夏枯れ相場はいつからいつまで?本当に売買が細るのか過去の動きから傾向を分析

石塚 由奈

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

夏枯れ相場はいつからいつまで?本当に売買が細るのか過去の動きから傾向を分析

株式市場には、「夏枯れ相場」と呼ばれるアノマリーがあります。
7月後半から8月にかけては、海外投資家の夏休みと日本のお盆が重なり、取引をする人が減少するため、相場が「枯れる」のです。
例年、この時期になると「そろそろ夏枯れだから株価も下がるのではないか」との声も聞かれます。

しかし、近年はアルゴリズム取引の普及などで、機関投資家が長期休暇に入っても、さほど取引は減少しないとの見方も増えています。
そこで、実際に夏の相場は枯れているのか、日経平均の過去56年の推移と東証の売買代金5年分を集計し、傾向を分析しました。

目次

夏枯れ相場とは|夏に商いが細る株式市場のアノマリー

夏枯れ相場とは|夏に商いが細る株式市場のアノマリー

「夏枯れ」はもともと、夏に客足が遠のいて商売が振るわなくなる様子を指す言葉でした。
真夏に草木が水分を失ってしおれる姿を、活気がしぼむ市場に重ねた表現です。

株式市場での夏枯れ相場は、夏にかけて売買が減り、株価が動きにくくなる現象を指します。
理屈で説明しきれないのに毎年のように繰り返される相場のクセ、いわゆるアノマリーの1つです。
古くは江戸の米相場のころから、夏の閑散は経験的に知られてきました

夏枯れ相場はいつからいつまで?|7月後半から8月下旬が中心

夏枯れが意識されるのは、おおむね7月後半から8月下旬までです。
特にお盆休みを挟む8月中旬が中心で、広く取れば6月から9月ごろまで含める場合もあります。

時期に幅が出るのは、参加者が休暇に入るタイミングがばらつくためです。
欧米の投資家は7月から8月に長めの夏季休暇を取り、日本の投資家は8月13日から16日ごろのお盆に休みます。
このため7月に入ると商いが徐々に細り始め、お盆を挟んで8月末まで薄い状態が続くとされています。

しかし、過去5年の実際の売買代金を見ると、日本株市場の売買が最も減少するのは8月下旬でした。
詳しくは後述しますが、「夏枯れが意識される時期」と「実際に売買が細る時期」が異なっている点には注意が必要です。

夏枯れ相場はなぜ起きる?|商いが細る理由

夏枯れは、市場に参加する人が減り、新しい材料にも乏しくなるため起きると考えられます。

最大の理由は、海外投資家の長い夏季休暇です。
日本株の売買のおよそ6割は海外勢が行っており、2024年の現物市場でもシェアは59.1%に達しています。
その主役が7月から8月にまとまった休みを取れば、大口の買い手と売り手が市場から抜けてしまいます。

さらに、日本企業の決算発表は3か月ごとに年4回あり、そのうち4-6月期決算の発表は7月下旬から8月上旬がピークです。
この決算ラッシュが一巡すると、企業もお盆休みに入り、相場を動かす新しい材料に乏しくなっていきます

売買代金は本当に細るのか|通年比で10〜25%減

「夏は商いが細る」とよく言われますが、どのくらい細っているのかを数字で確かめた記事はほとんど見当たりません。
そこで今回は実際に、過去5年の東証プライム市場(2021年は前身の東証一部)の売買代金について、夏は他の時期と比べてどの程度減少してるかを調べました
具体的には、7-8月を含む1年すべての営業日をならした1日平均(通年平均)と、7-8月の営業日をならした1日平均を比べています。

夏の商いはどの年も通年平均を下回っていた

実際に比べてみると、夏の売買代金は、過去5年すべてでその年の通年平均を下回りました。

2021年は通年3.12兆円に対して夏は2.32兆円で25.7%減、2022年は3.28兆円に対して2.62兆円で20.1%減です。
2023年は10.1%減、2024年も5.12兆円に対して4.57兆円で10.7%減でした。

日経平均が2024年に34年ぶりの史上最高値をつけ、売買代金の絶対額はこの5年で2倍以上に増えています。
それでも夏になると通年より1割から2割は薄くなります。
夏に商いが細るという通説は、売買代金で見る限り事実でした。

夏(7-8月)平均その年の通年平均通年比
2021年2.32兆円3.12兆円-25.7%
2022年2.62兆円3.28兆円-20.1%
2023年3.45兆円3.84兆円-10.1%
2024年4.57兆円5.12兆円-10.7%
2025年4.87兆円5.30兆円-8.2%
東証プライム(2021年は東証一部)の1日平均売買代金。通年平均は日本取引所グループ公表値。2025年は年途中のため参考値。
夏枯れ相場は本当に商いが薄いのか、夏と通年の1日平均売買代金の比較
夏(7-8月)の売買代金は5年とも通年平均を下回りました。単位は兆円。

