フィボナッチ・リトレースメント。チャートで安値から高値へドラッグすると、23.6%、38.2%、61.8%といった半端な数字の横線が何本も表示される、あの機能です。
この数字はヒマワリの種の並びや巻貝の螺旋にも現れる「黄金比」から来ています。とはいえ、自然界の法則がなぜ株価の押し目に効くのか。理由は意外と単純で、大勢の投資家が同じ線を見ているからです。
この記事では、比率がどこから来た数字なのか、線をどう引くのか、そしてどんな場面で線が効かなくなるのかを順に整理します。
フィボナッチとは?株チャート分析でも使われる「自然界の比率」

まず数字の出どころから。ここを飛ばすと、23.6や61.8といった半端な数値が呪文にしか見えません。
黄金比率とフィボナッチ数列が持つ不思議なパワー
フィボナッチ数列は 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21… と続きます。ルールは1つだけ、前の2つを足す。それだけです。この数列で隣り合う数を割ると、進むほど1.618に近づいていく。これが黄金比です。

チャートで使う比率は、ここから逆算した数字です。61.8%は 1÷1.618、38.2%は 1÷2.618、23.6%は 1÷4.236。ランダムに決めた数字ではありません。
ちなみに、レオナルド・フィボナッチが数列を「発見した」と書かれることが多いのですが、これは正確ではありません。彼が1202年の著書『Liber Abaci(計算の書)』でヨーロッパに紹介したのが実際のところで、数列自体はそれ以前にインドの数学者が記述しています。
自然界から株チャートへ|なぜ転用できるのか
「自然界の法則だから相場にも効く」。よく聞く説明ですが、正直これは根拠として弱いと思います。もっと単純な理由があります。多くの投資家が同じ線を見て、同じ場所に注文を置いているから効くんです。
比率そのものに力があるわけではありません。証券会社のツールが標準で38.2%の線を引いてくれて、世界中のトレーダーがその線を見ている。だから、そこに買い注文が集まる。集まるから止まる。自己成就の構造です。この理解は後で効いてきます。誰も見ていない場面では効かない、という話に直結するので。
フィボナッチ分析の3大活用法|リトレースメント・エクスパンション・タイムゾーンを使いこなす

フィボナッチ系のツールは何種類もありますが、実戦で使うのはほぼ3つです。押し目の深さを測る「リトレースメント」、目標値を出す「エクスパンション」、そして時間軸に注目する「タイムゾーン」。価格を見る2つと、時間を見る1つ、と整理すると覚えやすいでしょう。順に見ていきます。
フィボナッチ・リトレースメントで押し目・戻しの反転位置をつかむ
急騰や急落のあと、どこまで戻すか。その深さを測るのがリトレースメントです。高値と安値を結ぶと、23.6%、38.2%、50%、61.8%といった線が自動で引かれます。上昇トレンドならこれが下値支持線、下降トレンドなら上値抵抗線の目安になります。
ここで1つ、意外に知られていないことを。50%はフィボナッチ数列から出てくる比率ではありません。いわゆる半値押しとして昔から意識されてきた水準で、由来はダウ理論とも、ギャン理論とも言われます。ツールが同じ画面に並べて表示するので混ざってしまうのですが、出自は別物。もっとも、実際によく効く水準ではあるので、使うこと自体に問題はありません。

フィボナッチ・エクスパンションで利確ラインを明確に設定
リトレースメントが「どこまで押すか」なら、エクスパンションは「どこまで伸びるか」。使うのは3点です。トレンドの起点A、高値B、押し目C。A→Bの値幅を、Cから上に投影します。100%なら「もう一段、同じ値幅だけ上げる」、161.8%なら「その1.6倍」という読み方。

