トヨタ株価が年初来安値まで下落した理由|決算・関税影響と今後の見通し

峯岸 恭一

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

トヨタ株価が年初来安値まで下落した理由|決算・関税影響と今後の見通し

トヨタ自動車(7203)の株価は、5月8日の決算発表後に下落し、その後も戻りの鈍い展開が続いています。決算翌営業日の終値は2,897円でしたが、2月につけた高値4,000円から下げ基調が止まらず、6月11日には年初来安値2,718.5円まで下落しました。

直近は中東情勢の報道などを受けて2,850円前後まで戻していますが、依然として高値から約3割安い水準です。下落の発端は、同社が示した27年3月期の営業利益見通し3兆円(前期比△20.3%)が、市場予想の4兆5,000億円を1兆5,000億円も下回ったことにあります。

米関税1兆3,800億円の影響で3期連続減益となる見通しのなか、株価はどこまで下げるのか、回復の道筋はあるのか。アナリスト視点で本当の稼ぐ力と長期下値目処を解説します。

目次

トヨタ株価が下落した3つの理由|関税・北米赤字・通期下方が直撃

トヨタ株価が下落した3つの理由|関税・北米赤字・通期下方が直撃

2026年5月8日の決算発表でトヨタ株は後場下げに転じ、終値は前日比△2.7%の2,897円で取引を終えました。下落の背景には、本日確定した米関税の利益押し下げ、北米事業の営業赤字転落、27年3月期の通期見通しが市場予想を大きく下回ったという3つの直接要因が重なっています。

為替の円高進行も収益への重荷となっており、投資家心理を冷やしました。株式市場では、決算発表前まで一定の悲観シナリオが織り込まれていたものの、ガイダンス自体が想定をさらに下回ったため、追加の売り圧力が生じた格好です。ここから3つの要因を順に見ていきます。

米関税1兆3,800億円の確定影響|27年3月期は通年15%税率が前提

トヨタが発表した26年3月期決算で、米国の関税政策による営業利益の減益影響額は1兆3,800億円と確定しました。これは決算短信の特記事項に明記された数字で、当初は4月と5月分で1,800億円との見立てでしたが、年間ベースに換算した結果、負担額が一気に膨らみました。

日本から米国への自動車関税は、2025年4月にトランプ政権が25%を上乗せして27.5%まで引き上げ、その後7月の日米合意を経て9月16日に15%へ引き下げる流れで推移しています。

27年3月期は通年で15%税率が適用される前提です。基本税率2.5%だった2025年3月までと比べると、税率は依然として2.5%時代の6倍水準で固定されたままです。日経電子版の試算では、日本車7社合計で関税負担は約1兆6,000億円圧縮される見込みですが、トヨタ単独でも1兆円を超える影響が残る計算です。

出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf

円高進行で営業利益が約2,000億円規模で目減り

トヨタの収益構造は為替変動に強く左右される仕組みになっています。26年3月期の連結営業利益の主な増減要因のうち、為替変動の影響は△1,950億円のマイナス寄与となりました。

トヨタは1ドルの円安が対ドルで500億円、対ユーロで100億円の営業利益を押し上げると公表しており、円高方向への振れは収益に直撃します。直近のドル円相場は2025年10月以降に159円台まで円安が進んだ後、日本政府の為替介入姿勢と日銀の利上げ観測を背景に円高方向へ振れました。

27年3月期の前提為替は1ドル=150円、1ユーロ=180円に設定されており、26年3月期通期実績の151円(IFRS換算)とほぼ同水準です。為替が前提より円高へ振れれば下振れ要因、円安へ振れれば上振れ要因と、為替動向が業績修正の鍵を握る構図です。

出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf

27年3月期営業利益3兆円見通し|市場予想4.5兆円を1.5兆円下回る

5月8日の決算発表で示された27年3月期の連結営業利益見通しは3兆円(前期比△20.3%)で、これが株価下落の最大の引き金となりました。決算発表前の株探の報道によると、市場では同利益を約4兆5,000億円前後と予想する見方が出ていました。

実際のガイダンスはこの予想を1兆5,000億円も下回る数字となり、サプライズの下方ガイダンスとして受け止められた形です。営業収益見通しは51兆円(前期比+0.6%)、税引前利益は4兆2,300億円(同△17.9%)、親会社所有者帰属当期利益は3兆円(同△22.0%)と、利益面では大幅な減益見通しが続きます。

