2026年に入ってからの株式市場は、イランを巡る緊張に何度も揺さぶられてきました。2月末の軍事攻撃、3月のホルムズ海峡封鎖、4月の一時停戦、そして7月に入ってからの再燃。
値動きだけを追うと、上げては下げ、下げては戻すの繰り返しに見えます。
中東リスクとは、この地域の紛争や緊張が原油価格や為替を通じて世界の株式市場を揺さぶる、地政学リスクの代表例です。裏側で動いている仕組みは意外とシンプルで、原油が上がれば株が売られ、緊張が緩めば買い戻される。
この記事では、いま何が起きているのかを最新のデータで確認しながら、投資家が本当に見ておくべきポイントを整理します。
2026年7月 イラン情勢再燃で株式市場はどう動いたか

停戦「終了」発言で原油が急伸した
7月8日、トランプ米大統領がイランとの停戦を「終わった」と表明し、ホルムズ海峡の再封鎖にまで言及したことで、市場は一気に地政学リスク一色になりました。WTI原油は週の前半に一時76ドル近辺まで急伸します。
同じ7月8日に公表された6月FOMC議事要旨がタカ派だったことも重なり、エネルギー高とインフレ長期化という二つの逆風が同時に吹きつけた格好です。議事要旨では、6月会合で数人の当局者が利上げの論拠を主張していたこと、そして労働市場への懸念が後退する一方でインフレ警戒が強まっていたことが示されました。
それでも相場は数日で切り返した
ところが、その後の展開は速かった。米国が攻撃完了を発表し、本格的な紛争再開は考えていないとトランプ大統領が表明すると、市場は「衝突は短期で終わる」と楽観に傾きます。
9日のニューヨーク市場は主要3指数がそろって上昇。10日の日経平均は前日比813円高の6万8,557円まで戻し、6万8,000円台を回復しました。原油もWTIが1バレル71ドル台へ反落しています。
数字で見ると、直近の市場水準はこうなっています。
- 日経平均株価:68,557円(7月10日、前日比+1.20%)
- WTI原油先物:約71ドル(週間では+3〜4%だが、この日は反落)
- NYダウ:52,637ドル
- ドル円:159〜160円台の円安圏
- 米政策金利(FF金利):3.50〜3.75%に据え置き(6月FOMC、4会合連続)
原油が週間ベースでは上昇しているのに株が戻っている。この「ねじれ」こそ、いまの相場の性格をよく表しています。市場は最悪シナリオを織り込みにいっているわけではなく、封鎖の長期化を半信半疑で眺めている段階です。
なぜ中東リスクで日本株が下がるのか|原油高とエネルギー構造

震源から順を追って見ていきます。
発端は2月末の攻撃と3月の海峡封鎖
発端は2026年2月28日、米国とイスラエルがイランの核関連施設と軍事拠点を攻撃したことでした。イラン最高指導者ハメネイ師の死亡も伝えられ、中東情勢は一気に臨界点を超えます。報復としてイランは3月2日、ホルムズ海峡を通航する船への攻撃を警告し、事実上の封鎖状態に持ち込みました。
日本の弱点はエネルギー構造にある
ここで効いてくるのが、日本のエネルギー構造の弱さです。日本は原油輸入のほぼすべてを海外に頼っており、その約95%が中東からの輸入。エネルギー自給率も16%程度しかありません。
ホルムズ海峡は世界の海上原油輸送の約2割が通過する要衝で、ここが詰まれば原油価格、LNG価格、海上保険料、物流コストが一斉に跳ね上がります。もっとも、日本には石油備蓄があり、封鎖が続いてもすぐに燃料が尽きるわけではありません。ただ、平時は約8か月分(248日分)あった備蓄も、封鎖対応の放出が進んで7月時点は約200日分まで取り崩されています。怖いのは枯渇ではなく、まずコストです。
封鎖を効かせたのは「保険」だった
しかも、海峡を実質的に止めたのは物理的な封鎖だけではありません。戦争リスク保険の引き受け停止が広がって船主が航行リスクを負えなくなり、大手海運各社が通過を見合わせました。封鎖前は1日20隻を超えていた原油タンカーの通過は、3月末には数隻まで落ち込んでいます(三菱UFJ銀行調べ)。
なぜエネルギー高が株安になるのか
こうしてエネルギーコストが跳ねると、電力費や物流費という形で幅広い企業の業績を圧迫します。エネルギー高の恩恵を受けるセクターは時価総額でも利益でも市場全体に占める割合が小さいため、市場全体としては業績の逆風になる。これが「中東リスク=株安」の基本メカニズムです。
封鎖直後の3月2〜6日の週に日経平均は3,229円(約5%)下落し、週明けの3月9日にはさらに一時4,000円を超えて下げる場面がありました。パニックの度合いは日経平均VI(恐怖指数)にも表れ、平常時は30前後のところ、この局面では一時60超まで跳ね上がっています。
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中東リスクで上がる銘柄・下がる銘柄(セクター別)

