AIは「1%」を埋められるのでしょうか?
「天才とは99%の努力と1%の閃き」
数多くの特許を取得した発明王、トーマス・エジソンの有名な言葉です。
どんなに努力を重ねても、1%の閃きがなければ、新しい発見は形になりません。
実は、この1%の閃きに特化したAIを開発する企業があります。
東証グロース市場に上場する株式会社FRONTEO(2158)です。
同社の國枝宏美執行役員は、「当社のAIは、AIを使って新しいものを発見する分野に特化しています。皆さんが普段使っているAIとは、機能が違うと理解していただければと思います」と話します。
今、世界中で使われている汎用型の生成AIとFRONTEO社のAIは何が違うのでしょうか。
今回は、FRONTEO社の執行役員で経理財務統括部統括部長の國枝宏美氏とコーポレートコミュニケーション部長の武内翔太郎氏にお話をうかがいました。
専門家向けに特化したFRONTEO社のAI「KIBIT」とは

https://www.fronteo.com/hubfs/fronteo_ir_assets/PDF/FY26Q1%E6%B1%BA%E7%AE%97%E8%AA%AC%E6%98%8E%E4%BC%9A%E8%B3%87%E6%96%99.pdf?hsLang=ja
FRONTEO社は、2012年にAI「KIBIT」を自社開発し、数多くの分野で提供してきました。
この「KIBIT」は、今広く使われている生成AIとは異なる強みを持ち、多くの専門家にとって欠かせない存在となっています。
國枝氏「専門家は、世の中に知られているような情報が欲しいわけではありません。
新しいものを提供していく、新しい発見をしていくのが非常に重要で、それを可能にするのが当社のAI「KIBIT」です。
加えて専門家は、間違えてはいけないんですよね。
弁護士さんも訴訟で、間違った証拠は出せないですし、創薬でも間違った結論は出せません。
その点、生成AIはハルシネーション(AIが事実と異なる内容をもっともらしく答える現象)の懸念から使いづらい部分があります。
これに対して、当社の『KIBIT』は何が原因で何が結果なのかが分かり、専門家が使いやすいものになっています」
日常の用途なら多少の誤りも許容できますが、訴訟や創薬の現場では、1件の誤りが取り返しのつかない結果を招きかねません。
そこで、新しさと正確さを同時に満たすFRONTEO社のAI「KIBIT」が重要な役割を果たしているのです。
「因果関係」がわかるから正確で新しい発見につながる

それでは「KIBIT」はどのように正確性を担保し、専門家を新しい発見に導くのでしょうか。
ここで鍵を握るのが、因果関係です。
武内氏「通常のAIは、単語そのままでは計算できないので、計算量を減らすために細かい単位に分解して最適化しています。
その場合、わかるのは相関関係です。これとこれはくっついていますねといった関係性ですね。
しかし、意味を含めて解析しているわけではないため因果関係は基本的に取れません。
これに対して当社の『KIBIT』は、方程式で駆動し、因果関係がわかる唯一のAIです」
因果関係とは、ある事象が別の事象を引き起こすメカニズムのこと。
単に一緒に観測されやすいという相関関係とは違い、なぜそうなるのかまでを説明できる関係性です。
たとえば、アイスクリームの販売量と海水浴場の客数が同じ時期に増えるのは相関関係。
「暑いから」アイスクリームの販売量が増える、海水浴場の客数が増えるというのが因果関係です。
何が原因で何が起きているのかといった因果関係がわかれば、専門家は新たな気づきを得て、正確な判断を下せます。
専門家だけが読み解ける因果関係の地図を手渡す
生成AIと「KIBIT」にはアウトプットにも違いがあります。
生成AIに質問すると、整った文章で答えが返ってきます。
しかし、なぜその答えになったのかまでは追えません。
答えを出すまでの過程がブラックボックス化しているためです。
これに対して「KIBIT」は、答えを文章で返すのではなく、情報同士のつながりを地図の形で示します。
國枝氏「『KIBIT』は、因果関係マップをつくって、専門家に手渡します。
因果関係が分からないと、専門家はそのアウトプットを使えません。
ですから、ヒートチャートのような各箇所の関係性が分かるアウトプットにしています。
素人はこのマップを見ても何も閃かないのですが、専門家が見れば、『様々な要素がここに集まっているから、ここに何かあるのではないか』といった仮説を立てられます」
現在FRONTEO社が注力している創薬分野を例に挙げれば、世界中の医学論文を読み込み、まだ誰も試していない仮説を生成しています。
國枝氏「医学論文は世界に約3,500万件ありますから、研究者が一生をかけても、そのすべてには目を通せません。
人では届かない量を読み込んで、仮説を生成したら、今度は解析です。
この遺伝子をノックアウト(働かない状態に)するとどう変化するのかといった通常は動物実験などで行う解析も、パソコンの画面上でできます」

