病院と在宅医療を繋ぎ、現場を支える。eWeLL中野社長が語る訪問看護の将来性

石塚 由奈

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

病院と在宅医療を繋ぎ、現場を支える。eWeLL中野社長が語る訪問看護の将来性

「訪問看護ですよって言っても、訪問介護の話になってしまいます」

株式会社eWeLL(5038)の代表取締役社長・中野剛人氏は、起業した2012年6月頃をこう振り返りました。
同社は2014年に、訪問看護に向けた電子カルテ「iBow」の提供を開始。
当時は手書きが主流だった看護記録の負担を減らし、訪問看護の広がりとともに収益を拡大してきました。
25年12月期まで6期連続で最高益を更新し、26年12月期も前期比26.1%の増収を見込んでいます。

その成長の背景には、市場全体の伸びだけではなく、現場に根ざし、本当に必要とされるシステム・サービスをつくり続けてきた企業努力がありました。

「使いやすいものを徹底的に作る。それが、もともとのコンセプトです」

そう話す中野社長に、今回は創業からの歩みと訪問看護の現場が今抱える課題をうかがいました。
顧客である訪問看護ステーションを支え、ともに成長していく仕組みと、今後の成長戦略を紐解きます。

目次

eWeLL社の原点「看護師さんたちへ恩返しがしたい」

eWeLL社の創業者である中野社長は、1999年から2011年まで水上バイクのプロライダーとして活動していた異色の経歴を持ちます。
システム開発の経験もなく、看護の専門家でもありませんでした。
それなのになぜ、訪問看護のシステムでの起業に至ったのでしょうか。

原点には、看護師に命を救われた経験があります。
中野社長は、プロになる前に、練習中の事故で肝臓が破裂、意識不明の重体となる大けがを負いました。
事故直後に病院で診察を受けたところ、外傷はなく帰ろうとしていたところを、1人の看護師が顔色の悪さに気づき呼び止めてくれて、少し休んでいくよう勧めてナースコールを手渡したといいます。
その数分後に急変し、意識を失いましたが、ナースコールと院内での迅速な処置によって、命を救われました。
もしあのまま病院を出ていたら、命はなかったかもしれないと当時を振り返ります。
回復後には競技に復帰し、プロとして世界の舞台で戦い、国内1位、世界ランキング2位を獲得しています。

2011年の引退後。
心にずっと残っていたのは、「看護師さんたちに恩返しをしたい」という思いでした。

中野剛人氏の起業以前の活動。1999年から2011年まで水上バイクのプロライダーとして活動
株式会社eWeLL 2023年12月期 第3四半期 決算説明資料 P6
https://www2.jpx.co.jp/disc/50380/140120231109584948.pdf

約10か月のボランティアで見えた、訪問看護の課題

そうした思いを抱えて、中野社長は看護の現場に飛び込みます。
「無償で良いので、色々勉強させてほしいと頼み込んで、10か月くらいお手伝いをしました」
訪問看護ステーションとの連携も取っている老人ホームでボランティアとして活動しながら、療養から看取りまでの流れを学んだといいます。

そうして現場を見るなかで、もっとも改善余地を感じたのが訪問看護の分野でした。
訪問看護とは、看護師などが自宅を訪れ、医師の指示に基づく医療処置や療養生活の支援を行うサービスです。
乳幼児から高齢者まで、すべての年代が対象となっています。

2011年当時、使われていた訪問看護向けシステムの多くについて、中野社長は使い勝手が悪かったと話します。
しかも、ユーザーがシステムを改善してほしいとベンダーに要望を上げても、一向に反映してもらえない状況もあったと言います。
また、レセプト(医療機関などが保険者に費用を請求するための明細)の作成、つまり請求業務を中心に組み立てられていて、細かな看護記録や日々の業務で必要な書類はどれも手書きのままでした。

「2010年とか2011年か、起業前の話なのですが、システムを使ってレセ(レセプト)を回そうとしても、どうやったら良いかわからないくらい使いづらかったんです。
でも、そういったシステムを扱うレセプトベンダーは30社以上あったと記憶しています。
レセは、どのシステムを使っても請求金額は同じになるはずなのに、30社もある。
我々はそういう側面からは作らずに、看護師の日々の業務のところをデータ化できて、誰でも簡単に使えるシステムを作ろうと考えました」

