キオクシアの暴落、高値をつかんだ人は救われるか?|半導体サイクルと低PERの罠

日本投資機構 編集部

日本投資機構株式会社

キオクシアの暴落、高値をつかんだ人は救われるか?|半導体サイクルと低PERの罠

キオクシアはもう終わりだ」

2026年7月、SNSはそんなあきらめのつぶやきが目立ちました。6月に時価総額でトヨタ自動車を抜き、国内首位の座に立ったばかりの会社が、7月に入るなり崩れ落ち、17日時点で5万5,000円割れまで沈んだからです。なかでも身動きが取れなくなったのは、信用取引で天井近くに飛び乗った人たちでした。

この記事では「キオクシアを高値でつかんでしまった人に、出口はあるのか」を、半導体メモリ特有の市況サイクル(好不況の波)から落ち着いて考えます。

株価がどこまで伸びるかを占うのではなく、なぜ一度崩れると戻りに時間がかかるのか、その仕組みを扱います。あわせて、今回は「AIスーパーサイクル」で従来と違うのではという反論も、公平に並べておきます。

目次

キオクシア暴落の理由はNAND供給懸念と信用需給の悪化

何が起きたのか|"国内トップ"の高揚から7万円割れへ

キオクシアホールディングスの急落は、ひとつの悪材料だけで起きたものではありません。NAND需給の引き締まりを前提に上昇していた株価に対し、競合の大型増産計画が将来の供給過剰を意識させました。そこへ利益確定売りと積み上がった信用買いの手じまいが重なり、下げが加速したと考えられます。

6月22日の終値10万8,700円から7月17日の5万2,110円まで、下落率は約52%です。米半導体株安や韓国市場のレバレッジ取引、ベインキャピタルの保有株売却、特許訴訟の陪審評決も売り材料になりましたが、半値下落全体は、NAND市況への期待修正と信用需給の悪化を軸に整理するのが妥当です。

SKハイニックスの80兆ウォンNAND投資が需給懸念を強めた

SKハイニックスは7月2日、韓国・清州市でNAND新工場などに総額100兆ウォンを投じる計画の詳細を発表しました。このうち80兆ウォンがNAND工場「M17」、20兆ウォンが先端パッケージング工場向けです。M17は2027年に着工し、80兆ウォンを2029年までに投じる方針が示されています。

供給能力がすぐ増える計画ではありませんが、NAND不足と価格上昇を織り込んでいた市場には、将来の需給緩和を意識させる材料でした。同日のキオクシア株は約13.5%安となった一方、米国発のAI投資への懸念や韓国半導体株安も重なっています。80兆ウォン投資は急落の有力な引き金ですが、単独原因とまでは断定できません。

上場来高値から半値|利益確定と信用買い残が下げを増幅

キオクシア株は6月22日の上場来高値11万2,700円から、7月17日に5万2,110円まで下落しました。1カ月足らずで約54%安です。年初から急騰していたため、高値圏では利益確定売りが出やすく、株価が崩れると短期資金の手じまいも連鎖しやすい状態でした。

7月10日時点の信用買い残は1,312万9,000株、信用売り残は53万6,700株で、信用倍率は24.46倍でした。買い残が大きい銘柄は、下落時に追証回避や損切りの売りが出やすくなります。実際の強制決済額は公表されていないため、信用取引が下落を何円分押し下げたかは断定できませんが、値動きを増幅した可能性は高いでしょう。

2024年12月から2026年7月までの週足チャート TradingViewより引用

米半導体株安・韓国ETF・ベイン売却が需給悪化を後押し

7月16日の米国市場では、フィラデルフィア半導体株指数が4%超下落し、NAND大手のサンディスクも12%超下げました。米国発の売りが東京市場へ波及したうえ、韓国のレバレッジ型ETFの影響も、AI・半導体株の調整を大きくした需給要因として指摘されています。

さらに、ベインキャピタルがキオクシアの保有株を全て売却したことを、市況や株価の転換点と受け止める投資家もいました。これらはNAND価格やキオクシアの利益を直接押し下げた事実ではありません。ただし、半導体株全体のリスク回避と持ち高調整を促し、供給懸念と信用需給の悪化による下げを増幅したとみられます。

