コーエーテクモホールディングス(3635)の株価は、『ぽこ あ ポケモン』のヒット期待で2026年3月11日に年初来高値1,971円をつけた後、6月19日には1,417.5円まで下落しました。ところが、7月末には再び1,600円台を回復しています。
今回の反発は、27年3月期第1四半期の大幅増益だけで説明できません。ゲーム事業の回復、資産運用益、会社計画への期待と失望、証券会社の評価変更が短期間に重なった結果です。
2026年7月30日終値までの株価と最新決算を使い、なぜ安値圏から急伸したのか、好決算の翌日に売られたのはなぜか、今後どこを見るべきかを整理します。
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株価は3月高値から6月安値へ下落|7月は決算を挟んで急反発

コーエーテクモの株価は、期待材料が出るたびに上昇する一方、業績への寄与が見えないと売り直される展開を繰り返しています。3月の急騰、4月末から6月の下落、7月末の反発は別々の動きではありません。
共通しているのは、ヒット作への期待と、会社が示す慎重な利益計画の差です。まずは値動きを時系列で並べると、市場が何に反応したのかが見えやすくなります。
| 日付 | 株価・値動き | 主な材料 |
|---|---|---|
| 2026年3月11日 | 年初来高値1,971円 | 『ぽこ あ ポケモン』の好調な初動 |
| 2026年4月28日 | 本決算翌日に反落 | 27年3月期の2桁減益・減配予想 |
| 2026年6月19日 | 年初来安値1,417.5円 | 今期の利益減少への警戒が継続 |
| 2026年7月27日 | 1,596円、前日比6.19%高 | 1Q決算への期待が先行 |
| 2026年7月28日 | 1,530円、前日比4.14%安 | 1Q発表後に期待との差を意識 |
| 2026年7月29日 | 1,649円、前日比7.78%高 | 証券会社の評価引き上げも材料 |
| 2026年7月30日 | 1,671円、前日比1.33%高 | 反発の流れが継続 |

3月の高値1,971円は『ぽこ あ ポケモン』への期待でつけた
3月11日の上昇を引き起こしたのは、3月5日に発売されたNintendo Switch 2向けタイトル『ぽこ あ ポケモン』です。発売後4日間の世界販売本数が220万本を突破したと伝わり、コーエーテクモの株価は一時大きく上昇しました。
同作は株式会社ポケモンとゲームフリークが企画し、コーエーテクモゲームスが共同で企画・開発したタイトルです。販売本数の大きさに加え、世界的なポケモンIPとの協業実績が評価され、単年度の利益だけでなく今後の大型協業にも期待が広がりました。

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4月の減益・減配予想が6月安値まで尾を引いた
26年3月期は売上高883億円、営業利益371億円、経常利益570億円、純利益428億円となり、売上高・経常利益・純利益は過去最高でした。ところが、続く27年3月期の会社予想は営業利益320億円、純利益310億円です。前期比ではそれぞれ13.9%減、27.6%減となります。
年間配当予想も66円から48円へ減少しました。好調だった前期よりも、今期の減益と減配が株価の評価材料になったため、4月末以降は売りが続き、6月19日に1,417.5円まで下落しました。
7月の急伸は好決算だけでなく売られ過ぎの修正も重なった
6月安値から7月30日終値1,671円までの上昇率は約17.9%です。1Q決算への期待で7月27日に6.19%上昇し、決算発表後の28日は反落しましたが、29日には7.78%高と切り返しました。
29日の反発には、岩井コスモ証券が投資判断を「B+」から「A」へ引き上げ、目標株価を1,550円から2,000円へ変更したとの報道も影響したとみられます。ただし、レーティングは短期のきっかけにすぎません。業績悪化を先に織り込んだ株価が、1Qの増益を受けて修正された面が大きいと考えるのが自然です。
1Qは営業51%増益でも売られた|通期減益予想を覆せなかった

