2026年2月に勃発した米・イスラエル連合軍とイランとの軍事衝突により、ホルムズ海峡の封鎖が現実となりました。
世界の石油供給の約5分の1が通過するホルムズ海峡の通航が制限されています。
原油価格はピーク時に1バレル120ドル近くまで急騰し、日本株市場にも激しい変動をもたらしています。
本記事では、イラン戦争の現状と今後の焦点、原油高が日本株に与える影響、そして個人投資家が今取るべき具体的な戦略を解説します。
イラン戦争は「短期決着」の楽観を裏切った

2026年2月28日、米・イスラエル連合軍がテヘランを空爆し、翌3月1日に最高指導者アリ・ハメネイ師(86歳)の死亡が確認されました。
37年間にわたりイランを率いた指導者の喪失は、宗教的にも政治的にも計り知れない衝撃をシーア派世界に与えました。
米国側が想定した斬首による早期交渉のシナリオは崩れ、革命防衛隊(IRGC)が体制の実権を掌握。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続き、紛争はこう着状態に入っています。
長引く紛争の現在までの流れを改めて振り返っておきましょう。
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後継者にモジタバ師が選出
アリ・ハメネイ師の死亡を受けて、3月9日に聖職者88名からなる専門家会議が次男モジタバ・ハメネイ師(56歳)を第3代最高指導者に選出しました。
革命防衛隊の強力な後押しによる異例の速さでの継承です。
モジタバ師は筋金入りの反米保守強硬派で、父が禁じていた核開発にも前向きとの見方があります。
就任後も公の場に一切姿を現しておらず、英紙は「意識不明」の可能性を報道(4月7日)。
実質的な意思決定は革命防衛隊が担うとの見方が強まっています。
トランプ大統領発言の迷走
3月31日にはトランプ大統領が「あと2〜3週間で任務完了」と発言。市場に安堵感をもたらしました。
しかし、4月6日にはイランが恒久停戦・制裁解除などの10項目の条件を提示。
トランプ大統領はこれを不十分と拒否し、「翌7日までに合意しなければ地獄の雨を降らせる」と警告しました。
期限当日の7日には、パキスタンの仲介でギリギリ「2週間の攻撃停止」に合意。
しかし、その裏では軍事拠点(カーグ島)を攻撃し続けるという、矛盾した行動を見せています。
翌8日には再びSNSに矛盾を含む複数の投稿を行い、イランは「停戦違反」を主張して協議を一時停止しました。
ブルームバーグは「矛盾する発言・行動が根本的な隔たりを示し、停戦を脆弱にしている」と指摘しています。
2週間の停戦が切れるまでの交渉が焦点
今後は、2週間の停戦が切れるまでの交渉が最大の焦点です。
イランはホルムズ海峡の開放を一時停戦の条件にすることを拒否しており、恒久停戦交渉は難航が予想されます。
また、公の場に姿を見せないモジタバ体制の下で革命防衛隊が実質統治するシナリオが強まれば、「交渉相手の不明確化」リスクが生じます。
原油価格についても、ホルムズ再開後の損傷施設の復旧には相当の時間を要するとみられ、攻撃前の64ドル水準への回帰は期待しにくい状況です。
泥沼化の様相を呈するイラン戦争は、当面マーケットのテールリスクであり続けるでしょう。
ホルムズ海峡封鎖―「石油の大動脈」が止まった衝撃

1973年の第四次中東戦争、1990年の湾岸戦争、2019〜2020年のイラン・イスラエル間の緊張局面。
過去の有事において、イランはホルムズ海峡の「封鎖カード」を外交上の脅しに使いながら、実際には行使を自制してきました。
自国の原油輸出もホルムズ海峡に依存しており、封鎖はイラン自身にも経済的打撃を与えるためです。
しかし今回は事情が異なります。
米・イスラエルの攻撃により、イランはすでに甚大な経済的・軍事的打撃を受けており、「失うものが少ない」状況に追い込まれました。
革命防衛隊はホルムズ海峡付近の船舶に通過禁止を通告し、リスク回避のために民間タンカーが自主的に航行を見合わせる形で、海峡は事実上の封鎖状態に陥っています。
その後イランは、自国が定めた規則を順守する友好国の船舶に限り通航を認め、通航料の徴収を開始するという異例の対応に転じました。
ホルムズ海峡封鎖を受けたマーケットの動き

※TradingViewより引用
こうした状況を受けて、原油(WTI)は開戦前の1バレル67ドルから戦闘ピーク時に120ドル近くまで急騰。
その後は、米・イランの2週間停戦合意を受けて、4月8日に一時91ドルまで急落しました。
しかし開戦前の67ドルと比較すれば依然として高水準にあります。
ホルムズ海峡の恒久的な再開が見通せない中、原油高は「一時的」ではなく「長期にわたるコスト上昇」として日本経済・株式市場に波及する可能性が高まっています。
原油価格急騰が日本株市場に与える影響

