富士通(6702)は2026年1月15日に上場来高値4,668円を付けた後、5月1日に3,016円まで下落しました。その後、7月16日にNVIDIAの技術を取り入れたフィジカルAI構想を発表し、個人投資家の間で話題になっています。
会見にはNVIDIAのジェンスン・フアンCEOも登壇しましたが、株価の再上昇には、AIや量子技術を主力サービスの利益へ結び付けられるかが重要です。
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富士通の今後はサービス事業の利益成長で判断

富士通には中長期の成長余地がある一方、短期で投資判断を下すのであれば、次回決算を確認してからでも遅くはないと考えています。主力のサービスソリューションは増益基調にあり、NVIDIAやAnthropicとの協業、量子技術の社会実装も将来の受注源となる可能性があります。
一方、7月17日時点の予想PERは18.46倍と、高値から約29%下落した現在でも明確な割安圏とは言い切れません。相場では将来への期待だけで株価が上昇する局面もありますが、その評価が長く続く企業は決して多くありません。だからこそ現時点は、成長ストーリーを追うよりも、その期待が決算で数字として表れるかを見極める段階だと見ています。
中長期の成長余地はあるが短期は決算確認が先
2027年3月期は調整後営業利益4,250億円と前期比8.8%増を計画しており、主力事業の採算改善も続く見通しです。ただし、2026年4月の通期決算発表後には、次期売上の伸びが0.2%にとどまる計画や研究開発投資の増加が意識され、株価は3,000円台前半まで下落しました。
7月30日の第1四半期決算では、国内サービスの増収率や利益率、受注残が会社計画どおりに推移しているかを確認したいところです。これまで相場を見てきた中でも、話題性だけで株価が上昇し続けたケースは決して多くありません。そのため、現時点では材料だけで買い急ぐのではなく、業績を確認しながら押し目を見極める姿勢が重要だと考えています。


再上昇には利益率・AI受注・投資回収の3条件が必要
株価が再び高値を試すには、サービスソリューションの利益率上昇、AI案件の商用受注、研究開発費を吸収する利益成長の3条件が必要です。会社は同事業の調整後営業利益率を15.4%から17.4%へ引き上げる計画です。
フィジカルAIやAnthropicとの連携が実証段階を超え、契約額や継続利用料として表れれば評価は変わります。私が優先するのはニュースの本数ではなく、受注残と利益率です。期待だけで上がる時間には限りがあります。数字を待ちます。

投資時期を分けて決算ごとに判断する方法が合う
7月17日終値3,298円は年初来安値3,016円に近い半面、予想PER18.46倍で投げ売り水準ではありません。私なら決算前に一括投資せず、決算通過後の業績確認時と3,000円近辺への再調整時に資金を分けます。
国内サービスの利益率が低下し、通期計画への進捗も弱ければ見送る。株価の安さではなく、業績を確認できた回数に合わせて資金を置く考え方です。この方法なら、好材料直後の値動きにも振り回されにくくなります。無理はしません。
富士通とNVIDIAの提携|2025年の基盤協業からフィジカルAIへ拡大

