米連邦最高裁が2026年2月20日に、トランプ大統領がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づいて発動した相互関税について、大統領権限の逸脱にあたるとして違憲判決を下しました。
これを受けてトランプ大統領は、通商法122条に基づく世界一律10%の新関税を2月24日に発動すると発表し、15%への引き上げも示唆。
2026年11月に予定する中間選挙に向けて、関税政策はどうなるのか、新たな不確実性が生まれています。
そこで本記事では、トランプ関税の制度構造を改めて整理し、日本株への影響や今後の注目点、投資戦略を体系的に解説します。
関税とは?経済への影響を整理

そもそも関税とは、外国から商品を輸入する際に課される税金です。
輸入業者が支払い、その関税分が商品の販売価格に上乗せられるのが一般的です。
原材料や商品を外国から輸入している企業にとって、関税の引き上げは即ち原材料調達や仕入れコストの上昇を意味します。
そのため販売価格を据え置けば、企業の利益率は低下します。
企業が関税の引き上げによるコスト上昇を価格に転嫁した場合には、企業の利益率は維持できます。
しかし、価格の上昇によって消費者が買い控えを起こすリスクがあります。
関税引き上げがもたらすメリット
関税を引き上げるメリットとしては、国内産の商品価格の相対的な低下が挙げられます。
たとえば、トヨタ自動車が日本で作った自動車を米国で販売しようとすると関税を支払う必要があります。
実際、日本の自動車大手7社の2025年4-9月決算では、トランプ関税の負担額が合計約1兆4,000億円に達しました。
一方、たとえトヨタ自動車の手掛ける同じ自動車であっても、米国で作って米国で売れば、関税の支払いは必要ありません。
そのため、企業には米国内の部品や材料を使って、米国内で自動車を生産するインセンティブが生まれます。
結果として、米国に工場がつくられ、雇用も生まれ、経済を押し上げる効果が期待できます。
日本も産業保護のため関税を課している
トランプ関税ばかりが話題になりますが、日本も国内産業を保護するために関税を課しています。
たとえば、コメには1kgあたり341円の従量税がかけられています。
2026年3月4日時点における日本国内のスーパーでのコメ平均価格は1kgあたり827.8円で、多くの海外産のコメはさらに安いため、高い関税率を採用していることが分かります。
食料を輸入だけに頼ってしまうと、もし戦争や異常気象で輸入が止まってしまった際に国民が飢えるリスクが高まります。
そのため、最低限の生産基盤を国内に維持するために、農業分野では高い関税による保護政策が取られるのが一般的です。
トランプ氏はなぜ関税にこだわるのか?

トランプ大統領は、関税政策に過度にこだわっているように感じる方も多いでしょう。
いったいなぜなのか、ここからはトランプ氏の3つの狙いを整理していきます。
関税政策は支持基盤のウケが良い
トランプ氏の最大の支持基盤は、ペンシルベニア州やミシガン州など、かつて製造業で栄えた「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」の白人労働者層です。
彼らはグローバル化によって工場が海外(中国やメキシコなど)へ移転し、職を奪われたという強い不満を抱いています。
そのため、関税によって輸入品を高くし、米国内に工場を戻す(リショアリング)姿勢が支持を盤石なものにするのです。
そもそも米国は世界最大の貿易赤字国です。
これは20世紀前半〜戦後にかけて育まれた米国特有の文化と関係があります。
当時米国では、大量生産によって安価な工業製品を大量供給できるようになりました。
その製品をすべて売り切って経済を回し続けるために、各企業がプロモーションを打ち「大量消費こそ正義である」価値観を広めていったのです。
今でもこの価値観は「アメリカンドリーム」として米国人に根付いています。
この大量消費の恩恵(商品販売で生まれる利益)は、米国人に還元されるべきであるのに、他国が不当に利益を得ている、というのがトランプ氏やその支持者の主張です。
また、輸入品に依存しすぎると、パンデミックや地政学リスクの際、供給網(サプライチェーン)が止まってしまいます。
他国に依存しない強いアメリカを実現するために、関税政策を重視している側面もあるでしょう。
対外政策・交渉手段としての側面も
トランプ氏にとって、関税は目的であると同時に「手段」でもあります。
相手国に対して「関税をかけるぞ」と脅し、農産物の輸入拡大や知的財産の保護、あるいは不法移民対策など、貿易以外の分野でも譲歩を引き出すディール(取引)の道具として活用しています。
特にメキシコやカナダ、中国に対してこの手法を繰り返し、自国に有利な条件を次々と提示しています。
こうした関税は必ずしも恒久措置として導入されるわけではありません。
たとえば、2025年4月2日にトランプ大統領が世界各国への相互関税を発表した際、わずか1週間後の4月9日には90日間の停止を発表しました。
また、日本への関税率についても、7月1日に30~35%への引き上げを示唆しておきながら、7月7日に実際に提示した税率は25%でした。
市場ではTACO(Trump Always Chickens Out:トランプはいつ引き下がる)と揶揄されているように、パフォーマンス的な発言で注目を集めながらも、米国にとって有利に取引を進めるのがトランプ氏の常套手段になっています。
トランプ関税が日本株に与える影響

