半導体株が下げ幅を拡大し、大荒れの展開となった2026年7月の日本株市場。
年前半に利益が出ていた投資手法が通用せずに、苦労した投資家も多かったのではないでしょうか。
そんな相場でも、日本投資機構株式会社の峯岸恭一アナリストは淡々と分析を続け、安定した運用成績を維持していました。
彼の運用は、日々決算発表の数字と向き合い、まだ市場で評価されていない銘柄を徹底的に探し出すスタイルです。
「株の運用は、常に戦いですね」
そう話す峯岸アナリストは、7月の相場で何を考えて、どのような銘柄を買いと判断したのでしょうか。
7月相場の振り返りから推奨銘柄の裏側、そして8月の日本株見通しや注目しているテーマ・イベントまで、たっぷりと語っていただきました。
大荒れの2026年7月相場を振り返る
2026年7月の日経平均株価は、月間で5,700円(8.14%)下落。
7月17日には前日比2,694円安(4.03%安)の6万4,141円まで急落し、歴代5位の下げ幅を記録する場面も見られました。

こうした7月相場について「正直、難しかったですか」と峯岸アナリストに問うと、「特別難しかったわけではない」と意外な回答が返ってきました。
「楽な月なんて、一度もないんですよ。
上げ相場では、流れに乗りながら株価指数以上の値上がりを狙う。
下げ相場では、損失を抑えつつ買い時を捉えていく。
どんな相場でも、市場平均を上回るパフォーマンスを出すために、工夫して戦う必要があります」
プロの世界では、株式市場全体の上昇率を超える値上がりを狙い続けなければなりません。
相場が上がっているからといって、手を抜けば置いていかれます。
半導体が崩れたのも「想定内」
特に7月相場で下落が目立ったのが、AI・半導体関連株です。
7月1日には、「米メタ・プラットフォームズがAI向けの計算資源やAIモデルへのアクセスを提供するクラウドインフラ事業の立ち上げを計画している」と報道されました。
これを受けて、計算資源の余剰が意識されはじめ、関連銘柄の上値が重くなりはじめました。
以降、株式市場は疑心暗鬼に陥り、7月10日のSKハイニックスのADR上場による需給悪化、中国企業の台頭による価格競争激化懸念などを手掛かり材料として、売りが加速する場面も見られています。
年前半の上昇をけん引したAI・半導体関連株の下落について、峯岸アナリストはどのように考えていたのでしょうか。
「半導体株に短期的な過熱感があったことは、みんな意識していました。
それが崩れただけなので、苛立ちはしませんでしたね。
自分の中にシナリオがあって、想定通りに動いていましたから。
7月に苛立ったのは、家のエアコンが壊れたことくらいかな(笑)
相場とは全然関係ないですね」
あらかじめシナリオを立てて相場に向き合い、急落にも慌てずに対処することで、峯岸アナリストは7月の相場でもプラスのパフォーマンスを維持しています。
過去10年20年の「歴史」を踏まえて銘柄を分析

では、峯岸アナリストは具体的にどのような手法を使って運用を行っているのでしょうか。
投資手法は、ファンダメンタルズ(企業の業績)を主軸としています。
好決算銘柄について足元の動向を分析するのはもちろんのこと、重視するのはその銘柄の「歴史」です。
PER・PBRを過去10年20年と追いかけて、その銘柄がどのような局面で評価されたかを分析。
過去と比べて、今は株価に上振れ余地があるのかをデータから導き出します。
さらに今年前半は、その物差しに一工夫を加えていたといいます。
「今年前半は、勢いのある銘柄に資金が集中し、そうでない銘柄は置き去りにされる、モメンタムだけがモノを言う相場でした。
そこで、市場の注目テーマを中心軸に置きながらも、まだ買われる余地がある銘柄を探していきました。
特に利益を狙いやすかったのが、AI関連の需要を取り込んでいるのに、まだ投資家へのアピールが甘い企業でした。
注目している投資家がまだ少ない銘柄を狙うことで、過熱感のある不安定な株価水準ではなく、上がり始める少し前のタイミングでの買い推奨ができました」
峯岸アナリストは、過去の業績や株価推移をデータとして数値化することで、膨大な範囲を見渡せるようにしています。
これによって、膨大な数の銘柄群から、上がる条件により多く当てはまる銘柄を、地道に淡々と選び出せるのです。
震度7の熊本地震、半導体工場は1週間以内に生産再開

