フェドウォッチ(CME FedWatch Tool)は、FF金利先物の価格を基に、FOMC後の政策金利レンジを市場がどの程度織り込んでいるかを確率で示すツールです。
ただし、表示される数字は投資家へのアンケート結果でも、FRBによる予告でもありません。本記事では、確率の正しい意味と画面の見方、算出の考え方、日本株やドル円を分析する際の注意点を整理します。
フェドウォッチはFF金利先物からFOMC後の金利レンジを確率で示す

フェドウォッチとは、CME Groupが提供する無料の市場分析ツールです。30日物FF金利先物の価格から、今後のFOMCで政策金利の誘導目標レンジがどの水準になると市場が見込んでいるかを算出します。会合日ごとに複数の金利レンジと確率が並ぶため、利上げ・据え置き・利下げの織り込みを一画面で比較できます。
大切なのは、確率の絶対値だけを見るのではなく、経済指標やFRBの情報発信を受けて数字がどう変わったかを追う点です。たとえば利下げ確率が70%でも、前日の90%から低下したのであれば、市場では金融緩和への期待が後退しています。現在値と変化の方向を分けて読むと、金利・為替・株価の反応を理解しやすくなります。
30日物FF金利先物が市場予想を映す
FF金利先物は、将来の特定月における実効フェデラルファンド金利(EFFR)の月平均を取引する商品です。銀行や運用会社、ヘッジファンドなどの売買を通じ、インフレ、雇用、景気、FRBの発言に対する市場の評価が先物価格へ集約されます。
FOMCが直接決めるのは政策金利の誘導目標レンジであり、EFFRは金融機関同士の翌日物取引から算出される実勢金利です。フェドウォッチは両者の関係と先物価格を使い、会合後に想定される目標レンジごとの確率へ変換しています。
表示確率は投資家の人数ではなく先物価格から逆算する
「利下げ確率80%」は、回答者の80%が利下げを予想したという意味ではありません。FF金利先物の価格に織り込まれた金利見通しを、一定の計算前提に沿って確率へ置き換えた数値です。市場参加者の人数や売買件数を示す指標ではない点に注意が必要です。
先物は取引量の大きな参加者の影響も受けるため、単純な多数決とは性質が異なります。記事やSNSで「市場参加者の8割が予想」と言い換えると誤解を招きます。正確には「先物市場が80%程度を織り込んでいる」と表現するのが適切です。
フェドウォッチは予言ではなく現時点の織り込みを示す
フェドウォッチが映すのは、その時点で先物市場に反映された予想です。CPIや雇用統計が市場予想から外れたり、FRB高官の発言が政策見通しを変えたりすれば、確率は短時間で動きます。高い確率が表示されても、将来の決定を保証するものではありません。
むしろ投資判断に役立つのは、予想が外れる可能性と、その場合の値動きを考える場面です。市場が一つのシナリオへ強く傾くほど、反対の決定や発言が出た際の修正も大きくなり得ます。確率は安心材料ではなく、事前期待の偏りを測る材料として使います。
会合日と金利レンジを選べばフェドウォッチの見方は難しくない