https://webcast.net-ir.ne.jp/21582608/BCNbGPcGHG/slide.pdf
「KIBIT」を支える「トヨシバ方程式」
現在の「KIBIT」の中核にあるのが、「トヨシバ方程式」です。
「トヨシバ」の名前は、同社取締役の豊柴博義氏に由来します。
國枝氏「豊柴は数学者で、当社に入社する前は大手製薬会社で働いていました。
その頃からAIを使って標的分子(薬が働きかける相手にあたるタンパク質や遺伝子)を導出したいと考えていたそうですが、大手製薬会社では実現せず、2017年に当社へ移っています。
自然言語に特化したAI事業をやっていた点に惹かれたわけです。
しかし、当社は大手製薬会社に比べるとリソースが限られていました。
そのなかでも、何とかAIを使って標的分子を導出できないかと考え抜いた結果、出てきたのがトヨシバ方程式です」
「KIBIT」はこの方程式を用いることで、意味を保ったまま単語や文章をベクトル化し、言葉同士の意味のつながりを解析できます。
ベクトル化とは、言葉を数値の並びに置き換えて計算できるようにする処理です。
意味を保ったまま扱えるからこそ、言葉同士のつながりが読み取れ、因果関係が分かるのです。

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言語をベクトル化する技術を持つのは世界で3社と1つの大学のみ
こうした「KIBIT」の考え方については特許を取得しており、あと5~6年ほどは特許で守られる見通しです。
さらに、「トヨシバ方程式は特許に書かれていないため、方程式がわからなければ模倣は困難」と國枝氏は話します。
國枝氏「言語をベクトル化する技術を持っているのも、世界でGoogleとスタンフォード大学、Meta、FRONTEOだけです。
さらに言語をベクトル化するために方程式を使っているのもFRONTEOだけです。

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他の企業や教育機関は、最適化という方法を使っているため、膨大な計算量が必要になります。
ですから、他社が真似したくても、方程式を持っていないからできないと思います」
こうした技術の独自性は、株式市場でも一定程度評価を受けているように見えます。
米AI企業Anthropicが相次いで新機能を発表し、生成AIにシェアを奪われそうな企業が軒並み売られた2026年2月の局面でも、FRONTEO社株はその流れに巻き込まれませんでした。
むしろ2026年2月27日には961円の年初来高値を付けています。
同社が有するAIの機能の違いを、市場もある程度理解しているのではないかと考えられます。
ノートパソコン1台で検証まで完了
さらに、大規模な計算資源を前提にしない設計思想は、汎用AIにはない「軽さ」という強みにつながりました。
國枝氏「例えば生成AIは、膨大なデータを読み込ませて、そこから確率の高いものを導き出していきます。
これを繰り返すには、大きなデータセンターやGPUが必要です。
しかし、当社は方程式を用いる分、そこまで膨大なデータを読み込ませる必要はありません。
その分、CPUで動かせるくらい軽いものになっています」
方程式に数値を入れて答えを導く方式なら、同じ答えにたどり着くまでの計算量が桁違いに少なくて済みます。
計算量の差はそのまま、必要な設備の差にもなっています。
國枝氏「FRONTEO社の他にも、AI創薬を手掛ける企業は存在します。
しかし、そうした会社は方程式を持っていません。
ですから、スーパーコンピューターなどの大規模な計算資源を用いてAIを動かす必要があります。
さらにAIで数を出しても、ウェットラボ(細胞や試薬を実際に扱って実験する設備)での検証が必要であれば、結局検証の手間もコストも大きくなってしまいます。
当社は、検証までパソコン1台で行えます」

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リーガルテックから創薬AIへの一貫した歩み
「KIBIT」が現在の形に至る前から、FRONTEO社は一貫してAIを活用した専門家の支援に取り組んできました。

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2003年の創業期に主軸としていたのは、訴訟対応などを支援するリーガルテックAI。
そこから、ビジネスインテリジェンス、経済安全保障、創薬を含むライフサイエンスへと技術の活用範囲を広げていきました。
現在はライフサイエンスAI事業に集中投資していますが、リーガルテックを含むリスクマネジメント事業やDX事業も継続しています。
リーガルテックでは、証拠を見つけ訴訟対応を支援