7月に印象に残ったニュースを聞くと、峯岸アナリストは、7月28日に最大震度7を記録した熊本地震を挙げました。
熊本と言えば、近年は半導体工場が多く建設されています。
そのため、市場では震災の発生を受けて、サプライチェーンの混乱を懸念する声も聞かれました。
実際に、熊本県内の半導体工場は大地震の発生を受けて相次いで操業を停止しましたが、その復旧は早く進みました。
ルネサスエレクトロニクスの錦工場(熊本県錦町)は7月29日夜から順次再開し、31日には通常稼働へ戻りました。
TSMCの熊本第1工場も、8月3日までに生産が復旧しています。
2016年の熊本地震を教訓に、製造装置を免震台の上に設置し直し、生産継続に必要な備品の在庫を積み増すといった対策を行っていた点が、早期復旧を後押ししました。
「大きな地震があっても、1週間もしないうちに生産が元に戻りはじめています。
海外の投資家は、震災のニュースを受けて知らずに株を売ってしまうかもしれませんが、実は日本の生産・サプライチェーンはすごく強いんですよね」
海外勢が第一報で売る場面こそ、日本の製造業の底力を知る投資家に出番が回ってくるのです。
2026年7月に大きく上昇した銘柄の推奨理由は?
では、2026年7月の相場で、峯岸アナリストは具体的にどの銘柄を買いと判断したのでしょうか。
買いを推奨した銘柄と売買判断の根拠を確認していきましょう。
【7245】大同メタル工業|「崩れるまで持つ」規律が生んだ約30%高

大同メタル工業は、自動車エンジン用軸受などを手がける企業です。
足元では、非常用・常用発電機のエンジンに組み込む、中高速4ストロークエンジン用のすべり軸受でデータセンター関連の需要を取り込んでいます。
AIデータセンターは停電が許されないため、ディーゼルエンジンやガスエンジンを使った大型発電機が設置されています。
同社は、このときに必要になる部品を手がけており、まだ収益規模は小さいものの、成長が期待されています。
「PBR1倍割れの万年バリュー株ですが、5月の決算発表で業績の好調さが確認できたため、評価が進む余地があると考えて監視していた銘柄です。
ちょうど3月につけた年初来高値を上回りつつあった日に、ここを抜けたら短期間で値幅も狙えると考えて買いを推奨しました」
株価はその後、連続して陽線をつける強い推移となりました。
「明らかに上方向にトレンドが出ていて、多くのお客様が安い水準で買えていました。
リスクを抑えて利幅を狙えるところでエントリーできたため、支持線として機能していた5日移動平均線を割るまでは上値を追うというルールを設定しました」
結果として、峯岸アナリストは同銘柄で30%近い利益を確定しています。
最高値では売れていませんが、「高値は下がって初めてわかるもの」とも話していました。
買いが続いた場合にはさらに上値を狙えるように、下げ始めた場合にも利益を確保できるように、合理的なルールを設定したのです。
【3558】ジェイドグループ|データに基づき決算を狙い撃ち

7月7日には、通販サイト「LOCONDO」の運営で知られるジェイドグループを買い推奨しています。
「ジェイドグループは、近年M&Aによる収益拡大戦略を推し進めてきました。
さらに現在は買収した企業をグループの物流・IT基盤へ統合して、重複するコストを削減する経営統合が進んでいます。
売上高営業利益率を見ても、26年2月期第3四半期(9-11月)には10.6%だったのが、第4四半期(12-2月)には15.2%まで改善してきた。
安定して収益を計上できるフェーズに入ったとみて、決算発表を持ち越しての買いを推奨しました。
株価が安い位置にあった点も好感できましたね。
5月には、27年2月期の業績予想について増収増益の見通しを開示したんですが、市場の期待の範疇ということで、一度売られていましたから」
そして、7月15日。
同社が発表した第1四半期決算は、売上高が前年同期比26.1%増、親会社株主に帰属する四半期純利益は同61.5%増と、好内容でした。
通期の業績予想については、5月に公表した水準から変更はなかったものの、四半期の伸び自体が市場の見直し買いを誘いました。
狙い通り好決算を機に株価は上昇し、翌7月16日、想定していた目標価格の水準で朝方に上ヒゲをつけて跳ね返されたところで、約9%の利益を確定しています。
【6668】アドテックプラズマテクノロジー|地合いの急変でも、規律は崩さず