CME Groupの公式ページで「CME FedWatch Tool」を開くと、FOMCの会合日ごとに目標金利レンジと確率を確認できます。最初に見るべき項目は、次回会合だけではありません。数会合先まで順番に開けば、市場がいつから利下げや利上げを見込んでいるのか、年末までに何回分の変更を想定しているのかが見えてきます。
画面上の名称や配置は更新される場合がありますが、基本はCurrentで現在の確率、Aggregatedで現行金利からの累積変化、Compareで過去時点との比較、Historicalで推移、Dot PlotまたはTableでFRB参加者の見通しとの違いを確認する流れです。選択中の会合日と比較基準を取り違えないようにします。
| 比較項目 | フェドウォッチ | ドット・プロット |
|---|---|---|
| 基になる情報 | 30日物FF金利先物の価格 | FOMC参加者の個別見通し |
| 示す内容 | 会合後の金利レンジ別確率 | 各年末の適切な政策金利水準 |
| 更新 | 市場取引に応じて随時 | 通常は年4回のSEP公表時 |
| 注意点 | 市場予想であり決定ではない | 公式な約束や多数決結果ではない |
CurrentとAggregatedで確率の基準を確認する
Currentでは、選択したFOMC会合の終了後に、政策金利の誘導目標が各レンジへ到達する確率を表示します。会合日を選び、現在より一段低い欄、同じ欄、一段高い欄を見れば、0.25ポイントの利下げ・据え置き・利上げの主な織り込みを把握できます。
Probabilities内のAggregatedは、将来の金利を現在の目標レンジと比べ、そこまでに何回分の変更が織り込まれたかを示す表示です。個々の会合間を基準にする見方とは結果が異なる場合があるため、変更の時期を知りたいのか、累積幅を知りたいのかを分けて使います。
CompareとHistoricalで予想の変化を追う
Compareでは現在の確率を前日、1週間前、1カ月前などと比べ、市場の政策見通しがどちらへ動いたかを確認できます。現在値が同じ70%でも、40%から上昇した局面と90%から低下した局面では、債券や為替に加わる力の向きが異なります。
Historicalは確率の推移を時系列で追う画面です。CPI、雇用統計、FOMC声明などの日付と照らすと、市場がどの情報に反応したかを検証できます。一日の変化だけで結論を急がず、数週間の流れと直近の急変を重ねて見ると、予想の持続性を判断しやすくなります。
Dot PlotとTableで市場とFRBの距離を測る
ドット・プロットは、FOMC参加者が各年末の政策金利をどの水準が適切と考えるかを示した分布で、通常は年4回の経済見通し(SEP)に含まれます。中央値は参加者の見通しの中間点であり、FRBの公式予測や将来の約束ではありません。
フェドウォッチは市場価格、ドット・プロットは政策担当者の個別見通しが基礎です。市場が示す年末水準がドット中央値を大きく下回れば、市場のほうが早い利下げを見ています。どちらが正しいと決めつけず、乖離が縮小する過程で相場が動くと考えます。
計算は100-先物価格だけでは完結しない

FF金利先物では「100-先物価格」から、その限月に市場が見込む月平均EFFRを求められます。しかし、そこで得られるのは特定のFOMC会合における利下げ確率ではありません。会合が月の途中にある場合、同じ限月には会合前の金利と会合後の金利が日数に応じて混在するからです。
CME Groupは、先物が示す月平均金利、現在の政策金利、会合までの日数、想定する変更幅などを用いて、複数会合にわたる金利レンジの無条件確率を計算します。フェドウォッチの仕組みを理解する際は、先物価格から金利を求める段階と、金利から各レンジの確率を求める段階を分けて考えます。
100-先物価格で月平均の実効FF金利を求める
30日物FF金利先物は、100から契約月の平均EFFRを差し引いた形で価格が示されます。たとえば先物価格が96.20なら、単純計算で市場が織り込む月平均EFFRは3.80%です。この関係は金利見通しの出発点として覚えておくと便利です。
ただし3.80%は、その月のFOMC後の誘導目標レンジを直接表す数字ではありません。EFFRと目標レンジには通常わずかな差があり、会合月には変更前後の金利が平均値へ含まれます。「100-価格=利下げ確率」と解釈しないよう注意します。
会合月はFOMC前後の日数を分けて計算する
月の途中でFOMCが開かれると、会合前の日数には従来の金利、会合後の日数には新しい金利が反映されます。月平均EFFRから会合後の金利を推定するには、変更前後の日数で加重平均をほどく必要があり、単一の引き算では確率まで求められません。
さらに数会合先を見る場合は、それ以前の会合で利上げ、据え置き、利下げのどれが選ばれるかによって出発点が変わります。フェドウォッチは各経路を確率ツリーとして組み合わせ、将来の会合日ごとに金利レンジ別の無条件確率を示します。
25bp刻みの仮定と確率ツリーには限界がある
CME Groupの算出方法は、政策金利の変更が基本的に25ベーシスポイント刻みで進むという前提を置いています。通常局面では実用的ですが、緊急会合や50bpを超える変更、金利市場の機能低下といった例外的な局面では、表示確率を慎重に読む必要があります。
先物価格には政策金利予想だけでなく、流動性やポジション調整などの影響も入り得ます。精密な小数点まで確かな予測とみなさず、シナリオ間の相対的な強さを示す指標として扱うのが現実的です。計算前提がある以上、結果にも誤差や偏りが残ります。
経済指標後の確率変化が金融政策の再評価を映す