トランプ関税の影響は米国企業にとどまりません。
日本企業も、輸出数量、為替、調達コスト、設備投資計画を通じて影響を受けています。
特に自動車は日本の対米輸出の約3割を占める基幹セクターです。
2024年に日本から米国へ輸出された自動車は137万台、金額にして6兆円に上り、自動車部品の対米輸出も1.2兆円に達しています。
自動車メーカー各社の関税影響は極めて大きく、業績への打撃は明確です。
トランプ関税の影響で企業は供給網を再編
企業は関税リスクを回避するために生産拠点の再配置や調達先の多様化を加速させています。
多くの企業が、消費地に近い場所で生産する「地産地消」により関税の影響を抑える取り組みを進めています。
また、日米合意では、5,500億ドル(約80兆円)の対米投資枠組みが確約されました。
第一陣プロジェクトとして人工ダイヤモンド製造(900億円)、米国産原油の輸出インフラ(3,300億円)、ガス火力プロジェクト(5.2兆円)の3案件、合計5.5兆円が公表されていますが、これらも今後の供給網再編につながります。
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トランプ関税の根拠になる法律とは

2025年までにトランプ米大統領が発動した関税のうち、IEEPA(国際緊急経済権限法:International Emergency Economic Powers Act)に基づく部分が2026年2月に違憲との判決を受けました。
関税のすべてが違憲と判断されたわけではないため、そもそもどのような法律に基づいてトランプ関税が発動されてきたかを整理しておきましょう。
以前から使われてきて今も有効な法律
まず、国家安全保障を根拠とする通商拡大法232条が関税発動に使われています。
この法律によって、鉄鋼やアルミニウムに25%、自動車や自動車部品に25%(日本は日米合意で15%)の関税が課されています。
タックス・ファウンデーションの試算では、232条関税だけで今後10年間に6,350億ドル(約95兆円)の税収を生む見込みです。 現在も半導体や医薬品を含む12件の232条調査が進行中で、対象品目はさらに拡大する可能性を秘めています。
さらに、相手国の不公正な貿易慣行に対する制裁として関税を課す通商法301条があります。
これを根拠に、第1次トランプ政権の2018年に対中関税(最大25%)が発動され、現在も有効です。
バイデン前政権が追加した半導体、EV、バッテリー、太陽電池などへの上乗せ関税も継続しています。
トランプ関税で争点となったIEEPA
IEEPAは1977年に制定された国家安全保障上の緊急事態において経済取引を制限するための法律です。
トランプ政権はIEEPAに基づき、2025年4月9日に各国への相互関税を発動しています。
しかし、同法は大統領に貿易を「規制」する権限を与えているものの、関税や税金については一切言及していません。
そのため、トランプ米大統領には、この法律を根拠に関税を発動する権限はないのではないか、というのが争点となっていました。
具体的には、カリフォルニア州やニューヨーク州の司法長官、ワイン輸入業者などが違憲として提訴しています。
その後、2025年5月28日にCIT(米国国際貿易裁判所)が違法と判断、同年8月29日に連邦巡回区控訴裁判所も同様に違憲と判断しました。
最終的に最高裁は6対3で、ロバーツ長官を含む保守派の一部とリベラル派3人の計6人が、IEEPAは関税賦課を授権していないと判断。
判決文には「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」と明記されました。
違憲判決は全面否定ではなく手段の制約
この違憲判決が意味するのは、関税政策そのものの否定ではありません。
IEEPAという特定の法的経路が使えなくなっただけで、通商拡大法232条に基づく鉄鋼やアルミニウム、自動車などの品目別関税には一切影響がありません。
トランプ大統領自身も判決後の会見で「232条、301条の関税は完全に有効だ」と明言しています。
今後トランプ関税はどうなるのか?