従来のシステムの使いづらさを生んでいた「開発方法」

なぜ、そこまで使いづらいシステムが複数作られていたのかについて、中野社長は「受託開発が問題だと思ったんです」と振り返ります。
受託開発とは、要件と金額を先に決めて、その内容に沿ってシステムを納める開発の進め方です。
開発段階で初めて分かる改善点があるのにもかかわらず、納品がゴールになっている契約が多かったといいます。
この進め方では、開発者が向上心を発揮して行うシステムの使いやすさを左右するUI・UXの追求などは要件外になるので、私たちが大切にしている使いやすさはスポイルされてしまいます。
そのため、高機能で誰でも簡単に使えるものを創るため、自社での開発にこだわってきました。

そうした気づきから、ユーザーの声を取り入れて自社で改善を続けられるシステムを開発すると決意します。
しかし、システムをゼロから自社で開発するには莫大なコストがかかるうえ、創業したばかりで資金も限られていました。

そこで、最初は受託開発を行い、完成したシステムを自社サービス「iBow」として展開できる方法を採用します。

「私がプロライダーをしていた時のスポンサーが、訪問看護大手のN・フィールドさんだったんですが、N・フィールドさんも同じ状況でした。
全国でステーションを運営されている大手ですから、市販のシステムがどれもマッチしなかったんです。
しかし、受託開発では、高くて使いづらいシステムができてしまうと二の足を踏んでおられました。
そこで我々は、出来上がったシステムを自社サービスの土台として後に使用させてもらう代わりに安くて良いものを作りますよ、と提案したんです。

利害が一致したことで、N・フィールドさんから受託開発のフィーをいただきながら、後に自分たちのサービスの土台となる良いものを作れました。
N・フィールドさんからしても、安くて良いものができると見込んで我々に託してくれました」

開発期間は2012年から2014年までの約2年間。
誰でも簡単に使えるものを作るというコンセプトは、利用の広がりにつながり、2026年6月末時点で国内の稼働訪問看護ステーションの18.6%にiBowが導入されています。

「国策の追い風」がデータに現れる前に起業

eWeLL社が向き合う訪問看護の領域は、今では「国策」としても注目されています。
しかし、創業当時の認知度は低く、訪問看護ステーション自体も増えていなかったといいます。

「起業を考えていた2011年当時、公表されている全国の訪問看護ステーション数の情報は、3年遅れのデータしかありませんでした。
そのデータを見ると、訪問看護ステーション自体の数は2000年からほとんど横ばいでした。
しかも創業した頃に見れた最新のデータでは、ちょうど減っていたところだったんです」

それでも事業化に踏み切った背景には、2つの変化がありました。
1つは、2012年の診療報酬・介護報酬の同時改定です。
訪問看護では、週4日以上の訪問が認められる患者の対象拡大や、退院直後の支援を評価する見直しが行われました。

もう1つは、2010年に日本でもiPadが発売され、タブレットなどの普及が進み始めたことです。
「手書きがこうした端末に置き換わっていくのではないか」との実感を得ていたタイミングでした。

「本当に増えるのかなって、少し焦りはありました。
増えるか増えないかで言うと、増えるのは確定路線。
ただ、どのタイミングで増えるのかというのは全く分からなかったですね。
10年間、少子高齢化で重要だと言われ続けてきたのに、ステーション数は横ばいが続いてきたわけですから」

「増えるのが確定路線」という見通しを信じて動いたことが、eWeLL社の先行者利益につながりました。

高齢化が進み、在宅医療とその効率化はますます重要に

中野社長の確信に呼応するように、eWeLL社が創業した2012年頃から、訪問看護ステーション数は増加し始めます。
2020年から2026年までで、約1万2,000か所から約2万か所へ、6年間でおよそ1.7倍になりました。

市場環境
株式会社eWeLL 2026年12月期第2四半期決算資料 P52
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260814/20260813519060.pdf

背景にあるのは少子高齢化です。
病院での医療ひっ迫のほか、医療費の増大も日本が抱える課題になっています。

そこで、医療・介護の持続可能性を高めるために、国も在宅医療を推進しています。
eWeLL社の試算によれば、在宅生活が可能な80代・要介護3の認知症患者が、入院を続けた場合の社会保障費は月42.3万円、訪問診療や訪問看護、介護を組み合わせて自宅で療養した場合は月30.1万円になるそうです。
在宅療養への移行で、3割近い費用削減につながる計算です。

