つの確定事項
一方で、確定していることも3つあります。
まず、アンソロピックは2026年5月28日に、シリーズHで650億ドルを調達し、ポストマネー評価額が9,650億ドルになったと発表しています。
さらに6月1日にSEC(米国証券取引委員会)へ非公開でS-1(新規株式公開の登録届出書)を提出したと報じられ、主幹事はモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガンの3社とされています。
そして8月15日、2026年4〜6月期の売上高が115億ドルを超え、調整後の営業損益が黒字になったとCNBCとフォーチュンが報じました。
前年同期は7億8,700万ドル、1〜3月期は47億3,000万ドルです。
AI企業がついに黒字化した!と単純に評価できない理由

しかし、アンソロピックの黒字化が報じられたのは、あくまで「調整後の営業損益」です。
GAAP(米会計基準)の純利益が黒字という意味ではありません。
何を調整から外したのかは非公開S-1の中にあり、わかりません。
株式報酬の扱いか、前払いの期間配分なのか。
この辺りが、分からない段階で「AI企業がついに黒字化した」とひと言で片づけるのは少々早合点し過ぎなのでは?と思います。
さらに、報道によれば、アンソロピックは投資家に対して獲得可能な最大市場規模、つまりTAMを30兆ドル超と説明する見通しだと伝えられています。
IMFベースの世界の名目GDPがおよそ110兆ドルですから、その4分の1強を市場と置いている計算になります。
ソフトウェア予算の置き換えだけでは絶対に届かない数字で、人間の労働の対価そのものを取りにいく前提でしか成り立ちません。
強気か弱気かという以前に、そういう前提の数字だと理解して読むべきものです。
もはや夢…まあ夢枠であることには違いはないのですが。
値段がつく日と、最大の買い手が現れる日はずれる

さて、ここからが重要。
2026年6月4日、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、超大型IPOをS&P500へ早期採用する案を自ら協議にかけたうえで、これを退けました。
既存基準を維持するという結論です。
基準とは、上場から12か月のシーズニング期間、直近四半期とその前の3四半期合計でのGAAP黒字、そして浮動株比率10%以上。
この結果、6月に上場したスペースXがS&P500に入れるのは早くても2027年半ば以降になりました。
ところが、ナスダック100は上場15営業日後、ラッセル1000は5営業日後、CRSP米国総合指数も5営業日後というファストエントリーを用意しています。
みなさんが大好きなMSCI ACWI(オルカン)はIPOされた銘柄については、2007年のルール変更で、その銘柄の時価総額や取引できる株式数などがオルカン採用の基準を満たせば、最短で上場日から10営業日後に算出対象として採用されることになっています。
すると、同じ日に上場した同じ会社をめぐって、こういうことが起きます。
QQQ(ナスダック100指数の値動きに連動するETF)を持っている人と、全米株式型のインデックスファンドを持っている人は、上場から数週間で自動的に株主になります。
S&P500だけを持っている人は、少なくとも1年、1株も買えません。
同じインデックス投資でも指数採用ルールの違いで結果が変わるのです。
パッシブ資金が動くのは指数採用日の引け
上場日には、パッシブ資金(インデックスに連動させるといったルールに基づいて機械的に発注される買い)は何もアクションを取りません。
動くのは、指数採用日です(特に引け値)。
だから超大型IPOでは、値段がつく日と、最大の買い手が現れる日が制度上ずれるのです。
2兆ドルの時価総額に対して、初期の買い手はアクティブ勢とファストエントリー系のパッシブに限られます。
売り手はロックアップ明けのPre-IPO保有者と初日の配分を受けた投資家。
この需給の非対称性を、上場後半年の値動きのバックグラウンドとして知っておくべきです。
アンソロピック上場が市場に与えるインパクト