決算短信の経営成績の概況には「人への投資や未来への投資の拡大に加え、米国関税の影響も重なり、足元では損益分岐台数が大きく上昇しています」と明記されており、固定費上昇と関税負担が二重で利益を押し下げる構造が示されました。

出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf

トヨタの26年3月期決算の数字|3期連続減益見通しの中身を読み解く

トヨタの26年3月期決算の数字|3期連続減益見通しの中身を読み解く

2026年5月8日に発表された通期決算は、売上高こそ過去最高を更新しましたが、営業利益は前期比△21.5%の3兆7,662億円で着地し、27年3月期見通しを含めると3期連続の減益となる流れです。

地域別では北米が初の営業損失に転落した一方、金融事業が前年比+24.6%増益となり全体を下支えする構図です。販売台数面では世界販売が959.5万台で前年比+2.5%増と底堅く推移しており、関税という外部要因の影響が利益を押し下げた構図が浮かび上がります。決算の中身を詳しく見ていきます。

売上高50兆6,849億円で過去最高|営業利益は前期比△21.5%

26年3月期の連結営業収益は50兆6,849億円(前期比+5.5%)となり、初めて50兆円台に乗せて過去最高を更新しました。一方、営業利益は3兆7,662億円(同△21.5%)、税引前利益は5兆1,529億円(同△19.7%)、親会社所有者帰属当期利益は3兆8,480億円(同△19.2%)と、すべての利益指標で2割前後の減益となりました。

営業利益の主な増減要因は、営業面の努力が+7,100億円、為替変動が△1,950億円、原価改善努力が△1,200億円、諸経費の増減と低減努力が△2兆300億円という構成です。

販売台数面では日本208.2万台(前期比+4.6%)、海外751.3万台(同+1.9%)で連結959.5万台と着実に拡大しており、商品力で需要を取り込む力は維持されています。営業活動によるキャッシュフローも5兆4,729億円(前期比+1兆7,759億円)と大幅に増加しており、稼ぐ力そのものは健在です。

出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf

北米事業が1,925億円の営業赤字に転落|関税直撃で初の地域損失

26年3月期で最も注目すべきは、地域別セグメントで北米事業が1,925億円の営業損失に転落した事実です。前期と比較して3,013億円の利益減少という大幅悪化で、トヨタにとって主力市場である北米が初めて地域単位で赤字に陥りました。

営業収益は21兆796億円(前期比+9.2%)と1兆7,793億円増収しましたが、関税負担を含む諸経費の増加が利益を完全に飲み込んだ形です。

日本(営業利益2兆3,210億円・前期比△26.3%)、欧州(3,577億円・同△13.9%)、アジア(8,698億円・同△3.0%)もいずれも減益となり、唯一プラスだったのはその他の地域(中南米・オセアニア・アフリカ・中東で3,289億円・同+30.2%)のみでした。短信には「販売台数は北米で1,516千台と前期比+4.3%増加した」と記載されており、台数は伸びているのに利益が出ない事業環境の厳しさが浮かびます。

出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf

金融セグメントが営業益8,517億円で前期比+24.6%増益と下支え

自動車事業が苦戦する一方、金融セグメントが営業利益8,517億円(前期比+24.6%)と大きく増益し、全社利益を下支えしました。営業収益は4兆8,571億円(同+8.4%)で3,759億円の増収です。

決算短信は増益要因について「米国の販売金融子会社において、金利スワップ取引の評価益が増加したことなど」と説明しています。米国の長期金利が変動した時期にヘッジ目的の金利スワップに評価益が発生した形で、本業の貸出収益と合わせて金融事業の収益力の高さが際立ちました。

一方、自動車事業は営業収益45兆4,177億円(同+5.1%)に対し、営業利益は2兆7,770億円(同△29.5%)と1兆1,632億円の大幅減益です。その他の事業も営業利益1,320億円(同△27.1%)と苦戦しており、関税の影響は完成車本体の収益性に集中したことが決算数字から読み取れます。