27年3月期第1四半期は、前年同期比で大幅な増収増益でした。それでも決算翌日の株価が下がったため、「数字が良いのになぜ売られたのか」と疑問に感じた投資家は多いでしょう。
ポイントは、決算の良し悪しが前年同期比だけで決まらない点です。発表前の期待、利益の内訳、通期計画に対する進み方を合わせて見る必要があります。1Qは改善を確認できる内容でしたが、通期減益の見方を変えるには材料が足りませんでした。
| 27年3月期1Q | 実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 173億6,800万円 | 17.4%増 |
| 営業利益 | 54億700万円 | 51.3%増 |
| 経常利益 | 157億1,900万円 | 79.2%増 |
| 親会社株主に帰属する四半期純利益 | 113億4,800万円 | 86.9%増 |
| 営業利益率 | 31.1% | 7.0ポイント上昇 |
営業利益は社内計画を上回りゲーム事業の採算も改善した
営業利益は54億700万円と前年同期から18億3,300万円増え、営業利益率も24.1%から31.1%へ上昇しました。会社は、1Qの営業利益が社内計画を上回って推移したと説明しています。
主力のエンタテインメント事業は売上高159億3,000万円、営業利益52億8,800万円でした。売上高が23億4,700万円増えたのに対し、営業利益は15億8,200万円増えています。ゲーム事業そのものの収益性が前年同期より改善した点は、今回の決算で最も評価できる部分です。
上期計画の進捗77%でも通期営業利益の進捗は16.9%にとどまる
1Q営業利益54億円は、上期計画70億円に対して77.2%まで進みました。一方、通期計画320億円に対しては16.9%です。上期の進捗だけを見ると上振れ期待が生まれますが、下期に新作発売と費用計上が集中するゲーム会社では、四半期ごとの利益が均等にはなりません。
会社は、世界経済や金融市場の動向に加え、新作の売れ行きを見極める必要があるとして業績予想を据え置きました。上方修正がなかったため、決算前に膨らんだ期待がいったん剥がれたとみられます。
『ぽこ あ ポケモン』の利益寄与は公式資料で切り分けられていない
市場では『ぽこ あ ポケモン』の寄与に注目が集まりました。しかし、コーエーテクモは協業タイトルごとの売上高やロイヤリティ、開発対価を開示していません。1Qのコンソール・PC分野についても、パッケージ、ダウンロード、DLCなどの商品区分は示す一方、個別タイトルの金額は非開示です。
したがって、販売本数から同社の利益を直接計算することはできません。決算翌日の市場解説では期待未達との見方も示されましたが、公式開示から確認できるのは、個別作品ではなく既存作全体が増収に寄与した事実までです。
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経常利益157億円の約3分の2は営業外|資産運用が利益を増幅

コーエーテクモの決算を見るときは、営業利益と経常利益を分ける必要があります。1Qの営業利益は54億円ですが、経常利益は157億円です。差額の約103億円は、主に有価証券の運用から生じた営業外収支でした。
経常利益の65.6%に相当する部分が本業以外で上乗せされた計算です。資産運用は同社の明確な強みである一方、ゲームの販売動向だけを見て利益を予想すると大きく外れる原因にもなります。
受取利息43億円と有価証券売却益36億円が押し上げた
1Qの営業外収益は125億5,700万円でした。内訳は受取利息43億3,500万円、投資有価証券売却益36億7,700万円、有価証券償還益18億2,100万円、デリバティブ評価益18億4,200万円などです。営業外費用22億4,600万円を差し引いても、営業外収支は大幅なプラスでした。
経常利益と純利益はすでに上期会社計画を超えています。それでも予想を変えなかったのは、金融市場の状況によって運用損益が振れやすく、1Qの利益をそのまま通期へ延ばせないからです。
有価証券と投資有価証券は合計1,971億円に達する
2026年6月末の貸借対照表では、有価証券が700億円、投資有価証券が1,271億円です。合計1,971億円は総資産3,339億円の約59%に相当します。純資産は2,799億円、自己資本比率は83.6%で、財務基盤には厚みがあります。
豊富な金融資産から得る利息や売却益は、本業への投資や配当を支える原資になります。ゲーム会社でありながら金融資産の運用成績が連結利益を大きく左右する点が、同業他社と比べたコーエーテクモの特徴です。
金融市場の変動は上振れ要因にも下振れ要因にもなる
資産運用益が大きい企業では、株式や債券、為替、金利の変動が利益に反映されます。1Qにはデリバティブ評価益18億円を計上する一方、同額のデリバティブ評価損も計上しました。運用資産の時価変動は、純資産にも影響します。
会社は財務基盤を安定させ、本業を下支えするために余資を中長期で運用すると説明しています。ただし、経常利益の高成長がゲーム事業の成長率と同じではない点は押さえておきたいところです。
ゲーム事業はDLと既存作が牽引|『ぽこ あ ポケモン』寄与は非開示