2026年2月の違憲判決を受けて、トランプ米大統領は世界への一律10%(15%へ引き上げられる見込み)の関税を発動しました。
通商法122条は国際収支の深刻な赤字への対処を目的とし、大統領が事前調査なしに最大15%の関税を全世界に一律で課せますが、上限期間は150日間に限定されます。
過去に一度も発動された実績がなく、今回が初めての適用となりました。
そのため、150日の適用期限終了に向けてトランプ米大統領がどう動くのかに注目が集まっています。
通商法122条に基づく関税は7月24日に失効
通商法122条に基づく現在の10%(15%への引き上げ表明あり)の関税は、7月24日に自動失効します。
議会が延長を承認しない限り継続できず、CFR(外交問題評議会)のイヌ・マナック上級研究員は「中間選挙を控える中、議会が延長を認める可能性は低い」と分析しています。
その後も関税を課し続ける可能性を模索するため、米最高裁の判決後にトランプ大統領は複数の国を対象とする新たな301条調査の開始を表明。
301条は、相手国の不公正な貿易慣行に対する制裁として関税を課す法律ですから、関税を課せるだけの「不公正な貿易慣行」が見つけられるかが焦点となります。
トランプ関税の今後の政策シナリオ

それでは、今後トランプ関税はどのように変化していくのか、シナリオを考えてみましょう。
7月以降に、232条・301条へ移行か
トランプ政権は、122条の期限内(7月24日まで)に通商法301条に基づく調査を完了させ、恒久的な関税に移行する計画を示しています。
グリア代表は、301条に基づく各国への関税率は従来の相互関税水準に戻る可能性を示唆しました。
日本については相互関税と同水準の15%が有力です。
しかし、301条調査には通常9カ月以上を要するとされ、150日間ですべての国のすべての品目について実質的な調査を行うのはほぼ不可能と多くの専門家が指摘しています。
移行するとしても、関税の対象品目をかなり縮小させる可能性があるとの見方も出ています。
中間選挙前に関税縮小の可能性も
トランプ大統領が景気減速への懸念から関税策を大幅に後退させる展開もあり得ます。
2026年11月の中間選挙を控え、支持者には「関税を司法に止められた」とアピールしつつ、関税による景気へのダメージを抑えて無党派層への支持回復を狙う戦略も考えられるでしょう。
野村総合研究所の試算では、相互関税に代わる恒久的な関税が実施されなければ、日本の実質GDPは1年間で0.375%押し上げられます。
まとめ|トランプ関税縮小で中間選挙前に株価は浮上?

トランプ大統領が景気減速への懸念から関税を実質的に引き下げるのであれば、株式市場にとっては非常にポジティブです。
また関税引き下げがなくても、すでに株式市場は昨年に発動した関税を織り込んできたため、株式市場への悪影響は限定されるでしょう。
そのため今後は過度に警戒しすぎず、まずは通商法122条の150日期限(7月24日)に向けて、301条調査の進捗を見ていくのが良いと考えられます。
またトランプ関税が供給網の再編を促している点に注目して、米国現地生産比率が高く価格転嫁力を持つ企業やFA機器など供給網再編の恩恵を受ける銘柄に投資をするのも有効な戦略です。
150日のタイムラインを念頭に置きながらも、冷静に市場に向き合っていくのが良いと思われます。
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執筆者情報
日本投資機構株式会社 アナリスト
準大手の証券会社にて資産運用のアドバイザーを務めた後、日本株主力の投資顧問会社の支店長となる。現在は日本投資機構株式会社の筆頭アナリストとして多くのお客様に株式投資の助言を行いつつ、YouTubeチャンネルにも積極的に出演しており、資産運用の重要さを発信している。

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