特許評決371億円は半値下落全体の主因ではない

7月17日に公表されたのは、米Viasatが提起した特許侵害訴訟について、米テキサス州の連邦地裁で原告側の主張を認める陪審評決が出たという内容です。損害賠償金は暫定で2億2,900万ドル、会社換算で約371億円とされました。

ただし、これは支払額が確定した最終判決ではありません。キオクシアは評決後の申し立てや、必要に応じた控訴を含む法的手段を取る方針で、連結業績への影響も精査中としています。株価下落は評決の公表前から始まり、すでに高値から大幅に調整していたため、この評決だけで半値下落全体を説明することはできません。

なぜ戻りに時間がかかるのか|半導体サイクルという振り子

今回の下落は、めぐり合わせが悪くて一時的に値を消しただけ、という類のものではありません。メモリー株は、そもそも相場そのものが大きく振れる体質を抱えています。

キオクシアが得意とするNAND型フラッシュメモリ(電源を切ってもデータが残る記録用の半導体)は、ガソリンや穀物と同じで、製品そのものの値段しだいで利益が大きく揺れる市況品です。

この振れ幅を知らないまま天井で買うと、含み損を抱えたまま過ごす期間が驚くほど長くなります。

ただし、2026年の相場には「今回はいつもの循環と違う」という強い反論もあります。まずは従来型のサイクルの理屈を押さえ、そのうえで”今回の特殊性”まで踏み込みます。ここを自分の言葉で説明できるかどうかで、次の一手はまるで変わります。

メモリーは”市況株”|数年周期で価格が乱高下

メモリー株は「市況株」と分類されます。増産のための工場建設には数年単位の時間がかかるので、注文が急に膨らんでも生産はすぐには追いつきません。まずは品不足で値段が跳ね、儲かると見た各社が競って設備を増やし、その数年後には供給があふれて値段が転げ落ちる。この上げ下げをひたすら繰り返すのが半導体メモリの周期です。

好決算でも売られるわけ|株価は業績に先回りする

やっかいなのは、株価が業績の頂点より一足先に下を向く点です。運用のプロは翌期の利益を先読みして売買するため、今の利益がピークだと判断すれば、好決算の真っただ中でも容赦なく売ってきます

先ほどのサムスンショックが、まさにその実例でした。「業績は好調なのに、どうして下がるのか」——過去最高益という数字は、発表される頃にはとっくに株価へ盛り込まれていた、というわけです。

“走りの食材”と同じ理屈|天井は戻りにくい

戻りの鈍さは、旬の走りに出回る食材の値段にも似ています。初カツオや新物のウニは、出はじめこそ品薄で高値がつきますが、最盛期にどっと市場へ並ぶと値段はするすると平年並みまで落ちる。

走りの高い時期に飛びついた人は、値ごろに戻るのをただ待つしかありません。いったん需給が緩めば、需給が締まっていた頂点の株価までは、そう簡単には戻りません。だからこそ「天井で買うと助かりにくい」という、仕組みそのものの話になります。

ただし今回は違うかもしれない|”AIスーパーサイクル”論

一方で、2026年のメモリー相場には「これは従来の在庫循環ではなく、AIが生んだ構造的な需要だ」とする“スーパーサイクル”論が根強くあります。従来は数年おきに好不況を繰り返してきたメモリーが、生成AIの止まらない需要で「需要が供給を上回る状態が長く続く」構造へ変わった、という見方です。

HBM4と供給逼迫|”選別的スーパーサイクル”の実態

実際、2026年に量産が始まった次世代の広帯域メモリHBM4に生産能力が吸い寄せられ、汎用DRAMの供給はむしろ細っています。6月末には汎用DDR4の価格が前年比で約8倍に高騰し、マイクロンのHBMは2026年分が完売。

NANDでも、AIデータセンター向けのサーバー・エンタープライズSSD需要が旺盛で、供給不足が続いています。「AI関連のメモリだけは選別的にスーパーサイクル入りしている」という整理は、市場でも広く共有されています。