富士通とNVIDIAの関係は、2026年7月に突然始まったものではありません。2025年10月にAIエージェントと計算基盤を組み合わせた戦略的協業を拡大し、2026年5月にはAnthropicとも提携しました。
その流れを受け、7月16日にファナック、安川電機、川崎重工業とのフィジカルAI構想を発表しています。このような大型提携は発表当日だけが注目されがちですが、企業価値を判断するうえで重要なのは、その取り組みが継続的に積み上がっているかどうかです。富士通についても、一つひとつのニュースを切り離して見るのではなく、AI基盤の整備から産業現場への実装までを一連の成長戦略として捉えています。
2025年10月にMONAKAとNVIDIA GPUの共同開発を発表
富士通は2025年10月3日、次世代CPU「FUJITSU-MONAKA」とNVIDIA GPUを「NVIDIA NVLink Fusion」で接続し、AIエージェントまで含むフルスタックAIインフラを共同開発すると発表しました。
狙いはCPUやサーバーの単品販売ではなく、計算基盤、AIモデル、業務アプリケーションを一体で提供する事業です。商用化後にクラウド利用料や保守収入を積み上げられれば、単発売上に依存しにくい収益構造へ近づきます。
AI関連株を分析する際に意識したいのは、「共同開発」というニュースではなく、その先に継続的な収益源があるかどうかです。提携そのものよりも、利用料や保守収入として利益が積み上がる仕組みを構築できるかが、中長期の企業価値を左右すると考えています。
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2026年5月のAnthropic提携でAI実装力を補強
2026年5月27日にはAnthropicと戦略的パートナーシップを締結しました。富士通はClaudeを活用し、顧客の現場へ入り込んでAI導入から定着まで支援するFDE事業を強化します。
また、約10万人のグループ社員がClaudeを活用し、開発生産性や社内業務の改善を進める方針です。NVIDIAとの協業がAIを支える計算基盤だとすれば、Anthropicとの提携はAIを実際の業務へ落とし込み、企業価値へつなげる役割を担っていると言えるでしょう。
生成AI関連では、「どのAIを採用したか」が注目されがちですが、本当に重要なのは、それを使ってどのような付加価値を生み出せるかです。富士通がAIを現場へ浸透させ、継続的な収益へ結び付けられるかが今後の評価ポイントになると考えています。
2026年7月にフィジカルAIを工場・物流・病院へ展開
2026年7月16日の発表では、ファナック、安川電機、川崎重工業とフィジカルAI分野の事業検討を開始しました。NVIDIA Cosmos、Omniverse、Isaacなどを活用し、工場の生産計画、小売・物流の搬送業務、病院内の医薬品や検体の搬送などへの展開を検討します。
富士通はロボット本体を開発・販売するのではなく、業務システムと複数の設備をつなぐ協調制御基盤を担います。基盤を共通化・オープン化できれば、個別案件だけでなく利用料収入の積み上げも期待できます。
フィジカルAIという言葉はインパクトがありますが、投資判断ではテーマ性だけを追うべきではありません。実証実験が商用化へ進み、継続的な収益モデルを構築できるかどうかが、中長期の株価を左右するポイントになると考えています。
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ジェンスン・フアンCEOが会見で日本発の産業革命に期待
同日に開かれた記者会見には、NVIDIAの創業者兼CEOであるジェンスン・フアン氏も登壇しました。フアン氏はフィジカルAIを次の産業革命と位置付け、富士通、ファナック、安川電機、川崎重工業の技術と、NVIDIAのプラットフォームを組み合わせる構想に期待を示しています。
世界的なAI半導体企業のトップが、日本のものづくり企業4社を具体的に挙げた点は、今回の構想への関与の深さを示す材料です。一方で、株式市場では著名経営者の発言だけで期待が先行する場面も少なくありません。今回も会見の注目度と、富士通が実際に得る売上や利益は分けて評価する必要があります。
フアン氏の知名度と富士通の収益化は分けて評価する
現段階は具体的な技術開発と事業展開に向けたロードマップを策定する段階です。今後は、実証実験の開始時期や導入企業、提供価格に加え、富士通が得る利用料や保守収入など、収益モデルがどこまで具体化されるかを追う必要があります。
フアン氏の知名度は市場の注目を集めるきっかけになりますが、企業価値を左右するのは、その後に商用契約が積み上がるかどうかです。投資判断では会見そのものよりも、契約額や継続収入といった数字の変化を確認していく姿勢が重要だと考えています。
巨大データセンター建設銘柄とは分けて考える
富士通をAIデータセンター関連銘柄として評価する際は、その事業内容を整理しておく必要があります。公式発表の中心は、MONAKAとNVIDIA GPUを組み合わせた計算基盤やAIエージェント、産業向けフィジカルAIの提供であり、自社で巨大データセンターを建設する計画を示したものではありません。
富士通が目指しているのは、データセンターという「箱」を造ることではなく、その内部で稼働する計算基盤や企業向けサービスを提供することです。そのため、電力設備や建設需要の恩恵を受ける銘柄とは収益構造が異なり、株価を動かす材料や業績へ反映されるタイミングも変わってきます。
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富士通の業績本丸|Uvanceとサービス採算が利益を支える