アンソロピックの上場によるマーケットへのインパクトは、時価総額ではなく、市場が実際に負担する調達額で考えるのが良いでしょう。
たとえば、スペースXは2026年6月11日の値決めで750億ドルを調達しました。
IPOの調達額としては史上最大です。
アンソロピックについては、600億ドル超の調達が見込まれると報じられています。
スペースXとアンソロピックの2社を合わせると1,300億ドル超になります。
既存の株が持ち主を変えるだけではなく、新たにこれだけの株式が市場に供給されます。
ただ、この規模の調達があったから相場が崩れる、という単純な話ではありません。
もちろんマーケット状況によってはIPO株の購入資金を捻出するために他の株式を売却することもあるし、それは普通です。
一方、新規資金を入れるのもよくあることです。
米国株の日々の売買代金からすれば、分散される1,300億ドルは吸収可能な量です。
問題は調達額ではなく、買い方にある
問題は総量ではなく、買い方のほうです。
強気の立場から見れば、上場は健全な資金循環です。
プライベートで滞留していた巨大ユニコーン企業がパブリックに出てくれば、流動性が生まれ、価格発見機能が働き、四半期ごとの開示義務が始まり、個人も年金も同じ土俵で株主になれるチャンスが生まれます。
実際、アンソロピックの4〜6月期は売上高で115億ドル超という規模に達していて、収益が立っていない会社の話ではありません。
しかし、慎重な立場から見れば、話は変わります。
S&P500指数採用までの1年間、この銘柄の株価は比較的アクティブ勢の需給を中心に決まります(直後のナスダックやMSCIの採用以降という話)。
しかも売り圧力の側には、ロックアップ明けを待つPre-IPO保有者が控えている。
9,650億ドルで最後のラウンドに入った投資家は、上場後の時価総額が2兆ドルなら2倍ですが、1兆ドルならトントンです。
S&P500採用までの1年間は、株価が「事業の進捗」ではなく「需給」で決まりやすい期間になります。
どちらが正しいかは、時間軸の取り方で答えが変わる、というのが正直なところです。
3年で見るなら前者、来年の3月で見るなら後者だと僕は思っています。
スペースXのチャートを見ると何となくイメージが湧きやすいかもしれません。
驚くほどきれいにここまで書いてきたことが株価の動きに現れています。

日足チャート 2026年6月12日~9月14日 ※TradingViewより引用
米巨大ユニコーン、今後のIPO予定は?

米国巨大ユニコーンのIPOパイプラインを、確認できた範囲で書いてみます。
評価額は直近の資金調達か相対取引の値で、基準日を書いておきます。
OpenAIは6月8日に非公開でIPOを申請したと報じられました。
直近の評価額は約8,520億ドル。
ただしロイターは、上場を2027年へ後ろ倒しする検討についても伝えています。
データブリックスは8月13日に50億ドルを調達し、評価額は1,900億ドル。
4〜6月期にランレートで70億ドルを超え、前年比8割超の成長と発表しています。
一方でCEOのアリ・ゴディシはブルームバーグTVで、今年は上場するには最悪の年だと明言しました。
年内はないと読むのが素直でしょう。
ストライプは2月24日、従業員向けの株式買い取りで1,590億ドルの評価。
コリソン兄弟は急ぐ必要がないと繰り返しており、市場の見立ては2027年以降です。
アンドゥリルは5月のシリーズHで50億ドルを調達し、評価額610億ドル。
製造能力を証明してから上場する、というのが本人たちの説明です。
このほか、レボリュートがセカンダリーで約750億ドル、キャンバが約400億ドルと伝えられ、キャンバは2027年へずれたと報じられています。
半導体のセレブラスは今年すでに上場を済ませ、初値が公開価格を大きく上回りました。
しかし、現状はIPO価格(185ドル)近辺での動きとなっています。

日足チャート 2026年5月14日~8月28日 ※TradingViewより引用
こうして見ると年内に実際に出てきそうなのはアンソロピックだけで、あとは来年以降というのが現状のようです。
パイプラインが厚いことと、IPOが今年来ることは、別の話のようです。
米アンソロピック上場、買い時はいつか

2026年は、非公開のまま巨大化したユニコーン企業がパブリックへ戻ってくる年として記憶されると思います。
値段は上場した日につきますが、インデックスという最大の買い手は、ルールに縛られます。
上場は価格発見の機会を与え、指数採用は需要を与えます。
この2つが同じ日に来ない点を改めて頭に入れておくことが重要だと思います。
実際は指数採用の思惑の買いが事前に入ったりするので、こんなに単純な話ではないのですけれどね。
でもスペースXやセレブラスの動きを見ているとIPOで買えなかった投資家がいつ買えば良いのか、何となくわかりますよね?

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執筆者情報
元外資系証券株式本部長マネジングディレクター
日系証券個人営業から証券人生をスタート。その後ロンドンと東京を拠点に20年以上に渡って外資系証券会社の主にトレーディングデスク及び各マネジメント職を歴任。2019年退職。得意分野はフローの裏側分析及び市場構造分析。現在はXやnoteなどで個人投資家向け株式投資の知識提供中心に悠々自適生活を送る。趣味は食とクルマ。

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