出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf

トヨタ株価の回復見込みを左右する3つの条件|投資家が注目すべき変化点

トヨタ株価の回復見込みを左右する3つの条件|投資家が注目すべき変化点

トヨタの株価が回復に向かうかどうかは、以下の3つの条件が大きく左右します。関税負担の行方、為替動向、そしてHEV戦略の市場評価という、外部環境とトヨタ固有の強みが交わる論点です。

短期の決算ガイダンスを動かす要素として、機関投資家のリバランスや海外勢の買い戻しタイミングを見極めるうえでも重要になります。

それぞれの条件は単独ではなく相互に作用しており、たとえば関税負担の吸収が進み円安も追い風になれば、業績回復シナリオは加速度的に強まる可能性があります。ここから順に見ていきましょう。

15%関税は232条で継続|最高裁の違憲判決後も自動車は軽減されず

米国の自動車関税は2025年9月16日から15%が適用済みで、27年3月期は通年でこの税率が前提です。内訳は基本税率(MFN)2.5%と、通商拡大法232条に基づく12.5%の合計15%で、2025年7月の日米合意により従来の27.5%から引き下げられた経緯があります。

ここで誤解されやすいのが、米最高裁の関税判決の影響です。米連邦最高裁は2026年2月20日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税を違憲と判断し、政権はこの相互関税の徴収を終了しました。ただし、自動車や鉄鋼に課される232条関税は今回の判決の対象外で、引き続き有効です。

つまりトヨタを直撃する自動車の15%関税は、最高裁判決後も軽減されていません。関税は当面続く固定的なコスト要因とみるのが現実的で、株価の上値を抑える材料として残ります。基本税率2.5%だった時期と比べれば、税率は今も6倍の水準で固定されたままです。

為替前提1ドル=150円|1円円安で営業利益500億円押し上げ効果

27年3月期の前提為替レートは1ドル=150円、1ユーロ=180円で、26年3月期実績の対ドル151円とほぼ同水準です。トヨタは1円の対ドル円安が営業利益を500億円押し上げると試算しており、感応度の大きさは国内自動車メーカーでも突出しています。

日産自動車の感応度が1円あたり120億円、ホンダが100億円、三菱自動車が26億円なのと比べても、トヨタの為替依存度は群を抜いて高い水準です。足元の2026年6月は中東情勢の緊迫を背景に1ドル=160円前後まで円安が進む場面があり、前提の150円より約10円の円安で推移しています。

この水準が続けば営業利益は数千億円規模で上振れる余地が生まれます。一方、日銀の追加利上げ観測や中東情勢の沈静化を受けて円高へ振れれば、上振れ余地は縮みます。為替の方向感が短期的な株価の振れを左右する状況が続きそうです。

米国EVシフト鈍化でHEV強者・トヨタの再評価が進むか

米国でEV普及政策の縮小が相次ぎ、ハイブリッド車(HEV)の需要が再拡大している環境変化が、トヨタにとって追い風になりつつあります。

ジェトロのデータによると、2025年第1四半期の米国BEV販売台数は前年同期比+11.0%増の30万台と伸びは続きますが、2020年代前半の勢いから減速している状況です。クリーンビークル購入への税額控除撤廃が議論されており、EV普及ペースの鈍化が予想されます。

一方、欧州連合(EU)の2025年新車販売台数ではHEVのシェアが前年の31%から34%に上昇し、ガソリン車を抜いて動力別で初めて首位となりました。HEVは前年比+13.7%増の373万台に拡大しています。日経電子版の報道によると、トヨタは2028年のHEV生産台数を26年計画比+30%増の670万台規模に引き上げる方針で、HEV比率を5割から6割へ高める計画です。HEV強者としての再評価が、株価回復の鍵を握る要因になる可能性があります。

プロが見るトヨタの正常収益力|関税影響を除いた本当の稼ぐ力

プロが見るトヨタの正常収益力|関税影響を除いた本当の稼ぐ力

ここからはアナリスト視点で、関税影響という一過性要因を除いたトヨタの正常収益力を試算してみましょう。表面的な減益ニュースだけで判断すると、トヨタが構造的に稼ぐ力を失ったかのように見えるかもしれません。

実際の中身は大きく異なります。一時的なコスト要因をはがしてみれば、トヨタの収益基盤は依然として日本企業の中で群を抜いており、現在の株価水準は過度に悲観されている可能性も否定できません。