祖業のリーガルテック分野で、FRONTEO社は専門家が効率よく証拠を見つけるための技術をつくり、磨いてきたといいます。
國枝氏「訴訟の証拠を探す上では、大量のデータを調べる必要がありますが、わかりやすく『私が犯罪をします』などと書いてあるメールはありません。
そこから証拠を見つける技術を効率化していって、生まれたのが『KIBIT』です。
最初はAIを作ろうとしたというよりは、専門家を支援できる技術をつくった結果、AIができていたような形ですね。
世の中にAIが普及する前から使い続けている、実績ある技術です」
訴訟分野で磨いた技術は、他の分野にも広がっていきます。
國枝氏「リーガルテックは『訴訟』という有事の際の対応になりますが、それを平時の監査時にも広げて始めたのがコンプライアンス支援分野です。
この技術をもっと様々な分野の専門家の支援に活用できると考えて、事業範囲を広げていきました。
さらに、お医者様に話したときに、医療や創薬にも使えるといった話になり、ライフサイエンス事業が生まれていきました」
「膨大な情報の中から間違えずに、まだ誰も気づいていない何かを見つけ出さねばならない」というのは、多くの分野で専門家に求められているミッションです。
同じ機能を別の専門職に当てはめて、同社は事業分野を広げてきました。
医師の判断支援にも「KIBIT」の活用が進む
医療分野では、AI創薬だけでなく、医師の判断を支える領域でも「KIBIT」の活用が進んでいます。
たとえば、同社は「KIBIT」による会話の分析によって、認知症の早期診断を支援する医療機器の臨床試験を、塩野義製薬株式会社と共同で進めています。
この医療機器は、2025年2月に厚生労働省のプログラム医療機器調査会で優先審査対象品目の指定を受けており、2026年度の承認取得を目指しています。
國枝氏「医療機器としての承認取得はこれからですが、同じAIを使った『トークラボKIBIT』という民生品のWebアプリケーションはすでに提供されています。
スマホで5分ほど話すと、今の自分の認知機能の状態を確認できるものです。
日本生命さんの認知症保障保険の付帯サービスとして提供されています。
今は、団塊世代の方々が75歳くらいになっている状況で、お医者様の手も限られ、認知症の早期発見が難しくなっています。
ですから、早く認知症を診断して、進行を抑えることはキーになると思います」
現在は、保険加入者向けに提供する付帯サービスですが、今後は契約時にも活用される可能性があります。
國枝氏「日本生命さんは、この『トークラボKIBIT』を契約時にも活用する実証実験を進めています。
保険契約時には、お客様の意思決定能力を確認する必要がありますが、そこにAIを活用すれば、お客様の保護や職員の負荷軽減につながるのではないか、というわけです」

https://talklab-kibit.com/
「年齢で一律に判断せざるを得ない」現状は変えられるか
保険契約時に「KIBIT」を活用する実証実験は、2026年9月から11月まで実施される見通し。
もし良い結果が出れば、金融の現場が長く抱えてきた難題の解決に直結するかもしれません。
武内氏「多くの証券会社は社内規則で高齢顧客の年齢基準を設けていて、一定の年齢を超えると勧誘できる商品が限られたり、役職者の事前承認が必要になったりします。
しかし、その高齢顧客が、証券会社で長く勤務してきた大先輩の場合、『誰にそんなこと言っているんだ』という風になってしまうみたいなんですよね。
しかも、役職者が事前承認すれば良いといっても、役職者だから一般のセールスと違って認知症がわかるわけではありません。
そこで、一律に線を引くのではなく、『トークラボKIBIT』のようなAIを活用してもらう余地があると思っています。
金融機関としても、お金を持っているお客様を年齢だけを理由に取引を断る必要はなくなります。
ですから、こうした分野はもっと拡大してもいいのかなと思います」
もちろん、機械が「大丈夫」と判定し、それを信じた結果、問題が起きてしまっては本末転倒ですから、そのままでは使いにくいかもしれません。
それでも、一律の年齢制限よりは実態に即した判断への一歩になり得るでしょう。
今、FRONTEO社が創薬に振り切る理由