富士通の今後を左右するのは、AIや量子コンピューターの話題性ではなく、サービスソリューション事業の利益成長です。2026年3月期の連結売上収益は3兆5,029億円と前期比1.3%減となりましたが、調整後営業利益は3,905億円と27.1%増加しました。
売上が減少する中でも利益を伸ばせた背景には、Uvanceやモダナイゼーションの拡大に加え、開発プロセスの標準化による採算改善があります。企業を分析するうえでは、新しい技術や提携よりも、それらが利益率の改善へ結び付いているかに注目したいところです。その意味では、富士通の企業価値を判断するうえで最も注目したいのは、このサービス事業の数字です。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3兆5,029億円 | 3兆5,100億円 | +0.2% |
| 調整後営業利益 | 3,905億円 | 4,250億円 | +8.8% |
| 調整後営業利益率 | 11.2% | 12.1% | +0.9ポイント |
| 調整後当期利益 | 2,982億円 | 3,200億円 | +7.3% |
| 年間配当 | 50円 | 55円 | +5円 |
サービスソリューションは19%増益を計画
2027年3月期のサービスソリューション事業は、売上収益2兆4,700億円、調整後営業利益4,300億円を計画しています。売上は前期比5.2%増ですが、利益は19.0%増を見込み、利益率も15.4%から17.4%へ改善する計画です。
国内売上は10.6%増を見込み、製造・流通、金融、防衛など幅広い分野が成長をけん引するとしています。とはいえ、売上の伸びだけで企業価値を判断することはできません。むしろ注目したいのは、利益率がどこまで改善できるかです。売上が大きく伸びなくても、利益率が改善すれば企業価値は高まりやすく、1株利益の成長にもつながります。

Uvanceとモダナイゼーションの構成比が46%へ上昇
サービスソリューション売上に占めるUvanceとモダナイゼーションの構成比は、2026年3月期の41%から2027年3月期には46%まで高まる計画です。従来型の受託開発から、共通サービスや標準化した開発へ移行することで、同じ売上規模でも利益を生み出しやすい事業構造へ変わっていきます。
会社は同事業のグロスマージン率を38.7%から40.7%へ引き上げる計画です。こうした事業構成の変化は、売上だけでは見えにくい収益力の改善を測るうえで重要なポイントです。構成比の上昇に伴って利益率も改善していけば、事業の収益性が高まっていると判断しやすくなるでしょう。一方、この構成比の伸びが鈍れば、利益率改善シナリオにも影響が及ぶ可能性があります。

生成AIは新規売上と開発原価の両面に効く
生成AIの効果は、新しいAIサービスの売上だけに表れるわけではありません。富士通は設計、コード作成、テスト、保守などの工程へAIを導入し、開発プロセスの標準化と生産性向上を進めています。
Anthropicとの提携でClaudeを社内業務や顧客支援へ展開する狙いも、この採算改善につながる取り組みの一つです。決算を見るうえでは、AI案件が何件増えたかよりも、国内サービスのグロスマージン率や開発生産性が改善しているかに注目したいところです。AIは導入すること自体が目的ではなく、利益を生み出す仕組みとして機能して初めて企業価値の向上につながると考えているためです。
富士通の量子コンピューター戦略|短期利益ではなく長期成長の選択肢