それでも決着はつかない|循環か構造かで正反対

とはいえ、決着はついていません。「AI投資自体がバブルで、いずれ在庫調整が来る」という慎重論も強く、7月の急落はまさにその不安が噴き出したものでした。

今回を”循環の終わりの始まり”と読むか、”構造変化の途中の押し目”と読むか——ここの解釈しだいで、同じ株価でも結論は正反対になります。だからこそ、片方の見方を丸のみにしないことが大切です。

低PERの落とし穴|”割安”に見える数字の裏側

低PERの落とし穴|"割安"に見える数字の裏側

「PERが低いんだから割安だ」。急落のさなかでも、そう言って買い向かう人が現れます。ところがメモリー株では、この低PERの解釈がいちばんの分かれ道になります。

PER(株価収益率)は、株価が1年ぶんの利益の何倍にあたるかを表す指標で、利益がふくらむと数字はひとりでに小さくなります。つまり爆発的に儲かっている頂点では、株価がいくら高くても割安に映ってしまう。ポイントは、その利益がこの先も続くのかどうかです。ここでは、だまされないための見方をひもときます。

実績PERと予想PERを切り分けて見る

PERは、実績ベースと予想ベースを必ず分けて眺めてください。実績PERは直近1年の利益をもとに計算するので、大きく稼いだ直後は低く出ます。一方の予想PERは翌期の利益で計算するため、市場が減益を織り込めば途端に跳ね上がります。

仮に利益が一気に倍増すれば、株価が同じでも実績PERは半分に見え、つい「安い」と手を伸ばしたくなります。しかし翌期に利益が元の水準へ戻れば、PERはまた倍に戻ってしまう。割安に見えていたのは、一瞬だけ利益が異常にふくらんでいたからにすぎません。市況株の「低PER」は、しばしばこのカラクリで生まれます。

利益が続くなら割安、続かないなら罠

結局のところ、低PERが罠になるかどうかは、たった一点で決まります。今の巨額の利益が、この先も続くと考えるかどうかです。

もし利益がピークで、翌期には縮むと見るなら、今の低PERは「間もなく利益が減り、PERが跳ね上がる」ことを市場が見透かしている証拠、つまり天井のサインです。

逆に、AIスーパーサイクルで需要が構造的に続き、利益がさらに伸びていくのなら、今のPERは本当に割安であり、買い場ということになります。同じ数字が、前提しだいで正反対の意味を持つわけです。

論点は”AI需要の持続性”|数字より前提を疑う

かつての市況株では「低い予想PER=天井が近い」がほぼ定石でした。ただ今回は、AI需要が一過性の在庫循環なのか、それとも構造的な需要なのかで、プロの見立てすら割れています。だからこそ、低PERという数字だけを頼りに飛び乗るのは危うい。見るべきは数字そのものより、その裏にある”利益の持続性”への自分の判断です。

キオクシアは暴落後に反発するか|決算とNAND需給が回復の条件

キオクシアは暴落後に反発するか|決算とNAND需給が回復の条件

キオクシア株は7月17日のストップ安後、3営業日続けて戻りを試す展開となりました。7月21日は6万1,060円、22日は6万4,270円で取引を終え、23日も6万7,000円で寄り付いています。17日の安値5万2,110円から23日の始値までの上昇率は約29%です。

ただし、6月22日の上場来高値11万2,700円と比べると、なお約41%低い水準です。急落後の反発は確認できても、上昇トレンドへ戻ったとはまだ判断できません。次の分岐点となる7月31日決算と、その後の反発を支える3つの強気材料を順に確認します。

7月23日は6万7,000円で寄り付き|安値から約29%反発

7月21日のキオクシア株は前営業日比17.2%高の6万1,060円、22日は同5.3%高の6万4,270円まで続伸しました。23日は前日終値を4.2%上回る6万7,000円で寄り付き、17日の安値から約29%戻した計算です。

売られすぎを意識した買い戻しに加え、海外メモリー株の反発も追い風になりました。一方、7月17日時点の信用買い残は1,388万7,900株へ増えています。戻り局面では高値で買った投資家の売りも出やすいため、6万7,000円台を終値で維持し、戻り売りをこなせるかが短期的な確認点です。