出口をルール化したい人向けの道具です。目標に届いたら半分利確して残りを引っ張る、といった分割にも使えます。ただし、これも「目安」であって約束ではありません。161.8%で止まる保証はどこにもない。
100%を超えたらどう読むか|全押し・全戻しとその先
押しが100%まで届く、つまり起点の安値まで戻ってしまうことがあります。これが「全押し」。下げ相場で高値まで戻れば「全戻し」です。ここまで来たら、その波は無かったことになったと考えるのが素直でしょう。
ただ、線はそこで終わりではありません。100%を割り込んだ後は、161.8%が次の下値目安になります。1,000円から1,400円に上げた例なら、値幅400円の161.8%=647円ぶん下げた約753円。暴落局面でどこまで下がるかを測るとき、実際に使われる水準です。ショック相場のような「押し目とは呼べない下げ」でも、フィボナッチは目安を出せる。
もっとも、ここまで来たらもう押し目買いの話ではありません。トレンドが終わったことを確認する道具として使う、という位置づけです。
フィボナッチ・タイムゾーンで「いつ」を読む
リトレースメントもエクスパンションも、答えるのは「いくらで」です。これに対してタイムゾーンが答えるのは「いつ」。起点から 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21… 本目のローソク足に垂直線を引き、その付近で転換が起きやすいと見ます。比率ではなく、数列そのものを使うのが特徴です。
正直、価格系の2つに比べると精度は落ちます。起点をずらせば線も全部ずれるので、後付けになりやすい。それでも「そろそろ動く頃合いか」という時間感覚を持つ道具としては使えます。同じ発想で円弧を描く「アーク」、斜め線を引く「ファン」もありますが、まずはリトレースメントを使い込むほうが先でしょう。
ピボットポイントとの違い|これはフィボナッチではありません
フィボナッチと並べて語られがちなのがピボットポイントですが、これはフィボナッチとは無関係の指標です。計算は前日の高値・安値・終値を足して3で割るだけ。黄金比も数列も1ミリも出てきません。「フィボナッチ・ピボット」と呼ばれる派生版だけは比率を使いますが、標準のピボットは別物です。
| フィボナッチ | ピボットポイント | |
|---|---|---|
| 計算のもと | 黄金比(1.618)から導いた比率 | 前日の高値・安値・終値 |
| 起点 | 自分で選ぶ(人によってズレる) | 自動で決まる(誰が引いても同じ) |
| 更新 | 波が変わるまで固定 | 毎日引き直される |
| 主な使い手 | スイング〜中長期 | デイトレード |
同じ「節目を事前に決めておく」道具なので、役割は近い。ただ、フィボナッチは起点の選び方で人によって線がずれるのに対し、ピボットは計算式が決まっているので誰が引いても同じ場所に出ます。その日限りの節目が欲しいならピボット、波全体の節目が欲しいならフィボナッチ。併用というより、時間軸による使い分けです。
フィボナッチ実践例|株チャートでの使い方を事例で詳しく解説

理屈は分かった。で、実際どう引くのか。手を動かす部分に入ります。
上昇トレンド中のリトレースメント引き方
押し目買いを狙うなら、トレンドの起点となった安値から、直近の高値へドラッグする。それだけです。たとえば1,000円から1,400円まで上げた銘柄なら、値幅は400円。38.2%押しは 1,400 −(400 × 0.382)= 約1,247円。50%押しなら1,200円、61.8%押しなら約1,153円。この3つが下値の候補になります。
1つ注意点を。ツールによって0%と100%の割り当てが逆になります。安値を0%と表示するものもあれば、高値を0%とするものもある。線が引かれる位置は同じなので実害は少ないのですが、他人の解説と数字が食い違う原因になります。自分の画面がどちらなのかは確認しておいてください。
下降トレンドでの戻り売り判断事例
下げ相場では逆向きに引きます。高値から安値へ。4,000円から3,200円まで下げたなら値幅は800円で、38.2%戻しは 3,200 +(800 × 0.382)= 約3,506円。ここで上値が重くなれば、戻り売りの候補です。
日本株の現物しか触らない方は空売りの手段が限られますが、その場合も「持っている株をどこで手放すか」の目安として同じ計算が使えます。戻りが38.2%で止まるようなら、下げはまだ終わっていない可能性が高い。
週足チャートでの長期的な押し目予測パターン
日足だけでなく、週足や月足でも引いてみてください。上位足の線のほうが、見ている人が多いぶん効きやすい傾向があります。理由は前述のとおりで、比率に力があるのではなく、注目度に力があるからです。
特に強いのは、複数の時間軸の線が重なる場所。日足の38.2%と週足の61.8%がほぼ同じ価格で交差しているなら、そこは短期勢と中期勢の両方が見ている水準ということになります。1本の線より、重なった線。これがフィボナッチを使ううえでの基本発想です。
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フィボナッチと他のテクニカル指標|移動平均線・RSI・MACDとの組み合わせ方