一方で、訪問看護の需要が増えても、担い手の確保が追いつかなければ、受け入れられる患者は限られます。
限られた人数でも看護に使える時間を増やす工夫として、eWeLL社が手掛ける電子カルテなどの活用が重要になります。

2026年10月には無料の訪問看護ステーション専用求人情報サイト「カエドキ」の提供も開始。
業務効率化に加えて採用も支援し、訪問看護の担い手不足という課題に取り組んでいます。

徹底的に訪問看護の現場に向き合い培ったeWeLL社の強み

創業からこれまで、eWeLL社は、訪問看護の現場に徹底的に向き合い、システムの改善・機能強化を続けてきました。
そこで培った現場への理解は、同社の強みになっています。

ここからは、eWeLL社の電子カルテ「iBow」の料金体系や、訪問看護に寄り添って広がってきたサービスの全体像を見ていきましょう。

電子カルテiBowで記録書・報告書・計画書などを各端末から利用できることを示す公式サービス図
https://ewellibow.jp/i-bow/karte/ より引用

訪問件数に応じた課金で、顧客とともに成長する

iBowの料金は、1事業所あたり月額1万8,000円(2年契約時)の基本料金に、1訪問あたり100円を加える仕組みです。
利用する看護師が増えても、料金は変わらず、使った分に応じた従量制です。
つまり、ステーションはiBowの活用で業務を効率化して、訪問件数を増やすことで、事業所の売上が伸びていき、それに応じて、eWeLL社の売上も増える仕組みです。

現場の負担を減らし、より多くの患者に看護を届けられるよう支えることが、顧客である訪問看護ステーションと同社自身の成長につながるWin-Winのビジネスモデルとなっています。

ビジネスモデル
株式会社eWeLL 2026年12月期第2四半期決算資料 P54
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260814/20260813519060.pdf

料金の考え方について、中野社長はこう説明します。

「我々は、お客様の使いやすさを追求し続けられるビジネスモデルにしたくてサブスクにしました。
少し乱暴に言うと、使いづらかったらいつでもやめられる料金体系になっています。
お客様にとって常に使いやすい最新のものを提供し続けて、やめられてしまうことのないよう、今も全力で挑んでいます」

お客様に向き合うから、追加のサービスもヒットする

品質を担保するため、お客様のニーズを細やかに拾い上げ続ける体制は、追加サービスのヒットにもつながっているといいます。
「我々は、アップセル(既存の顧客への追加サービスの販売)も結構展開してきてるんですけど、ほとんどが当たっているんですね」

たとえば、同社は2021年1月から、iBowの事務管理代行サービスを提供しています。
当初はBPO(Business Process Outsourcing:業務プロセスの外部委託)と呼んでいましたが、2025年から、BPaaS(Business Process as a Service)へと呼称を変更しました。
iBowを基盤に人の知見を組み合わせて支援を行うサービスの特徴を反映したものです。

このBPaaSを始めた理由について、中野社長はこう話します。

「訪問看護ステーションでは、看護の仕事のほかに、レセ(請求業務)も回さなければいけません。
しかし、事務員さんが行う訪問看護の請求業務が複雑でブラックボックス化してしまって、担当の事務員さんが辞められた時に看護師さんでは回せないケースがあります。
請求が滞ると経営への影響も大きいため、請求業務を安定して続けられる体制をつくり、安心して看護に専念できるよう支えたいという思いがありました。

iBowの活用については、カスタマーサポートチームがご支援していますが、さらに一歩踏み込んで、請求など訪問看護の複雑な事務管理を代行するというのがこのBPaaSです」

こうした現場のニーズから生まれたBPaaSは、順調に利用が拡大。
訪問看護ステーションは、看護師が起業するケースも多く、事務員や事務作業のための時間を確保する手間を省き、本業の看護に集中したいと、開業時からBPaaSを導入する事業者もいるそうです。

このBPaaS事業の26年12月期上期における売上高は前年同期比37.2%増の約2.8億円に増加しました。
全社売上高の14%を占め、収益面でも同社を支えています。

iBow事務管理代行で間接業務からメイン業務へ時間を振り向ける仕組み。右側の導入効果は公式ページ掲載の一顧客の事例
https://ewellibow.jp/i-bow/bpo/ より引用