これだけ応用先があるなかで、FRONTEO社はライフサイエンスAI事業のうち、特にAI創薬の分野に経営資源を集中させています。
その理由の1つは、創薬市場の大きさです。
まだまだ効果的な薬が見つからない病気は数多く存在しており、世界中の人々から求められている分野でもあります。
もう1つの理由は、「fairな世界の実現」という同社の企業理念との合致です。
武内氏「薬は年々作りにくくなっています。
なぜなら、成功確率がどんどん下がっていて、失敗コストが積み上がっているからです。
今や1つの薬を作るのに3,000億円ほどかかると言われています。
成功確率が下がるのは、正しい標的分子を見つけられていないからです。
ですから、当社の技術を用いて効率的に、正しい標的を見つけ、創薬の成功確率向上に貢献していきます。
そうすれば薬価も下げられますし、希少疾患のような患者数が少ない領域にも薬を届けられます」
標的分子がそもそも間違っていると、後工程にいくら資金を投じても薬にはなりません。
FRONTEO社は創薬の成否を左右する最上流の一工程を独自のAI技術で変えようとしているのです。
30年勤めても薬をつくれない現実を変える

FRONTEO社は、2026年5月13日に、AI創薬の自社拠点「KIBIT AI Biology Lab」を開設しました。
國枝氏「トヨシバ方程式が入っているアプリケーションを使って、当社の研究者が仮説生成などを行うラボです。
AIエンジニアのほか、製薬企業出身の研究者も20人くらいいますね」
製薬会社の研究者は、これまでまったく違うやり方の研究をしてきたため、FRONTEO社の方法やAIに驚いていると國枝氏は話します。
國枝氏「製薬会社で研究されている方の多くが、学生時代から『いつか自分で薬を作りたい』との思いを抱いて、大学・大学院と進学されて、実際に研究員として製薬会社に入られています。
そこで20年・30年と勤められるのですが、本当に薬を作れる方って一握りなんですよね。
薬を作ることができない方々がたくさんいるなかで、当社に入った研究員の方々は、『こんなやり方で薬が作れるんだ』などと新しい視点を得られています」
論文はなかったすい臓がんの標的遺伝子を発見
「KIBIT」を利用した創薬支援サービスは、すでに結果も出始めています。
FRONTEO社は2025年7月に、すい臓がん治療薬の標的となり得る6つの分子(遺伝子)候補の探索に成功。

https://webcast.net-ir.ne.jp/21582608/BCNbGPcGHG/slide.pdf
武内氏「標的分子(遺伝子)候補、つまり、すい臓がんに悪さをする遺伝子の候補を新しく見つけられました。
しかも、それを抑制することで、がん細胞を抑制する効果も確認できたんです。
このうち4つは、これまで一度も論文に書かれたことのない、本当に新規性の高いものでした」
しかも、ヒトの全遺伝子約2万個からたった2日で17遺伝子を絞り込んだといいます。
さらに2026年5月13日には、米国オクラホマ大学でも同じ6遺伝子で細胞増殖抑制効果が確認され、先行試験の結果が外部の手で裏づけられました。
この成果を機に、製薬会社からの引き合いは強まっているといいます。
「1%を埋めるAI」は訴訟の証拠探しから創薬へ

FRONTEO社のAI「KIBIT」は、汎用の生成AIとは目的からして違うものでした。
生成AIが「すでに世の中にある情報を用いて、綺麗な文章や画像を生成する」ものだとすれば、「KIBIT」が担うのは「まだ誰も気づいていないつながりを見つけ出す」ことです。
それを可能にしているのが独自の「トヨシバ方程式」です。
方程式を使うことで正確性を担保し、生成AIにはない「軽さ」という強みが生まれています。
こうした独自のAIを武器に、FRONTEO社は創薬分野での飛躍を狙っています。
26年3月期の売上高実績76億4,300万円に対して、同社が中期経営計画で見据えているのは29年3月期に売上高300億円超という水準です。
4倍近い売上高成長を実現するために、同社はどのように収益を積み上げる計画なのでしょうか。
これについて國枝氏は、「すでに投資の段階から回収の段階に入っています」と話します。
どこに成果が現れはじめていて、いつどのような形で収益が膨らむ余地があるのか、後編ではFRONTEO社の業績や経営計画を深掘りしていきます。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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執筆者情報
日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)
総合鉄鋼メーカーに勤務していた経験を活かした、鉄鋼・自動車市場の分析及び情報収集を得意とし、データの集計・分析に基づいた統計学により銘柄の選定を行う希少なデータアナリスト。AIに関する資格も有しておりデータサイエンティストとしても活躍の場を拡げている。

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