フィボナッチ単独では、線が多すぎて逆に迷います。何と重ねるかで、線の意味が絞れます。
移動平均線×フィボナッチで“強い押し目”を絞り込む
もっとも相性がいい組み合わせです。移動平均線でトレンドの向きを確認し、フィボナッチで押し目の位置を測る。そして、26週線と38.2%の線がほぼ同じ価格で重なっているような場面。ここは2つの根拠が重なった水準なので、他の候補より優先度が上がります。移動平均線は日々動き、フィボナッチの線は固定。両者が交差するタイミングは限られるので、見つけたら記録しておく価値があります。
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RSI・MACDで“騙し”を減らしマルチ根拠エントリーに
フィボナッチは「どこで」を教えてくれますが、「今かどうか」は教えてくれません。そこを埋めるのがRSIやMACDです。38.2%の線まで押してきた。同時にRSIが30台まで下げて反転した。あるいはMACDがゴールデンクロスした。根拠が2つ、3つと重なった場面だけ手を出す。
逆に、線に触れただけで入るのが一番危ない。フィボナッチの線は「反発する場所」ではなく「反発するかどうかを観察する場所」です。触れた瞬間に買うのではなく、触れてから反発を確認して買う。この一手間で結果はかなり変わります。
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フィボナッチ×ボリンジャーバンド応用術
ボリンジャーバンドも、幅を持ったサポート・レジスタンスとして機能します。38.2%や61.8%の線と、バンドの−2σが同じ価格帯で重なった場面。これも「重なり」の一種です。加えて、バンドの幅を見ればトレンドかレンジかも判定できるので、フィボナッチを使っていい相場かどうかの判断にも使えます。
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フィボナッチの使い方手順|初心者でも失敗しない実践フロー&注意点まとめ

引き方そのものは数分で覚えられます。難しいのは、どこを起点にするか。ここで9割が決まります。
フィボナッチの設定方法|チャートに出すまで
難しい設定はありません。証券会社のチャートで、描画ツールやライン系のメニューを開き、「フィボナッチ」または「フィボナッチ・リトレースメント」を選ぶ。あとは高値と安値をドラッグするだけです。ツールによっては、画面に表示されている範囲の高値と安値を自動で拾ってくれるものもあります。
比率のカスタマイズもできますが、最初はいじらないでください。デフォルトのまま使うことに意味があります。この記事の前半で書いたとおり、フィボナッチが効くのは多くの人が同じ線を見ているからです。自分だけの比率を設定した瞬間に、その線を見ているのは世界で自分ひとりになります。
ただし、標準で表示される線はツールによって少し違います。深い押しの水準を76.4%とするツールもあれば、78.6%とするツールもある(78.6%は0.618の平方根から来ています)。他人の解説と自分の画面で数字が食い違ったら、まず表示比率を疑ってください。どちらかが間違っているわけではありません。
フィボナッチリトレースメント線の引き方ステップバイステップ
- 日足で、直近3〜6か月の一番大きな波を探す。小さな波は無視する
- その波の起点(安値)と、直近の高値を見つける
- 押し目買い狙いなら安値→高値、戻り売り狙いなら高値→安値にドラッグする
- 38.2%・50%・61.8%の3本に注目する。他は消してもいい
- 線に触れただけでは動かず、反発を確認してから入る
ヒゲの先で引くか、実体で引くか。これは流派が分かれるところで、正解はありません。ヒゲ先で引くのが一般的ですが、日本株では引け際の一瞬だけ突っ込んだヒゲも多く、実体で引いたほうが素直な場面もあります。どちらでもいいので、自分の中で統一してください。毎回変えるのが一番よくない。
よくある失敗例|細かすぎる値幅・トレンド不在時の落とし穴
横ばい相場でフィボナッチを引いても、意味のない線が増えるだけです。リトレースメントはトレンドが出ている相場で使う道具なので、そもそも押し目も戻りも存在しないレンジでは、起点の選びようがありません。値幅が100円もない動きに線を引いて、「23.6%で反発した」と言ってみたところで、それは誤差の範囲です。
大きな波で引く。線は3本に絞る。これだけで、画面はぐっと読みやすくなります。
“ラインを無視して突き抜けた”ときのアクション
決算、業績修正、大きなニュース。こうした材料が出れば、フィボナッチの線は簡単に貫かれます。当然です。線が効くのは「多くの人が見ているから」であって、材料が出た瞬間、人々が見るのはチャートではなく数字のほうですから。
対処法は事前に決めておくしかありません。「61.8%を終値で明確に割り込んだら撤退」といった自分ルールを作り、逆指値を置いておく。線が破られたときにどうするかを、線を引いた時点で決めておく。イベントの前後は、そもそも見送るという選択も含めて。
フィボナッチは“逆張り専用”ではなくトレンド把握とセットで使う
初心者がやりがちなのが、「線で逆張りすれば勝てる」という誤解です。実際は逆で、フィボナッチは順張りの道具です。上昇トレンドの中の押し目を拾い、下降トレンドの中の戻りを売る。トレンドに乗るための道具であって、トレンドに逆らうための道具ではありません。
そして、押しの深さ自体が情報になります。23.6%や38.2%で止まるなら、買いたい人が多くて深く押す前に拾われている=強いトレンド。61.8%まで押すなら、買い意欲が弱い=トレンドが怪しくなってきた、という読み方。どの線で反発するかを当てにいくより、どこまで押したかを後から読むほうが実戦的です。