アナリスト目線では、関税のような一時要因を機械的に除外した「正常化後の利益水準」を見極めることが、長期保有の判断材料として重要になります。

関税1兆3,800億円を戻し入れた潜在営業利益は5兆円超

26年3月期の営業利益3兆7,662億円に、確定した米関税影響額1兆3,800億円を機械的に戻し入れると、関税前ベースの潜在営業利益は約5兆1,500億円と試算できます。

これは前期実績の4兆7,956億円を上回る水準で、関税要因がなければトヨタは過去最高益を更新していた計算です。決算短信の業績要因分析でも、営業面の努力が+7,100億円のプラス寄与だった点が示されており、本業の収益力は強化されたと読み取れます。

27年3月期見通し3兆円に対しても、関税影響を仮に通年1兆4,500億円(時事通信報道ベース)と置けば、関税前の潜在営業利益は4兆4,500億円規模です。市場が織り込んでいる悲観シナリオを大きく上回る水準で、関税要因が剥がれる場面では収益の戻りも大きくなる構造を持っています。

損益分岐台数の改善が示す体質強化の進捗

トヨタは26年3月期の決算説明で損益分岐台数の引き下げを全社目標として掲げました。決算短信には「人への投資や未来への投資の拡大に加え、米国関税の影響も重なり、足元では損益分岐台数が大きく上昇しています。

この課題に対応すべく、全社一丸となった取り組みを開始しました」と記載されています。すべての地域・本部・カンパニーで固定費の見直し、原価改善、営業面の努力による収益の積み増しを進めると同時に、従業員一人ひとりが仕事のやり方を見直し、ムダのない正味作業を追求し、生産性を向上させる方針です。

Q3決算説明資料では「Company-wide initiatives aimed at reducing the break-even volume(全社で損益分岐台数を引き下げる取り組み)」が明記されており、中長期的な競争力強化に向けた稼ぐ力の徹底強化が進められています。これが奏功すれば、関税要因が剥がれた後の利益回復スピードは市場予想を上回る可能性があります。

2028年HEV670万台計画|生産比率6割で米EV鈍化を取り込む

日経電子版が2026年2月4日に報じた内容によると、トヨタは2028年のHEV生産台数を670万台規模に拡大する方針を主要部品メーカーに通知しました。これは26年計画比で+30%増の水準で、HEV生産比率は5割から6割へ高まる計画です。

北米市場を中心にエンジンや部品工場へ投資する方針で、HEV専用エンジンや部品の増産に加え、2028年以降にはミシシッピー州工場で主力セダン「カローラ」のHV生産も開始する見通しが示されています。トヨタは米国内において今後5年間で最大100億ドルの追加投資を発表しており、米国内ハイブリッド車生産能力拡大のため5カ所の工場に総額9億1,200万ドルを投じる計画も発表しました。

EV普及鈍化のなかで現実的な選択肢としてHEVが再評価される環境では、HEV累計販売2,000万台超のパイオニアとしての強みが収益確保の決定的な競争優位につながります。米EVメーカーや中国勢がEVに偏重する一方で、HEVの圧倒的シェアはトヨタの長期収益基盤を支える土台といえるでしょう。

出典:https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2026_4q_presentation_jp.pdf

トヨタの長期下値目処はPBR0.85倍の2,603円|過去30年機能した節目水準

トヨタの長期下値目処はPBR0.85倍の2,603円|過去30年機能した節目水準

ここからは長期投資家の立場で、株価がどこまで下落しうるか、下値目処を分析します。当社の以前の分析記事で示した通り、トヨタの長期株価はPBR0.85倍を節目に下げ止まる傾向が過去30年にわたり機能してきました。

最新の26年3月期決算でBPSがさらに切り上がったため、下値目処も上方修正される構図になっています。長期投資家にとっては、テクニカル指標よりも純資産水準と収益力に裏付けられたPBR水準のほうが、押し目買いの判断軸として機能しやすい論点になります。

26年3月期BPS3,062円でPBR1倍ラインは3,063円に切り上がり

26年3月期決算で1株当たり親会社所有者帰属持分(BPS)は3,062.82円となり、前期の2,753.09円から+11.3%増加しました。これは利益の積み上げと自社株買いによる効果で、PBR1倍ラインの株価が3,063円水準まで切り上がりました。