現場に根ざした強みを、新たなサービスへ

eWeLL社は、AI活用サービスも積極展開しています。
顧客支援で培った知見を新たなサービスとして、追加利用による収益拡大につなげる考えです。

書類作成・訪問予定から経営支援へ。AIの活用範囲を拡大

iBowには、2024年4月に「AI訪問看護計画書」、同年10月に「AI訪問看護報告書」が搭載されました。
患者の情報や看護記録などをもとに、ワンクリックでAIが主治医に提出する計画書・報告書の作成を支援します。
両サービスは2025年1月に課金を開始し、26年12月期第2四半期(4-6月)の売上高は4,400万円と、前年同期の約1.8倍に増加するなど、すでに収益拡大にもつながっています。
さらに、訪問予定や移動ルートの作成を支援する「AI訪問予定・ルート」を2025年7月に提供開始し、2026年7月から有料化しました。

加えて、2026年2月に経営指標を見える化するBIツール「iBowボード」の提供を開始した同社は、2026年10月から新たに、AIを活用して訪問看護ステーションの経営を支援する「iBowボード Pro」を提供開始しました。
訪問看護ステーションの経営に関わる12項目の独自の評価指標をスコアリングして経営状態を可視化し、すぐに取り組める具体的な改善策と、改善後の収益シミュレーションをAIが提示します。
経営支援にまで踏み込む判断の背景には、訪問看護ステーション特有の経営課題がありました。

「訪問看護ステーションを始めるには、国家資格を持った看護職員が3名(常勤換算で2.5人以上)は必要です。
そうやって看護師が経営者となって人を集めて事業を行う場合、経営者が経営のプロではないケースもあります。

逆に、経営のプロである一般法人が開業する場合、経営者は看護師としての国家資格を持っていないなど、経営と看護の両方の専門知識を併せ持って運営するのが難しいケースも多くあります。

そこで、我々がカスタマーサービスのなかで培ってきた知見を活かし、経営に関わる重要指標をスコア化して、AIで改善策と収益影響の試算まで行うシステムにしたのが、今回のサービスになっています」

プロダクト戦略
株式会社eWeLL 2026年12月期第2四半期決算資料 P37
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260814/20260813519060.pdf

iBowだから蓄積される日々の医療データ

少し角度を変えると、iBowに蓄積されていく日々の医療記録も、データの重要性が増すAI時代におけるeWeLL社の強みになっているといいます。
では、iBowには具体的にどのようなデータが蓄積されているのでしょうか。

「iBowには、薬の内容、体温や脈拍といったバイタルデータ、ADL(食事や歩行、入浴といった日常生活の動作)も入っていますし、家族構成などのプラスアルファの情報もあります」

日々の体調の変化が細やかに記録される点が、自宅で行われる慢性期医療の特徴だといいます。
レセプトデータにも診療・サービスの内容は記載されますが、それだけで療養中の状況までは把握できないため、現場で記録した医療情報から経過をたどれる点に強みがあります。

iBowには、そうしたデータが漏れなく記入されるように工夫も施されています。

「iBowは日々の業務全般で使っていただくものなので、訪問記録などのデータは他の業務とも深く関わるため、必ず入力されます。
そもそも、iBowはレセプトに入力する画面がないので、レセプト業務を行うために入力をする必要がありません。
日々の訪問記録が、自動的に実績へ連動するので、実績の確認などに要するレセプト業務の時間を大幅に短縮します」

こうして取得された慢性期医療のデータには、製薬企業等も関心を寄せています。

「日本でも、在宅治験の環境が整ってきていますが、そもそも国内のどこにどれだけ患者さんがいるのかを把握するのは困難です。
当社では、全国47都道府県のどこにどういう疾患の患者さんがどれだけいるのかをデータとして蓄積しています。」

そうしたデータを活かして、同社は治験コーディネーターと協力し、訪問看護ステーションを紹介するなどの在宅治験支援業務も行っているといいます。
ただし、現在はステーション向けの主力事業の深化・拡大を優先的に進めているところだと説明していました。

退院できるのに、自宅に戻れない。「けあログっと」で病院と在宅をつなぐ

入院治療を終えても、自宅で療養を続けるための支援が整わなければ、退院はできません。
実際に、訪問看護ステーションとの調整に時間がかかり、入院が長引くケースがあるといい、これをeWeLL社は課題として捉えています。