量子コンピューターは富士通の将来性を考えるうえで欠かせないテーマですが、現時点で2027年3月期の業績を大きく押し上げる主力事業ではありません。富士通は量子コンピューター本体だけでなく、量子シミュレーターやアルゴリズム、クラウド運用まで含めたソリューションの構築を進めています。
金融や創薬などの実務分野へ早い段階から入り込み、顧客データと量子技術を組み合わせられれば、将来的には大きな競争優位につながる可能性があります。一方で、現時点では将来への投資という位置付けが強く、短期の業績と長期的な技術価値は分けて評価することが重要だと考えています。
256量子ビットから1,024量子ビットへ開発を進める
富士通と理化学研究所は2025年4月、256量子ビットの超伝導量子コンピューターを公開し、2025年度第1四半期から提供を開始しました。さらに富士通は本社に量子棟を建設し、2026年度には1,024量子ビットの超伝導量子コンピューターを設置・公開する計画です。
もっとも、量子コンピューターは量子ビット数が多ければ優れているという単純なものではありません。エラー率や計算精度に加え、既存のスーパーコンピューターとどのように連携できるのかまで含めて評価する必要があります。開発競争の派手さだけでなく、実用性がどこまで高まっているかを見極めたいところです。
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第一ライフグループとの研究で金融実務へ踏み込む
2026年6月には第一ライフグループと、量子技術を活用した資産配分の最適化に関する共同研究を開始しました。研究期間は2026年4月から2027年3月までで、第一生命が運用する約30兆円規模の資産を対象に、株式や債券、オルタナティブ資産の最適な配分を検証しています。
現時点では売上として計上される受注ではありませんが、量子技術が研究段階から金融実務へ踏み出した点は評価できます。今後は、この取り組みが保険会社や銀行などへ横展開され、実際の契約や継続利用につながるかが収益化を見極めるポイントになりそうです。
量子は期待先行になりやすく収益化には時間が必要
量子コンピューターは将来性の大きな分野ですが、関連する発表だけで短期業績を期待し過ぎるのは避けたいところです。大型量子コンピューターの実用化には冷却設備や誤り訂正技術、人材育成など多くの課題が残っており、開発費が先行する局面が続きます。IBMやGoogleをはじめ、国内外の企業や研究機関との開発競争も激しく、技術的な優位性がそのまま利益につながるとは限りません。
現時点では、量子事業を現在の利益を支える柱としてではなく、将来の成長余地として評価するのが適切でしょう。有料利用の拡大や継続契約が積み上がり、事業として収益化できる段階に入って初めて、企業価値への貢献を本格的に評価できると考えています。
富士通の株価推移とバリュエーション|割安か割高かを判定