当社の過去分析記事(2026年2月)時点ではPBR1倍ラインは2,742円でしたが、数カ月で321円も上方修正された格好です。6月16日時点の株価2,855円前後で計算すると、PBRは約0.93倍となり、PBR1倍をやや下回る水準で取引されています。

6月11日に付けた年初来安値2,718.5円でもPBRは約0.89倍にとどまり、株価の絶対水準ではなくBPS基準でみれば、現在の株価は過去の極端な割安水準にはあたりません。BPSが切り上がっている事実は、株価下落の重みを和らげる重要な変化点です。

PBR0.85倍2,603円は過去のコロナ・半導体不足時にも下げ止まった節目

トヨタの株価は過去30年にわたり、PBR0.85倍を割り込んだ場面で買いが入りやすい傾向が続いてきました。2020年のコロナショックで株価が急落した際も、近年の半導体不足の時期にも、PBRはおおよそ0.85倍水準まで低下した後に下げ止まり反発に転じています。

当社の過去分析記事で示した通り、2010年から現在までの約30%の期間でPBR1倍を割り込んでいた一方、0.85倍を持続的に下回る期間は限定的でした。これを最新BPS3,062円に当てはめると、PBR0.85倍ラインの株価は2,603円と算出されます。

実際、6月11日に付けた年初来安値2,718.5円でもこの2,603円は割っておらず、過去の節目が今回も意識された形です。6月16日時点の株価2,855円からの下落余地は約△8.8%で、長期投資家にとって2,603円は機械的な押し目買いの目安として意識される水準でしょう。

1倍が0.85倍まで低下するには約6兆円の純資産減少が必要|現実性は低い

26年3月期末の親会社所有者帰属持分は39兆9,189億円と過去最大規模に達しています。仮にPBR1倍水準が現在のPBR0.85倍水準まで低下するためには、理論上は約6兆円の純資産減少が必要となります。

トヨタはコロナ禍においても2兆円以上の営業利益を確保してきた実績があり、関税逆風下の27年3月期も営業利益3兆円・純利益3兆円のガイダンスを示しているところです。

会計上の損失計上で純資産が短期間に6兆円も減少する事態は、現状の収益力からみて起こりにくいと考えられます。営業活動によるキャッシュフローも26年3月期は5兆4,729億円と大幅に増加しており、財務基盤はむしろ強固な状態です。この純資産規模と収益力が、PBR0.85倍水準を下回る状況が長期化しない論理的な根拠になります。

配当利回り3.46%・27年3月期100円増配計画も下値を支える要因

トヨタは26年3月期の年間配当を95円(前期比+5円増配)とし、27年3月期は100円(同+5円増配)を計画しています。6月16日時点の株価2,855円ベースの配当利回りは約3.5%で、東証プライム市場の平均利回り2%台前半を大きく上回ります。配当総額は1兆2,382億円、配当性向は32.1%まで上昇しました。

減益が続いても増配を維持する方針は、トヨタの株主還元への強い姿勢を示しています。長期保有を志向する配当重視の投資家にとっては、下値で買い向かう動機になります。

PER約12倍・PBR約0.93倍という割安なバリュエーションと合わせて、配当利回り3.5%前後は株価が一定水準を下回ると買い需要が湧きやすい土壌をつくります。これらバリュエーション面と株主還元面の指標が、PBR0.85倍2,603円という長期下値目処を補強する材料です。

トヨタ株を保有する投資家が今後注視すべきリスク

トヨタ株を保有する投資家が今後注視すべきリスク

ここまでトヨタの収益力と下値目処を分析してきましたが、長期保有を考える上では下振れリスクも同程度の精度で押さえておきたいところです。

関税以外の構造的なリスク要因として、以下の3点は今後の株価動向に大きな影響を及ぼす可能性が高い論点です。SDV化による競争軸の変化、中国市場での現地EVメーカー攻勢、米国景気サイクルとの連動性は、いずれも短期で解決する性質ではなく、トヨタの中長期収益性そのものに関わる根の深いテーマでもあります。