訪問できる日時を見える化し、退院調整を支援

退院後も訪問看護が必要な患者が自宅に戻る際には、病院の地域連携室の看護師やMSW(医療ソーシャルワーカー)、ケアマネジャーなどが、受け入れ先のステーションを探します。
しかし、希望や条件に合う地域のステーションを見つけ、訪問できる日時を確認する作業は、一筋縄ではいきません。

「地域には様々な特色を持つステーションが点在しており、病院の退院支援を担う方々は退院決定から退院予定日までのわずかな期間で、最適なステーションを見つけ、連絡を取って、受け入れが可能かどうかを確認しなければいけません。

受け入れ可否を確認した後も、大きなステーションになればなるほど、看護師のシフトが電車のダイヤのように入り乱れていますので、訪問日時の調整も時間と手間がかかります」

そこで注目したいのが、eWeLL社が2024年8月に提供をはじめた「けあログっと」です。
けあログっとでは、所在地や対応できるケア内容などから訪問看護ステーションを検索し、地図や空き予定を確認できます。
紹介・依頼情報の管理やチャットでのやり取りにも対応し、iBowのスケジュールとも連動しています。
個別に電話で問い合わせていた情報を、画面上で確認しながら調整できるのです。

けあログっとの公開検索画面。郵便番号・距離・サービスの検索条件と、ログインが必要な日時などの項目
https://carelogood.ibowservice.jp/public/stations/search より引用

こうした仕組みは、病院側にとってもメリットがあります。

「病院は、限られたベッド数の中で運営をしないといけません。
しかし、入院期間が長くなってしまうと、保険点数は下がっていく仕組みになっています」

急性期の入院医療で広く使われる制度では、入院が長期化すると、1日あたりの包括部分の診療報酬が段階的に下がります。
全国自治体病院協議会の調査では、2025年度の分析対象485病院の約83%が経常赤字でした。
必要な処置が済んでいるのにもかかわらず、受け入れ先との調整だけで退院が延びれば、新たに入院が必要な患者を受け入れられません。
これが、病院の経営を悪化させる一因となっています。

地域連携の仕組みはあった。それでも残った課題とは

飲食店やホテルでは、ネットで空き状況を確認し、そのまま予約するのが当たり前になりました。
それなのに、退院後の訪問看護を手配する場面では、今も個別の電話確認を行い、調整に時間がかかっているのはなぜなのでしょうか。

「けあログっとというようなサービスが、今までなかったのかというと、実はたくさんあったんです」

地域の医療・介護をつなぐ情報連携システムは、国の補助金なども活用して整備されてきました。
しかし、導入後の運営費を誰が負担するのかが課題となり、継続が難しくなるケースもあったといいます。

つまり、状況を打破するには、多少費用がかかっても現場で使われ続けるシステムを届ける必要があるのです。
eWeLL社は、iBowを通じて築いた訪問看護ステーションとの接点を生かし、この課題に挑んでいます。

「訪問看護は、在宅療養者1人当たりの訪問頻度が月間平均で約8回と医療者の中では特に多く、在宅療養の重要な役割を担っています。
その訪問看護の医療情報は、長期的・継続的な性質を持つ慢性期医療の重要なデータだと考えます」

従来の取り組みでは、こうした訪問看護側の空き状況や医療データを十分に扱えていなかったとみています。
日々の体調を記録した医療データは、病院や介護の担当者が、自宅での療養状況を理解する手がかりにもなります。

訪問看護の機会を広げ、次の成長につなげる

インタビュアー(日本投資機構株式会社アナリスト 石塚由奈)

ただし、仕組みを整えるだけでは、利用は広がりません。
病院側に、導入するメリットを理解してもらう必要もあります。

「病院の理事長さんなどにお会いしても、なかなか説明が難しい部分はあります。
一番このシステムのメリットを理解してくれるのは、地域連携室などの看護師さんですね。
苦労されているので、大抵喜ばれます」

そこで同社は、関西を重点地域とし、基幹病院との協議や訪問看護の連絡協議会での勉強会を通じて、導入を働きかけているといいます。

もっとも、中野社長は、地域によって解決すべき課題が異なるとも話します。
特に過疎地の医療については、医療の担い手不足や移動距離の長さなど、データを連携するだけでは解決が難しい課題が山積しています。
中野社長も、「ここについては、まだ答えを見いだせていない」としたうえで、まずは都市部にも残る連携の課題に取り組む考えです。