フェドウォッチの確率が大きく動くのは、FRBの二つの責務である物価安定と最大雇用に関わる情報が更新されたときです。CPIやPCE物価指数がインフレの粘着性を示せば利下げ期待は後退しやすく、雇用の急減速が示されれば緩和期待は高まりやすくなります。ただし、指標の方向だけで機械的に判断はできません。
市場は発表値そのものより、事前予想との差、前月値の改定、内訳の質を見ています。さらに、確率が変わっても米国債利回りやドル、株価が同じ方向に動くとは限りません。発表直後はフェドウォッチと各市場の反応を並べ、投資家がインフレ、景気、金融政策のどれを重視したかを確認します。
CPI・PCE・PPIはインフレ経路を動かす
CPIやPCE物価指数が市場予想を上回り、基調的なインフレの鈍化が止まれば、早期利下げの確率は低下しやすくなります。PPIは企業段階の物価動向を示し、品目によってはPCEの推計にも影響するため、発表後に金利見通しが修正される場合があります。
一方、単月の低下だけでインフレ収束とは判断できません。住居費やサービス価格、賃金に関連する項目など、持続性の高い部分まで確認します。フェドウォッチの変化が小さいなら、市場がすでに結果を織り込んでいたか、内訳を重く見なかった可能性があります。
[関連]消費者物価指数(CPI)とは?計算方法・米CPIと投資への影響をわかりやすく解説
雇用統計は利下げの理由が好悪どちらかを分ける
雇用者数の伸び鈍化や失業率の上昇は、金融引き締めを緩める根拠になり、利下げ確率を押し上げる場合があります。ただし雇用の減速が穏やかなら株式市場に安心感を与える一方、急速な悪化なら景気後退への警戒を強めます。
平均時給、労働参加率、過去月の改定も合わせて確認します。同じ「利下げ確率上昇」でも、インフレ鈍化による予防的な利下げ期待と、雇用崩れによる景気対応の利下げ期待では、株価の受け止めが反対になる場合があります。
[関連]米雇用統計とは?失業率や平均時給など各項目の見方と株式市場への影響を解説
FOMC声明とFRB要人発言が予想を上書きする
FOMCでは政策金利の決定だけでなく、声明文、経済見通し、記者会見の表現が次回以降の確率を動かします。据え置きが予想どおりでも、インフレへの警戒が強ければ利下げ確率は低下します。決定と将来への示唆を切り分けて読む必要があります。
会合の合間にはFOMC参加者の発言も材料になります。ただし一人の発言をFRB全体の方針と同一視せず、投票権、発言時期、ほかの参加者との温度差を確認します。ブラックアウト期間前後は、発言と確率推移を時系列で整理すると変化の理由を追いやすくなります。
日本株では米金利・為替・景気の3経路で影響を読む

フェドウォッチの変化は、日本株へ直接届くのではなく、主に米国債利回り、ドル円、米国景気の見通しを経由して波及します。利下げ期待が強まれば割引率低下は株式に追い風ですが、米景気の悪化が理由なら企業業績への不安が上回る場合もあります。まず金利変更が期待される理由を見極めます。
次に、米国市場の反応を確認します。米2年債利回りは政策金利見通し、10年債利回りは成長率やインフレ期待の影響も受けます。ドル円には日銀の政策や国内金利、リスク回避も作用します。フェドウォッチだけから日本株の売買方向を決めず、伝達経路を一つずつ検証します。
米金利上昇はグロース株の評価を圧迫しやすい
利下げ確率が低下して米長期金利が上昇すると、将来利益の現在価値を計算する割引率も上がります。そのため、利益の多くを将来に期待する高PERのグロース株や赤字成長企業は、バリュエーション調整を受けやすくなります。
ただし、金利上昇の背景が強い景気や企業利益の上方修正なら、株価が必ず下がるわけではありません。NASDAQや米半導体株の反応、日本の成長株への連動、決算による個別要因を分け、金利だけで一律に売らない姿勢が必要です。
銀行・景気敏感株は金利変更の理由まで確認する
銀行株は一般に金利上昇局面で利ざや改善が期待されますが、米国の政策金利見通しだけで国内銀行の収益は決まりません。日銀の政策、国内の長短金利差、貸出需要、保有債券の評価損、信用コストまで確認する必要があります。
素材、機械、海運などの景気敏感株も同様です。利下げ期待が高まっても、その理由が米国景気の急減速なら需要減への懸念が先に立ちます。金融緩和という表面だけでなく、ソフトランディング期待か景気後退への対応かを見分けます。
ドル円と輸出株は日米金利差だけでは決まらない
米利下げ確率の上昇は米金利を押し下げ、日米金利差の縮小を通じてドル安・円高要因になり得ます。円高は外貨建て売上の円換算額や価格競争力への警戒から、自動車、電機、機械などの輸出関連株に逆風となる場合があります。
しかしドル円は、日銀の政策、資源価格、投資家のリスク選好、需給にも左右されます。米利下げ期待が高まっても、安全資産としてドルが買われる局面はあります。確率変化と同時にドル円が実際にどちらへ動いたかを確認してから業種への影響を判断します。
確率の高さだけで売買するとフェドウォッチを読み違える