ここが個人投資家にとって一番実践的な部分です。中東リスクは市場全体を押し下げますが、その中でくっきりと明暗が分かれます。
上がった側は海運・金・石油
上がった側は、まず海運。原油タンカーや石油化学製品タンカーの運賃が上昇し、コンテナ船のスポット運賃も上がりやすいため、商船三井・日本郵船・川崎汽船の海運大手が物色されました。
次に金。リスクオフで資金が安全資産へ逃げると金価格が上昇し、住友金属鉱山が上場来高値を更新する場面もありました。そして原油高がそのまま業績に効く石油関連。海外に油田・ガス田の権益を持つINPEXや石油資源開発、原油高で在庫評価益が乗るENEOSや出光興産といった元売りが、恩恵を受けやすい代表格です。
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下がった側は化学・銀行
下がった側は、総合化学が典型です。三菱ケミカルグループのように、供給要因による原油高局面では過去も業績・株価がマイナスになりやすい業種が売られました。
銀行株も、それまで日銀の早期利上げ期待と高市トレードを楽観的に織り込んで上げていた反動で、三井住友フィナンシャルグループやみずほフィナンシャルグループが調整しています。
見落とされがちな「ナフサ問題」
見落とされがちなのがナフサ問題です。ホルムズ海峡経由の原料が細ると、プラスチックや合成繊維の出発原料であるエチレンの設備稼働率が低下します。
国内の稼働率は一時70%前後まで落ち込み、好不況の目安とされる90%を大きく下回りました。食品トレー、建材、自動車部品といった川下産業まで影響が波及するため、「石油化学だけの話」では終わりません。
中東リスクでも株価・企業業績が崩れていない理由

業績の下方修正は限定的だった
ここで少し意外な事実を挙げておきます。地政学リスクが騒がれた割に、企業業績の下方修正は限定的でした。野村證券が網羅する主要企業群(ラッセル野村ラージキャップ)の2026年度経常増減益率は、イラン攻撃前の2月27日時点で前年度比+10.0%。それが4月21日時点ではむしろ+13.2%へ上振れています。
攻撃の前後で業績見通しがほとんど動いていない業種が大半でした。AIインフラ投資に必要な電線・光ファイバー・コネクターなどの非鉄、半導体・電子部品などの電気・精密は、原油高でも製品需要への影響が起きにくく、高い利益成長が見込まれているためです。
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バリュエーションも過熱していない
バリュエーションも極端には振れていません。予想PERは攻撃直前の19.3倍から株価急落で一時16倍台まで低下し、その後も東証要請以降のおよそ16〜18倍のレンジ内で推移しています。株価が高すぎる水準とは言いにくい。
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原油と日経は長期でほぼ無相関
長期の視点も添えておきます。三井住友DSアセットマネジメントが2020年以降の週次データで検証したところ、原油価格と日経平均には長期的にほとんど相関がありませんでした。
目先の急落は強烈でも、数年単位で見れば原油だけで日本株の方向は決まらない、ということです。実際、2022年の原油急騰局面では、同時に進んだ円安が輸出企業の採算を押し上げ、日本株を下支えした面もありました。原油高と円安、二つの力が綱引きするのが日本株の特徴です。
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中東リスクと日本株の今後の見通し|投資家が見るべきポイント

証券各社は強気を維持している
証券各社の予想は、実は強気を維持しています。野村證券は日経平均の2026年末予想6万円を据え置き、大和証券は2026年末6万3,000円・2027年末6万9,000円の見通しを維持しています。前提にあるのは「ホルムズ海峡の封鎖は長期化しない」というシナリオです。野村證券はブレント原油が2026年度末に84ドル台へ低下すると想定し、それを軸に景気の緩やかな回復が続くと見ています。
前提が崩れたときが本当のリスク
裏を返せば、この前提が崩れたときが本当のリスクです。封鎖が数カ月単位で続けば、原油の期先価格まで本格的に上昇し始め、インフレと金利の先高観が株式のバリュエーションを圧迫し続けます。
特に厄介なのは、6月のFOMCが声明文から利下げ示唆の文言を削除し、ドットチャートで18人の参加者のうち9人が年内の利上げを見込んだことです(年内利下げの予想は1人のみ)。半年前は年内利下げが既定路線とみられていたことを考えると、大きな方向転換でした。エネルギー高がインフレを粘着させれば、金融政策はさらにタカ派に傾きかねません。
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投資家が見ておくべき4つのポイント
では、何を見ておけばいいのか。
- 原油の期先価格:目先の限月だけでなく、数カ月先の価格が上がり始めたら、市場が長期化を織り込み始めたサイン
- ホルムズ海峡の通航船舶数:報道ベースの「封鎖」よりも、実際に船が通っているかどうかが実態を映す
- 保険市場の動き:戦争リスク保険の引き受け再開は、正常化の先行指標になりやすい
- 米FRBのスタンス:原油高がインフレ再燃と受け止められると、株の逆風は「地政学」から「金利」に主役が移る
ニュースの見出しに振り回されないために
中東リスクの厄介さは、ニュースの見出しと市場の反応がずれることにあります。「封鎖」と報じられても株が底堅い日もあれば、停戦報道が出た直後に急落する日もある。市場が織り込んでいるのは事実そのものではなく、その事実がどこまで長引くかの確率です。そこを取り違えると、ニュースに振り回されるだけで終わってしまう。
では個人投資家に何ができるか。ひとつは、業種を分散してポジションを一方向に偏らせないこと。原油高で沈む業種もあれば逆行高する業種もある局面では、集中投資ほど振れが大きくなります。もうひとつは、地政学ショックによる急落を、優良株を安く拾う押し目と捉えられるかどうか。底で買って天井で売るのは誰にもできませんが、パニック時に慌てて投げないだけでも結果は変わります。
いまの相場は、崖っぷちで踏みとどまっているというより、崖があることを知りながら平然と歩いている状態に近い。楽観が正しいのか、それとも油断なのか。答えが出るのは、ホルムズ海峡の船が通常どおり動き出したとき、あるいは二度と動かなくなったときのどちらかです。
本記事は投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。記載のデータは2026年7月10日時点の各種公開情報にもとづきます。

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日本投資機構株式会社
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