ビットコイン価格が動くと、保有企業の株価はそれ以上に大きく反応する場合があります。背景にあるのが、BTCを財務戦略の中核へ置く「ビットコイントレジャリー企業」です。
ただし、保有量が多い企業ほど有利とは限りません。株価には保有BTCの時価だけでなく、資金調達力、増資による希薄化、本業の収益力も織り込まれます。
本稿では、2026年8月20日時点の国内外の保有状況と株価反応を整理し、税制改正の方向性、mNAV、規制・会計リスクまで初心者向けに解説します。
ビットコイントレジャリー企業はBTCを財務戦略の中核に置く

ビットコイントレジャリー企業は、余剰資金の一部をBTCへ振り向けるだけではありません。購入・保有・資金調達を継続的な財務方針として開示する企業を指します。保有目的が判断の軸です。
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DATは保有量を増やしながら1株当たり価値を高める戦略
DATはDigital Asset Treasuryの略称です。現預金の代替としてBTCを持つだけでなく、増資、社債、本業のキャッシュフローを使って継続購入します。
重要なのは保有総量ではなく、希薄化を差し引いた1株当たりBTCが増えているかです。総量が増えても発行株式数がそれ以上に増えれば、既存株主の取り分は薄まります。
増資の発行価額、取得時期、完全希薄化後株式数を並べると、株主価値が実際に増えたかを追いやすくなります。
現物ETFの定着で企業のBTC保有は説明しやすくなった
米国では2024年1月にビットコイン現物ETFが承認され、機関投資家がBTCへ投資する経路が広がりました。企業にとっても、取締役会や株主へ保有目的を説明しやすい環境です。
投資家層の拡大と資本市場からの調達力が、トレジャリー戦略の追い風になりました。一方、国家準備金や法案の議論は確定制度と分けて見る必要があります。
日本企業を調べる際も、海外の政策ニュースより各社の取締役会決議と適時開示を優先すると誤認を避けられます。
企業は通貨価値の低下と資金調達力を意識してBTCを買う

企業がBTCを買う狙いは値上がり益だけではありません。現金の購買力を守る狙いと、株式市場から資金を集める狙いが組み合わさっています。企業ごとに比重は異なります。
発行上限は現金の購買力低下へ備える材料になる
ビットコインの発行上限は2,100万BTCです。法定通貨の供給量が増える局面では、希少性を持つ資産として保有する理屈が生まれます。
ただし、短期の価格下落を防ぐ安全資産ではありません。インフレ局面でも下落する可能性があるため、運転資金まで投じる企業は資金繰りリスクが高まります。
保有比率は現預金、固定費、借入返済額とのバランスで評価します。生活防衛資金に近い運転資金を確保できる企業ほど下落へ耐えやすいです。
株高と資金調達が続けばBTCを買い増す循環が生まれる
株価が保有BTCの価値を上回る企業は、増資や転換社債で比較的有利に資金を調達できます。その資金でBTCを買い、保有量を増やすのが基本モデルです。
株価上昇、調達、BTC購入の循環は、市場の信頼が続く間だけ機能します。株価が割安圏へ落ちると、同じ調達が希薄化要因へ変わります。
特にワラントは行使価額と残存数が重要です。株価が行使条件を下回ると、予定した購入資金を確保できない場合がある点に特に注意します。
BTC保有は企業の投資テーマを市場へ明確に示す
成熟事業を持つ企業がBTC戦略を掲げると、成長テーマを求める投資家の関心を集めやすくなります。売買高や時価総額の拡大が資金調達を支える場合もあります。
ただし、本業の立て直しを伴わない社名変更や取得計画だけでは価値は増えません。購入実績、調達条件、保管体制まで確認する必要があります。
IR資料では目標額より実績額を先に見ます。取締役会決議、取得完了、残高証明が連続して開示されている企業は検証しやすいです。
個人投資家は制度面の扱いやすさからトレジャリー株を選ぶ