商いが最も細るのはお盆ではなく8月下旬

より細かく上旬(1〜10日)、中旬(11〜20日)、下旬=(21日〜月末)に分けて見ると、夏の商いは一本調子では細っていません。

5年間の1日平均は、7月が上旬3.53兆円・中旬3.25兆円・下旬3.68兆円、8月が上旬4.19兆円・中旬3.64兆円・下旬3.15兆円です。
決算ラッシュの7月下旬から8月上旬は商いが膨らみ、8月上旬にピークを迎えています
そこから決算が出そろい、お盆を過ぎた8月下旬に商いは一気にしぼみます
夏で最も薄いのが、この8月下旬でした。

各年で最も売買代金が少なかった1日を見ても、2022年は8月25日、2023年は8月23日、2024年は8月27日と、お盆明けの下旬に集中しました。
ただし2021年は7月6日、2025年は7月7日と、7月上旬が最少の年もあり、毎年必ず8月下旬になるわけではありません。

休暇の最中よりも、決算が出そろって手掛かりが乏しいまま夏が終わる8月下旬に、市場は最も静まっています
そしてこの8月下旬の底は、次の検証で見る株価の底とも時期が重なります。

夏枯れ相場は本当に商いが薄いのか、7月・8月の旬別1日平均売買代金
7月・8月の1日平均売買代金を旬別に平均。決算発表が集中する7月下旬から8月上旬に膨らみ、お盆明けの8月下旬に最も細くなります(上旬=1〜10日、中旬=11〜20日、下旬=21日〜月末)。

枯れ方は年々弱まっている|相場全体の活況が背景に

さらに夏枯れの細り方が、年々弱まっている点も注目に値します。
通年比の落ち込みは2021年の25.7%減から、2024年10.7%減、2025年8.2%減へと縮んできました

背景としては、冒頭に挙げたアルゴリズム取引など自動発注の増加が考えられます。
また、2024年に日経平均が史上最高値を更新して以降、国内外で日本株を売買する投資家の裾野が広がっている可能性も想定されます。
「夏枯れ相場」というアノマリーが過去のものになる日も近いかもしれません。

夏は本当に下がりやすいのか|56年の勝率

夏は本当に下がりやすいのか|56年の勝率

次に、夏は下がりやすいかどうかを確認していきましょう。
日経平均の月別リターンを1970年から2025年までの56年分集計し、プラスで終わった年の割合(勝率)と平均リターンを計算しました。

7月8月は1年で数少ない平均マイナスの月

その結果、12か月のうち平均リターンがマイナスだったのは8月と9月だけで、7月もほぼ横ばいでした
6月末から8月末までの2か月の騰落率で見ても平均-0.58%とマイナスリターンで、プラスで終わった年は42.9%にとどまります。
56年の長期でみると、夏は数少ない軟調な季節と言えそうです。

対照的に1月は平均+1.17%、12月は+1.42%と、年末年始はよく上がります。
年間の高低を並べると、8月、9月だけがくっきりと窪んでいます。

夏枯れ相場は株価が下落しやすいのか、日経平均の月別平均リターン
平均リターンがマイナスなのは8月と9月だけ。夏の軟調がはっきり表れています。

直近10年はむしろプラス|アノマリーは変わりつつある

ところが直近10年(2016年から2025年)に絞ると、夏の下落は消えていました。
この10年の平均は7月が+0.58%、8月が+0.99%、夏全体で+1.56%とプラスに反転します。

ただし、夏全体での勝率は50%と五分五分であり、勝ったり負けたりの年が続いたのが実際です。
それでも平均がプラスなのは、上げた年の伸び(2016年+8.4%、2022年+6.4%、2025年+5.5%)が大きかったためです。

株式市場には「閑散に売りなし」という相場格言があります。
市場参加者が減少していても、目立った売り材料がなければ、株価は下がりづらいのです。
また、7月末から8月上旬の決算発表ラッシュで企業の好業績が目立てば、閑散相場のなかで買いが勢いづく場合もあるでしょう。

夏に下げても年末には戻りやすい|買い時の考え方

さらに、仮に夏に株価が下落しても、その後は年末へ向けて戻りやすい傾向があります。
過去56年のうち、夏に日経平均株価下落した32年について、夏の底値から年末までを調べると、平均で+5.0%上昇し、62%の年でプラスになりました。

2024年8月に起きた「令和のブラックマンデー」と呼ばれる日経平均株価の急落のように、市場参加者が少ないなかで、売りのきっかけがあれば、株価が下落する場合も当然あります。
しかし、夏の急落に慌てて投げるより、下げ場面を仕込みの好機とみる姿勢が、過去データと整合します。

ただし、1990年のバブル崩壊のように戻らなかった年もあり、下げの理由が業績や景気の悪化なら話は別です。

【検証3】夏はボラが高いは誤解|7月は年間で最も穏やか

「夏は薄商いだから値動きが荒くなる」とも言われます。
そこで、日経平均の日次の値動きから年率換算したボラティリティについても、夏と通年の平均を比較してみました。

7月は1年で最も値動きが小さい月だった

ボラティリティを比較した結果、7月は12か月で最も値動きが穏やかな月でした。
日次の値動きから年率換算したボラティリティは7月が17.2%で、通年平均の20.8%を下回り、全月で最低でした。
1日で3%以上動いた日は7月全体のわずか1.7%、5%以上動いた日は0.08%と、どちらも12か月で最少です。