フェドウォッチは、相場の方向を単独で当てる売買シグナルではありません。表示確率はすでに先物価格へ反映された期待であり、株式や為替にも同じ予想が相当程度織り込まれている可能性があります。高確率のシナリオが実現しても、市場がほとんど動かない、あるいは材料出尽くしで逆方向へ動く場面があります。
売買に使うなら、確率の水準、変化の速さ、変化した理由、債券・為替・株価の反応を一組で確認します。さらに、予想と異なる決定が出た場合の損失をあらかじめ想定し、ポジション量や撤退条件を決めます。確率はリスク管理を省略する理由にはなりません。
利下げ確率上昇が株高を意味するとは限らない
インフレが落ち着き、景気を壊さずに利下げできるとの期待が高まる局面では、金利低下と業績維持が株価を支えやすくなります。一方、雇用や消費の急悪化を受けた利下げ期待では、割引率低下より業績悪化への警戒が勝る場合があります。
同じ確率上昇でも「良い利下げ」と「悪い利下げ」があるため、数字だけから株高と決めつけるのは危険です。米国債の長短金利、景気敏感株とディフェンシブ株の強弱、信用スプレッドなどを確認し、市場が何を恐れているかを読み取ります。
市場を動かすのは予想どおりかより事前予想との差
利下げが実施されても、市場が事前にほぼ織り込んでいれば決定自体の影響は限られます。反対に、据え置きが優勢だった局面で利下げが行われれば、債券、為替、株式は大きく再評価されます。相場は決定の方向よりサプライズの大きさへ反応します。
また、政策金利が予想どおりでも、声明文や記者会見が次回の変更を否定すれば価格は動きます。FOMC直前の確率を記録し、決定後の確率と各資産の値動きを比べると、何が未反映だったのかを検証できます。
FOMC声明・金利・株価反応をセットで確認する
実践では、FOMC前に次回と数会合先の確率を記録し、発表後に米2年債・10年債利回り、ドル指数、ドル円、主要株価指数の反応を確認します。フェドウォッチの変化と実際の市場方向が一致しない場合は、別の材料が優先された可能性があります。
経済指標の発表日やFOMC日程も事前に把握しておきます。重要イベント直前は確率が高くても急変リスクが残ります。定点観測の日時と確認項目を決め、結果だけを後から見るのではなく、期待形成から価格反応まで一連の流れを記録すると分析精度が高まります。
[関連]2026年の経済イベントカレンダー|株式投資に使える主要スケジュールや季節性まとめ
まとめ|フェドウォッチは確率の高さより変化と市場反応を読む

フェドウォッチは、30日物FF金利先物からFOMC後の政策金利レンジ別確率を算出し、市場の利上げ・据え置き・利下げの織り込みを可視化するツールです。表示確率は市場参加者へのアンケート比率ではなく、先物価格から一定の前提で逆算した市場予想です。
確率の絶対値だけでなく、前日や前週からの変化、動いた理由、米国債・ドル円・株価の反応までセットで見ると、金融政策が相場へどう織り込まれるかを判断しやすくなります。
計算の入口は「100-先物価格」ですが、その数字は限月の月平均EFFR予想です。会合月の金利レンジ別確率を求めるには、FOMC前後の日数や複数会合の経路を含む計算が必要です。ドット・プロットもFRBの公式な約束ではないため、市場予想との違いを測る材料として扱います。
日本株への影響は、米金利、ドル円、米国景気という複数の経路を通じて現れます。「利下げ確率上昇=株高」と単純化せず、インフレ鈍化による緩和期待なのか、景気悪化への対応なのかまで確認し、フェドウォッチをシナリオ分析とリスク管理に役立てましょう。

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執筆者情報
日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)
国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。

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