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フィボナッチ分析を本当に活かすために|細かいコツと運用の工夫

特効薬はありません。ただ、線の減らし方を知っているかどうかで、使い勝手は変わります。
複数ラインに惑わされず“効くライン”を判断する方法
フィボナッチの最大の弱点は、線が引けすぎることです。起点をずらせば線も動くので、後から見れば必ずどこかの線が当たっている。これでは分析ではなく、後付けです。
対策は3つ。1つ、注目する比率を38.2%・50%・61.8%の3本に絞る。2つ、直近の一番大きな波で一度だけ引く。3つ、上位足で確認した節目に限定する。引き直したくなったら、それは相場が読めていないサインだと思ってください。線を増やしても答えは出ません。
イベント相場・出来高急増時の“フィボナッチ無効化”への対応
決算や悪材料が出た局面では、節目を意識する間もなく大陰線が並ぶことがあります。こういう相場でフィボナッチにこだわるのは、時間の無駄です。いったん様子見して、新しいトレンドが出てから引き直す。
出来高が極端に多いときも、少ないときも、テクニカルは機能しにくくなります。出来高が急増しているときは新しい参加者が過去の節目を無視して動いていますし、閑散としているときはそもそも節目を見ている人がいません。フィボナッチが効くのは、普通の出来高で、トレンドが出ている場面だけです。
[関連]出来高分析で差をつける!初心者でも分かる出来高の見方・売買戦略を徹底解説
自分に合う使い方を見つけるための検証手順
他人の成功例を集めても、あまり意味はありません。銘柄が違えば効き方も違うからです。やるべきは、自分の銘柄での検証。
過去2年分のチャートを遡り、大きな上昇局面を10個ほど拾ってください。それぞれで38.2%・50%・61.8%のどこまで押したかを記録する。その銘柄が普段どのくらい押す性格なのかが見えてきます。数字は借り物ではなく、自分で数えたものを使う。これが一番の近道です。
まとめ|フィボナッチ分析で押さえておきたいポイント

フィボナッチが効く理由は、自然界の神秘ではありません。世界中の投資家が同じ線を見て、同じ場所に注文を置いているから効く。この理解が出発点です。だからこそ、誰も見ていない小さな波では効かないし、材料が出て全員が数字を見始めた瞬間にも効かなくなります。
- 比率は 61.8=1÷1.618、38.2=1÷2.618、23.6=1÷4.236。50%だけは別枠(フィボナッチ比率ではない)
- 大きな波で、一度だけ引く。線は38.2%・50%・61.8%の3本に絞る
- 押しが浅いほど強いトレンド。深さそのものが情報になる
- 線は「反発する場所」ではなく「観察する場所」。触れてから確認して入る
- 移動平均線やRSIと重なった水準を優先する。1本の線より、重なった線
- 逆張りの道具ではなく、トレンドに乗るための道具
- 効かない場面(レンジ、イベント、出来高の極端な増減)を先に決めておく
まずは自分が普段見ている銘柄で、直近の大きな波に一度引いてみてください。線を増やすより、1本の線をどう扱うかを決めるほうが、ずっと早く上達します。

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執筆者情報
日本投資機構株式会社 アナリスト
準大手の証券会社にて資産運用のアドバイザーを務めた後、日本株主力の投資顧問会社の支店長となる。現在は日本投資機構株式会社の筆頭アナリストとして多くのお客様に株式投資の助言を行いつつ、YouTubeチャンネルにも積極的に出演しており、資産運用の重要さを発信している。

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