富士通株は2026年1月15日に上場来高値4,668円を付けた後、5月1日には年初来安値3,016円まで下落しました。その後は3,000円台前半で推移し、フィジカルAI構想の発表翌日となる7月17日の終値は3,298円となっています。
高値から約29%下落しているため割安に見えるかもしれませんが、予想PERは18.46倍、実績PBRは2.83倍、予想配当利回りは1.67%と、バリュエーションだけを見ると極端な割安水準とは言えません。株価だけを見るのではなく、利益成長の見通しや同業他社との比較も踏まえて現在の評価を判断することが重要です。
| 指標 | 2026年7月17日時点 |
|---|---|
| 終値 | 3,298円 |
| 上場来高値 | 4,668円(1月15日) |
| 年初来安値 | 3,016円(5月1日) |
| 時価総額 | 約5兆7,378億円 |
| 予想PER | 18.46倍 |
| 実績PBR | 2.83倍 |
| 予想配当利回り | 1.67% |
高値から約29%下落しても底値とは限らない
上場来高値から約29%下落したからといって、それだけで割安と判断するのは早計です。1月に付けた4,668円には、AI関連への期待や事業再編、株主還元など、さまざまな好材料が織り込まれていました。
その後、2027年3月期の売上成長率が0.2%にとどまる会社計画や研究開発投資の増加が意識され、株価は5月1日に3,016円まで下落しています。足元では持ち直しの動きも見られますが、高値更新へ向かう明確なトレンドが戻ったとは言い切れません。今後は3,000円付近で下値を固められるかに加え、業績が会社計画どおりに進んでいるかをあわせて確認したいところです。
PERは同業より低めでもPBRは安くない
7月17日時点の予想PERは18.46倍で、NECの21.45倍、野村総合研究所の24.50倍と比較するとやや低い水準です。一方、実績PBRは2.83倍となっており、NECや大塚商会と大きな差はありません。そのため、バリュエーション全体で見ると極端な割安株とは言えないでしょう。
PERだけを見れば投資妙味があるようにも映りますが、PBRまで含めて考えると、おおむね妥当な評価を受けている印象です。今後の株価上昇には、PERの見直しを期待するよりも、サービス事業の利益率改善やAI関連事業の収益拡大によって利益そのものを伸ばせるかが重要になってきます。
| 銘柄 | 予想PER | 実績PBR | 予想配当利回り |
|---|---|---|---|
| 富士通(6702) | 18.46倍 | 2.83倍 | 1.67% |
| NEC(6701) | 21.45倍 | 2.70倍 | 0.87% |
| 野村総合研究所(4307) | 24.50倍 | 6.72倍 | 1.65% |
| 大塚商会(4768) | 18.70倍 | 2.91倍 | 3.15% |
| 比較3社平均 | 21.55倍 | 4.11倍 | 1.89% |
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現時点の評価レンジは約3,000円から3,900円
会社予想EPS178.70円にPER17~22倍を当てはめると、株価の評価レンジは約3,038円から3,931円となります。現時点では、このあたりが一つの目安になると考えています。3,000円近辺では会社計画が維持される限り下値は限定されやすい一方、3,900円を超えていくにはAI関連事業の受注拡大やサービス事業の利益率改善が必要になりそうです。
しかし、上場来高値の4,668円を回復するには、PERの評価だけではなく、EPSそのものの増額が欠かせません。株価は「安くなったから戻る」のではなく、「利益が伸びるから評価される」という順番で動くことを意識しておきたいところです。
富士通の株主還元と財務|下値を支えるが上昇の主役ではない

富士通は事業再編で得た資金を株主還元へ積極的に活用し、財務体質の改善も進めています。2026年3月末時点の親会社所有者帰属持分比率は59.6%、1株当たり親会社所有者帰属持分は1,167.25円となっており、2026年3月期には大型の自己株式取得と消却も実施しました。
一方で、予想配当利回りは1%台にとどまっており、高配当株として投資する銘柄ではありません。株主還元は株価の下支え要因にはなりますが、中長期的な株価上昇をけん引するのは、やはり本業の利益成長です。還元策だけで株価の上昇を期待するのではなく、利益成長とあわせて評価することが重要だと考えています。
年間配当は55円へ増配予定
2027年3月期の年間配当は55円と、前期の50円から5円の増配が計画されています。7月17日終値ベースの予想配当利回りは1.67%となり、安定した株主還元姿勢は評価できます。
一方で、配当利回りだけを目的に投資する銘柄ではありません。増配は将来のキャッシュ創出に対する経営陣の自信を示す前向きな材料ですが、より重要なのは、その増配を継続できるだけの利益成長が伴っているかです。配当を評価する際も、本業の成長力とあわせて判断したいところです。
大型の自己株買いと消却は1株価値を押し上げる
2026年3月期、富士通は約4,330万株を約1,699億円で取得し、3月31日付で約3億3,133万株の自己株式を消却しました。発行済株式数が減ることで、利益総額が変わらなくても1株当たり利益(EPS)は高まりやすくなります。
株主還元に積極的な姿勢は評価できますが、この規模の自己株買いが毎年続くとは限りません。そのため、一時的な還元効果と、本業が生み出す継続的な利益は分けて考えることが大切です。今後は自己株買いの規模だけでなく、その原資となる営業キャッシュフローが安定して積み上がっているかにも注目したいところです。
研究開発費の増加は短期利益を圧迫するリスク
AIやMONAKA、量子コンピューター、フィジカルAIへの投資は、富士通の将来を支える重要な成長投資です。一方で、これらは短期的には研究開発費として計上されるため、商用化まで時間がかかれば利益率を押し下げる要因にもなります。特に2027年3月期はハードウェアソリューション事業で減収減益を見込んでおり、全社の利益成長はサービスソリューション事業への依存度が一段と高まる見通しです。
今後注意したいのは、研究開発投資が計画どおり収益へ結び付くかどうかです。受注の遅れや投資負担の増加が重なれば、株価の調整が長引く可能性もあります。投資額の大きさだけではなく、その資金をいつ回収できるのかという視点も持っておきたいところです。
富士通の今後の株価シナリオ|強気・中立・弱気で見通す