一方、想定通りにいかなかった銘柄についても、率直に振り返ってもらいました。
半導体製造装置向けのプラズマ電源を手がけるアドテックプラズマテクノロジーです。
7月頭には7万円台をつける場面もあった日経平均株価は、アドテックプラズマテクノロジーを推奨した7月16日に6万6,000円台まで下落。
半導体関連銘柄の調整が進んだとみて、反発を狙って推奨を行いました。
「主力の半導体関連株は調整が本格化していて、反発局面を迎えたとしても、戻り売りに押されながらの動きになりやすいと考えていました。
そうしたなか、スタンダード市場に上場するこの銘柄は、チャートが崩れていなかった。
受注など業績面もしっかりしていましたし、反発局面では素直に上昇すると考えました」
ところが、翌日の展開は想定と異なりました。
「翌日、もう一段大きく、半導体関連株が調整したんです。
これまで底堅かった銘柄も一気に売られてしまいました。
焦らずに反発するかしばらく様子を見ましたが、下値の支持線だった75日移動平均線を割り込んだところで損切りの判断をしました」
地合いの急変による下落であり、この企業自体に悪材料があったわけではありません。
それでも支持線を割ったら潔く切る、というルールは崩しませんでした。
想定と違う結果になったときこそ、規律を守ったリスク管理が、大切な資産を守ることに繋がります。
2026年8月の日本株市場見通し

大荒れの7月相場が終了し、8月の日本株市場は落ち着きを取り戻し始めています。
決算発表ラッシュとなるなかで、好決算を発表した銘柄への見直し買いも見られています。
日本株市場には、「夏枯れ相場」と呼ばれるアノマリーもありますが、これについて気にしているかを問うと、「最近はあまり枯れていない」と指摘しました。
特に決算発表ラッシュには、売買が積極的になされる傾向があるため、ここで利益を狙う戦略です。
8月27日から29日にかけて行われるジャクソンホール会議でのFRB議長の講演については、「市場全体への影響は軽微なのではないか」との見方でした。
半導体株の高値更新には慎重な見方
そうしたなか、やはり気になるのは半導体関連株が再び活気づくかどうかです。
半導体関連株の行方を占ううえで、峯岸アナリストが注目しているのはキオクシアです。
「先日キオクシアが好決算を発表し、足元では買われる場面も見られています。
しかし、あれだけ大きく買われた株が再び高値を更新するのは簡単ではない。
上昇しても一時的にとどまる可能性があると思います」
慎重姿勢の背景にあるのが、AI投資に使える資金の限界です。
ハイパースケーラーも無制限に投資できるわけではありません。
投資採算を厳しく選別する局面に入れば、高価格の半導体が従来と同じ勢いで売れ続けるとは限らないと考えています。
「最初はすごく性能のいいものが出てくる。
でも、そこまでの高性能はいらない、となって薄利多売になり、市場が崩れて価格が急落する。
EVがたどった道と同じ現象が、メモリーでも起きるんじゃないかと思っています」
AI需要そのものについても慎重です。
スマートフォンのカメラや画質と同じように、性能が向上しても、利用者が違いを必要としなくなる段階が来る可能性を指摘しました。
「AI需要は、もうピークを打ったかもしれないと個人的には思っています」
強気一辺倒ではないシナリオを描きながらも、峯岸アナリストは今日も淡々とファンダメンタルズを見て、大きく買われる余地のある銘柄を探しています。
株式市場に「絶対の正解」はまだない

最後に峯岸アナリストは、「株式市場の歴史の浅さ」について示唆に富む話をしてくれました。
「物理学でいえば、まだ重力も見つかっていない時代だと思うんですよ、株式市場は。
物理学は古代ギリシャから始まり、ルネサンスを経て、ニュートンの重力発見に至っています。
ところが、経済学は18世紀にアダム・スミスによって体系化されたばかりなんです。
定量的に分析しようとしてもデータ数が全然足りていないわけです」
さらに、AIによって情報を溢れる時代には、「自分で判断する力」がますます問われると話します。
「情報が速くなった分、フェイクも増えました。
AIが書いた記事に嘘が混ざるのも珍しくありません。
ネットの情報をちゃんと人間が取捨選択しなければいけないから、逆に手間は増えているんです。
自分で判断するための知識が、いま問われていると思います」
峯岸アナリストは、分かりやすい答えなどない株式投資の世界で、真剣にデータを分析し、自分の物差しを少しずつ磨いています。
「運用は常に戦い」と言いながら、市場に向き合い続ける峯岸アナリストの姿勢は、地に足のついた資産形成を目指す個人投資家の参考になるのではないでしょうか。
※本記事は、2026年8月時点における峯岸アナリスト個人の見解・分析を、インタビュー内容に基づいてまとめたものです。個別銘柄の値動きや実績は取材時点のものであり、将来の成果を保証するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。

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執筆者情報
AFP・NISA取引アドバイザー
日本投資機構株式会社のカスタマーサクセスとして、日々お客様の資産運用に寄り添う。服飾系大学卒業後、15年間アパレル業に従事。コロナ禍を機に資産形成の重要性を再認識して金融業界へ転身。さらに大学へ3年次編入し、ファイナンシャルプランナーコースを修了。培った金融知識をもとに、金融リテラシーの大切さと資産運用の重要性を発信している。

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