日本は原油輸入の約94%を中東に依存しており、タンカーの約8割がホルムズ海峡を通過します。
野村総研の試算では、原油価格が攻撃前比50%高で高止まりした場合、実質GDPを-0.25〜-0.50%pt押し下げるとされます。
以下では、原油高が日本株に影響を与える経路を整理します。
コスト増による企業業績下方修正リスク
ガソリン・軽油価格の上昇は物流コストを直撃し、ナフサ・エチレン等の石油化学原料の高騰は川上の素材産業から川下の消費財メーカーまで広く波及します。
電力・ガス代の上昇は製造業全般の固定費を押し上げ、食料品・外食産業においては原材料費・光熱費・輸送費の「トリプルコスト高」が企業利益を圧迫します。
セクター別に影響を整理すると、以下の通りです。
- 航空
燃料費が営業費用の20〜30%を占めるため、ヘッジ期間を超えた原油高は業績に直結 - 化学
原料コストの転嫁に数カ月のラグがあり、その間は採算が悪化 - 食品・外食
コスト増を販売価格に転嫁しきれない場合、マージン圧縮が顕在化 - 海運
運賃の急騰による恩恵を受けるが、荷動き量が世界景気の減速とともに鈍化すれば利益の持続性に懸念も - 石油・資源(INPEX等)
短期的には恩恵を受ける
3月期決算企業が今後公表する本決算および来期の業績見通しには、原油高の影響が色濃く反映される見込みです。
市場のコンセンサスを下回る決算内容が相次いだ場合、株価の上値を抑える要因となります。
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円安加速→輸入インフレで消費マインド悪化
原油はドル建てで取引されるため、円安が進むと輸入コストはさらに膨らみます。
リスクオフ局面では通常は円高に振れますが、今回は日本の対外エネルギー依存の深刻さが意識されている上、日米金利差が依然として大きいため円安圧力が継続しています。
原油が一時120ドルに迫る局面では、高市首相がガソリン価格を170円程度に抑制する補助策を指示しました。
対策は物価高緩和には一定の効果を持ちますが、財政負担の拡大という別のリスクを生みます。
大型補正予算が組まれれば、長期金利への上昇圧力を通じて設備投資の抑制につながりかねません。
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複雑さを増す日銀の政策運営
日銀の政策運営も複雑さを増しています。
原油高がインフレを長期化させる一方、消費マインドの悪化と実質購買力の低下は景気下押し圧力となります。
利上げでインフレを抑えようとすれば景気に追加ダメージを与え、利上げを見送れば円安・インフレが高止まりするというジレンマです。
第一生命経済研は「2026年度の消費者物価(除く生鮮食品)は前年比2%を上回る可能性が高い」と指摘しており、日銀が4月会合で利上げを決断するかは市場の注目点のひとつです。
世界景気後退懸念も…。
原油高によるコスト上昇は日本だけの問題ではありません。
米国内でもガソリン価格の上昇が消費者マインドを悪化させています。
一方でホルムズ封鎖による供給ショックが世界貿易を停滞させれば、景気後退リスクも意識されます。
利上げもできず、利下げもしにくいスタグフレーション的な状況は、リスク資産全般への逆風となります。
加えて、足元ではプライベートクレジット市場にも動揺が広がっています。
中東情勢の悪化を受けて、レバレッジドファイナンスの借り手企業の信用力懸念が高まっており、一部のプライベートクレジットファンドでは評価損や流動性圧力が顕在化しています。
プライベートクレジット市場の信用収縮が実体経済に波及する場合、従来の金融危機とは異なる経路でのリスクオフとなる点に注意が必要です。
機関投資家がリスク資産全般のエクスポージャーを削減した場合、日本株も売り圧力から逃れることは難しいでしょう。
「有事は買い」は今回も実現するか?

過去の主要な地政学リスクイベントを振り返ると、2001年の9.11テロ後にS&P500は1カ月以内に下落前の水準をほぼ回復し、2003年のイラク開戦時には「開戦=不透明感の解消」として株価がむしろ上昇しました。
湾岸戦争(1990〜91年)においても、地上戦開始直後から株式市場は急速に回復に転じています。
有事における株価下落の多くは「不確実性への恐怖」によるものであり、事態の輪郭が見えてくると市場はそれを織り込んで前に進む、というのがこの経験則の本質です。
しかし今回の有事には、過去と異なる構造的特徴が複数存在しており、判断には慎重さが求められます。
ホルムズ海峡封鎖という実需への直撃、モジタバ体制の不透明さ、トランプ発言の予測不可能性、そしてプライベートクレジット市場の動揺——これらは過去の有事には存在しなかったリスクファクターです。
「有事は買い」の経験則は生きているかもしれませんが、タイミングと銘柄選択を誤れば損失につながり得る局面です。
個人投資家が今すべき備えとは?