「都心部ですら、未だに隣の病院に行ったら、またイチから体温を測ります、みたいなことをやっているので。
だからまずそこをやりましょうよというのが、我々が今言っていることです」

退院支援の診療報酬を支え、病院とともに成長する

けあログっとは、無料で提供しているサービスですが、地域連携がスムーズに進み、顧客である訪問看護ステーションの訪問件数が増えれば、iBowの従量課金収入が増えるという、間接的な効果を見込んでいます。

その先に目指すのが、病院の退院支援業務と、それに伴う診療報酬の算定を支えるサービスへの展開です。

たとえば、入院先の病院と在宅側の医療・介護関係者が、退院後の療養について共同で説明や指導を行うと、一定の要件のもと、病院は400点の診療報酬を算定できます。
さらに、在宅側の所定の関係者3者以上と共同で指導するなどの要件を満たせば、2,000点の診療報酬が加わり、合計2,400点、金額にして2万4,000円が請求できます。

こうした診療報酬の算定に必要な関係者の調整や記録・書類作成を支援し、病院の負担を減らす構想を描いています。
実現に向けて、2026年に入退院支援、2027年に多職種による共同指導、2028年には退院後の継続支援へと、段階的に機能を広げる方針です。

プラットフォーム基盤の強化方針
株式会社eWeLL 2026年12月期第2四半期決算資料 P39
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260814/20260813519060.pdf

課金時期や料金はまだ明らかではありませんが、病院が業務面・収益面の効果を実感できれば、利用料を支払う理由になります。
訪問看護ステーションとともに成長してきた同社が、その関係を病院にも広げようとしているのです。

既存事業を伸ばし、次の柱を育てる。業績の歩みと中期経営計画

eWeLL社の売上高は、21年12月期の11億9,200万円から、25年12月期には33億9,200万円へ約2.8倍に拡大。
営業利益も4億100万円から15億3,700万円へ約3.8倍になりました。

成長を支えたのは、iBowの顧客基盤の拡大と、追加サービスの利用です。
契約事業所数は2021年末の1,777件から2025年末には3,501件へほぼ倍増。
各年10~12月の月間平均顧客単価も、6万8,500円から8万8,800円へ約3割上昇しています。

そして、2026年2月に公表した中期経営計画では、2028年12月期に売上高61億4,900万円、営業利益27億8,500万円を目指します。
2026~2028年の3カ年で、売上高を年平均21.9%伸ばす計画です。

この達成に向けて、契約事業所数や顧客単価をどのように伸ばしていくのか、eWeLL社の中期経営計画を見ていきましょう。

3カ年中期経営計画数値目標
株式会社eWeLL 2026年12月期第2四半期決算資料 P28
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260814/20260813519060.pdf

契約数と顧客単価の両輪で、売上高61億円を目指す

契約事業所数は、2026年末に3,954件、2027年末に4,418件、2028年末に4,882件へ増やす計画です。
年間の純増は453~464件と、2025年の実績473件に近い水準を見込んでいます。
契約獲得の急加速は見込まずに、現状のペースを維持する方針です。

加えて、顧客単価の上昇も見込んでいます。
各年10~12月の月間平均顧客単価を、2025年の8万8,800円から、2026年に9万8,900円、2027年に10万5,700円、2028年に11万300円へ高める計画です。

単価を押し上げるのは、顧客の訪問件数の増加と、AIサービスやBPaaSなどの追加利用です。
アップセル・クロスセルによる売上の比率も、2025年の30%から40%程度へ高める方針としています。

また、2026年10月から提供を開始した「iBowボード Pro」は、開発費を計画に含める一方、売上には含めていないと説明しています。
今後、利用が広がれば、計画に対する上振れ要因になり得ます。

利益面では、2025年12月期と同水準の営業利益率45%台を維持する計画です。
開発や人材への投資を続けながら、契約数と追加利用の増加によって費用を吸収する方針です。
この達成が可能か、特にサービスの立ち上げに伴って利益率が悪化しないかが、今後のチェックポイントとなりそうです。

成長を続けるeWeLL社。足元の業績と投資家への向き合い方

訪問看護の現場で必要とされるサービスを増やし、成長を続けてきたeWeLL社。
一方、株価は業績と同じように右肩上がりで推移してきたわけではありません。

2026年12月期第2四半期業績サマリー
株式会社eWeLL 2026年12月期第2四半期決算資料 P9
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260814/20260813519060.pdf