過去56年で7月についた1日の最大下落率も-4.0%止まりで、暴落と呼べる急落がほとんど起きていません
参考までに、最も荒れる月は10月の年率26.5%、次いで3月の23.0%です。
「夏は薄商いで荒れる」との前提は、7月に関するかぎり的外れでした。

夏枯れ相場は株価の変動が激しくなるのか、日経平均の月別ボラティリティ
7月は年間で最も穏やかでした。最も荒れるのは10月で、夏ではありません。

8月は普段静かなのに急落だけが突出する

しかし、8月になると、相場の性格が一変します。
年率ボラティリティは21.5%と通年平均をやや上回り、12か月で4番目の高さです。
ただし日々の値幅は平均並みで、毎日荒れるわけではありません。

8月の怖さは、忘れた頃に極端な急落が来る点にあります。
1日で5%以上下げた日の割合は0.97%と、10月・3月に次ぐ3番目です。

過去の1日の最大下落率は-12.4%、最大上昇率は+10.2%と、上下どちらにも極端な値が並びます。

指標7月8月参考(全月)
年率ボラティリティ17.2%(最低)21.5%20.8%
1日5%以上動く頻度0.08%(最低)0.97%0.67%
過去の1日最大下落-4.0%-12.4%
日経平均の月別ボラティリティ指標(1970-2025年)。7月は最も穏やか、8月はテールリスクが突出。

薄商いが急落を増幅する|2024年8月5日の暴落

8月の急落を象徴するのが、2024年8月5日の令和のブラックマンデーです。
日経平均はこの日1日で4,451円安と下落し、終値31,458円まで沈みました。
この4,451円は、1987年ブラックマンデー翌日を超える史上最大の下げ幅です。
下落率でみると-12.4%で、-14.9%を記録した1987年に次ぐ2番目でした。

引き金は主に3つありました。
日銀が7月31日に政策金利を0.25%へ引き上げ、円相場が利上げ前の1ドル153円台から8月5日に141円台まで急伸しました。
さらに8月2日の米雇用統計が市場予想を大きく下回り、米景気後退への懸念が広がります。
低金利の円を借りて外貨で運用する円キャリートレードの巻き戻しが加わり、下げが一気に増幅されました。

しかし、翌8月6日には3,217円高と急反発し、当時は史上最大の上げ幅でした。
下げも戻しも極端に振れたのです。

夏枯れ相場に起きた急落、2024年8月の日経平均株価の推移
8月5日は史上最大の下げ幅-4,451円。翌6日の+3,217円は当時最大の上げ幅で、2026年5月に更新されました。

2026年の夏枯れ相場|個人投資家が取るべき備え

2026年の夏相場は、過去の例と比較しても珍しい荒れた7月から始まっています。
AI・半導体株が年前半に大きく上昇してきた分、手仕舞い売りが出やすくなっている面もあるでしょう。

今後の焦点は、7月末から8月中旬にかけて本格化する企業決算の発表です。
すでに決算を発表している企業のなかには、電子部品のKOA(6999)やソフトウエアのテスト受託を手掛けるSHIFT(3697)など、改めて決算内容が好感されて買われる銘柄も見られています。
決算発表が進むとともに、こうした銘柄が増えてきて、市場全体が楽観を取り戻す余地も十分にあります。

しかし、そうならなかった場合には、少し注意が必要です。
8月下旬には売買材料がなくなってきますから、薄商いのなかで売りが加速する可能性も想定する必要があるでしょう。
とはいえ、夏の下落は年末へ向けて戻りやすいため、業績や景気の悪化が理由でなければ、下げ場面はむしろ仕込みの好機になり得ます。

まとめ|夏枯れ相場は静かに枯れ8月に牙をむく

まとめ|夏枯れ相場は静かに枯れ8月に牙をむく

過去のデータを検証した結果、夏相場の売買代金は通年比で10-25%細り、夏枯れは数字の上で実在します。
ただし最も商い薄いのはお盆ではなく8月下旬で、細り方は2021年の25.7%減から2025年8.2%減へ年々和らいでいます

株価は56年でみれば8月が平均-0.66%と軟調な一方、直近10年は7月8月の2か月の平均が+1.56%とプラスに転じました。
値動きは7月が1年で最も穏やかなのに、8月には2024年の-12.4%のような急落が発生しています。

2026年は穏やかなはずの7月からすでに揺れています。
今後は決算発表を睨みながらの展開になるとみられますが、もし企業決算を受けて楽観が広がらなかった場合には、8月の突然の急落に備える必要があります。
しかし、夏の下落は年末の上昇に向けた買いチャンスになってきた過去も忘れずに、落ち着いて相場に向き合いたいところです。

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執筆者情報

nari

石塚 由奈

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。

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