SDV・自動運転競争での開発投資負担の増大

自動車業界はSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)への急速な転換期に入っており、開発投資の負担が利益を押し下げるリスクが高まっています。SDVとは、車両の性能や機能がソフトウェアアップデートで進化する仕組みの車両です。

米国のテスラや中国のBYDは年間数百回規模のソフト更新で顧客体験を継続的に向上させており、ハードウェア中心の開発に強みを持ってきたトヨタにとっては競争軸の転換が迫られる流れにあります。Q3決算説明資料では研究開発費が前年同期比△105億円増加したと記載されており、AI・自動運転・車載OSといったソフトウェア領域への投資は今後も増える見通しです。

トヨタは「人への投資や未来への投資」が損益分岐台数を押し上げていると公言しており、これら成長投資が短期的な利益を圧迫する状況は当面続くでしょう。投資家にとっては、開発投資の費用対効果が新車の市場競争力にどう反映されるかを見極める論点になります。

中国市場でのシェア低下と現地EV勢の攻勢

中国市場ではBYDをはじめとする現地EVメーカーの攻勢が続いており、トヨタの中国販売は苦戦を続けています。2025年9月以降、トヨタ単体(レクサス含む)の中国販売台数は前年比マイナスに転落し、11月と12月は12%超の販売縮小となりました。

トヨタは販売苦戦の理由について、自動車買い替えに際しての補助金を縮小する地方政府が増えている点を挙げています。中国政府は2025年12月30日に2026年の自動車買い替え補助金制度を発表しており、政策面での回復余地は残りますが、現地EVメーカーの製品力向上は構造的な逆風です。

日経電子版が2026年4月に報じた内容によると、トヨタも中国EVの新型車に華為(ファーウェイ)・モメンタ・小米の技術を採用する動きを見せており、現地メーカーとの提携を進めて競争力を確保する戦略へと転換中です。中国市場でのシェア動向は、グローバル販売台数1,128万台目標(26年3月期実績)の達成を直接左右する論点となるでしょう。

米国景気後退時の販売台数下振れリスク

トヨタの北米市場依存度は売上ベースで2割超と高く、米国景気の悪化は販売台数の下振れリスクに直結します。2026年4月のトヨタの米国販売は前年同月比△5.8%減となり、特に中東向け車種を中心に2万台規模の減産を実施しました。

米国市場の56%程度を現地生産で賄っているとはいえ、残り44%は日本やメキシコなどから輸入しているため、関税負担と販売台数減少が同時進行すると、利益への打撃が二重に効きやすくなります。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策動向、住宅ローン金利水準、雇用情勢など米景気の先行指標が悪化方向に入れば、新車購入需要が直接冷え込む流れです。

トヨタの株価は北米市場の販売動向と相関が高い傾向があり、米景気指標の発表とトヨタ月次販売実績の発表は短期的な株価変動要因として注視したい論点になります。長期保有を想定する場合でも、北米景気サイクルとの距離感は常に意識したいポイントです。

まとめ|回復のカギは関税の吸収力と為替・HEV|下値目処2,603円は維持

まとめ|回復のカギは関税の吸収力と為替・HEV|下値目処2,603円は維持

トヨタの株価下落は、米関税1兆3,800億円の確定影響、北米事業の営業赤字転落、27年3月期営業利益見通し3兆円が市場予想4.5兆円を1.5兆円下回った点が直接的な引き金でした。

決算後も戻りは鈍く、6月11日には年初来安値2,718.5円まで下げています。一方で売上高は50兆6,849億円と過去最高を更新し、営業活動によるキャッシュフローも5兆4,729億円と大幅に増えており、本業の稼ぐ力は健在です。

関税影響を戻し入れた潜在営業利益は5兆円超と試算でき、HEV生産670万台計画やマルチパスウェイ戦略など中長期の競争優位も明確です。

自動車の15%関税は232条ベースで最高裁判決後も続くため、回復のカギは関税の軽減ではなく、値上げや原価改善による吸収と、円安・HEV再評価を取り込めるかにあります。

長期下値目処はPBR0.85倍の2,603円で、年初来安値2,718.5円でもこの水準は割れていません。投資判断にあたっては、本記事のリスク要因も合わせて、自身の投資方針と照らし合わせて検討することをおすすめします。

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執筆者情報

nari

峯岸 恭一

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計学により銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活躍の場を拡げている。

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