トレジャリー株は証券口座で売買でき、秘密鍵の管理も不要です。税務申告やNISAの扱いやすさを重視する投資家には、現物BTCとは異なる選択肢になります。投資目的を明確にします。
暗号資産の税率差は縮小方向だが施行時期を確認する
2026年度税制改正大綱には、一定の暗号資産を20%の申告分離課税とし、損失を3年間繰り越す案が盛り込まれました。ただし、金融商品取引法の改正と施行が前提です。
| 投資方法 | 税務上の要点 |
|---|---|
| 現物BTC | 現行は原則として総合課税 |
| 指定暗号資産 | 施行後は20%案 |
| 上場株式 | 原則20.315% |
現時点で現物BTCが一律20%になったわけではありません。売却前に適用開始日と対象資産を確認してください。
制度移行前後で計算方法が変わる可能性もあります。
証券口座で買えても企業固有のリスクは残る
株式ならウォレットや秘密鍵を自分で管理せずに済みます。保管やサイバー対策は企業とカストディ事業者が担うため、個人の操作ミスは減らせます。
一方、株主は企業の保管先、借入、増資、本業不振を引き受けます。BTC価格だけを追うなら、企業価値が混ざるトレジャリー株は現物と同じ値動きになりません。
証券口座の使いやすさは、価格連動の純度を保証しません。現物価格との乖離率を定期的に比べると、企業固有の上乗せ評価を把握できます。
NISA成長投資枠は対象銘柄なら売却益を非課税にできる
NISAの成長投資枠では、対象となる国内上場株式の配当や売却益が非課税です。トレジャリー企業でも対象銘柄なら制度を利用できます。
ただし、全ての関連株がNISA対象とは限らず、損失も他口座と通算できません。購入前に証券会社の対象表示と上場区分を確認しましょう。
NISA枠を使う場合も、短期の材料株へ集中させると非課税メリットより値下がり損が大きくなります。保有期間と損失許容額、投資上限を先に決めます。
米国ではStrategyが保有量と資金調達で突出する

米国では上場企業によるBTC保有が定着し、保有規模の差も広がりました。Strategyは資本市場から継続調達する専業型として突出しています。テスラは本業型です。
Strategyの保有量は84万447BTCへ拡大した
旧マイクロストラテジーのStrategyは、2026年8月10日時点で840,447BTCを保有しています。保有量は上場企業で最大規模です。
同社の強みは株式や優先株を組み合わせる調達力にあります。ただし、発行条件と配当負担が重くなれば、BTC上昇分が全て普通株主へ帰属するわけではありません。
保有量の増加だけでなく、普通株、優先株、転換可能証券の優先順位を確認すると、下落時に誰が先に保護されるかが分かります。
テスラは1万1,509BTCを維持し本業比率が大きい
テスラは2026年3月末時点で11,509BTCを保有しています。Strategyより保有量は小さく、EV、蓄電池、AI関連の業績が株価へ与える影響も大きい企業です。
テスラ株をBTC連動銘柄だけで評価するのは適切ではありません。暗号資産の評価損益と本業の利益率を分けて確認する必要があります。
保有BTCの時価を時価総額で割れば、暗号資産への感応度を概算できます。比率が低いほど本業ニュースの影響が相対的に大きくなります。
国内保有量はメタプラネットが4万3,000BTCで突出する

国内でもBTC保有を掲げる上場企業は増えました。ただし規模は均一ではなく、メタプラネットと2位以下の保有差は大きく開いています。最新の取得・売却開示を反映します。
国内上位6社の保有量は開示日をそろえて比較する
2026年8月20日までに確認できた各社の最新開示を基に、国内上位を整理しました。企業ごとに集計基準日が異なるため、概数を含みます。
| 順位 | 企業名 | 証券コード | 保有BTC |
|---|---|---|---|
| 1 | メタプラネット | 3350 | 43,000 |
| 2 | ネクソン | 3659 | 1,717 |
| 3 | リミックスポイント | 3825 | 1,503.75033699 |
| 4 | ANAPホールディングス | 3189 | 約1,432 |
| 5 | エスクリプトエナジー | 5721 | 約296 |
| 6 | イオレ | 2334 | 約169 |
ランキングは発表済みの取得と売却を反映して更新する必要があります。取得予定額だけを保有量へ加えると実態を誤ります。
2026年8月20日の反発ではBTC保有型の上昇率が大きかった

8月20日の東京市場では、ビットコイン関連株がそろって反発しました。上昇率は保有BTCが財務へ与える影響の大きさで差がついています。計画段階の企業とは分けて見ます。
メタプラネットは253円まで上げ16.06%高となった
8月20日前場のメタプラネットは253円まで上昇し、前日比16.06%高となりました。リミックスポイントも224円、5.66%高です。
BTC反発時には保有型へ短期資金が集中しやすいと分かります。ただし、1日の騰落率だけで財務価値の改善を判断せず、保有量と発行株式数を併せて見ます。
[関連]メタプラネット(3350)の株価は今後どうなる?ビットコイン戦略の将来性とリスクを解説
前日比は始値や前日の急落にも左右されます。出来高、終値、BTC円価格の同時刻変化をそろえると、連動性をより正確に比較できます。
コンヴァノは暗号資産売却後のため保有上位から外した
コンヴァノは2026年8月10日までに、株主優待用と担保差し入れ分を除く暗号資産を売却しました。8月13日には約2億9,800万円の売却損を公表しています。
過去の最大保有量を現在のランキングへ残すと投資判断を誤ります。売却方針と残高を反映し、同社を上位表から除外しました。
保有方針は短期間で変わる場合があります。ランキングには取得日だけでなく、売却日と例外として残した数量も必ずその都度反映すべきです。
取得計画を掲げる銘柄は実行額と資金使途を分けて見る
Bitcoin Japanは約96億6,000万円の資金調達計画を示し、そのうち約6億6,000万円をBTC取得へ充てる方針です。調達総額が全て購入資金ではありません。
計画段階の企業は取得完了の開示が出るまで保有企業と分けて評価します。ワラントの行使状況、手取金、実際の購入数量を追う姿勢が必要です。
資金使途が複数ある場合はBTC向け配分を抜き出します。調達上限と手取金を混同しないだけでも、期待先行の銘柄を見分けやすくなります。
mNAVが高い銘柄ほど希薄化と反落へ備える