株価を一つの数字で予想するよりも、業績の進捗に応じて複数のシナリオを考えておく方が、実際の投資判断では役立ちます。ここでは会社予想EPS178.70円と、7月17日時点の予想PER18.46倍を基準に、想定される株価レンジを整理しました。
強気シナリオではサービスソリューションの利益率改善やAI関連事業の収益化が想定どおり進むケース、中立シナリオでは会社計画どおりに推移するケース、弱気シナリオでは国内サービスの失速や研究開発費の増加によって利益計画が下振れるケースを想定しています。株価そのものよりも、「どの条件を満たせばそのレンジに入るのか」という視点で見ていただくと、より実践的な判断につながるでしょう。
強気シナリオ|3,900円から4,300円
強気シナリオとして想定しているのは、サービスソリューション事業の利益率が会社計画の17.4%を上回り、NVIDIAやAnthropicとの取り組みが受注額や利用料として業績に反映されるケースです。通期業績が上方修正されれば、市場の評価も高まり、PER22~24倍が許容されることで、会社予想EPSを基準に約3,931円から4,289円が一つの目安になります。
一方、上場来高値の4,668円を更新するには、AI関連の期待だけでは力不足です。EPSの増額とAI事業の収益化が同時に進み、利益成長が継続することを市場へ示せるかが重要になります。その条件がそろえば、高値更新も十分視野に入ってくるでしょう。

中立シナリオ|3,000円から3,600円
中立シナリオでは、サービスソリューション事業が会社計画どおりに推移する一方、AIや量子コンピューター関連の収益貢献はまだ限定的なケースを想定しています。PER17~20倍を当てはめると、株価は約3,038円から3,574円となり、7月17日時点の株価もこのレンジに収まっています。
決算や新たな提携発表を材料に株価が上昇する場面はあっても、受注額や利益への寄与が確認できなければ上値は重くなりやすいでしょう。そのため、当面は3,000円近辺が下値の目安となり、3,600円付近では利益確定売りが意識される展開を想定しています。現時点では、このシナリオが最も現実的だと考えています。
弱気シナリオ|2,500円から2,900円
弱気シナリオでは、国内サービス事業の成長が鈍化し、研究開発費や人件費の増加によって通期利益計画が下振れるケースを想定しています。市場の評価がPER14~16倍まで低下した場合、会社予想EPSを基準とした株価レンジは約2,502円から2,859円となります。
AI関連株への期待が後退する局面では、株価が想定以上に下落する可能性もあります。ただ、3,000円を割り込んだからという理由だけで買い場と判断するのではなく、通期計画が維持されているか、受注残や利益率に変化がないかを確認した上で判断したいところです。仮に会社が減益修正を発表した場合には、この弱気シナリオを前提に投資判断を組み立てる必要があるでしょう。
富士通の今後を見るポイント|7月30日決算から確認