増収増益が続くなか、株価は利益成長をどう評価するか

eWeLL(5038)の上場来週足チャート。株式分割調整済み、2026年10月15日終値まで
eWeLL(5038)上場来の週足チャート 2022年9月20日〜2026年10月15日
株探の週次四本値を基に作成。株式分割調整済み。最終足は10月15日終値までの週途中データ。
https://s.kabutan.jp/stocks/5038/historical_prices/weekly/

eWeLL社は2022年9月16日に東証グロース市場へ上場しました。
上場初日は初値が付かず、翌営業日の9月20日に、公開価格850円の2.3倍となる1,955円で初値をつけています。
訪問看護市場の拡大を取り込める、高成長・高収益のSaaS企業として上場当初から評価が高まったのです。
株価はその後も上値を試し、2023年6月21日には2,865円の高値をつける場面も見られました。
しかし、バリュエーションが切り上がりすぎた反動で、2024年には1,054円まで下落しています。

直近の株価は2026年6月の1,695円を安値に切り返し、2,000円から2,400円での値動きを見せています。
過度の期待とその反動による調整は一巡し、業績拡大を背景とした落ち着いた動きに転じているとみられます。

予想PERは26倍近辺(2026年10月15日時点)と割安感が強いわけではありませんが、利益率・成長率の高さから考えれば妥当な水準でしょう。
中期経営計画に対する進捗が順調であれば、業績の安定的な拡大に連動する形での緩やかな上昇トレンド継続が期待されます。

創業者自身の言葉で、個人投資家に事業の強みを伝える

中野社長は、個人投資家への説明にも積極的です。
2026年8月28日、29日に開催された「日経・東証IRフェア2026」では、自らブースに立って、事業や業績に関する説明を行いました。

「IR担当者が説明を行うブースが多いなか、自分は少し場違いかなと感じました。
しかし、2日目には個人投資家の皆さんが情報交換しているLINEやメッセンジャーで、当社のブースをおすすめしてくれていたようです。
私が直接個人投資家の皆さんとお話ししたことで、インパクトを残せて、情報の拡散につながった点は、とても良かったと思っています」

そして中野社長は、同社が訪問看護という今後も伸びが見込まれる分野で、収益拡大を続けてきた点に注目してほしいと話します。

「2040年に向けて、訪問看護ステーションはまだまだ国策で増えていくと考えています。
そして、2070年以降まで、人口に占める高齢者の割合は増加する見通しです。
そうした側面から見ても、訪問看護は日本の医療にとってますます重要になると思います。

収益についても上場前から右肩上がりでしっかりやらせていただいている、非常に手堅いビジネスモデルだと思っています。
関西を地盤に手堅く成長を続けている企業の一社として、さまざまな分野で強みを持つ関西の経営者の皆さんと、今後も意見交換を重ねて互いに学びながら、共に成長していきたいと考えています。
皆様にも、当社の強みをしっかり見ていただきながら、投資をしていただけたら非常に有難いなと思っています」

日本の医療を持続可能なものにするために

eWeLL社は創業以来、訪問看護ステーションにとって本当に使いやすいシステム・サービスをつくり続けてきました。
その積み重ねが、訪問看護ステーションとeWeLL社双方の成長につながってきました。

その先に同社は、訪問看護で得た知見やデータを強みに、地域の医療全体をつなぐ構想を描いています。
未だに電話で予約を行うほど非効率が残る、デジタル化が難しい領域に切り込む挑戦です。
病院での必要な処置を終えた患者がすぐに自宅で安心して療養生活を送れるようにするために、そして、少子高齢化による医療のひっ迫を緩和するために、欠かせない課題解決への挑戦とも言えます。

同社は、現中期経営計画期間(2026~2028年)を、安定成長を継続しつつ、「けあログっと」の収益化に向けた基盤整備を進める期間とも位置づけています。
こうした期間を終えた後、eWeLL社はどのような手応えを得ているのでしょうか。
看護師への恩返しから始まった挑戦がどこまで広がっていくのか、今後も目が離せません。

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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執筆者情報

nari

石塚 由奈

日本投資機構株式会社 証券アナリスト(CMA) テクニカルアナリスト(CMTA®)

国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。

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