トレジャリー株はBTCの上昇局面で大きく買われますが、割高な株価は反落も速くなります。mNAVと1株当たりBTCを組み合わせて確認しましょう。単独指標で判断しません。
mNAVは企業価値を保有BTCの純資産価値で割って見る
mNAVは時価総額や企業価値を、保有BTCの時価から有利子負債などを調整した純資産価値で割る指標です。1倍超なら市場が上乗せ価値を評価しています。
計算式は企業ごとに負債や優先株の扱いが違います。会社発表の倍率だけで比較せず、同じ前提で再計算すると割高・割安を判断しやすくなります。
BTC円価格と発行済み株式数を同じ市場取引日時へそろえる点も重要です。異なる基準日の数字を混ぜると倍率が大きくずれます。
高いプレミアムは将来の調達力を先に織り込んでいる
mNAVが高い企業では、現在の保有BTCだけでなく、将来の買い増しや資金調達力まで株価へ織り込まれています。期待通りに進めば上乗せ評価を維持できます。
BTC下落と増資の停滞が重なるとプレミアムは急速に縮みます。取得単価、償還期限、ワラント残高も確認すべき項目です。
プレミアムが高いほど、将来の購入計画が未達になった際の下落余地も広がります。目標保有量より毎月公表される1株当たりの実績推移を優先します。
規制報道より開示・会計・上場維持条件を確認する

トレジャリー企業に一律の禁止規制が導入されたわけではありません。開示の十分さ、会計処理、上場維持条件を企業ごとに確認するのが現実的です。正式公表を最優先します。
BTC価格の下落は純資産と資金調達条件を同時に悪化させる
BTC価格が下がると保有資産の価値が減り、トレジャリー株の時価総額も下押しされやすくなります。借入や償還期限が近い企業では資金繰りへ波及します。
下落耐性は現預金、負債期限、担保条件で決まります。購入平均単価だけでなく、半年から1年以内に必要な現金を開示資料から確かめてください。
BTCを担保にした借入がある場合は、追加担保や強制売却の条件も確認します。無担保調達中心の企業とは下落時の挙動が異なります。
JPXの検討報道と確定した上場規則は区別して読む
2025年11月には、JPXが暗号資産保有企業への対応を検討していると報じられました。一方、個別企業は照会を受けた事実を否定しており、報道だけで規則変更を断定できません。
投資判断ではJPXの正式公表と各社の適時開示を優先します。監査意見、内部管理体制、継続企業の前提に関する注記も上場リスクの手掛かりです。
検討中の報道、意見募集、施行済みの規則を分けて記録すると、未確定情報だけで売買するリスクを抑えられます。
企業の暗号資産は保有目的と譲渡制限で会計処理が変わる
国内企業が持つ暗号資産は、活発な市場の有無や保有目的に応じて期末評価の対象になります。一定の譲渡制限を設けた長期保有分には例外が認められる場合もあります。
全ての保有BTCへ同じ時価評価課税がかかるとは限りません。決算短信の評価方法、税効果、監査法人の注記まで読む必要があります。
同じ保有量でも評価損益が営業外損益や税額へ与える影響は異なります。前期からの会計方針変更と監査注記も決算比較の注意点です。
まとめ|本命は1株当たりBTCと資金調達条件で選ぶ
ビットコイントレジャリー企業は、証券口座からBTC上昇の恩恵を狙える一方、増資、本業、負債、保管体制といった企業固有のリスクを抱えます。
2026年8月20日の反発ではメタプラネットなど保有型の上昇が目立ちました。しかし、短期の騰落率は企業価値の改善を保証しません。
保有総量、1株当たりBTC、mNAV、資金調達条件の4点を同じ基準日で比較し、税制や規制は正式な施行日と開示を確認して判断しましょう。

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執筆者情報
金融ライター
2016年大手証券会社に入社、2018年に最大手オンライン証券会社に入社し、機関投資家部門(ホールセール)を立ち上げ、翌年2019年には同社シンガポール拠点設立。2022年より日系証券会社の運用部にてポートフォリオマネジャーの経験を得て以降、一貫して運用業務に従事。

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