最初の注目ポイントは、2026年7月30日に予定されている第1四半期決算です。その後もフィジカルAIのロードマップやMONAKAの商用化、量子コンピューターの共同研究など、話題となる発表は続くとみられます。ただ、本当に注目すべきなのは発表の数ではなく、それらが受注や売上、利益率へどのようにつながっていくかです。
決算ごとに同じ指標を確認し、会社計画との差を追っていけば、一時的なニュースに振り回されにくくなります。私も企業を継続的に分析する際は、毎回同じ項目を確認するようにしています。その方が感情に左右されず、企業の変化を冷静に判断できるからです。
第1四半期では国内サービスの進捗を見る
第1四半期決算で最初に確認したいのは、国内サービスソリューションの売上成長率、調整後営業利益率、受注残の3点です。会社は通期で国内売上10.6%増、サービスソリューション事業の利益率17.4%を計画しており、この目標に向けて順調に進んでいるかが重要になります。
第1四半期は利益が出にくい季節性があるため、通期計画に対する進捗率だけで判断するのは適切ではありません。Uvance関連売上やモダナイゼーション案件の積み上がり、グロスマージン率が前年同期を上回っているかなど、数字の中身まで確認することが大切です。
フィジカルAIはロードマップと商用契約を追う
7月16日に発表されたフィジカルAI構想は、現時点では事業検討を開始した段階であり、売上や利益を生み出す契約が成立したわけではありません。今後はロードマップの具体化に加え、実証地域や導入企業、提供価格などが順次明らかになるかを確認していく必要があります。
また、ファナック、安川電機、川崎重工業との連携が実際の工場や病院などへ展開され、協調制御基盤が他の企業にも広がっていくかが重要なポイントです。実証実験の件数だけではなく、契約金額や継続利用料など、収益につながる数字が示されるかを見極めたいところです。採用企業名が公表されれば、商用化の進捗を判断する有力な材料になるでしょう。
MONAKAと量子は有料利用の開始が転換点
MONAKAと1,024量子ビット級の量子コンピューターは、富士通にとって2026年度を代表する開発テーマです。ただし、重要なのは技術が完成することではなく、外部顧客による有料利用が始まり、継続的な収益を生み出せるかどうかにあります。
MONAKAではNVIDIA GPUとの接続性能や省電力性に加え、どの企業へ導入が進むのかを確認したいところです。また、量子コンピューターでは第一ライフグループとの共同研究の成果や、クラウドサービスの利用企業がどこまで拡大するかが注目点になります。技術発表だけで評価するのではなく、商用化の進展や料金体系まで確認できれば、事業価値をより判断しやすくなるでしょう。
まとめ|富士通の今後はAIを利益へ変える実装力で決まる

富士通はNVIDIAとの協業やAnthropicとの提携、さらにフィジカルAI構想の発表など、AI分野で存在感を高めています。一方で、現時点は話題性が先行する段階であり、本当の評価はこれらの取り組みが受注や売上、利益として表れたときに決まるでしょう。
私は企業を評価する際、「どれだけ話題になったか」よりも、「どれだけ利益を積み上げられるか」を重視しています。その視点で見ると、今後の注目点はサービスソリューション事業の利益率改善や、フィジカルAI、MONAKA、量子技術が継続収益へ結び付くかどうかです。
富士通は安定性のある企業であることは間違いありません。ただ、投資判断では期待だけを追い掛けるのではなく、決算で示される数字を一つひとつ確認しながら判断することが、中長期で成果を上げる近道になると考えています。

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執筆者情報
日本投資機構株式会社 アナリスト
準大手の証券会社にて資産運用のアドバイザーを務めた後、日本株主力の投資顧問会社の支店長となる。現在は日本投資機構株式会社の筆頭アナリストとして多くのお客様に株式投資の助言を行いつつ、YouTubeチャンネルにも積極的に出演しており、資産運用の重要さを発信している。

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