本業の状態を確かめるには、エンタテインメント事業の売上内訳が役立ちます。1Qは大型新作の発売がなく、前年度に発売した作品やバックカタログ、運営中のモバイルタイトル、IP許諾ロイヤリティが中心でした。
それでもエンタテインメント事業は増収増益です。新作一本の初動に依存せず、発売済み作品を長く販売する力が利益を支えました。今回の営業増益は、ヒット作の話題よりもデジタル販売と既存資産の積み上げで読むべき決算です。
コンソール・PC売上は24.7%増えDLが最大の伸び
コンソール・PC分野の売上高は75億5,000万円で、前年同期から14億9,700万円増えました。パッケージ等は21億2,600万円と微減でしたが、ダウンロード販売は48億4,700万円と13億3,700万円増加し、DLCも5億7,700万円と1億9,700万円増えています。
ダウンロード販売は在庫や物流の負担が小さく、過去作品をセールや追加コンテンツと組み合わせて長く売れます。パッケージの新作本数より、DLとDLCの伸びが利益率改善につながった可能性が高いと考えられます。
オンライン・モバイルも既存作とロイヤリティで11.4%増収
オンライン・モバイル分野の売上高は82億8,000万円で、前年同期から8億5,000万円増えました。会社は、既存タイトルに加え、前年度第3四半期に配信を始めた作品とIP許諾ロイヤリティが寄与したと説明しています。
モバイルは運営期間が長く、周年施策や更新内容で四半期売上が変わります。新作の成功だけでなく、既存ユーザーの継続率や海外でのIP展開も重要です。コンソール・PCとモバイルが同時に増収へ転じたため、事業全体の安定感は前期より改善しました。
『ぽこ あ ポケモン』は追加コンテンツまで含めて見る
『ぽこ あ ポケモン』は発売時の販売本数だけで評価を終えるべきではありません。27年3月期にはエキスパンションパスが始まり、複数回に分けた追加コンテンツの配信が予定されています。共同開発案件のため契約条件は分かりませんが、長期運営によって開発実績と収益機会が積み上がる可能性があります。
一方、個別の売上や利益が開示されない限り、外部から寄与額を断定するのは困難です。販売本数より、今後のDL・DLC売上と協業案件の広がりを確認する方が実態に近いでしょう。
中計400億円へ今期は足場固め|新作と人材投資が焦点

コーエーテクモは、2025年度から2027年度までの第4次中期経営計画を「成長のための基盤づくり」と位置づけています。3年間の累計営業利益1,000億円以上、最終年度の営業利益400億円、営業利益率30%以上が定量目標です。
27年3月期の営業利益計画は320億円のため、最終年度に400億円へ伸ばすには新作の量と質を高める必要があります。今期は利益を最大化する年というより、次年度の成長へ制作体制を整える年として見ると、会社の慎重な予想と中計の関係が分かりやすくなります。
大型作は『進撃の巨人3』『Wo Long 2』が軸になる
公表済みの大型タイトルは、今冬発売予定の『進撃の巨人3』と2027年初頭発売予定の『Wo Long 2: Wings of Ember』です。このほか、『信長の野望・飛翔』『真・三國無双2 with 猛将伝 Remastered』、アトリエシリーズの新作などが並びます。
大型作は当たれば利益を大きく押し上げますが、発売時期の変更や評価のばらつきも起きます。株価の持続的な上昇には、一作のヒットより複数タイトルが計画どおり発売されることが重要です。
従業員3,015人へ拡大し人件費は年10%水準で増える
2026年6月末のグループ従業員数は3,015人となり、2026年3月末の2,835人から増えました。1Qの人件費は75億2,000万円で、前年同期から11億3,100万円増えています。会社は中計期間中、人件費が年10%水準で増える見通しを示しています。
採用と昇給は短期的には利益を押し下げますが、複数作品を同時に開発できる体制を作るための費用でもあります。人件費の増加以上に新作本数と売上が伸びるかが、中計達成を左右します。
生成AIはコスト削減だけでなく開発本数を増やす手段
同社は、カスタマーサポートの自動化、デバッグ工数の削減、多言語翻訳、社内文書の処理などに生成AIを使っています。社内AIチャットの利用者は2,700人を超えました。会社は、AIによる生産性向上と開発人員の拡充を組み合わせ、パイプラインの量と質を高める方針です。
AI活用がすぐに大幅増益へ結びつくわけではありません。見るべきなのは、開発期間の短縮、品質の安定、発売延期の減少です。制作効率の改善が実際の発売本数に表れれば、中計への信頼度が上がります。
株価1,671円はPER17.5倍|本業利益の再加速を待つ水準