2026年6月11日から7月23日9時半時点での日足チャート TradingViewより引用

7月31日決算は7~9月期の見通しとNAND価格が焦点

キオクシアは7月31日15時30分に、2027年3月期第1四半期の決算を発表する予定です。会社予想は売上収益1兆7,500億円、営業利益1兆2,980億円、四半期利益8,690億円です。NANDの売価上昇を前提に、前年同期から大幅な増収増益を見込んでいます。

会社予想へ届いたかだけでは足りません。株価は好業績を織り込んだ後に半値まで下げており、焦点は7~9月期の業績見通し、NANDの販売単価と出荷量、AI・データセンター向け需要の持続性へ移っています。競合の増産計画が意識されるなか、会社が2027年までの需給をどう説明するかが、反発継続を左右します。

①需要の強さ|2026年分の生産枠は完売

一つ目は、需要の強さです。キオクシアは2026年分のNAND生産能力をすでに完売したと伝えられ、データセンター・エンタープライズ向けSSDが売上の約6割を占めるまでに拡大しました。

2025年度(2026年3月期)は売上収益2兆3,376億円(前期比37%増)、営業利益8,704億円(同93%増)と過去最高を更新しています。

②需要の”固さ”|ハイパースケーラーとの長期契約

二つ目は、需要の”固さ”です。マイクロソフトやメタといったハイパースケーラー(巨大IT企業)とは、2027〜2028年を視野に入れた長期契約や前払いの交渉が進んでいると報じられています。スポット売買に頼らず長期契約へ重心を移せれば、利益のブレ幅は小さくなり、これまでのような深い谷を避けられるかもしれません。

ただしこれは裏を返せば、ハイパースケーラーのAI投資が鈍った瞬間に前提が崩れるということでもあります。7月2日の引き金がまさに「メタのAI投資ピークアウト懸念」だった点は、頭に置いておきたいところです。

③累進配当が示すもの|”配当妙味”より市況耐性

三つ目が、累進配当です。キオクシアは機関投資家向けの説明会で、2027年3月期下期にも累進配当(配当を減らさない方針)を始める考えを示しました。市況が沈むたびに無配へ落ちてきた過去からの転換で、経営陣の自信のあらわれと受け止められています。

もっとも、足元の配当利回りは株価水準に対して0.1%にも満たないのが実情です。つまり累進配当の意味は「配当でもうかる」ことではなく、「もう深い谷には落ちないという市況耐性のシグナル」にある、と理解しておくのが冷静な見方でしょう。株価の水準や上値余地の詳しい数字は、別の記事でまとめています。

まとめ|”救われる”ための順序と、煽りに流されない構え

「キオクシアを高値でつかんだ人は救われるのか」への答えは、これからの市況しだいで揺れ動きます。ただ、確実に言えることがひとつあります。頂点を信用の二階建てでつかむと、戻りの鈍い相場では逃げ場がほとんど残らない、という構造です。

半導体の周期と低PERの読み解き方、そして「AIスーパーサイクルで今回は違うかもしれない」という反論まで頭に入れておけば、次に同じ熱狂がやってきたときの立ち回りは変わります。肝心なのは、SNSの「もう終わりだ」にも「まだ上がる」にも引っ張られず、自分の資金余力と決めごとで判断する姿勢です。

重い含み損を抱えているなら、まずは一発勝負にせず、相場から退場しない態勢に立て直すことが先決です。暮らしを切り詰めて一銘柄に全額を突っ込むのではなく、余力を残し、時間を分散して向き合う。当てにいくより、大崩れしない備えこそが、相場では最後にものを言います。

今回のキオクシアは、そのことを学ぶための格好の教材であり、実に多くの示唆をくれます。

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執筆者情報

nari

日本投資機構 編集部

日本投資機構株式会社

INVEST LEADERSを運営する顧問投資会社「日本投資機構株式会社」の代表取締役を含めたスタッフ及びサポートアナリストの記事を掲載しています。株式投資や金融に纏わる話題は勿論のこと、読者の暮らしや生活を豊かにするトピックスや情報を共有していきます。

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