それでは、個人投資家は何に注意して投資を行うべきでしょうか。
ここからは、必要な備えや考え方を解説します。
リスク管理を徹底
有事相場で個人投資家が陥りやすい最悪のパターンは、下落局面でパニック売りをした後に反発を取り逃がすことです。
これを避けるために重要なのは、「今の保有ポジションが仮にさらに20〜30%下落しても、生活や精神的に耐えられるか」の確認です。
具体的なリスク管理として、以下の3点を押さえておきましょう。
- 損切りラインを事前に決めておく
感情ではなくルールで売る習慣が底値売りを防ぐ - キャッシュポジションを2〜3割確保
下落が続いた際の買い増し余力を生む - 信用取引は余裕ある証拠金維持率を保つ
追証リスクを念頭に置いた管理が不可欠
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リバウンドで買う銘柄リストを準備
底値の正確な予測は、プロの機関投資家でも困難です。
重要なのは「底値を当てようとしない」ことです。
代わりに、「停戦が確実になったとき、あるいは原油が落ち着いてきたときに買いたい銘柄リスト」をあらかじめ作成しておき、シグナルが出た段階で機械的に買い付けられる準備を整えておきましょう。
有事収束後のリバウンドで恩恵を受けやすい銘柄群は以下の通りです。
- 航空セクター(ANA・JAL)
燃料費急騰で株価が下押しされており、原油価格が落ち着けば業績改善が直結 - 陸運・小売
輸送コスト低下の恩恵を受けやすい - コスト転嫁力の高い食品大手・サービス業
内需消費関連で値上げが定着しつつある企業 - 半導体・電子部品などハイテクセクター
原油直接の影響が限定的で、リスクオフ後退とともに投資家が戻りやすい
一方、原油高の恩恵を受けてきた資源・エネルギーセクターは、停戦後は調整圧力を受けやすい点に注意が必要です。
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シナリオ別の行動計画を事前に決めておく
今後の展開は大きく3つのシナリオに整理できます。
| シナリオ | 条件 | 原油(WTI) | 日経平均の目安 | 行動方針 |
|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 恒久和平進展・ホルムズ完全再開 | 70〜80ドル台に低下 | 6万円台回復を試す | 航空・内需消費・ハイテクを積極買い増し |
| ベース | 停戦と緊張再燃を繰り返す | 90〜100ドルで高止まり | 53,000〜57,000円レンジ | 分散を意識した少額ずつの買い増し |
| 悲観 | 停戦崩壊・ホルムズ危機再燃 | 110〜120ドル台へ | 5万円割れも視野 | 金・資源・ディフェンシブへシフト、キャッシュ比率引き上げ |
地政学リスクが短期的にどう進展するかを予測するのは非常に難しく、どのシナリオにどの程度の確率を置くかは投資家それぞれの判断です。
重要なのは、「どのシナリオになったら何をするか」を事前に決めておき、相場の動きや報道に感情的に反応しないことです。
まとめ|混沌の中でこそ「冷静さ」が武器に

有事相場においては、情報が錯綜し、トランプ大統領のSNS投稿1つで相場が大きく動く局面が続きます。
そのような環境では、「今すぐ何かしなければ」という焦りが最大の敵です。
過去の有事相場が示すように、株価は長期的には回復する傾向がありますが、そのプロセスは直線的ではなく、底値を取ることはほぼ不可能です。
今この局面で投資家に求められるのは3つのことです。
- 自分のリスク許容度を超えたポジションを持たないこと
- 停戦進展・原油低下・業績回復という好転シナリオに備えた買いリストを今のうちに準備しておくこと
- 複数のシナリオを持ち、どのシナリオになれば行動するかの基準を事前に決めておくこと
混沌とした市場の中でも冷静さを保ち、自分のルールに従って行動することが、その後の利益につながります。
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執筆者情報

Marina Bay Capital Advisors Pte Ltd (シンガポール) CEO / 記事監修
大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券など大手証券会社の投資調査部にてシニアアナリストとして日本株を担当。日経アナリストランキング首位。日本経済新聞、テレビ東京等のメディアにも多数出演。その後、世界有数の株式ヘッジファンドにて日本株ロング・ショートファンドの運用に従事。日本株運用のマネージング・ディレクター、日本株運用責任者などを歴任。ロング・ショート運用を通じて、国内外の様々な業界や企業に精通。

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