2026年7月30日終値1,671円を、会社予想EPS95.38円と1QのBPS835.72円で計算すると、予想PERは約17.5倍、PBRは約2.0倍です。年間配当予想48円に対する配当利回りは約2.87%となります。
この数字だけで割安・割高を断定するのは難しいところです。ゲーム事業の利益成長に加え、運用益の持続性と豊富な金融資産が評価に混ざっているからです。現在の株価は、1Qの回復を織り込みながら通期減益への警戒も残す中間的な位置と考えられます。
| 株価指標 | 2026年7月30日時点 |
|---|---|
| 終値 | 1,671円 |
| 時価総額 | 約5,616億円 |
| 予想PER | 約17.5倍 |
| PBR | 約2.0倍 |
| 予想配当利回り | 約2.87% |
| 年初来高値 | 1,971円 |
| 年初来安値 | 1,417.5円 |
3月高値より15%下でも6月安値からは18%戻している
7月30日終値は3月高値1,971円を約15.2%下回る一方、6月安値1,417.5円を約17.9%上回ります。高値から見れば調整局面、安値から見れば反発局面です。どの起点を使うかで、株価の印象は大きく変わります。
7月末の上昇だけを見て追いかけると、決算前後の大きな値幅に巻き込まれやすくなります。反対に、高値から下がった事実だけで弱気になると、事業回復を見落とします。今は上昇トレンド確定ではなく、減益を織り込んだ後の評価修正局面です。
配当66円から48円への減少は利益計画に連動する
26年3月期の年間配当は66円でしたが、27年3月期は48円の予想です。会社予想の配当性向は50.3%で、純利益の減少がそのまま一株配当の減少につながっています。会社は年間総配分性向50%、または年間配当50円を還元方針として掲げていますが、50円は目安と説明しています。
高配当を固定的に受け取る銘柄ではなく、利益に応じて配当が動く銘柄と考えるべきです。今後の増配には、運用益だけでなく営業利益の成長が必要になります。
次の焦点は営業利益の進捗と新作発売の確度
次回以降の決算では、経常利益より先に営業利益を確認したいところです。上期営業利益70億円に対する進捗、DL・DLCとモバイル売上の継続性、開発費と人件費の増え方が重要になります。経常利益がさらに伸びても、運用益だけならゲーム会社としての評価は上がりにくいからです。
同時に、『進撃の巨人3』『Wo Long 2』などの発売時期と予約・販売動向も確認が必要です。本業の利益成長と新作パイプラインの確度がそろえば、3月高値を意識する材料になります。
まとめ|急伸の持続にはゲーム事業の上振れが必要

コーエーテクモホールディングスの株価が6月安値から急伸した背景には、1Qの営業51.3%増益、DL・既存作の好調、売られ過ぎの修正、証券会社の評価変更がありました。一方、好決算の翌日に売られたのは、決算前の期待が高く、通期の営業13.9%減益予想が据え置かれたためです。
1Qの経常利益157億円は目を引きますが、その約3分の2は営業利益との差額であり、資産運用を中心とする営業外収支が押し上げました。豊富な金融資産は強みであるものの、株価が一段高へ進むにはゲーム事業の利益が通期計画を上回る必要があります。
今後は『ぽこ あ ポケモン』の販売本数だけでなく、DL・DLC、モバイル、ロイヤリティの伸び、新作の発売時期、人件費を吸収できる売上成長を追うべきです。短期の値動きは大きくなりやすいため、営業利益の進捗と会社計画の修正を確認しながら判断することが重要です。

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執筆者情報
日本投資機構株式会社 テクニカルアナリスト(CMTA®)
著名な元機関投資家や経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーより培った知識と経験を基に、数多くの市場動向の予測や個別銘柄の動向をピンポイントで分析。銘柄の推奨実績において社内の月間最高勝率記録を持つテクニカルアナリスト。

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